第19回目〜異変・後篇〜(3/2)



侵入者達はいきなり撃ってきました

ごぉんという銃声が狭い車内に響き
私の手にあったカップは砕け
中身の紅茶は飛び散り
熱い液体が私の手をやきますが
私は驚いて凍って何も出来ません!




「大人しくしろ!手を挙げて・・・」




しかし、貴々さんは違います
普段のおっとりした動作が微塵もないすばやい動きで
スカートのポケットから銃を取り出し男達を撃ちます


耳をつんざく銃声!


ダン!ダン!




二人の侵入者達は撃たれて、弾かれたようによろめきます
しかし血も出ず倒れもしません




構わず貴々さんは銃を立て続けに撃ちます

ダン!ダン!ダン!ダン!





一発は銃把を持つ手にあたり、男の手から軽機関銃が弾き飛ばされます
一発は隣の男のマスクにあたり、男は口を押さえてしゃがみこみます



この思わぬ反撃を受けて二人は一旦、この車輌から退きました
しかしまた新手が続々とその後ろからやってきます


貴々さんは荒々しくテーブルをひっくり返して、私に叫びます

「しゃがんで、この陰に隠れて!」

私は頭がパニックを起こしたまま言われる通りにします






ガァン!ゴォン!ダダダダ!ドゥン!バァン!





車内は横殴りの銃弾の雨です
侵入者達が私達の隠れているテーブルめがけて銃を撃ちます
貴々さんがその陰から拳銃で応戦します



これは本当の銃撃戦です
本当の殺し合いです

冒険の一場面です
活劇の一場面です


飛んでくる弾の一つ一つが死の粒です
これは、本物なのです!




ダァン!




ひっ!
こわい・・・こわい、こわい・・・



ダン!ダダン!





そんな風に何も出来ず、ただ頭を抱えてうずくまる
私の頭上で天井が軋みます



ドン!ガン!


あっ!


「貴々さん上!」



そう叫んだ私の上に天井のスチール板が落ちてきます

「きゃっ!」

頭を守る為に挙げた両手に落ちてきたスチール板が食い込み
鈍いけど激しい痛みと赤いあざを残して跳ね返ります




ガラァン!




次の瞬間、開いた天井から何人ものやはり黒づくめの男達が
あっっと言う間もないほどすばやく、紐を伝って降りてきました




そして、なすすべもない私と
前面にばかり気をとられていた貴々さんに向かって
何丁もの銃が突きつけられました・・・



ズシャァッ!




もう、さすがの貴々さんも何も出来ません
手の拳銃を床に落とし、ゆっくりと立ち上がります










いまや銃撃は止み、静かです
自分の心臓の音が聞こえるぐらい・・・

(あとは列車の揺れと軋み・・)








私は、自分がどうなるか、どうされるのか分からなくて
ただ、冷たく黒い銃口の前で震えていました



でも、貴々さんはすっくと立ち、臆せず身じろぎもせず
車輌の戸口をきつい表情で見つめています



そこからはまた、新しく何人かの男達が登場してきました
その中に一人だけ、黒づくめの戦闘服ではなく、茶色い普通のコートを着た人がいます
まだそれほど年のいっていない、額の広い方眼鏡の男です
左右に戦闘員を従えて、なんだか偉そうな感じです
この男がボスなのでしょう




彼は戦闘服の男達を掻き分けて貴々さんの前に進み出ました
そして、恭しく礼をしながらこう言いました



「ご機嫌麗しく、陛下」



陛下・・・ということは、この人達は、貴々さんの国の人達でしょうか
でも、男の口に浮かぶ薄笑いは・・・



うやうやしい挨拶を受けたにも関わらず、貴々さんの口調はきついものです

「私は最早、陛下でもなんでもないのでしょう?
あなた達がそう決めたのではなくて?
それに、私は国を捨てた身
そんな私に、人民総統が何の用か、答えよ!」



「今日は、吉報を持って参ったのですよ
大人民統率会議で、貴方様の復位が決定したのです
さあ、我々と共にお戻りください」



「戻らぬ!下がれ」



貴々さんが激しく拒否すると、男、”人民総統”は貴々さんの手を荒々しく掴んで引き寄せます




「そうはいかない
王の血、その声には、人民を従わせる不思議な力がある!
貴女の父上もその先祖も、美しいだけで中身は愚かなあさましい人間だった!
そんな人間が人民を自らに奉仕させる事ができたのもその魔力のあってこそ! 今度はそれを、我々のために役立てて頂く!」



