第23回目(5/31)





図書室で、私は、大きな腹の虫を、鳴かせてしまいました

目の前にいた、咲ちゃんの思い人の、ちょっと
可愛い男の子は、まじまじと私を見つめました


私の顔が真っ赤になります
彼の手に重ねていた手を慌てて引っ込めます



「ごめんなさい!」



彼が「あの・・・」と声をかけてきたのだけれど答えずに、
周りの人達がくすくす笑ってたりするのも恥ずかしく、
だから、何も借りずに何も読まずに早足で図書室を出ました



そして、誰もいない中庭の片隅の、
蔓や葉が伸びすぎになっている藤棚の下のベンチで、
私は恥ずかしさで上がってしまった体温を冷ましたのです・・・


(今日は一人きり・・・)














午後のけだるい授業が終ると、私は学級委員(という名の雑用係)ですから
学級日誌をつけて(それにしても、天候など記入してどうするんでしょう)
それを先生の所に持っていて、それから、何もすることがないから、帰ります


まだ日は高く、グラウンドでは運動部員のかけ声がいくつも響きます
私の横を、校外にランニングに行く選手達の列が通り過ぎます


ざっざっざっ

おらおら!たるんでんじゃねえぞ一年!





私は、ゆっくり歩きます
とぼとぼ、と言った方が近いでしょうか


早く家に帰ったところで、それほどすることはないのです


(孤独が長かった私には、咲ちゃんの様子を見に行くという発想は浮かびませんでした
こちらから他人の方へ寄ってゆくという姿勢が、私には欠如しているのです・・・・)






とことことこ・・・

太陽は、さんさん・・・







道端からは、枯れのこりのすすきの足もとから、緑と小さい花が溢れ出しています
たんぽぽは綿毛、私は手にとってふぅうと吹きます
ふわふわと、種がとんでゆきます



そんなふうに、私はゆっくりと、歩きます
急ぐと疲れて、貧血になるかもしれませんし・・・





商店街は、いつもとかわらず賑やかです
人が一人二人死んだりいなくなったりしても、賑やかです

(でもひそひそと、噂はささやかれていました・・・ねぇ、恐いわねぇ・・・)







私は、そんな賑やかな通りを過ぎ、
静かな、小さな森と水の張られた田園の間を通る道を抜け
木立に囲まれた、粗末な私のアパートに帰りつきます

そこは静かなところで、
いるのかいないのか分からない隣人たちの物音は聞こえず
ただ鳥や虫や蛙の声が響くところです

私は半ば風化しかかっている郵便受けを開けて、中が空なのを確認し、
建物の傍の、錆びた鉄の階段を昇ります



ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ・・・



そして、ドアを開けて建物の中に入ると・・・












私の部屋の前に、柊さんが立っていたのです!










「遅かったわね」

「あ・・・!」

「ずいぶんゆっくりと、歩いてきたのね」


「あの・・・何か用ですか・・・?」


「あなたとお話しにきたのよ。学校ではあなた、話しかけてきてくれないし」



柊さんは、ふふ・・・と笑います



「そうよ、会いに来たの、ずっと、遠くからね・・・」






「あの、あなたは・・・」



私の問いには答えず、彼女は言います



「お部屋、おじゃましていいかしら。こんな所では、話せないこともあるし」

「・・・ここ、壁薄いですよ・・・」

「ふふ・・・こんな所に住んでいる様な人に、まともな人はいなくてよ」

「・・・」



・・・そうですね



「それとも、ダメ?」


「いいえ、そんなこと、ないです」



私は、鍵を開けます・・・がちゃ・・ぎい・・



「どうぞ」

「ああ、靴は外に脱ぎっぱなしなのね、すごいところね、ここ」



なんのかんのといいながら、柊さんは何の遠慮もなく部屋に入ってきます
(きっと、ずっといままで、臆することなく生きてきたのでしょう、羨ましいです)



「本当に、何にもない部屋ねぇ」



彼女は、部屋を見回していいます
確かに、私の部屋には何もありません

布団と、コップと、制服と・・・それに下着なんかを入れている衣装ケースと、本が少し



「うん・・・すぐに、また、どこかに行くから・・・」

「それは、どうして?」



柊さんは、薄暗い部屋の中で、微笑んでいます
教室で見せていたような、さわやかな笑いではなく、妖しい、笑み

部屋の中に、血の匂いがたちこめるような・・・

(あの、錆びた水の味・・・)



「ふふ・・・言わなくてもわかってるわ。貴方も気づいているでしょう」


「あなたも・・・」



「そうよ、人喰い娘、私もあなたの仲間よ・・・」







「立ってないで、座ってお話しましょ」



「・・・ええ・・・」




柊さんは、スカートがしわにならないよう気をつけて、座ります
私も、座ります

柊さんは、私の方へ、にじり寄ってきます
肩と肩が、触れあうところまで

彼女の右手が伸びて来て、私の上腕と肩を撫でます(服の上から)
彼女の左手が伸びて来て、私の腹や胸の肋をさすります(服の中に手をいれて)







「あ・・・の・・・柊さん・・・?」

「ひふみ、でよくてよ・・・」


「ひふみ、さん・・・何を・・・?」



さわさわ
すりすり
なでなで



「あなた、痩せているわね・・・ろくに食べていないんでしょう?」










その言葉に、私は、思わず、こくりと肯いてしまいました

ひふみさんの声には、恐い、響きが含まれていたのに・・・












「私が、もっと楽な生き方を教えてあげる・・・」








(それは、甘美な囁きでした・・・)








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