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ジム・ジャームッシュ  Jim Jarmusch

1953年1月22日オハイオ州アクロンに生まれる。
コロンビア大学卒業後、NY大フィルム・スクールに入学。卒業製作での作品「パーマネント・バケーション」が注目を集める。その後ニコラス・レイやヴィム・ヴェンダースのもとで助監督を務め、その合間に製作した「ストレンジャー・ザン・パラダイス」は彼のデビュー作として後に再編集され、商業映画として公開される。この作品が84年のカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞し、インデペンデント映画界の寵児として世に名を知らしめる。

監督作一覧
1980年 『パーマネント・バケーション
1984年 『ストレンジャー・ザン・パラダイス
1986年 『ダウン・バイ・ロー
1989年 『ミステリー・トレイン
1991年 『ナイト・オン・ザ・プラネット
1995年 『デッドマン
1997年 『イヤー・オブ・ザ・ホース』(管理人未見)
1999年 『ゴースト・ドッグ

 

「パーマネント・バケーション」はジャームッシュの卒業製作フィルムということですが、若い監督の処女作特有の瑞々しさがこの作品にも溢れています。これからの映画のスタンスを垣間見せるというより、「今撮りたいことをなんとなく撮った」という印象を持ちました。主人公は自分が孤独だと思っており、ふらふらどこかへ行き、人となんとなく話し、夜サックスの街頭演奏(してるのはジョン・ルーリー!)を聞いたり、とにかく気まま。盗んだ車を売り払ってパリに行く。そんな彼のモットーは「漂流してれば孤独でないと感じられる 孤独と感じるよりマシだ」。ふらふら生きていく中でも彼なりの楽しさがあり、哀しみだってある。なんとなくだって生きているんだ。そんな若者の心が伝わってくるような作品です。「虹の彼方に」のドップラー効果のジョークは、余りにも下らなさすぎて爆笑してしまいましたw

 

ジム・ジャームッシュの作品の魅力、その要素は「ストレンジャー・ザン・パラダイス」にすべて詰まっています。映像、脚本、キャラクター、音楽。長編処女作だけあって彼が映画で何を表現したいのか、そのスタンスが認められます。映像は白黒だけれども、それはくっきりと分れたタイトな白黒ではなく、淡く灰色がかった印象を受けます。それが作品全体に漂う退廃的ムードを作っている。彼の映画に登場するキャラクターは、この作品の主人公3人のように、特に裕福でも貧しくもなく、別に世間に対して反抗的であったり、絶望感を抱える孤独な人間でもない。日常起こるよしなし事をそこはかとなく受け入れ、慎ましやかでもなく豪奢でもなく平凡というわけでもなく、その日その日を彼らなりに生きている。簡単に言うと「映画的キャラクター」ではないんですね。とても等身大で親しみやすく感情移入もしやすい。彼らが交わす会話も、なんの変哲もないありふれた日常のそれなのですが、そこがどこか粋で、奇妙なおかしさを感じさせる。そして物語りに引き込まれていく。それがジャームッシュ映画のキャラクターの魅力だと思います。

 

長編第二作目となる「ダウン・バイ・ロー」も前作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」同様、ジョン・ルーリーが主演、音楽を務めており、新たにトム・ウェイツ、ロベルト・ベニーニが参戦。トム・ウェイツはその後「ナイト・オン・ザ・プラネット」で音楽監督を担当し、ロベルト・ベニーニは同作品の第四エピソードの主人公として出演することになります。この3人が中心に進む「ダウン・バイ・ロー」は、彼らのやり取りの面白さという点ではジャームッシュ映画の中でも群を抜いて素晴らしい。特に牢の仲間にロベルト・ベニーニが加わってからは、それまでギスギスしていた空気が段々と穏やかになっていく過程が見られ、面白みも増します。彼は英語がまだ下手なイタリア人なので会話もどこかオカシイのですが、その言葉足らずな部分を含めてのコミュニケーションが絶妙。言語の相互不理解という設定はジャームッシュ映画すべてで見られるもの。英語、ロシア語、ハンガリー語、スペイン語、イタリア語、フランス語、先住民の言葉・・・言葉の上でのコミュニケーションが成り立たないのだけれども、心のコミュニケーションはとれている。「ゴースト・ドッグ」のアイスクリーム屋レイモンなんてその典型で、一生懸命喋っても理解されてないことを少しも苦に感じておらず、本当にゴーストドッグのことを親友と思っている。いいなぁ、こういう設定。「ナイト・オン・ザ・プラネット」の第二エピソードでの、アーミン・ミューラー・スタールとジャンカルロ・エスポジートの関係もナイス。また、「ダウン・バイ・ロー」では他のジャームッシュ映画にはない、熱さとラストの爽快さを感じることができます。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」とはまた違った上質なロードムービーの味わいです。

