金雀枝の雨




日毎に濃くなる緑と、街角を飾る花々。
近づいてくる夏の足音。
こんな時期になるとランパスには、ふと思い出す情景がある。



「うわ、とうとう降ってきちまったな」
ランパスは慌てて走り出す。
雨宿りのできそうな場所を探すが、こんな時に限ってなかなか見つからない。
とりあえず、木の下かベンチの下にでも潜り込もうと、ランパスは公園の中に足を向けた。
「やれやれ」
ハルニレの木の下へ落ち着いたランパスは、身震いをして身体に付いた水滴を払い落とす。
そして空を仰ぐが、しばらく降り止みそうな気配はない。
これからどうしたものかと、溜息をひとつ吐きながら辺りを見回す。
いつのまにか、降り出した雨は強さを増し、辺りは変に薄明るい。
「ん?」
向こうの金雀枝の花陰に、何かが動いたような気がして、ランパスは目を凝らした。
しかし、しばらく見つめていても変化がなく、気のせいかと思えてきた頃。
花の重みで項垂れた枝が大きく揺れて、その陰から小さな顔がのぞいた。
それはまだ小さな子猫だった。
「…捨て子かな」
ランパスは思った。
捨てられてからだいぶ経つのか、毛皮は薄汚れ、酷く痩せてしまっている。
「どうしたものかな…」
面倒事は避けたいものだ、と思いつつ、ランパスは呟く。
しかし、見てしまったからには、放っておくわけにもいかず、ランパスは雨の中に一歩踏み出した。
ばしゃりと水たまりを踏んだ、ランパスの足音が聞こえたのだろう。
弾かれたように子猫が顔を上げる。
はずみで枝から、いくつかの花が零れるが、ランパスはそれも目に入らなかった。
正面から視線がぶつかり、ランパスは思いがけず一瞬ひるんだ。
怯えきり、警戒と不信をいっぱいにたたえた瞳は、それでも驚くほど強い意思をもって、ランパスを睨みつけている。
その瞳に、ランパスは目を離せずにいた。
どのぐらいそうしていただろうか。
生温い雨に打たれる感覚に我に返ったランパスは、子猫を脅かさないように、そっとその前にしゃがみ込んだ。
「なあ」
ランパスが手を伸ばすと、その子猫はびくりとして身を退く。
そして低く身構える子猫を見ながら、ランパスは困ったように笑うしかなかった。
「別に何もしねーよ」
「お前を仲間んとこ連れてくだけだ」
「そのままじゃ死んじまうだろ」
「なあ、頼むから」
ランパスの言葉が届いてるのかどうか、子猫は警戒をとかないまま、伸ばされたランパスの手と顔を、かわるがわる見つめている。
雨の匂いと、噎せ返るような花の匂い。
「…仕方ねーな」
このままでは埒があかないと思い、ランパスは短く息をつくと、その場にどさりと座り込んだ。
泥で毛皮が汚れるが、そんなものはもう関係なかった。
そして、戸惑ったような色の見られる、子猫の瞳をのぞき込む。
子猫も、警戒を解いたわけではないものの、つられたようにランパスの眼を真っ直ぐに見つめ返してくる。
そのまま2匹は、長いことそうしていた。
お互い何もしゃべらない。
しゃべる必要などなかった。
時間の感覚すら消え失せ、いったいどのぐらいの時が過ぎただろう。
頬を伝う雨の温かさと、金雀枝の花の匂いだけが全てで。
――あの、長いような短いような一瞬を、ランパスは決して忘れることはないだろうと思った。



その後、ランパスの手に素直に納まった子猫を抱いて、教会へと向かう頃には、雨に濡れた2匹の身体は芯まで冷え切り、偶然居合わせたおばさんに、大嫌いな風呂へ2匹仲良く追い込まれたのだった。
そして、ランパスによってジェミマと名付けられた子猫は、その日から彼らの新しい仲間となった。




-fin-







お題は「ジェミマ」だったはずなのですが…。
ランパスの話になってます、これ…?
すいません、珪さん、こんなんで良かったでしょうか?
ちなみにランパス、自分の中では沓沢ランパスがモデルだと思ってたのですが、なんか書いてみると、ちょっと辻ランパス風味になってる気が。
や、だってちょっと(ちょっとだけ)かっこ良いし(笑)
しかし、どちらにしても微妙に少数派なのですかね、これって…。




稲村匠さんのお宅でキリ番をふんで書いていただきましたv
わーい、ジェム可愛い〜v
微妙に途方に暮れた感じのランパスもステキです!
ちょっとだけなんてそんな、きっちり格好良いじゃないですか(笑)。
これからのふたりが楽しみになるような優しいお話です。
どうもありがとうございましたv




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