死刑台のメロディ1971年イタリア・フランス合作映画
監督:ジュリアーノ・モンタルド
出演:ジャン・マリア・ヴォロンテ リカルド・クッチョーラ シリル・キューザック

日本は目立つモノを嫌う横並び社会だとよく言われますが、私は常々、最も危険な横並び社会とは、戦前のアメリカだったと思うのです。第一次世界大戦後保守反動化したアメリカ政府は、徹底的に外国人排斥、社会主義思想、無政府主義思想という人種差別・思想弾圧という風潮を作り出しました。これこそ本当の意味での横並び社会ではありませんか。そんな横並び時代のアメリカで起こった、アメリカ史上最悪のえん罪事件が「サッコ・ヴァンゼッティ事件」。イタリア移民で無政府主義者のニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティという人物が、強盗殺人事件の犯人に仕立て上げられ、死刑に処されてしまうという事件でした。この事件の経過を映画化したのが、今回紹介する「死刑台のメロディ」です。
1920年、マサチューセッツ州で現金輸送車が襲撃されるという強盗殺人事件が起こった。警察はたまたま銃の不法所持で拘束したニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティという2人のイタリア人を、彼らがイタリア移民の無政府主義者であり、徴兵忌避をしたことがあるということから差別して、犯人に仕立て上げてしまう。身に覚えのあるはずがない2人。彼らをえん罪から救うために家族や友人は弁護士を雇って裁判を戦うが、検察側が仕組んだ偽証や、元々ある移民差別、思想差別の風潮により、証拠不十分のまま有罪が確定し、1921年に死刑が宣告されてしまう。このことが自由主義者達の再審請願運動を呼び起こし、アメリカのみならずロンドン、パリ、ローマなどヨーロッパ各都市での請願運動が始まった・・・
サッコ・ヴァンゼッティ事件は、世界史の教科書に載っているぐらい有名な事件ですから、結果がどうなのか知っている方も多いでしょう。サッコもヴァンゼッティも実は全くの無実で、死刑執行の1927年から50年経った1977年にやっと、州法務局が無罪の確認をしました。無政府主義者ということで死刑台に運ばれてしまう(あまりに乱暴な理論ですが、実際そうでした)という当時の風潮は恐ろしい。それを象徴するように、劇中には差別意識で凝り固まった醜い顔をしている人物が多数登場してきます。偽証を行う証人。ヤジをとばす傍聴人。そして何よりも醜かったのが、2人を犯人に仕立て上げた検察官。そして政治的な意味は何もないと言っておきながら、公然と差別する裁判長です。サッコとヴァンゼッティが強盗を行った云々という話よりも、彼らの出自云々を巡る話が多かったでしょう。その中で辛辣に、自らの精神の自由を訴える2人ですが、それを全く相手にされない。私の中でふつふつと怒りがこみ上げてくるのが分かりました。
死刑確定後の顛末も、表面上のことは分かっていましたが、この映画を観ることによって意外な事実が分かったり、サッコとヴァンゼッティの心境なども読みとれたりします。さらに請願運動の様子は、当時実際にヨーロッパ各都市で行われた際の映像が用いられており、それにかぶされた主題歌やエンニオ・モリコーネの音楽がさらに涙を誘います。エンニオ・モリコーネの渾身のスコアでは?トルナトーレ監督作品の音楽とはまた違ったアジがあってよいです。
常に手に汗握る緊張感を持続させつつ、痛切に響く音楽。そしてサッコを演じたリカルド・クッチョーラ(カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞)とヴァンゼッティを演じたジャン・マリア・ヴォロンテの演技と三拍子揃った社会派ドラマの感動作。この作品を見れば、自由とは生ぬるいものではないということがよく分かるはず。襟を正して観ていただきたい一本です。