第27回目(12/25)




おぎゃあぁ、おぎゃあぁ〜……







今夜も、猫の鳴声が響きます
赤子の泣声のような、鳴声です



私は、落ち着いて眠れません
もぞもぞと、狭い椅子の上で寝返りをうったり、
太股をもじもじとこすりあわせたり・・・
(でも、これをすると余計に落ち着けなくなって、切ない感じになるのです・・・)





眠れない・・・





そういうときは、起きてワープロを打っているときもあります
あるいは手元明かりだけつけて、打ち損じの裏に鉛筆を走らせたり・・・


でも、やっぱり書けないのです


いえ、無理矢理書けば、少しは進むのですが・・・
最初を少し書いて・・・つまって・・・それでも頑張って進めて・・・



・・・



つまってしまうのです
書けなくなってしまうのです
話が、広がってゆかないのです

(前は、毛糸の球が転がりほぐれてゆく様に話が書けたものなのですが・・・)






なぜでしょう?
途中で、だめだなと諦めてしまうからでしょうか
無理矢理にでも頑張って最後までちゃんと書いて、それから直したり
次にちゃんとしたものを書けばよいのでしょうか?




何だか、うまくいかないのです
書けないのです




正確に言うなら、「これだ」というものが書けないのです
書いていて、違うという気がするのです

知らない町を、不正確な地図や怪しい標識を頼りに歩いているような、
ちゃんと行っているのか迷っているのかも分からないような
だけどどうしていいか分からないような
そんな感じなのです





そういう状態は不安です
不安だから、このところずっと書いています


章にもなかなかならない、文章の切れ端を
ワープロのメモリや、書き損じの紙の裏に・・・
(その紙は裏も、そして表すらも文字だらけで真っ黒です)





食べるのは、お腹がすいてのどが渇いてどうしようもなくなった時か
誰かが食事に誘いに来たときだけです

(そういう時、私は何故かほっとするのです
重い責務から解放されたみたいに感じて

前は中断するのが嫌で、
お誘いを受けるかどうかで迷ったりする位だったのに)







眠るのも、疲れて、意識も薄れがちになって、どうしようもなくなった時だけ・・・
(それも、歯磨きしてちゃんと眠るのではなくて、
ちょっと一休みと思って横になって、
そのまま寝てしまうことが多いのです)





・・・いえ・・・





・・・猫の声で集中できないのではありません


・・・書いているときは忘れていますから





























おぎゃあぁ、おぎゃあぁ〜……











赤子の泣声に似た猫の鳴声が響くなか・・・

今夜も私はやはり眠れなくて、こっそり指をはしらせていました





すると突然、寝静まってると思っていた客車の中で大声がしたのです


「うるさいぞ!」

一瞬、私は自分の事を言われているのかと思って、びくっとなりました
(こっそりこっそり、微かな音しかさせていなかったのに)




でも、それはすぐ思い違いだと分かりました


次々に起き上がった乗客達が、口々に言いはじめたからです



「全くだ、いつまで鳴いているんだあの猫!」
「猫なのか、あれ!」
「うるさくて我慢できねぇ」
「あなたもうるさいわよ」
「とっつかまえて黙らしちまおうぜ」
「そうだそうだ」



その声で、鳴き声にもかかわらず眠っていた図太い人達まで起き出しました
そして、皆でうるさい猫を捕まえてしまおうという事に決まってしまいました。





捕獲作戦は一晩、列車中を巻き込んで続きました
(そのときの大騒動は、いつかお話する機会があるかもしれません)











ともかくも皆、埃だらけになって
(引っ掻き傷や擦り傷をたくさん作った人もいました)

ようやく猫は捕まりました
白い毛並みが埃にまみれた、まだずいぶん若い雌猫です



それが、首根っこをぎゅむっと掴まれていました







「さて、こいつをどうしよう」



猫を手にぶら下げた男がいいます



「殺しちまうか」
「やだ、可哀想じゃない」
「とにかく黙らせちまわないとな」
「列車の外に放り出すってのはどうだ」
「そうだな」
「それがいい」







ちょっ、ちょっと待ってください

列車は走っているのですよ
それもすごい速度で

いくら猫でも、そんなところから抛りだされたら死んでしまいます!







