第28回目(3/3)




ああ、もうこんな時間
早く荷物をまとめなきゃ・・・



あせあせ、いそいそ





窓の外では空はすでに白み始め
今は青みがかって見える大平原が姿を現しつつあります





・・・あふ・・・

少しは眠れると思ったんだけど・・・








元々荷物はさほど多くはなかったんですが、
さすがに一年も暮らしていると荷物も増えて、
整理するのもザックに詰めるのも一苦労です。








この原稿はからくり嬢さんに渡すものだからとっておいて、
毛布は下
猫絨毯も下
わっ、これ結構かさばっちゃう、
ああ時間ないよどんどん詰めなきゃ
余ってしまったのは手荷物にして降りてから詰めなおそ・・・








窓の外の風景は霜のおりた大平原から、
ぽつぽつと家が建ち並び道路が走り、
それが数を増しやがて地面を覆い尽くし、
街へと変わってゆきます









私のザックは膨れ上がり、口からモノがはみだし・・・

あれ、切符どこやったっけ?あれ、あれれ・・・
もしかしてザックのなか?!






















この時にはもう行く手に、朝日を受けた大きな城が見えていたはずです
(私が荷物作りに追われていなければ)

うずくまるような基部から、何本もの、こぶ付きの針の様な
尖塔を天に向かってつき出した、白い(かつては純白だった)城が

(それはかつて、古い種族によって造られたものだと、
ものの本に書かれていました。)



”古街”は、この城を囲むように広がっています
(正確に言えば、城の周りに広がっていた遺跡の上に建っています)




もちろん私は、城や遺跡に思いを馳せている暇はありませんでした
もうすぐ列車は古街駅に着きます
その準備が大変です
到着後にも、試練が待っていますし
(からくり嬢さんこれみて笑ってくれるかしら)









あ、借りっぱなしのモノ見つけちゃった!
(返すのいつでもいいと言われていたのですっかり忘れていました!)
返しにいかなきゃ・・・



























”古街駅〜古街駅〜お降りのお客さまは
お忘れ物のない様お気をつけ下さい。
なお、当列車は36時間ここに停車いたします”






到着のアナウンスが流れるホームを、
ぱんぱんに膨れ上がったザックを背負い
片手にワープロ、もう片手にプリントアウトを抱えた
私は、からくり嬢さんの姿を探して、
彼女のいた客車の降車ロ目指しどたどた駈けていました




あ、いた!





からくり嬢さんは、風呂敷包み片手にホームに降りる所でした



「あら、文音さん」



「あの・・・前に頼まれていた話が、出来たんですが・・・」



「ああ、出来たの、出来ないかと思っていたのだけれども、文音さんは律儀ね」



後から降りる乗客に邪魔にならないよう移動した
からくり嬢さんは、私に片手を伸ばし言いました



「見せてくださる」

「あ、はい、どうぞ」





ついに試練の時がやってきました
緊張します









彼女は、ホ―ムのべンチに座り荷物を降ろすと、早速読み始めました
瞬きをしない目が字面を迫います
人とスピーカーと機械の喧騒の中なのに、
紙をめくる音が響いてくるようです




あの猫事件の時に皆に語った物語
それにつけ加えた結末に、からくり嬢さんは笑ってくれるでしょうか?











「あ、いたいた!」



ペこペこになった大きなりュックサックを背負って 駆けて来るあの子は、猫子ちゃんです



「何やってるの?」



「うん、ちょっとお話読んでもらってるの」



「文音ちゃんの新しいの?私も見せて見せて!」



猫子ちゃんはからくり嬢さんの読んでるのを
後ろから覗きこもうとしました

するとからくり嬢さんは、それをさっと胸元に伏せてしまいました




「駄目よ、これは私がお金を出して書いてもらったのだから」



「えー、いいじゃない、ケチ!」



「何とでもお言いになって。でもこれは私の
ための物語だから、あなたには見せられないわ」



「ぶ〜」





「ま、まあ、そういうことだから猫子ちゃん」



「み〜、そういえば文音ちゃんはこれからどうするの?」



「私?私はしばらくこの街に居ようと思うの。
もう余りお金もないし。だから何かして働き
ながらやっていくつもり。出来れば文筆関係の
仕事が出来ればいいんだけど・・・猫子さんは?」



「私はね、下りの列車で帰るつもりなの。猫絨毯も全部
売れたしね。弁当売りの売り子さんしながら帰るの」



「彼と?」



私の言葉に、猫子ちゃんは可愛く照れながらうなづきました



「うん」



(・・・ちょっとうらやましいかも)




















少し時間が経って…





読み終わったからくり嬢さんから、声が掛かりました



「文音さん」





その時のからくり嬢の顔と声は、普段と同じ、硬いものでした

ああ…まだおもしろくなかったのかしら

私の心臓は早鐘のように打ちます
脇の下を冷たい汗が流れます




「は、はい」



「この話、とても面白くてよ」







そう言った時の彼女は、いままで見たこともない微笑みで微笑んでいました…






(私も、ほっ、としました……)










さて、とんとんと原稿を揃えると、
からくり嬢さんは、それを袂にしまいました
立ち上がって、彼女の荷である風呂敷包みを手に取りました




「では、これでお別れね。次に会う時は、もっと面白いお話を書いてらしてね」



「ええ、はい」



「次こそは、私が笑い転げるようなのね」



「え・・・」



「では、ごきげんよう」






私に難しい課題を残して
からくり嬢さんは改礼へ去ってゆきました……


(からくり嬢さんが、笑い転げるようなの…?!)














「じゃ、私達も出ようか」
「うん、文音ちゃんは今日はどうするの?」
「とりあえず、今日は駅のホテルに泊まるつもり。明日から職探しするわ」
「じゃ、今日はこれから暇だね。観光しよ、観光
なんか面白いものがあるらしいよ、眠れる王子さまだって」
「何かしらそれ・・・うん、そうね、でもその前に髪を切りたいと思わない」
「あったかいお風呂にも入りたい!で、ここ温泉もあるらしいよ」
「いいわね、行きましょ」
「おみやげも買わなきゃ」
「あら、でも彼を手伝わなくていいの?」
「うーん、今日は売上の整理だとか帳簿つけだとか仕入れ業者との連絡とかで
私が出来ることないし、それに文音ちゃんとはずっと会えなくなるんだもんね」
「そうね、じゃ荷物を預けたら今日は遊びましょ」
「ましょ!」








ひたすらに長いホームを改礼に行く途中、
駅員と書類を見ながら話している車掌さんに会いました



「車掌さん、どうもお世話になりました」

「お世話になりました」


「やあ、お嬢さん方、私も、君達と一緒に旅が出来て楽しかったよ。
これからも頑張ってな、幸運を祈っているよ」


「はい、車掌さんもお元気で」

「さようなら」

















さて、これで私の「列車物語」は終わりです。
皆様にも、またいつかお目にかかれますように・・・












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