「異なことを・・・
あなた達は、そういうものに頼らず、自らを自らの力で治めることにしたのでしょう
人民の、人民による、人民のための政府
そうではなくて!」



「そう、しかしその決定に不満な不逞の輩が多いのですよ。
人民の代表として選ばれた私の言う事が聞けない奴がね
だから貴女にお帰り頂き、我々の”声”になってもらう

・・・ああ、この者達には、あなたの声の魔力もききませんよ
分かっているとは思いますが、この私にもね
彼らは貴女の国の土着の者ではないですからね
古く妖しい契約の、対象外なのです」


「自らの力で治めきれないというのは、お前が人民の代表として不適切だからでしょう
妖しい力を用いるよりは、良く治める者をお探しなさい!」


「そんな者はいませんよ
みな権力の座を狙う者は皆権勢欲ばかり強くて無能、
成り上がりだけに王たちよりも始末が悪い
そうでない理想主義者は、貴女のように失敗する
私の方が、ずっとましですよ、まだ人民の事を考えていますからね

さあ、分かったら我々と共に来てもらいます
今度は貴女が操られる番です
なに、薬物漬けになれば苦しいも悔しいもありませんよ、あはははは!

よし、連れて行け!」




貴々さんの背中にぐいと、銃口が押し付けられます
周りにもぐるりと銃口が取り囲み、抗いようもありません
彼女は、自分の国の人達に連れ去られようとしていました・・・



















その時、ガタン!大きく揺れました
列車が急停車したのです!

ほとんど転覆寸前の揺れに、無事に立っていられる者などなく
私も黒づくめを一人下敷きにして尻餅をつきます


そこに、二人の影が飛び込んできます
立て続けに銃声


ガン!ガン!ガン!



次々と黒づくめのゴーグルが弾けます
続けて打ち込まれる銃弾に血を吹き上げて倒れます

貴々さんのボディガード、AさんとBさんです
不意をつかれた黒づくめ達は次々と倒れてゆきます

ガン!ガン!

”人民の代表”の周りにいた者も、次々射倒されてゆきます
貴々さんもしゃがんで拳銃を拾うと、そのまま周りに向かって乱射します


ダンダンダンガン!ぎゃああ!





銃弾の嵐の中で、私は立ちすくんでいました
すぐ傍の人が血を吹き上げて死ぬのです



そんな私だけが、銃弾の真空地帯でした
(よく流れ弾にあたらなかったものです)



目ざとい”人民総統”は、そんな私に目をつきました
逃げられないと知った彼は私を盾にしたのです

私を後ろから羽交い締めにし、隣の戦闘員の手からもぎとった軽機関銃、
その銃口を私のこめかみに押し付けます



「動くな!」



銃声があらかた収まり、うめきと血の臭いの立ち込める部屋で、
それは嫌にはっきり聞こえました



「動けばこの小娘の頭は吹き飛ぶぞ!」



そういって、”人民総統”は私を羽交い締めにしたまま、
車輌の戸口まで後ずさってゆこうとします
つまり、私は人質にされたのです!



そこに貴々さんの凛とした声




「お待ちなさい!あなたはそのまま帰してあげます
仮にもあなたは人民から選ばれた人ですから
しかし、その娘は置いていきなさい!」



なのに、人民総統は、貴々さんの言葉を信じようとはしませんでした
(彼自身が、人を偽る人間だったのでしょう)
いよいよ強く(後で痣になってたぐらい強く)、私に銃口を押し付けます



「・・・痛い!」



「お放しなさい!」



貴々さんは銃を総統に向けています
彼が従わなければ撃つのでしょう・・・
そのときに、少しでも逸れたら・・・








こんな場面で、私は、怖くてなにも出来ませんでした
映画とか小説では、勇敢なヒロインなら腕に噛み付いたりして脱出するのです
でも、とても私には出来ませんでした
低能で愛玩犬めいたヒロインのように、ただ脅える事しか出来ませんでした






総統は、そんな私を引きずりながら、なおも戸口へ後ずさってゆきます



「動くな、動くなよぉ・・・」



その時、彼の後ろから「えい!」という可愛い掛け声とともに
何かが投げつけられました
それは私に押し付けられていた銃に当たり
私の頭は銃の狙いから外れました



その瞬間、貴々さんの銃が火を噴きました





放たれた弾丸は、私の髪を一条焼いて、人民総統の眉間を貫きました
彼は血を噴き出して倒れました・・・




血と脳漿が、私にべったりとふりかかりました・・・













これが、駅に到着目前に起こった大事件です
その日から私は、変わったのだと思います







何でもいいですから御感想などぜひ!(ここをクリックしてください)
メール宛先:hitomachi@geocities.co.jp


もどります