第5回目(4/21)





夜、私は、書き物をしていました。


静かに寝静まった列車の中
カタンゴトンと電車は揺れて
カタカタカタとキーの音

手を休めて耳をすませば
人々の(絶えず揺れるにも関わらず)安らかな寝息・・・
(列車旅はもう、日常の、生活になってしまっているのです)



天井には、橙色の、薄暗い明かり
手元には、青白い明かり・・・
(暗いところで作業をすると目を悪くして大変だと、よく母に言われたものです)








あれ・・・?


皆、寝静まっていると思っていたのですが
こつ、こつと、後ろの方から足音がします









こんな夜中に、誰でしょう?
こんな夜中に、何でしょう?
(幽霊?泥棒?列車は、そんな話には事欠かないのです!)











そっと、席からみを乗り出してみると、近づいてくるのは、若い、男の子
(とてもとても若い、私くらい若い男の子)
吊り紐で支えたお盆に、箱を何段も載せている・・
彼は、お弁当売りでした









でも、どうしてこんな時間に?
もう、晩御飯の時間は5時間も前に過ぎていますよ?








そんな私の問いに、お弁当売りの男の子は笑いながら答えました

「夜食売りさ」





夜食・・・(これは一種のサービスなんでしょうか?)
そういえば、私、お腹空いています
あんまり寝る前に食べるのは良くないのですけど
でも、折角ですから・・・

「では、これで一夜分、売っていただけますか?」

私は、今夜書き上げた一編を、差し出しました
夜安らかに眠れるような、そんな話でした











でも、お弁当売りは、話も読まずに言いました。

「駄目だよ、そんなんじゃ、交換できない。」

そう、言ったのです。
意地悪く、笑って。





どこからともなく伸びてきた手の中の紙幣を
お弁当一箱と交換しながら、彼は、言葉を続けました

この魚は、3年間網を張った
この卵は、4年間育てた鳥の産んだもの
この野菜は、1年前に種を蒔き
キノコ栽培に、1年半
調味料の熟成に3年半かかったのだと

意地悪く笑いながら、そう言いました。








私が、

「全部足して13年。もう賞味期限過ぎてませんか?」

と言うと、

「馬鹿いえ、調理したのは今日だ。」

と言い返され
(もちろん、そうでしょうけど。13年前は赤ちゃんです。)





さらに

お前のインスタントな話なんかとは、とても交換できないと、言いました
(だってそうだろう、列車に乗ってまだほんの少し)



















でも・・・






「でも、私の言葉は、13年かけて集めたものです」
「こめられた感情も、13年かけて集めたものです」













彼はその言葉を聞くと
言葉も無く黙って
弁当箱を二つ、私のひざの上に置いて
そして
立ち去って行きました

彼はどこまでも、意地悪でした





私、そんなに食べれないです!
みんな寝てしまって、おすそわけする人もいないのに・・・




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