第25回目(10/26)




おぎゃあぁ、おぎゃあぁ〜……




このところ毎晩、発情した猫の鳴き声が響きます




おぎゃあぁ、おぎゃあぁ〜……






赤子の泣き声に似た気持ち悪い声です

狭く閉ざされた車内ですから、それが一層響きます





おぎゃあぁ、おぎゃあぁ〜……






この声のせいか、私は最近よく眠れません
ただうるさいというだけでなく……なんだか落ち着かないのです

そう、落ち着かないというか……
そわそわするというか……
頼りない感じというか……

(でもどの言葉を使っても違和感があります……)


そういう時、家では小さな子のようにぬいぐるみを抱きしめたり、
あるいは抱き枕を抱いたりして(それも両手両足でぎゅっと)、

そうすると幾らかその、頼りない感じが和らいで眠れたものですが……、





この列車では抱くものもなく……なんだかそわそわして眠れないのです……





(腕を太股に挟んで、いわば自分で自分を抱いて、それでいくらか休まるのですが……)


(私は、添寝が必要なほど子供ではないと自分では思っていたのですが……)
























最近、夜、何回もトイレに行く事が多くなりました
夜、眠れないでいるせいでしょうか?
起きていると喉が渇くので、時々、お茶など飲みますし……


(なにか病気だったらやだなあ……)







私は、トイレのドアを、なるべく音を立てないように、そっと閉めます
それから自分の座席に戻るのですが、ある晩、思い直し、席を通り過ぎました


どうせそんなに眠れないし、横になっても体がなにがもぞもぞする感じがするので
(私は、その感じが好きではありません)

それならば、少し散歩しようと思ったのです
(狭い車内ではありますけど、それでも長さは結構あります)









今日は新月です
空は黒く晴れて、光る砂をまいたような星明かりです

(静かな夜ではないのが残念です)



私は、眠る人を起こさないように足音を忍ばせて、
窓を通して、夜空や通り過ぎる黒い風景の輪郭を眺めます……



(夜、車内は薄暗い電灯しか灯っていません)
(乗客のなかには通路に荷物を置く悪い人も居ますから、足元に気をつけて)






私は、ある窓に、人影を見ました
よく見ると、二人分の影です



二つの影は、重なり合ってます
片一方は、ずっと背の低いみたいです
だから高い方が、身を屈めて……




キスしてます!!





私は驚いて、手近な空席の陰に隠れました

わ、わ、わ……!




初めてです、私
私、初めて見ました




キスなんて、今まで、映画や本や話や絵の中でしかみた事ありませんでした
現実にあることは分かっていましたけど、私の日常にはなかったんです
空想ならともかく、本当にするものだとすら思ってませんでした


(もちろん、したこともないです!)




うわ……ぁ





どきどきする胸を押さえて
もちろんこれはいけない事なんですけど
座席の陰からまたそっと、キスする二人のことを覗いてしまいました


そぉっと…




触れ合ってる二人の顔が、いまやっと離れてゆきます




(キスってあんなに長くするの!)
(私、チュッって、ほんの一瞬するものだと思ってたんですけど……)




小さな方、多分女の子でしょう、は、ずっと抱きしめられています
小さく、何か語り合っているようです







…って、私は何をしてるのでしょう
これは覗きです
随分、品のない事です



でも、その……
目が離せなくて……









……あれ

どうも女の子の頭の輪郭に見覚えがあります
女の子にしては短めな髪形に、ピンとはねた房
そして、低い背丈






…あれ、あれは……猫子さん!


























前回と同じく、ここからは殿方禁制です。
絶対ですよ!



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私はからくり嬢さんに、さらしを巻いてもらってました

きつくて窮屈なのですが、まさか下着無しで過ごすわけにはいきませんし
それにもうすぐ列車は次の駅に到着します

鉄道駅のある街はたいていが大きい所なので、
ブラジャーもちゃんと合ったものが手に入るでしょう

少しだけ、我慢です



「はい、これで出来たわ、きつくない?」


「あ、いえ、そんなには。どうも、ありがとうございます」





「……どう、小説は出来まして?」



「あ、あの……いえ、まだ……」



「そう……」




「あの、ごめんなさい、私……」




「いいのよ、まだ列車は着いてないのだから」










うう…せめて夜、あの猫の声が聞こえなければ少しは集中できるのですが……


最近、心乱されることばかりです……








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