
新国立劇場(小劇場)「ドン・ジョヴァンニ」
2003年5月16日(金)
新国立劇場の小劇場オペラを観てきました。今回は「ドン・ジョヴァンニ」 ですが、作曲家はモーツァルトではなくて、同時代のガッツァニーガという 人の作品。なんでも、ガッツァニーガのオペラが先に初演されて、これが モーツァルト作品の元ネタになったのだそうです。
やはり、モーツァルト作品のイメージが強かったので、同じような筋立て とはいえ、モーツァルトとガッツァニーガの「違い」が気になります。 登場人物の対照表がプログラムに載っていました。
ガッツァニーガ(初演:1787年2月5日)
モーツァルト(初演:1787年10月29日)
ドン・ジョヴァンニ
ドン・ジョヴァンニ
騎士長
騎士長
ドンナ・アンナ
ドンナ・アンナ
オッターヴィオ公爵
ドン・オッターヴィオ
ドンナ・エルヴィーラ
ドンナ・エルヴィーラ
ドンナ・ヒメーナ
−
マトゥリーナ
ツェルリーナ
ピアージョ
マゼット
パスクァリエッロ
レポレッロ
ランテルナ
−
序曲は急−緩−急の3部構成。演奏も、それぞれの部分の終わりで 少し 間を取っていたので、まさに”シンフォニア”という感じの仕立てでした。 また全体的に明るめの曲調で、モーツァルトとは好対照です。 物語のはじまりは同じ。ドン・ジョヴァンニはドンナ・アンナにちょっか いを出そうとして失敗し、やってきた父親の騎士長を逆に殺してしまう。 で、後から駆けつけたドンナ・アンナの婚約者、オッターヴィオが復讐を 誓う。ただし、モーツァルト作品では その後もちょくちょく登場するド ンナ・アンナですが、ガッツァニーガ作品での出番は最初だけ。 場面が変わって、ドン・ジョヴァンニが とある女性を口説いてみたら、 なんとドンナ・エルヴィーラだった(びっくり!!!)というのも同じで す。そしてもちろんドン・ジョヴァンニの従者パスクァリエッロ(レポレ ッロ)が歌う「カタログの歌」もあります(ドンナ・エルヴィーラの合い の手が入るのが、ちょっと違いますが)。 ビアージョ(マゼット)とマトゥリーナ(ツェルリーナ)の婚礼のお祝い は”タランテラ”。短調が交じるけど、合唱も加わって さらに踊りもあ るので なかなか楽しい雰囲気です。 で。なんと、まず登場するのはパスクァリエッロで、マトゥリーナにちょ っかいを出す。ま、これは軽くあしらわれるんですが、そこにドン・ジョ ヴァンニがやってきて、ビアージョをこてんぱんにやっつけたうえで、マ トゥリーナを口説きにかかる。ビアージョは、えらく あっさり諦めちゃ って、その後の出番もありません。 そして、マトゥリーナは どうやらドン・ジョヴァンニに陥落した?(ぎ りぎりで、ドンナ・エルヴィーラの邪魔が入らないとこもモーツァルトと 違う)。この場面で、マトゥリーナの、心の内をストレートに歌い上げた アリアがとても美しい。 前半では「モーツァルトとの違い」がいちいち気になっていたんですが、 このあたりになってくると ガッツァニーガの舞台と音楽そのものに だ んだんとひきつけられてきます。 このあと、ドンナ・エルヴィーラ、ヒメーナ(ドンナ・アンナ役の歌手が 2役務める)、そしてマトゥリーナ、女性3人の鉢合わせです。ドン・ジ ョヴァンニ 最大のピンチ!なんですが、でも、うまくいいくるめちゃう。 で、マトゥリーナとドンナ・エルヴィーラには、それぞれ「あのご夫人は ショックで気が触れているけれど、試しに話してみたら?」と言い残して 退場。この二人による、お互いに「かわいそうな女ね」とイヤミをチクチ ク言い合いながらのデュオが爆笑ものでした。 まるで「フィガロ」のスザンナとマルチェリーナの言い争いみたいですが (モーツァルトは、ひょっとしてこの場面を参考にしたのかな?)、イヤ ミの応酬は「フィガロ」以上。これは日本語訳の面白さもありますが、 「煮干女!」「つくね女!」とか言い合っているようです・・・なかなか 凄いですね(^^; オッターヴィオが、復讐の言葉を騎士長の墓に刻み付けたあと、その墓場 にドン・ジョヴァンニとパスクァリエッロがやってきて、ドン・ジョヴァ ンニが悪乗りして騎士長の石像を夕食に誘うと、PAを使っていると思い ますがどこかから「Yes」という声が・・・その瞬間、石像の眼がオレ ンジ色に光る! 場面はドン・ジョヴァンニの屋敷に移り、食事の準備をしているところに ドンナ・エルヴィーラがやってきて、悔悛を勧めるがドン・ジョヴァンニ は笑って取り合わない(このままの生活を30年間続けて、そのあと考え 直す、とかふざけて)。 このあとは、ジョヴァンニとランテルナ(屋敷の召使)、パスクァリエッ ロ、3人のシーンがずっと続きます。陽気に酔っぱらうパスクァリエッロ の演技が楽しい。 で、いよいよ石像がやってきます。 モーツァルト作品の場合は、ツェルリーナとマゼットのシーンが出てきた り、ドン・ジョヴァンニと間違われたレポレッロが殺されかけたり、話が あちこち飛びながら、だんだん核心に迫っていくのに対して、 ガッツァニーガのほうは、余計なエピソードがなく、一直線にドン・ジョ ヴァンニの地獄落ちに突き進む感じです。 そして、いよいよ地獄落ち・・・モーツァルトに比べて、ずっとリアルな シーンが展開されます。ドン・ジョヴァンニも「たっぷり」苦しみながら 消えていく、、、でも、モーツァルト作品で聴ける あのデモーニッシュ な音楽的盛り上がりはありません。 この後、ドンナ・エルヴィーラ、ヒメーナ、マトゥリーナ、オッターヴィ オ、パスクァリエッロ、ランテルナが、「恐ろしいことは見なかったこと にしよう、どうしたらみんな楽しくなるかな?」と口々に言いながら、3 組のカップルができたようなエンディングへ。主役のドン・ジョヴァンニを歌った上原正敏さんは、声量が今一つと感じ る場面が何度もありました。役者としては堂々としていたけど。 オッターヴィオ公爵役の塚田裕之さんは、むしろジョヴァンニよりも堂々 とした声で、劇場のすみずみまで声が届いていたように思います。 ドンナ・エルヴィーラ役の井上ゆかりさんは、最大の聴かせどころと思わ れる後半のアリア(ドン・ジョヴァンニに悔悛をすすめる)では、ちょっ と危なっかしい瞬間もあったけど、高音域も含めて まずまず安定した歌 唱を披露してくれました。 マトゥリーナ役の國光智子さんは、3月の新国オペラ研修所の研修公演 「フィガロの結婚」で伯爵夫人歌った人。役柄が変わると、印象もがらり と変わりますが、落ち着いたトーンの しっかりとした歌唱は「フィガロ」 のときと同様、さすがです。 パスクァリエッロ役は志村文彦さん。芸達者な演技が光っていました。笑 いを取るシーンを ぴしぴしと決めていくあたり、さすがです。

