第20回目(2/3)






私は独り、ぽつりと、白壁の続く寒い帰り道を歩いていました

ひゅうーごうーという風の音に、耳が冷たく引き裂かれそうです





ひゅーひゅるるー






・・・なんでしょう

風の音に混じって、笑い声がします

明るい、子供達の歓声です


白い壁の向こうから、子供達の、笑い声です








この白い壁は、お寺の壁です
(壁の上から、お堂の屋根が見えます)


開け放たれた門から覗くと、

おまけについてくるボール紙製の鬼のお面を被った年老いた和尚さんを
ジャンバーやセーター姿の小さな子供達が追い掛け回し、豆を投げています







・・・ああ、そうです
今日は節分でした












私は、小さな子供達と老人が遊び戯れるのを、しばらく見ていました


寒サニモ負ケズ
風ニモ負ケズ



元気で、楽しい事です








ふと和尚さんは、門口にいる私に気づきました
そして言います



「あなたもおやりなさるかの、豆は、まだたくさんあるでよ」



「えっ、いえ、私は・・・」

思いがけない申し出を、私は断ろうとしましたが
小さな子供達が離してくれませんでした



「お姉ちゃんもやろ、お姉ちゃんもやろ!」

子供達はわらわらと本堂の方に行き
そこに置かれた大きな升から
小さな手いっぱいに豆をすくい
私の、流石に子供達よりは大きな手に流しこみます





それで私はしばらく子供達と一緒に
おどけて逃げる鬼の面被った和尚様を追い
柔らかく豆をなげて遊びました・・・






その時だけは、確かに憂鬱は去っていました・・・・













しばらく遊んでいると、日も沈み空は赤くなります
子供達は元気なまま、和尚さんと私に別れを告げて
皆仲良く家路に着きました












私は、和尚さんと共に、豆の蒔き散らされた境内を掃いていました





「あなたは・・・」

「水生、です」


「ええ名じゃの・・・水生さんは節分の由来を、お知りなさるかの?」



「ええ、知っています、昔は、豆ではなく石を投げたのでしょう、穢れ人に」




「そうです、若いのに、ようお知りじゃ・・・」



「私も・・・」

穢れ人ですから

「・・・・いえ、何でも、ないです」




「そう、昔はの、乞食、腐れ病を患うた者、気狂いなどを連れてきては石を投げたのじゃ」



「・・・」



「それで穢れを払うとての、皆、石を投げた、力一杯」




「非道いことですね・・・」



「そうじゃの、しかしその当時は恐ろしい物が世に満ちとっての
飢え、戦、病、死・・・恐ろしゅうて、逃れとうて
だから、皆も、そして私も一生懸命に投げとった・・・」




「穢れは、しかし払われなんだ
人を傷つけるほど己も傷つき
人を呪わば我もまた穢れ・・・」




「そして穢れは、我が身に溜まった・・・
僧は呪われて、ずっと死ねぬまま・・・・

穢人となり鬼となり、石を受け豆を受け続ける事で
僅かづつでも穢れを払い、そして成仏を願う身となった・・・」











「どうして、私に、そんな話を・・・?」









「水生さんは、穢れを知っておられるようじゃからな
そんな貴女が豆を投げる、
すると穢れが払われる、私も、貴女からも

それは、穢れは重く深いものじゃから
ほんの僅かしか払われんじゃろうが
それでも少しは楽になったじゃろう・・・」







「・・・」












「あとは、御仏の慈悲を信じるのみじゃ・・・」












そして生き死人の僧は、仏の像の前にぬかづき、祈りました









しかし私は、この世に仏のない事を知っています

機械的な現代というメカニズムが私という存在を
常に解体しようとしていることを、知っています


そこに救いはありません
穢れをはらう場も、ありません



深く、深くなる業を背負い
ただ息を潜めて、あるいは逃げ惑うのみです






あるいは、”保護者”のように
もはや人とは言えぬ怪物に成り果てるか・・・
(そうなれれば、それはそれで良いのでしょうが・・・)











いずれにせよ、世界に仏の慈悲などは、ありません
私は、知っています




だから、私は彼に、こう言ってあげるべきでした







「喰ろうてあげる、おじいさん
喰ろうてあげる、その穢れ
喰ろうてあげる、あなたごと」









だけど私は、本当に優しくない子でしたから
僧を置き去りにしてしまったのです・・・









くぅ・・・


お腹も空いていたのに・・・












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