『戦前』原節子作品・番付表


 私的・原節子映画ベストテンが全て、戦後作品になってしまったように、原節子の代表作は戦後に固まってしまっているので、紹介も兼ねて、独断と偏見で『戦中・戦前作品のランク表』を作ってみました。紹介の順はある程度、お勧め順となりますが、厳密な順位制などではありません。未見の作品は対象外。(戦前・戦中33作品を紹介)

Aランク=見所のある作品、Bランク=それなりに見れる作品、Cランク=お粗末感のある作品
番外編=全体的にどうこうと言うよりも、一芸・合格的作品。


Aランク

題名 年度 監督 コメント

河内山宗俊

1936 山中貞雄 清純可憐なスター誕生の予感。
弟のために身売りする前に『心ここに在らず』と言った感じで考え込むシーンは必見。
魅惑のベビーボイスも神聖不可侵。

母の地図

1942 島津保次郎 原節子の育成に熱心だった島津監督との最後のコンビ作。ラストに相応しく意外な大作に、原節子も撮影中、監督と衝突するほどの熱演。それだけ自分の演技に自信、信念が出てきた証拠だろう。島津監督との6作品での著しい成長が戦後の開花につながる。文学座との提携作品(森雅之の映画デビュー作)で、没落するブルジョワ家庭の悲劇と再起を描く。

苦悩と不安が現れた夢のシーンが印象的。島津監督もこんなドイツ映画みたいなシーンが撮れたんですね。この3年後の終戦直後に亡くなった島津監督のバトンを小津監督が受け取ります。

青春の気流

1942 伏水修 黒澤明の脚本、初の映画化。戦意高揚目的ながら、バランスの取れた構成。原節子は好きな男のアパートに忍び込んで、カーテンの後ろに隠れてお出迎え。訪ねてきた、その男の友人が驚いて、すぐ帰ったのを「おかしな方ね」と言い放つ天真爛漫なお嬢様。

最後は振られて哀しみのピアノ演奏。戦時中映画で、積極的なモガ・原節子は古風なタイプの女性(今作では
山根寿子)に破れ、振られるパターンが意外と多い。(「熱風」花井蘭子に敗れる)
これも時局柄、銃後のヤマトナデシコが勝つというプロパガンダか。。。

結婚の生態

1941 今井正 石川達三のベストセラーの映画化。さすがに中身が充実。
相手役の夏川大二郎が中年なのが、玉にキズ。幼な妻と理想の家庭を築こうと試みるが・・・。

嫁ぐ日まで

1940 島津保次郎 松竹風ファミリー劇場。ラストの原節子の嫁入り前後は、しみじみとさせる。こういった市井の生活描写が島津監督の持ち味なんでしょうね。

新しき土

1937 アーノルド
・ファンク
原節子の出世作で、日本初の日独合作映画。
ドイツ映画らしい、表現主義的映像でダイナミックさがある。サイレント映画的表現も多い。
ドイツでのプレミアム試写会にはヒットラーも駆けつけ、絶賛。

東京の女性

1939 伏水修 全体的にテンポが良く、面白い。原節子は元祖・働く自立した女を熱演。
戦後、
山本富士子でリメイクされた。若くして亡くなった「支那の夜」伏水監督の原節子作品は、当たり外れがない。

巨人伝

1938 伊丹万作 意外と大作。舞台をフランス革命から西南戦争に移した「レミゼラブル」の翻案だが、割合にそれらしく、まとまっている。原節子は純情・可憐時代。

熱風

1943 山本薩夫 原節子とのコンビ作の多い山本監督ですが、これが一番見応えあります。メロドラマではピンと来ませんでしたが、やはり戦後の社会派巨匠の本領発揮。(代表作は「白い巨塔」)生産増強映画でありながら、迫力のある映像と展開力でなかなかの力作であり、楽しめる。戦中の緊張感が映画に説得力を与えた。

