第21回目(5/30)





列車は、まだ動き出しません

車掌さんによると、今回の事件に巻き込まれた乗客は多く
また、行き先や出身、背景などもバラバラすぎるので
調査に手間取っているということです

貴々さんも、いろいろとややこしい問題をかかえているようです・・・

(小国とはいえ国際問題にまで関わることですから・・・)




と言う訳で、私達はここ何日か、車外生活を送っていました・・・






明るい日差しの中、緑萌える草原で、
私は膝を抱えて座ってました


そうです
私はまだ落ち込んでいたのです・・・









むぎゅう







そんな私のほっぺを、後ろからつねって引っ張る人がいます



「痛ぁい!」

「しけた面してっと、ますますブスになるぞお前」



振り返ってみたら、あの嫌みなお弁当売りの男の子です!



「なにするのよもう!」

「なんだよ、鳥を見に誘ってやろうと思ったんじゃねぇか」



相変わらず、不遜な言い方です


「鳥?」

「ああ、ここら辺の近くの林にな、珍しい鳥がいるんだってよ」

「あなた鳥なんかに興味あったの?」

「ま、暇だからな。どうせお前も暇だろ」

「一人で行けば」

「なんだよ、可愛くねえ奴だな」



どっちが!!



その時、猫子さんが弁当売りの後ろからひょこっと現れました
そして、自分よりずっと背の高い男の子の頭を、こちんと叩きます



「もう〜優ちゃんは口が悪いんだから!」



優ちゃん?!

(どうやら、あのお弁当売りの男の子は”優ちゃん”らしいです)


私はその、余りの似合い無さにぷっと吹き出してしまいました。




「こらお前、なんで吹き出すんだよ!」

「痛ぁ!何すんのよ!」



少年の顔が赤いのは、笑われたからでしょうか?
それとも”優ちゃん”なんて呼ばれたからでしょうか



「はいはいもう喧嘩はやめなさい」



まるで保母さんのように猫子さんはいいます



「ね、文音ちゃん、本当に行かない?お天気いいし、気分転換になるよ」



そして、にこっと猫子さんは笑います
まるで春の太陽のようです



「うーん、猫子ちゃんがいくなら、私もいこうかな」

「嫌なら来なくていいぞ」

「あなたと行く訳じゃないわ。」

「ほらほら喧嘩しないで・・・」

















列車が停まっているここは、ずっと草原が広がるところです
初夏の風が吹けば、草が波のようにうねりなびくところです

そこに、ところどころぽつんぽつんと、何本かの
木が寄りかたまって生えているところがあります
それが、”林”です

そこには、木の実やら茸やら、草原には生えない植物があります
それを求めて、鳥や動物が集まります



私達が見に行く鳥も、そのなかの一つです

黄金の冠に、真紅の長衣、碧玉の首飾り、長い虹の尾羽持つ鳥

なんでも、翼持つ鳥から産まれたそれは、昔此処に住んでいた
人達からは”神の使い”と呼ばれていたそうです

(ちなみに、その人達は、遠い昔に、一番大きい”林”に
石造りの大神殿を作った後、何処かに消えていったそうです)




「で、あと誰が行くの?」

「この三人だけよ。貴々さんはずっと呼ばれてるし、
からくり嬢はね、あんまり外は歩きたくないって」



あら、じゃあ本当に断ればよかったかしら
優ちゃんが不機嫌なのはそのせいかしら



という私の内心の葛藤に気づく様子もなく、猫子さんは元気に歩き出します



「さ、行こ!」



















私達は、一番近くに見えていた林に来ました

近くに見えてたと言いましたが、結構、距離はありました
見晴らしがいいので近くに見えたのでしょう
私はちょっと疲れました
いえ、ひょっとしたら運動不足かもしれません
(ああ、太ってるかも!!)



薄暗い、林の中に分け入ります



「そっと、そっとね」



がさごそ






「・・・いねえぞ」

「いないね」

「そうだね」














そのとき、高い声がしました
枝葉の隙間から見える空から、何羽かの鳥が降りてきました
小さい鳥でした
確かに、黄金の冠に、真紅の長衣、碧玉の首飾り、長い虹の尾羽を持っていました
羽は、木漏れ陽を反射してきらきらと輝いていました
讃美歌を歌うような、そんな声で鳴いていました
そんな鳥が、木立の中を舞っていました




素敵です
まるで、聖堂にいるようです

「奇麗・・・」











なのに
なのに・・・!






「美味そうだな、あれ」




もう!
何を考えているんでしょう!
なにが”優ちゃん”でしょう!
(全然、相応しくない名前です!)




「あなたって本当に、なんでそんなこと言えるのよ!」

「なんだよ」

「普通は”奇麗だな”とか言うでしょう!」


「いいじゃねえか、俺弁当屋だし」


「だからって・・・あなた食べる気なの?!」

「悪いかよ」



彼は平然としてます



「ちょっと猫子ちゃん、どう思う?!」


「え、私?どう思うって・・・」



猫子さんは2、3秒考えた後に言いました



「両方思った」



にこっと笑います

私は、猫子さんが少し信じられなくなりました











そんな風に私達が言い争ってるのに、
”神の使い”の小鳥たちは逃げるどころか舞い下りてきます

私達のすぐ傍や、或いは肩にとまって、こちらをじっと見上げます
まるで、私達の言葉が分かるように

(”神の使い”とされたのはきっと、この辺が理由でしょう)






可愛らしくて、神秘的です




私が、この詩的な体験に胸をいっぱいにしている時に・・・










ぱしっ!




ばさばさばさ・・・!




猫子さん、一羽を捕らえてしまってます!




「あー猫子ちゃん!」


「あの、つい、反射的に・・・」


「よーし、捕まえとけよ、今日のおかずだ!」

「可哀相よ、離してあげてよ!」

「なんでだよ、勿体ねえだろ」

「だって可哀相じゃない!」

「馬鹿やろ、可哀相で人間が食っていけるかよ」

「無駄な捕獲はするべきじゃないわ!」



そんな私達のやりとりに、猫子さんは迷って
ましたが、やがて鳥から手を放しました



「死んじゃったみたい・・・」



猫子さんの手の下にあるそれは、ぐったりとしていました



「あ・・・」
















と思いきや、小鳥がぴくりと動きました

翼を二、三度羽ばたかせました
それで体勢を整えると、そのまま飛んでいってしまいました



ずっと、空へ・・・

今度は、猫子さんも捕まえようとはしませんでした



きっと、ショックで気絶していただけなんでしょう・・・







他の鳥たちも飛び去った空を、私達はしばらく茫然と眺めていました・・・











それから、私達は列車に帰りました

明日からまた、運行するそうです
















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