四季折々のお祝い

■開賀節(陰暦一月七日)
カイネウをしまう正月最後の日。
この日が晴れてよい天気であれば、人々は一年中幸運に恵まれ、健康な日々を過ごせると言われている。

■上元節(陰暦一月十五日)
この日は新年初めての満月の日であり、阿弥陀菩薩の生誕日のため、多くの寺院で祭礼が行われる。

■寒食節(陰暦三月三日)
晋の介子推が焚死した日で、これを悲しんで火を使わず冷めたい食事をしたという中国の故事から起こった節句。
ベトナムでは李朝時代から冷たい料理の代わりに大豆餡入りの白玉などを食べ、また家の先祖の霊を供養していたが、現在ではこの習慣は少ない。

■清明節(春分の十五日後)
亡くなった先祖の墓参りをし、墓掃除をしたり、壊れた墓の修理をし、家に帰れば先祖の供養をする。また、この日は若い男女が誘い合って散歩し、春の景色を楽しむ。

■端午節(陰暦五月五日)
春から夏への季節の変わり目で、病にかかり易い時期でもあり、この日は病気の原因となる虫≠殺す日とされている。
このため、ある種の木の葉で手や足の指を染めたり、もち米酒を飲んだり、うで卵や酢っぱい果物を食べたりする。
ハノイでは天秤棒の両端にもち米酒をぶらさげた年配の女性が「酒はいらんかね〜」と昼まで売り歩く姿がこの日の風物詩となっている。

■中元節(陰暦七月一五日)
陰暦一月十五日が上元、十月一五日が下元として祝うのに対して、この日を中元の佳節として祝う。
この日は亡くなった人の贖罪の日であり、いわゆる孟蘭盆の日であるので、寺院で祭礼が行われる。各家庭では亡くなった人に冥土で使ってもうように、紙で作ったお金や日常品を燃やし、供養する。

■中秋節(陰暦八月十五日)
子供の祭りの日であり、夜になると子供たちが竹と紙で作った星形や象や馬の形の灯を持って、この日のための歌象牙色のまん丸いお月さんには、大きなガジマルの樹と年老いたクオイがいる。クオイさんよ、月の宮殿で何しているの……≠歌いながら、湖の周りを歩いたり、ふざけ合ったりして夜遅くまで遊ぶ。
なぜガジマルの樹とクオイが月にいるのか、これには次のような昔話がある。

むかしむかし、クオイという人がいた。ある日、クオイは斧を肩に深い山の中にわけいった。渓流の近くに来たとき、ふと見ると樹の陰に隠れるように洞窟がポッカリ口を開けている。中を覗いてみると虎の子が四匹じゃれあっている。クオイは斧を一閃して虎の子を殺してしまった。その時、背後に低い唸り声を聞き、振り向くと母虎が憤怒の形相で迫ってくる。慌てたクオイは逃げて高い樹によじ登った。
母虎はしばらく子虎たちを嗅ぎまわっていたが、やがてクオイの近くの樹の葉を 噛み取り、噛み砕いて子虎の口に含ませた。するとどうだろう、子虎たちは生き返り、跳びはね始めた。樹の葉の霊験に驚いたクオイは、虎の一家がいずくともなくたち去った後、その樹を根っこから引き抜き持ち帰ることにした。
ある河のところまで来た時、ボロボロの衣をまとった老人が死んでいるに出食わした。さっそく樹の葉を噛んで口に含ませると、老人の顔に血の気が戻り、やがて老人は立ち上がった。老人は、
「この樹は特別な樹であるから、決して汚いものをかけてはならない」
と言い残し、去って行った。
さて、家に帰ったクオイは樹を家の東側に植え、毎日川のきれいな水をかけて育てた。そして死んだ人があると聞けば樹の葉を持って飛んでいき、生き返らせた人は数知れず、津々浦々までクオイの名は響き渡った。またクオイは長者の娘を生き返らせたのが縁となって結婚した。
クオイは妻に決して汚いものを樹にかけてはならないと妻に日頃から言っていたが、ある日クオイが山に行っている間に、妻は樹の根っこに下肥をかけてしまった。
すると地面が揺れ、バリバリという音と共に樹は浮き上がり始めた。
クオイが帰ってきたのは丁度樹の根が頭の高さに浮き上がっていた時だった。
クオイは貴重な樹を逃すものかと根に飛びついたため、樹はクオイを引きずって月まで飛んでいった。

夜、月を眺めるとガジマルの樹とその根っこに座り込んだクオイが見えるのは、そのためである。
余談になるが、ベトナムの十二支は日本と異なり、日本の牛が水牛、兎が猫、羊が山羊、猪が豚となっている。
十二支にもない兎であるので、日本のように月で兎が餅を搗いているというような発想はベトナムでは出て来なかったのであろう。

■重九節(陰暦九月九日)
九が重なるため、このように呼ばれる。
李朝・陳朝時代には中国の故事に基ずき、この日は儒学者たちが山に登り、菊の酒を飲んで詩を作ることが盛んであったが、現在は殆ど行われない。

■重十節(陰暦十月十日)
九が重なるため、双十節ともいう。この日は薬草が陰陽の気≠受け、四季の色≠凝縮するので、最も薬効のある薬草が採れる日とされ、医薬関係者が盛大に祝う。
また、この日は新米で先祖の供養をする。

■タオ・クアン節(陰暦十二月二十三日)
後に述べる「家庭における信仰・祭祀」を参照願いたいが、この日には人々は紙で作った二つの男物の帽子と、一つの女物の帽子、それに生きた大きな鯉を買い、カマドの神が鯉に乗って天に昇る準備をする。
また、次の歌謡が伝わっている。

            世間一般は一夫一婦
            カマドの神は二夫一婦