第3回目(7/16)








近所のおばさんA:お宅のお子さん達って優秀なのねえ

近所のおばさんB:お嬢さんは飛行コンテストで優勝なさってるし

近所のおばさんC:息子さんは、首都大学を今度卒業なさったんですってねえ

近所のおばさんA:すごいわねぇ、さぞかし立派な所に就職なさるんでしょうねぇ

母:ええ・・・まあ・・・

近所のおばさん達:政府、軍かしら、それとも三被子みたいな大会社かしら、いいわねぇ、すごいわねぇ・・・














塔のように聳え立つ高層都市、九楼
その中を螺旋状に上り下りする軽便鉄道
その傍に作られている螺旋階段と回廊を行き来する人々
内壁に沿って作られた家々
十年前の未来予想図の整然さを狂わせる、あちこちの看板や立て札やはためく洗濯物
丸く切り取られた青空

懐かしいといえば懐かしい
遠い首都大学に行っていた架名にとって、ほぼ一年ぶりだ




チンチン・・・ゴトンゴトン・・・チンチン・・・





架名が卒業証書と手荷物を持って家の玄関に入った途端、
姉の千鳥が封筒の束を手に持って出迎えた





「あなた、軍も三被子も仲島重工も蹴ったんですってね!」

「いきなりだね、”おかえり”はないの?ただいまが言えないよ」



涼しい顔をして、架名は靴を脱ぐ
そんな様子に千鳥はいらいらする

昔は姉のいう事を(いけない事でも)素直に聞くよい子だったのに
なんでこんなに自身たっぷりの男になっちゃったんだか
母は大学や一人暮らしのせいだと思うかもしれないけど
私の大学経験(地元の大学だけど)からして絶対違う


「何すまして言ってるのよ、全く、いつからあなたはそんなにスカした子になった訳?!」



怒ってみても、架名は昔のように動じない
黒いマントをさっとなびかせ家の奥に向かう


「先に言っておくけど、軍には興味がないよ、人殺しの道具をつくるなんて真っ平」

「じゃあ、三被子でもいいじゃない、普通の会社よ」

「あそこも軍の兵器開発を受け持ってるんだよ、それに大会社だし」

「大会社でいいじゃない、お給料はいいし、就職難のこの御時世に失業なんてないし」


いや、ホントはそんなこと言いたくないんだけど



「嫌だよ、全体の歯車になるなんて」


それはわかるよ、だけど・・・


千鳥が手に持った封筒を振る
それは全部封が開けられていた



「ほら、こんなに手紙来てるよ、あなたに来て欲しいって、あちこちから」

「もう全部断ったよ」



ああ、もう・・・・!


「それで、就職先が”天鳥スカート工房”って、何考えてるのよ!」

「僕の知識が一番生かせる」




「知識って・・・こういうところは女の子が行くものでしょ!もう・・・私の弟は変態なのかしら」





千鳥はため息をついた

それは・・・政府や大会社や、大きな組織に就く事が必ず良いとは限らない
確かに、(相応しくはないけど)大学を出たからって、
小さいところに就職してはいけないということはない
それくらいは、分かってる


だけど・・・どう考えても、誰が見ても、男の働き場じゃない
飛行スカートの工房なんて



スカートは、女のはくものなのだから
























天鳥スカート工房は、たった6人の小さな、飛行スカート専門の工房
個人のオーダーメイドから、大企業からのデザイン・図案下請けまで幅広くやってる


・・・といえば聞こえはいいけど、競争が厳しいこの業界で
選ばず半端仕事や隙間仕事を取って来て、あとは古くからの
ひいきの顧客でなんとか潰れずに持っているだけの零細企業


それでもやっていけるのは、三十代後半なのに未だに清楚な
美人の天鶏社長(もちろん女性)がうまく仕事を取って来て、
うまく社内のマネジメントをやっているお蔭だ


(賢明な読者はお気づきでしょうが、社長は”天鶏”なのに、会社は”天鳥”です
これは誤植ではありません
鶏は飛べないので、飛行スカートの工房にはちょっと、ということで”鳥”なのです)







その天鶏社長が、突然言った



「今日、新入社員が来ます」

「おー!」
「えー!」
「どうしたの!」



皆、驚いた
だって、ここ3年間、誰も、一時雇いすらこの工房には入らなかったのだから
そして更に、最近になってやっと、一ヶ月前にふわふわの髪のメアリが入ったばかり

立て続けに二人も入れるなんて
それも、この不況の折りに


そんな社員達の疑問に答えるように、社長が言った



「とっても良い人材よ、首都大学出てるし」



「えー!」X5



再び、驚愕の声
首都大学といえば、この国の最高の教育機関
まさに、秀才中の秀才、エリート中のエリートの行くところ
末は社長か大臣かと謳われるくらい、そこの卒業生は立身出世が確実とされている

そんなところを出た娘がなぜ・・・??








時計が、鳴った

ボーン、ボーン、ボーン


「もうそろそろ来るころね。」


その言葉に皆、手を止めて、工房の出入り口の、
すり硝子の嵌まった木製の扉の方を見つめた

間髪入れず、硝子の向こうに人影が映る
小柄な、きゃしやな輪郭



「すみません、失礼します」


ボーイソプラノの声




「どうぞ」



ガチャリとドアノブがまわる
人影が入ってくる
皆、固唾を呑んでみる

「さあ、”彼”が新しい新入社員よ」





・・・・・・






皆、驚いた
非常に驚いた
予想もしていなかった事に、とても、とても驚いた



なぜって?






新入社員が、男の子だったから!





「えーっ!!」









もどります