 

ジャームッシュは短編、オムニバスも作っています。「ミステリー・トレイン」は彼が製作した初めてのオムニバス映画。しかし彼は「オムニバス」という形式ではなく、それぞれが有機的つながりを持ったひとつのドラマだと言います。この作品は、メンフィスのある安ホテルを共通項として3つの話が進んで行く作品。第一話には永瀬正敏、工藤夕貴が出演。永瀬正敏の終始一貫無気力でだるそうなキャラクターは必見かも。ジャームッシュはもともと短い時間にドラマを作ることが上手い!「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「ダウン・バイ・ロー」も、出演者は変わらないけれども、場面を切り分けてそれぞれ見ることだってできる。ストーリーに大きな一本の筋道があるというわけではなく、なんとなくこうなっていった、そんな雰囲気があります。役者の中で注目は、どんな映画でも出番は少ないスティーヴ・ブシェミ。この人が長い間顔を見せている作品なんて、「ファーゴ」「イン・ザ・スープ」「ゴーストワールド」ぐらいなもんです。まあ「ミステリー・トレイン」では第三話フル出場だから長い方だな・・・この「参ったなぁ」てな具合の表情がたまりません、ブシェミ。

 

「ミステリー・トレイン」に引き続き「ナイト・オン・ザ・プラネット」もオムニバス映画。この作品はロス、ニューヨーク、パリ、ローマ、そしてヘルシンキと5つの舞台で展開するタクシーの話で作られています。それぞれ違った面白さがあり、好評を博した作品。ジャームッシュ作品にしては珍しく、いわゆる有名俳優が多数出演。ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、アーミン・ミューラー・スタール、ベアトリス・ダルなどなど。「ダウン・バイ・ロー」のロベルト・ベニーニも出演。若かりしロージ・ペレス、ジャンカルロ・エスポジートも出演しています。ジャームッシュの映画は、キャラクターがそれぞれ立っており、無駄な役者が1人もいません。「ストレンジャー・ザン・パラダイス」はほとんど3人の映画でしたが、例えば途中に少しだけ出てくる主人公のおばさんは、ハンガリー語をまくしたてるという強烈な印象を残すキャラクターでした。フィルムに映し出されるキャラクター1人1人に魂を吹き込んでいるのでしょう。この作品もそうで、ウィノナ・ライダーやアーミン・ミューラー・スタール、ベアトリス・ダルなどは彼らが意外なキャラクターを演じている点でも特に興味深い。ちなみに僕が「ナイト・オン・ザ・プラネット」の中で一番好きな話は、第五話のヘルシンキ。他の4話と比べて人情話を意識したつくりではありますが、酔っ払い3人のトークはバカらしくていいし、オチも素晴らしいです。特に笑えるのが、細かいですけど、とてつもなく寒い外で3人がお互い寄り添って立ったまま寝てるシーンw

 