魅力的だが気の強い女事務員役の原節子が、男の三歩後ろを歩くような花井蘭子に恋で敗れ去るのは、戦中ならではの『銃後の理想女性像』を強く反映。

望楼の決死隊

1943 今井正 アクション映画として十分、見られる。戦中ならではの日本人の精神文化、心構えが伺える。お正月、夫の母の死が部下に知れてしまうシーンは一見の価値あり。また、終盤、原節子も拳銃を握り、応戦。臨場感溢れる戦闘シーンは戦時中ならでは。

生命の冠

1936 内田吐夢 リアルな北海道の荒波と、ヒューマニズム的なエンディングが印象的。
『力強い』の一言。原節子は守り甲斐のある妹。数少ない日活時代の作品。

Bランク

女の街

1940 今井正 銃後の女性を描いた佳作。原節子はおでん屋のおかみに。
周りのやっかみや、ちょっかいの出し方は、ありがちなパターン。

二人の世界

1940 島津保次郎 メロドラマ的要素も多分に含んだ戦意高揚映画。
原節子は待ち合わせに遅れても、
「あなたが早すぎたのよ」と言い放つモダン・ガール。最後は中途半端。

母の曲

1937 山本薩夫 『母モノ』のお涙頂戴的ドラマ。
消息を絶った母を思い、ラジオ放送のために正装してピアノを弾く原節子は美しい。

田園交響曲

1938 山本薩夫 目が魅力の原節子が全編、目を閉じ、盲目の少女を熱演。
最後に目を開く時に・・・。

北の三人

1945 佐伯清 原節子と少し大人になった高峰秀子が共演。高峰は戦死した兄の恋人だった原節子が、出征前、兄と別れた事にわだかまりを持っていたが、事情を知り和解。この辺りはちょっとしたメロドラマだが、終盤は意外なアクション映画になっている。女性も戦場の第一線で活躍するという、戦意高揚映画。終戦間際の8月封切りの臨場感。

東海美女伝

1937 石田民三 原節子は清楚なクリスチャンの魅力を発揮。
不思議な発声も魅惑的。珍しい時代劇の一つ。

兄の花嫁

1941 島津保次郎 新婚家庭の一週間を日替わりカレンダー的に紹介するので、全体的に断片的。
妹の原節子はモダン・ガール。若き日の
山田五十鈴との初共演も見所。

Cランク

緑の大地

1942 島津保次郎 原節子は現地ロケに参加せず、合成がわざとらしい。
戦意高揚目的がチラホラ。夫の昔の想い人、入江たか子に嫉妬する演技は、原本人も気に入っていたとか。

希望の青空

1942 山本嘉次郎 若き日の池部良と高峰秀子が婚前・家庭訪問。
入江たか子の家で、夫の突然の出征に立ち会う一幕とラストの池部の姉・原節子の嫁入りシーンはしんみりとさせる。

若き日の喜び

1943 佐藤武 原節子・高峰秀子・轟夕起子の3人が共演。映画雑誌社に勤める女性の恋と仕事を描く。
新人ライターとして働き始めた高峰が友人とオペラの約束のため、仕事を残して早く帰ろうとした際、「お断りしなさい」と叱るベテラン編集者の原節子に、ちょっとした貫禄。

カメラマンと高峰の恋、そして彼の出征。。。高峰はカメラマンを目指す。原は表紙画の依頼に行った画家と恋に落ち、キャリアを積んだ仕事をあっさり辞め、結婚。次は日本一のお嫁さんを目指すという銃後の女性の鏡。また、宝塚出身の轟のミュージカル・シーンがラストを飾る。戦時中の非常時に内容が相応しくないと大幅にカットされたとの事。凡作だが、娯楽映画としてそれなりに見られる。

大いなる感情

1941 藤田潤一 貴金属細工師の父と娘。7代続いた家業も今は零落、息子は出征している。30年前に家を飛び出した奉公人が成功して、街に大工場を建てた。その息子と娘の原節子が恋に落ちる。父親は反対し、奉公人の石蔵と結婚させようするが、出征していた兄・黒川弥太郎が戻ってきて事態が好転。原作モノなので、内容はしっかりしているが、そもそもストーリ-が古臭く、魅力に欠けるので、こんなものか。。。

石蔵との結婚話を聞いて、泣く原節子のアップが続く辺りが見所。二十歳の原節子はどの角度から撮られても文句なしの美形。作品の出来栄えは決して悪くないが、目新しさのない凡庸な作品。

