第21回目(3/10)





咲ちゃんに、好きな人が出来ました



同じ学校の、同じ学年の、違うクラスの子です。
私の、よく知らない子です
(もっとも、私が”よく”知っている子なんていませんけれど)







「ねっ、見てみて、あの窓際の前から三番目にいる子」

「あの・・・本を読んでる子?」


「そう、そう」



ある休み時間、私は咲ちゃんにわざわざ別の教室の前まで連れていかれました
そして、休み時間なので開いている戸から、教えられた方を覗き見ました
そこには、ちょっと格好良い、でも平凡そうな少年がいました


髪は長髪とはいえませんが短くもなく
さらさらと奇麗に櫛が通ってました

顔立ちは整っていていましたが
美少年というには目が小さく鼻も低く
嫌味はありませんが覇気もなさそうな
少し頼りない柔和な感じでした

背は高くありませんが、”チビ”なんていわれる事のない高さです
体つきは逞しくもなく肥ってもいませんが、ガリガリと痩せた感じではありません


彼は、級友達がおしゃべりやふざけあいに騒がしく興じる中で
きれいな姿勢で、地味な装丁の文庫本を読んでいました





そう、本当に”平凡な”とか”普通”などといわれそうな感じの男の子でした






(ええ、もちろん”普通”とか”平凡”なんかは、概念上でしか存在しません)
(生きている限り、誰もが複雑な世界に関わり、複雑な内面を持たされるものですから)
(だから、”平凡”とか”普通”というのは、あくまで私の印象です)







でも・・・あれ、何処かでみたような・・・そんな気がします

ええ、もちろん、学校自体大きくないですし生徒もそう多くいません
そこに毎日通ってるわけですから、何処かで見ていてもおかしくないのですが・・・
そういう”見た”より、もうすこし印象的な・・・










そして、昼休み、裏庭、ベンチに腰掛けた私達・・・




「ね、どう?」



どうといわれても、どう答えればいいのでしょう・・・?
いいと思うよ、としか言いようないのですが、それでは・・・



私が答えかねて、口の中でもごもごといっていると
(いつものことですが)咲ちゃんは勝手に話を進めます


「あのね、この前ね、水生ちゃんが勧めてくれた本を探してみようと思ってね、図書室にいったの」



ちなみに私が勧めたのは、読み易い童話めいたSF小説です
私は、学校で一人でいるときは(つまり咲ちゃんがいないときは)
本を読んでいる事が多いのです

・・・いえ、そんなに本が好きという事はありません
買ってまで読む事というのは、余りありませんから
でも、私には学校ですることがありませんし、
だけど一人でぼうっとしている事はできません
だから、何かをしてなくてはいけません
何か、学生らしい・・・人目を引かない、でも誰にも関わらない、そんな事
それが、読書です
だから私はよく図書室で本を借ります



・・・そういえば、さっきの子、見た事あります
図書室によくいる子です
もちろん話した事もありませんし、名前もしりません

でも、咲ちゃんの話の展開はなんとなく読めてしまいました





「でね、本あったから取ろうとしたらね、佐久君の手が重なってきてね」



佐久君っていうのが彼なのね




「ごめんって言おうとしたら目があって・・・それで・・・・」











咲ちゃんの話、聞いてて恥ずかしいって、思いますか?
とても少女漫画みたいで、少女向け小説みたいで
多分、とても恥ずかしい話だと思います



でも、何の躊躇いもなく人を好きになれるというのは、
私にとってとても良い事のように思えます
とても羨ましい事でもあります



・・・私は、素直に人を好きになる事ができません
好きになるということが、後ろめたいのです

だから実は、咲ちゃんもそんなに、心から好きでは、ないのです
ただ相手が一方的に寄ってきてくれるから、一緒にいるのです


ですが・・・間違わないでください
私は彼女を嫌ってはいません
むしろ、寄ってきてくれるのは嬉しい事です
おしゃべりの内容が余りに他愛なくても
一人でいるよりは、ずっとましです

それでも・・・好きになりきることが、出来ません







なぜなら、私はおぞましい人食い、ですから・・・








その後も、始業のチャイムが鳴り続くまで咲ちゃんの話は続いていました
私は笑顔で合槌を打っていましたが、心の中は冷たく、冷たくなっていました


だから、最後に一言・・・



「咲ちゃん、あの本、読んだ?」


「あ、本、うーんとね、1ページだけ読んで寝ちゃった、あはは」






















その日、学校が終る頃、校門で私を待つ人がいました
私が咲ちゃんと分かれるや否や
その薄汚れた背広に猫背の中年男性は、私に声をかけました

黒い、警察手帳をかざしながら・・・


「神原、水生さんだね、ちょっと話を聞かせてもらえるかな・・・」








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