「デッドマン」はこれまでの作品と違い、舞台が開拓時代のアメリカ西部。形は西部劇ですが、中身はかなり深い。ただのガンアクションではなく、今までの彼の映画の魅力をそのまま引き連れ、さらに新たな魅力を植え付けた作品です。ジョニー・デップはとてつもなく運が悪く、優男だったのが次第に野性的な男に代わっていく主人公を演じていますが、それは運命に翻弄される人間というより、未開の地で色々な物事を目にし自然にそうなっていったという印象を受けます。そのため観客は彼と一緒に未開の地の様々な現象を目にし、その世界の奥深くに侵入していくような錯覚に陥る。ジャームッシュがこの作品で「生と死」というテーマを掲げているのは明かで、そのためか今までのジャームッシュ映画にはなかった「生命の輝き」とも言える鮮烈な見せ場が数多く出現します。ガブリエル・バーン扮するディキンソン社長の息子が女の部屋で銃をぶっ放すシーンに始まり、ランス・ヘンリクセン演じる極めて異常なガンマン・ウィルソンが同行する少年を撃ち殺すシーン、他にもたくさんガンアクションシーンがあり、最後の幕切れも極めて鮮烈。ニール・ヤングが奏でるエレキギター・サウンドも素晴らしい。愛すべきキャラクターもたくさん登場。主人公に撃ち殺されてしまう2人の男は、帽子を脱いだら、あれま、つるっぱげw これには爆笑しました。ジョン・ハート扮するディキンソン社の支配人も、やな感じーの偏屈男。ウィルソンは人肉食っちゃうけど、なかなか老獪でいい。出番は前半の短い間だけながらも、ディキンソン社長に扮するロバート・ミッチャムの苛烈なキャラクターも必見です。

 

そしてジャームッシュ映画の魅力はさらに洗練され、「ゴースト・ドッグ」ではその進化を認めることができます。今のところ、僕がジャームッシュ映画で一番好きなのがこれ。印象的なシーンを挙げていいくとキリがないくらい。日本の武士道「葉隠」を愛読する主人公ゴースト・ドッグに扮するのはフォレスト・ウィテカー。この巨体の俳優が、目を疑うほど素晴らしい殺陣を見せる。その動きにはまったく無駄がなく、特に後半ボスの家での立ちまわりは素晴らしい。まるで二刀流のような二丁拳銃で敵を次々に撃ち殺す。身体を切り返すときに残像が現れますが、これは映像効果ではなく本当に残像ができたのだと思えるくらい華麗です。命を助けられたルーイには敬意を払い、「主人には無駄な穴を開けない」と、一度撃ったところをもう一度撃つというくだりは最高。主人公以外のキャラクターも皆すばらしい。特にいいのが、アイスクリーム屋のレイモン。なぜそのようなニセ情報を信じたのかは不明ですが、アイスクリームを健康食品だと称し「カルシウムたっぷり!カルシウムたっぷり!」とか言っているw しかもフランス語しか話せず、ゴーストドッグとは言葉の上でのコミュニケーションは不可能。しかし彼らは心を通わせており、交わす言葉も違う言語ながらなぜか同じ。意志疎通ができている。いい親友どうしみたいです。ゴーストドッグの「主人」であるルーイは仁義をなくした今のギャングを寂しく感じている男。潔い男ですが、最後は人間くさい一面も見せている。彼の所属するギャングは皆どうしようもないやつらばっかりw そもそも格好がただのオッサンでギャングっぽくないしw 人違いで鳩と人間をそれぞれ殺しちゃうし。ボスとその相談役(?)のじいさんもわけがわからないけどオモシロイ。ボスの趣味はテレビアニメで、仏頂面で「フェリックス」を見ている。ギャングっぽくないんだけど、最後はしっかりギャングっぽく死んでいくw じいさんの方は、人が言った言葉を繰り返すことぐらいしかセリフがなく、死に様もオカシイw ちょっとませた黒人少女はゴーストドッグを慕う1人。彼のすすめる「羅生門」を読んで日本に興味を持ち、最後にゴーストドッグに託された「葉隠」も読んでいました。この「葉隠」は、場面の合間に少しずつ文章が紹介されるのですが、その文章の出現の仕方も粋です。音楽はラップ、ソウルが主体で、フィルムノワールの雰囲気を持ちつつ、ジャームッシュの音楽性がうまく融合している。「デッドマン」に引き続きこの作品も「死」をテーマにしており、ゴーストドッグの生き方には、ちょっと古風すぎるけれどもなんとなく尊敬の念を抱いてしまう。「すべて熟知」とプリントされているTシャツにも注目!細かい部分で色々楽しませてくれるし、感動する作品です。

 

これからも進化していきそうな予感のジム・ジャームッシュ。ちょっと取っ付き難い印象があるかもしれませんが、是非このジム・ジャームッシュ映画、ご覧になってみてください。