少年は、今年で13になったばかりの姉と一緒に、丘に登った。

その丘は、小さいけども、そこに登ると街を見渡せる。
そして、いつも風が吹いている.
だから、ここには背の高い木も草も無い。
(そう、見渡す限りで一番高いところ。)

少女のスカートがはためいている。
木枠を組み込んだ赤いスカートが。
少年は、姉から渡された懐中時計を見る。
少女の父がこの前の誕生祝いとして贈った
銀めっきの時計は、正午から五分過ぎを指してる。

空には、幾筋かの流れる雲。
「もうすぐだよ。」
「うん。」
少女は、緊張している。

カチカチカチカチ・・・

びぃううう・・・ひゅーひゅーひゅーひゅーひぃゆうううゅー

風がどんどん強くなって行く。
いつも時刻通りに吹く風が、やってくる。
少女のスカートが、木枠の可動限界まで
ふくらみ、ふうわりと、広がって・・・
少女は、宙に舞った。

はじめは、本当に吹き飛ばされたような感じ。
体が左右前後に揺さぶれて
そのままひっくり返るんじゃないかと弟をはらはらさせた。
(飛行スカートはひっくり返ると中の木枠が折り畳まって
しぼんでしまって、まっ逆さまに墜落してしまう。)

だけど、最初はばたばたと、
そのうち上手く足でバランスを取れるようになってきて、
そうすると引きつった少女の顔にも笑みが浮かんできて、
その口から、笑いが洩れてきて、
気がつくと
少年の姉は、滑らかに、軽やかに空を飛んでいた。
丘の上を舞っていた。

「ほらほら見て見てー飛んでるよ私飛べたよー」

空から降ってくる、心から嬉しい声。
重力から、地の束縛から開放された声。

少女は、
彼女の母やおばさんや、
学校の上級生やそのほかの女性の大人のように
、 空を飛んでいた。

今はまだ低く飛んでいるけど、
そのうち強い気流もうまく乗りこなし、
天空に浮かび世界を巡る<母達の街>にも飛んで行けるだろう。

でも、少年は飛べない。
少年は<デブ>でもないし、手も足もちゃんとあるし、目も見える
年老いて自由の利かない体でもない。
でも、飛べない。
飛行スカートが、履けないから。
別に、痩せ過ぎで小さくて、
サイズの合うスカートが無いからっていう訳じゃない。
(彼は女の子を含めた同級生の中でもとりわけ小さいほうだけど、
並外れて小さいと言う訳じゃない)
(それに、飛行スカートは全部、注文して、ちゃんと細かく寸法とって作るもの)

では、どうしてスカートが履けないのか?
それは至極簡単な理由。
スカートは、女性の履くものだから。
だから、男の子は、履けない。
そう、一生履けないんだ。

だから、少年は、羨望の眼差しで、姉の飛ぶ姿を見てた。
飛べない、男の子として。

けっして、飛び慣れない少女が、飛行用のペチコートを履き忘れて、
白い下着や太股を露にしているのを見てたわけではありませんよ。



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