第11回目(8/18)





今日は、日曜日です。
暑く熱く、太陽は照りつけています。

私は、久しぶりに駅に立っています。
この街に来た時以来です。


田舎の駅ですから、プラットフォームがあるだけで、屋根もなくて、
帽子がないと日射病にかかりそう・・・
(また、なかなか列車は来ないんです。)






向こうでは、親子づれが楽しそうに話しています。
海にでも行くのでしょうか?
(私にもあるかすかな懐かしい記憶・・・)






私は一人で立っています。
私も、咲さんに「ね、ねっ、プール行かない?」と誘われていたのですが、
(なんでも駅二つ先の市のプールは、流れるプールとかいろいろあるそうなのですが)

でも、断って、一人で立っているのです。
「保護者」の招待を受けるために・・・



私は、列車を待ちかねていました。
いえ、「保護者」と顔を合わせるのは苦痛なのですが
(その他、電話、手紙なんかでも)

でも、咲さんにばったり出会ったりしたら
とても気まずいですから・・・




それで、熱い陽の下で、じりじりと、列車を待ちわびているのです・・・












列車の中は涼しくて、知る人も誰も乗っていなくて、ほっと息をつげました・・・



















「保護者」の住む街は海に近く、この地方では一番大きな都市です。
太陽の暑さ、雑踏のめぐるましさ、息の熱さ、小奇麗な表通り・・・

ここには、人を魅きつける闇はありません。
(暗く、静かで、冷たい、閉じた、もう一つの世界)


自動的な日常と、極めて現実的な認識と行動が、行き交うだけ。
それは、闇の射す余地のないものです。

(闇が射すには、歴史ともいえる深い陰影が刻み込まれていなくては行けません)
(いえ、だれしもそれを抱えている存在であることには変りないのですが)
(すっかりと、擦り減ってしまっているのです)

ええ、明るいだけではなくて、僅かに、腐敗の入り口がどこそこに口を開けています。
ですけど、やはりそれは人の心の現実世界に関する汚穢の入り口であっても
私がいまから訪ねて行くような闇は、ありません・・・・













葉書に印刷された地図の通りに、道をたどると、マンションがあります。
きれいな、新しくて、高そうな(ええ、気違いじみた価格の)、
見せかけだけは赤レンガ様式のマンションです。

そこに、「保護者」は住んでいるのです・・・




私はインターフォンを押しました。
数秒後に聞こえてきた「どなたかな?」の声に、「水生です。」と答えました。



すると、ドアの鍵が外される音がして、スピーカーから「入り給え」の声。



私がドアをあけると、薄暗い部屋の中で(窓に厚いカーテンを引いていたのです)

「おお、水生、良く来てくれた、歓迎するよ。」と、初老の男が迎えます。





銀髪なのに、まだ若さを感じさせる面長の端正な顔(皮膚が垂れていません)。
小柄だけど、しゃんと伸びた背筋。
にこやかな笑顔、そのなかの、赤く、暗い目。
芝居がかった、明治か大正か、ヴィクトリア朝時代の書物の翻訳のような口調。

もう、百年以上は生きているはずの(いえ、千年かも知れませんが)
私の「保護者」です・・・















「君が来てくれて嬉しいよ。君以外は誰も来てくれないのだよ。」




彼は、飾りつけしたテーブルに手を伸ばします。
ロウソクを灯した燭台の周りに、肉料理が幾品か置かれています。
(なんの肉かは、皆様のご想像に御任せします)




「折角、よい料理の材料が見つかったというのに・・・」




丸焼きを直につかんで齧る彼に、私は答えます。



「それは、貴方が好かれていないからよ。」

「ああ、はっきりというね、お嬢さん」






そうです、私は、この男相手なら、強気なことが言えるのです。



でも、彼の言うことには無条件で従わざるを得ない私のですけど。
いえ、だからかもしれません。

(そう、どんな要求にも従わなくてはいけません。)
(それくらいに、強い束縛があるがゆえに、却って強気でいられるのかも・・・)

そう・・・





「私も、来たくはなかったのだけど、・・・貴方に、一つ聞きたい事があって。」

「いいとも、なんでも答えよう。しかし、まず、食事が先だ。」




食事、それは、明らかに・・・





「さあ、席について・・・好きなだけ食べ給え・・・」




私は、食べざるを得ません。
一口、二口・・・
食器がないから、手で・・・
口をつけて、そのまま齧りとって・・・



「どうだね、味は?」
「水っぽいわ、味気なく、柔らかすぎて・・・」
「おお、私には丁度良い味なのだがな。」
「お年をお召しになりすぎたからじゃありません。」


そう、私にとって、この肉は幼すぎて、柔らかすぎます。



私達は、ただ人肉という物質を食べるのでは、ありません。
(それであれば、牛や鳥や豚の肉を食べるのでもよいのです。)
同時に、霊的ななにか・・・を摂っているのです。

私は、それを求めるのです・・・




だけど、「保護者」はあまりに年を取りすぎ、肉を取りすぎて、
(支えかねるほどに蓄積された怨念じみたもの)
もう、ただの物質的な「肉」として良ければ、それでいいのかもしれない・・



私は、あまり好まないのですけど・・・あまりに幼すぎるのは・・・
(それに、この肉をどうやって得たかを考えると吐き気がします。)








それでも、私のお腹は久々に満ちました・・・
事実、私は飢えかけていましたから・・・厭だけれども、助かったのです・・・

(そしてこれは、「保護者」の私に対する陵辱の一つなのです)
(だからほら、私を見る彼の目の、満足そうなこと・・・)







「ご馳走様・・・・」
「もう、いいのかね?」



「ええ、あなたに聞きたい事があるから、御食事会は、これくらいにしたいの。いい?」







そして、一つの問い・・・

















それは、来週に・・・・
















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