第12回目(8/24)






今、列車は「赤い大平原」の真ん中を走っています
赤い土の荒野が果てしなく続く・・・



ここは、初めはその雄大さにふるえ、
そのうちにあまりの単調さに飽きてしまうところ・・・





赤い、赤い大平原・・・











ええ、乗客の皆さんは、最初から景色なんて見てません
(よっぽど変わってる人以外は・・・そういう人、いますけど)

皆さん、いろいろと準備に余念がないのです




何の準備か?・・・ですか



交易の準備です












ええ、もうすぐ来るのです
向こうはもう私達の列車を見つけたはずです

ほら、向こうからやってくるでしょう、赤い土埃巻き上げて、

赤い馬に乗って、赤銅色の体に、色とりどりの帯や羽飾りつけて、
青や黄色の絵の具で模様を肌に直に描いている人達が、ほら!

あんなにたくさん!


列車の傍までやって来ます!
馬蹄の響き、赤い土埃!



この平原に住む、「赤いトーテムポール」族です!












彼らは年に一度、列車が通る時、その乗客と交易をしにきます

ええ、もちろん駅なんてないですから
列車は止まりませんよ

乗客は窓を開けて、列車に伴走する「赤いトーテムポール」族の人達とやり取りするのです!








そして、そのために「赤いトーテムポール」族の馬は、「列車と同じくらい速い」と評判です
それは、実に彼らの自尊心をくすぐります
だから、交易にもいっそう熱が入ります

(実は、こっそり列車は速度を落としているのだと車掌さんは言ってました、これは内緒ね)








ほら、窓を開けて、商談が始まってます
風にも隣の窓からの声にも負けない大声で、みんな取り引き駆け引きしてます



「赤いトーテムポール」族
彼らは様々な食品や工芸品をもたらします。

例えば・・・
スパイス
乾果
干肉
薫製
お酒
煙草
お菓子
角細工
骨細工
革製品
花束
・・・他いろいろです








もちろん、彼らからしか手に入らない珍しい品は多いです

特に彼ら独自のお酒と、それから煙草は大人の乗客がどうしても欲しがります
もちろん列車の内では禁酒禁煙なんですが、お土産贈り物にはとても喜ばれるからです

(でも、ちょっとだけは、こっそり・・・)





でも、どこの都市にでもあるような品でも、取り引きされます
だって、列車のなかってやっぱり単調ですし、嗜好品なんかは不足しやすいのです
(だから私の話なんかでも売れるんですけどね)


そう、花なんかもいいんです
珍しい、薄く青い小さな花の束も、ごくありふれた黄色い花弁のたくさんある花も、
とてもいいです

だって、花はずっと窓の外にしかないんですもの





(彼らの細工ものやお菓子には、彼らの伝説を表す流線模様が刻まれています)
(そういえば目や鼻、口とおぼしき丸も、手足らしき直線もあり)
(しかし彼らの概念にしかない”もの”が沢山書き込まれて、)
(なんなのか結局分かりません、誰か、説明してくれないかな・・・)











代わりに、


乗客達は自分達の持ちこんで来たものをいろいろ売ります
ほんとにいろいろです

たわいない日用品から、ほんとうにいろいろな品まで





もちろん、こういう遠くまでいく列車には、交易商人として
乗り込んでる人多いですから、彼らは本格的に商売してます


(あ、そんなに身を乗り出すとあぶないですよ)








猫子さんも商売にはげんでいるようです
助詞を抜いた単語の羅列と、手振り身振りと可愛い笑顔で、猫絨緞売ってます

あ、いま絨緞渡してます
代わりに、青い石・・・いえ宝石もらってます
彼女、それを日に照らして、透かして、ためつすがめつじっと見詰めて・・・
相手の三つ編み男ににこっと笑いました
猫絨緞にほお擦りしてた相手の岩のような顔も、にこっと笑いました
どうやら商談成立のようです
(よかったね)






そのほかにも、素人の乗客もいろいろと取り引きしてます

ライターと煙草を交換したり
鉛筆と花束交換したり






そんな交易の様子を眺めていた私はいきなり声をかけられました



「お前、売り物、もってない、の?」



いつのまに窓の下にやってきたのでしょう。
声を掛けてきたのは、立派な大人の馬に乗った、でも私と同じくらいの子供です



「私は、お話しか売るものないんだけど・・・」
「お話・・・見せて。」



私は、数枚の綴じたプリントアウトを彼に渡して、それから思いました
彼は、読めるのかしら?

はためく紙束を、馬に乗りながら器用にめくる「赤トーテムポール」族の少年



「あの、読める?」
「読める、俺、学校いってる」



うう、怪しい・・ちゃんと読めてるのかしら?





でも、彼は紙面に顔を伏せたまま、熱心に読んでいます
(なのに器用に、列車にぴったりよりそって遅れも離れもせず馬を走らせてます)

そして顔をあげて、吊り目がちな眼を細めて

「面白い!」
「本当?!」



「交換、として、俺、も、お前、に、見せる!」



彼はそういうと、いきなり私の手を取りました
そして、彼ら独特の掛け声を上げると、私を窓の外にひっぱりだしますbr>


「きゃ!」




彼は私の体を器用に手繰り寄せると
細いけど筋ばって強い腕で脇に抱え込んで
馬を走らせます




「きゃーきゃーきゃー」
なに?なに?私はとっても恐いです!










風が、顔を打ちます
流れてくるのは列車の臭いではありません・・・大平原の匂いです
太陽に焼かれた土の匂い、草の匂い・・・


鳥の声・・・遠くから響く・・・
(馬のかける音は振動とともに私に刻み込まれます)



彼は、前を見ながら私に語ります
(赤い大平原のことを)
彼は私が何をみているかよく知っています
(赤い大平原について)
そして、なにをみていないかを
(赤い大平原の・・・)

彼は語ります
赤い大平原のことを語ります
彼の世界の事を語ります

(それは、私が彼に読ませた物語の光景のお返しなのです)



彼らの工芸品に刻まれた流線模様の意味に通じる、言葉に直しにくい概念
彼は、すぐ意味のこぼれそうになるそれを、なんとか私達の言葉に直して語ります
こぼれた意味は、風がすくい取ります、それに匂いと、光景が・・・語ります












でも実は、、馬が走っている間、
私は恐くて、よくこれらの事を考えられず、
聞けず
感じられませんでした

ただ私は空白だったのです・・・




















彼が語り終わり、再び列車の中に押し込まれて
(その時に私、お尻触られた上に、重いなんて言われました!)

そして、座席に座って、落ち着いて・・・
ほっとして・・・
別れの言葉を聞いて・・・






そして、眼を閉じた時



急に、この列車外の小旅行の感覚が・・・蘇ったのです

強く・・・強烈に

語られた言葉が、再び頭の中に蘇ったのです

赤い大平原の感覚と共に

(生で感じたそれは、とても強烈なものでした)










そして、眼を閉じると・・・いまだに熱い風を感じるのです・・・
眠る前に、赤い大平原にいる気分になるのです















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