第20回目(4/11)





私は、深く、深く、沈んでいました・・・






・・・いいえ、人が目の前で死んだ
そのこと自体は大きな原因ではありません





降りかかった血や脳漿は、
特配の湯で拭ったはずなのに
今でも匂うような気がします

だけど、それが原因でもありません・・・







とても、怖かったのです・・・


いいえ、撃ち合いが、ではなくて・・・












私は、たくさんのお話を書いてきました

恋とか、友情とか、正義だとか、勇気だとか・・・
冒険とか・・・





本当は、何も知らないのに・・・





ただ、空想して、きっとこうだろうと思って
書いていたのです・・・

冒険とか、スリルとか、手に汗握る活劇





本当は、何も知らないくせに!





現実の重み
空想のたわいなさ
真実の恐怖
言葉に込められていたものを肌で感じた
神経は慄然とした





こんなことだったなんて・・・・

















列車は、ずっと停まっています

乗客は全て降ろされて、支給されたテントで
列車の傍に野営しています


鉄道警察と現地の治安組織が現場の検証を行い
列車の洗浄や復旧が行われるまで、私達はここで足止めです


次の駅まで、もう少しだったはずなのですが・・・












私は、ずっとうなだれたままです




「次の駅にはね、なんでも古くて大きなお城があってね、
眠れる若い王子様までいるんだって。誰でも見に行けるって
ガイドブックに書いてあったから、着いたら見に行こうね」




列車にもたれかかって喋り続ける、猫子さんの顔には、大きな青痣

襲ってきた連中相手に大暴れして
噛み付いたり蹴っ飛ばしたりしたときに
殴られた痕だということです


・・・そして、私を捕らえていた男に、銃を”投げつけて”注意をそらし
結果的に私を助けたのも、猫子さんなのです





彼女は、なんて勇敢なんでしょう
そして、それを自覚すらしていない
それほどに、彼女にとって当り前なのです

意識もせずに、知っています



だから、

彼女は、私よりも幼いけれど
はるかに私より現実に生きています

(それは、現状に妥協するという意味ではなくて
うわべや言葉と行いが離れていないということです)








私は・・・





私がうつむいたまま何も答えないのに
猫子さんのおしゃべりは続きます



「ねえねえ、眠りつづける王子様って、本当にお話みたいだよね」



・・・気を使ってくれているのでしょうか
顔は、いつもの屈託の無い笑顔ですけれど・・・





私は、答えようと思うのですが
なにか、受け答えをしなければと思うのですが・・・





・・・できません

言葉を失った人のようです・・・









私は、現実の重みを知ったような気がします



活劇に出てくるヒーローは、
私の考えていたような薄っぺらなものではありません

もっと、
あの吐きそうな臭いや、
ぐちゃりとした血や、
心臓が縮みあがるような”死”と
もっと、近いものです
もっと、おぞましいものなんです・・・





きっと、
恋だとか、勇気だとか、真実とか・・・

そういうのも、
本当は、もっと怖くて、醜くて、汚くて、だからこそ圧倒的で、
人生にとって重くて・・・時には命と引き換えに出来るほどに・・・

聞きかじりのつぎはぎで作った私の空想のような
そんな薄っぺらなものではなくて・・・






私は何も知らないのです!










だったら、私は何を書けば良いのでしょう・・・?





何も知らない私が何を書いても
圧倒的な現実にくらべたら、
薄っぺらな他愛ないものにしかならないでしょう

まるで意味の無い・・・








私は、これでも人に認められる書き手になるために、家を出てきたのです

他に取り柄もなく技術も無く親掛かりで育って何も出来ない、ひ弱な私には、
書く事が、お話を作ることだけが、ただ唯一の、出来ることだったのです

(あるいは、出来ると思い込んでいたこと、だったのです)








なのに、私はもうなにも書く自信がなくなってしまいました・・・











どうしよう・・・

一人なのに・・・









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