若い先生

1942 佐藤武 『凡作版・二十四の瞳』。漁村の小学校に赴任してきた若い女教師の奮闘記。当初、子どもも大事な働き手と考える親達からは歓迎されないが、子ども達には絶大な人気で、仕舞には誠意が伝わり親達とも和解。しかし、突然、東京に戻る事に・・・、というありがちなパターン。子どもの頃は教師になりたかったという原節子が初の教師役を熱演。正義感の強そうな所が、その後も教師役が多い所以か。

怒りの海

1944 今井正 作りはしっかりしているが、戦争末期のプロパガンダ映画そのもの。戦時中の史料価値はあるかも。
原節子はクラシック好きのお嬢様で、ショパンの雨だれ前奏曲を弾いたり、造船王の父をオーケストラのコンサートに無理やり連れ出したりする。結局、原節子の適齢期・24歳の作品が、これ1本のみとは寂しい。

美はしき出発

1939 山本薩夫 高峰秀子と初共演。財政ピンチに陥っても、現実を見ず働かない貴族風刺。
原節子演じる貴族の娘の心変わりが、ありがち。中身がない。

姉妹の約束

1940 山本薩夫 日本版『若草物語』だが、全体的に安易で、ストーリーも空っぽ。

番外編

ハワイ・マレー沖海戦

1942 山本嘉次郎 完全な戦意高揚映画だが、夢のシーンは不思議な感覚がよく出ている。円谷の特撮も一見の価値あり。当時の日本男児の心構え、生き様が描かれている。原節子は実家で逞しく育った弟の帰りを待つ、銃後の女性の鏡。

阿片戦争

1943 マキノ正博 原節子には珍しいミュージカル・シーンは必見。チャイナ・ドレスで、ヒラヒラ歌い、踊ります。
行方不明になった妹の高峰秀子を探す姉を演じる。

決戦の大空へ

1943 渡辺邦男 予科練生のマドンナを原節子が演じる・・・と言うよりは現実にマドンナそのもの。劇団員だという予科練生役の青年達も好感が持て、ドラマと言うよりはかなり素に近い感じが楽しい。国策映画には間違いないが、娯楽の要素が多分にあり、ほろりとさせる場面にも戦時中の臨場感が伝わる。

冬の宿

1938 豊田四郎 原節子は英語を操るオフィス・レディーで、主人公のマドンナ役だが、当時、「新しき土」で世界一周から戻ったばかりの原を話題作りで強引に配役した感じなのか、原の存在は浮いているし、出番も少ない。

当時的モダンガールなのか、主人公の悪口を本人が英語を分からないのを良い事にタイプで打ったりする、ちょっと小生意気な一面も。原自体はマドンナ的特別出演だが、映画としては或る家族の破綻を描く力作。さすが豊田監督、という感じ。

上海陸戦隊

1939 熊谷久虎 ニュース・フィルムのようなドキュメンタリー・タッチは新鮮。監督は原節子の義兄。パワフルでリアル、迫力のある映像は、戦後の「智恵子抄」のような凡庸な作品からは想像もつかない。成る程、この人も才人だったのだ。
 原節子は反抗的な中国人娘を熱演。戦後、
「白痴」で見せる体当たり的演技のルーツはここにある。

指導物語

1941 熊谷久虎 SLの迫力と中村彰が吹雪の中、機関士としての訓練中に現実と学生時代の回想シーンが二重焼きで交錯する辺りのドイツ的・幻想感漂う映像は一見の価値あり。また中村彰に人間的成長の跡が見える。
 
熊谷監督にはこの映画にかける情熱を戦後の「智恵子抄」でも見せて欲しかった。

蛇姫様

1940 衣笠貞之助 川口松太郎の伝奇小説の映画化。原節子は都合で出演できなくなった入江たか子の代打で急遽、第一篇に琴姫役で出演したが、半年後の第二篇では入江が元サヤで出演。現存する第一篇・第二篇をまとめた総集篇では原節子出演シーンは残念ながらカットされている。是非、衣笠作品にも正当に出演して欲しかったものである。

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