第4回目(9/20)





メアリはいつもは朗らかで明るくてふわふわな髪の女の子なのだけど
近頃、その薔薇色の笑顔が曇りがちです

いろいろと落ち込むことがあるみたい
今日もお茶配りしながら、その原因をちらちらと見てます

その目線の先には、新入社員の架名君が先輩技師(女)と話してる姿がありました






あ、でもメアリの悩みは、恋、ではありません

確かに彼女はお年頃です
(なんといっても15歳ですし)
架名はハンサムというより美少年で、いかにも女の子に騒がれそうな感じです
(おまけに大学出の超エリートです)

でもそんな事はメアリにとって問題ではありません

問題は、メアリが今の所、お茶汲み&お掃除&雑用係なのに対し
新入社員の架名がもういきなり、設計や計算に携わっている事にあるのです
(それも、ベテランの先輩達と同格に)





・・・もちろんメアリは三年制の実科を出ただけで学はありません
おまけに学校では、勉強は苦手でした
特に数学や計算が苦手、図画工作も苦手
国語も苦手でした



メアリは、移民の子です
両親が、内戦の戦火を逃れてきた欧国人なのです
もっともメアリはごく幼い時から、この街、九楼で育ってますから、言葉はぺらぺらです
それでもやはり両親がほとんど欧語しか話さないので、難しい言い回しや故事成語には疎いのでした



で、メアリが得意だったのは、必修外国語(欧語をえらんだのだから当り前です)
それに体育、中でもスカート飛行です




スカート飛行の技能というのは、女の子にとってかなり重要です
はっきりいって、上手な子は尊敬されます
メアリは、クラスでは一番、学校全体では五本の指に入る程度には上手でした
小さな地方大会で一位に入賞した事もあります
それで貰ったメダルは彼女の誇りでした

それで明るくて朗らかで、おごったところがありませんから
メアリはいつも女の子友達のなかで人気者で、中心でした

それに加えて、ふわふわの豊かな髪に異国の容姿の美少女なのですから
男の子達にもすごく人気がありました










でも・・・天鳥工房では違います
実社会では、彼女はただの見習いの小僧です
(もっともメアリは女の子ですけど)





メアリはもともと、飛行スカートの試作品や実験のためのテストパイロットとして入社しました

計算も苦手で字も下手で他に芸も学もなくて、
現実社会に通じるのはなんとかスカート飛行の技能しかないのでした
でも、それもアマチュアとしては学生としてはまあ上手な方という程度で、
ほとんどお情けと先輩のコネで入れたようなものです。

おまけにいまは開発期間中でそのテストパイロットとしての仕事もなくて、
計算も複写も工作も苦手なので、お茶汲みやお掃除や雑用しかさせてもらえません
女ばかりの職場ですから、ちやほやされたりもしません



で、いまもお茶を配って回っているのです
(ちなみに今日は薔薇の花を浮かべた香草茶です)




「あ、メアリちゃん、水捨てて来てくれない?」

「あ、はい」



天鶏社長がメアリにブリキにバケツを差し出します
そのバケツはメアリの学校のクラスにあったものと酷似しています
水というのは、冷房機に凝結して滴り落ちてくる水です
メアリは、それを受けている容器からバケツに移します
それは彼女の細腕には結構な量です
それを、工房の入っている部屋を出て、階段を降りて、
共同排水口に捨ててこなければなりません



「よっしょっと、ん!」




バケツ一杯の水は、やはりメアリには重いものです
学校にいた時は、こんなものは男の子達が代わってくれたものですが
今はよたよたと、がに股で運んでいかなければいけません



「あ、こぼさないようにね」

「あ、はい」



よたよた
がにまた
よいしょ
よいしょ


メアリが苦労しながら階段を降りてると
すたすたと、追いついてきた者がいます



「重いでしょ、それ、僕持ちましょうか?」



それは架名でした
手にはメアリには理解できない計算式と図が書かれた書類を持っています
それをみた瞬間、彼女は言ってしまっていました



「結構です!」




それは、自分でもびっくりするくらい、大きな声になっていました
強い感じでした



「でも、重いでしょう、それ」

「私、これでも力持ちなんです、どうぞ、お仕事あるんでしょう」



よろよろ
がにまた

それに対し、架名はあっさりしたものでした


「そう、じゃ頑張ってください、前、失礼します」」



すたすた

そう言って架名はメアリを抜き、官庁街の方に行きます
(おそらく、新設計の認可を求めにいったのでしょう)

・・・その声には、強い拒否にあって気分を害した様子はありませんでした


つまりそれは、メアリの事など余り気にしてないという事です

これまでちやほやされていたメアリは、
別にちやほやされたいと思ってる訳ではないけれど
それでも今の境遇になんだか悲しくなってしまうのです


ですから、折角職場できれいな男の子と出会ったのに
メアリは恋するどころではないのです









そして、彼女は自分の悩みと落ち込みに気をとられていたので
ラジオが、欧国内戦の世界的拡大の前触れを告げているのに
全く気がつかなかったのです






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