「だめ!」






でも、その言葉を発したのは私ではありませんでした



猫子さんです



その言葉に、窓枠に手をかけ、今にも猫を放り出そうとしている人達が止まりました




「おい、なんでだよ」
「お嬢ちゃんはひっこんでな」
「俺達はもう我慢できねえんだよな」




この人達も、いつもなら温和で礼儀正しい良い人達なのですけど、
このところ安眠を妨害されてきたせいか殺気立っています


その中には、弁当売りの男の子もいました




「猫子、窓から出してやるだけさ、猫だから大丈夫だよ」


(あれ、呼び捨てです)


「そんな訳ないよ、こんなスピードでいくら猫でも大怪我しちゃうよ」

「そんなことないって、猫は身軽なんだよ」

「身軽でも死んじゃうよ、私だってこんなの飛び降りれないもん」

「・・・・・・」





その時、猫をつかんでいた、まだ若い男の人が言いました



「怪我してもいいんだよ、黙らせられりゃあ」



他の人も言います



「そうそう、猫なんぞの事はしらんね」
「運が良ければ助かるしね」
「俺達を騒がせた罰だよ」
「やかましい野良猫には、ちったあ痛い目を見せんとな」








・・・・・・!

違います
それは違います!



ああ、なんていうことでしょう
彼らは、猫がただ騒いでるとしか見えていないのです
しつけの悪い子供のように


いえ、もっと悪いです
壊れた鳴りっぱなしのラジオのようにしかみえていないのです



でも、この縞々の猫は、ただおかしいのではなく
わざと皆を困らせるために鳴いていたのでもありません



確かに、薄気味悪くて、やかましくて、迷惑でしたけれど
それでも毎晩なきつづけるのは、その・・・内的な必要があったからです






彼女の内に、切ないものが
私と同じように・・・


(とどくこともなくかなえられることもなくそのことさえしらない祈り・・・)





そう思ったとき、私の物語は完成しました

私は、それを皆に語りました


(後でこの話に「野良猫の祈りを込めた歌声」と名付けました)


























物語が終わったとき、皆はしんとしていました
ただ、列車のがたんごとんという音だけが響いていました



誰かが、ぽつりと呟きました



「じゃあ、その猫はどうする」


「それは・・・」



私が口ごもると、猫子さんが代わりに答えました



「私が預かる。大人しくさせるやり方知ってるから、それでいいでしょ」



「ああ、まあそう言うなら」
「静かになるんだったら、それでいいや」
「ああ、殺す事もないだろ」




猫退治に集まっていた人達は、三々五々と散ってゆきました
ずっと満足に取れなかった眠りをとるために








「ところで、猫子ちゃん、それどうするの?」



猫子さんの胸もとで、猫はまだ変な声で小さく鳴いてます



「えっとね、なにか綿棒みたいなのない?」

「車掌さんに貰ってくる」



私が車掌さんの医療箱から綿棒を貰ってきて猫子さんに渡すと
彼女は私に、猫を押さえてて、と言います



私がその言葉通りにしていると、猫子さんは、綿棒で、猫の、あの、えっと、
その・・・猫のことで恥ずかしがってても仕方がないから言いますと、
生殖器を刺激しはじめました



猫は明らかに、・・・興奮してます
猫の事ですけど私は真っ赤になってしまいます
何だか、すごく、その、見てはいけないものをみてしまったような気がします


猫子さん自身は恥ずかしがる事もなく普通で、私の様子を見ていいます





「こういうものだから、仕方ないよね、猫だし」


「そ・・・そうだね」













やっと、猫はおとなしくなりました


列車は、あと一日で駅に着くでしょう












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