第31回目(10/5)





さわさわさわさわさわさわさわ…






さわさわさわさわさわゥbr>
さわさわ…









し…ん…







さわさわさわさわ…













今晩は、晴れ


雲のない満月です



そのせいでもないのでしょうが
なにか体が変な感じがします


ざわざわと
血がたぎるのではありません


そわそわでも、ぞわざわでもありません




さわさわさわ…です




重くも無く、苦しくも無く
むしろ体が軽くなる感じです



(けれどでも、炭酸飲料から泡が抜けてゆく感じではないのです)























夏風邪も治った私は、いつものように制服に着替え
革の学生鞄を持ってアパートの階段を降りました



生い繁る緑に囲まれた、田園の中を通る田舎道を
私は学校に向かいます



歩く早さは、ごくゆっくりです
時間は、それでも余裕があります

私は走るのが遅いし息も続かないので、なるべくそういう目に
会わないよう、余裕を持って部屋を出ています


ゆっくり歩きながら、考え事をします
考え事の内容は、身近のことではありませんが
かといって、形而上の、高級なことを考えている訳ではありません
つまらないことです

どちらかといえば白昼夢に近いような…






そんな浅く夢見る私は、商店街に近づく道の途中で
現実に引き戻されました



私の名が、どこかで呼ばれたのです



「神原さん、おはよう」



鈍い私は、声の主を探してしばらくまごついたあと、
私のいる道と交差する別の道に佐久君がいるのに気付きました



「あ、あの、おはよう…」



佐久君は、私の方へ、照れながら近づいてきました



「や、やあ、偶然だね。初めてだね、この道であうの」

「…そうね」

「いつもこの道なの」

「ええ」

「ああ、でも僕はいつももっと遅く出るから、それであわなかったんだね」



いいえ、きっと彼は待ち伏せてたのでしょう
私も時々、もっと遅い時間にアパートを出たりしますが、
それでもあったことはありませんし、台詞が棒読み調です



でも、だからどうだということも、ないのです
私には、どうしようもないですし…



成り行きに任せて、二人並んで登校するしかないのです…





私は、彼が私のことを好いているのを、知っています
でも…いえ、だからかもしれませんが
私は彼が苦手です



私達は、二人とも照れて、俯き加減で、無言です
こういう雰囲気、苦手なんです



私は、人見知りするほうです
奥手でもあります
会話が上手でもありません
かといって、他を無視して平気でいることも出来ない性質です


だからむしろ私は、咲ちゃんのような、積極的で、
押し付けがましいくらいで、相手のことを考えずに
喋りまくるくらいの人の方が相手をして楽なのです






女の子みたいな顔を赤くして、無言で俯かれても困るのです







「あの…いい天気だね」

「そうだね」


後の会話は続かず、そのまま私達は商店街通りを歩いて行きます






それにしても、不思議です
どうして彼は、私のような子を好くのでしょう?
相手をしてもつまらないでしょうし、美人でもありません
やせててスタイルも良くないです
流行りの今風の女の子とは全然違います



彼はきれいな男の子で、私のTVなどから得た乏しい知識によれば
そういう子は今流行で、だから他の女の子にももてると思うのですが

どうして私なのでしょう
不可解です


















学校が、近づいてきました




私は、佐久君が嫌いではありません


これでも女の子ですから、好かれて
嬉しくないということはありません


だから、いえ、嫌いではないからむしろ、
こういう雰囲気は苦手です

相手に気まずい思いをさせていると思えばなおさらです





ん…

今日は、なんだか様子が変です
門の前に人だかりがあります



「あれ、なんだろう」



なんでしょう



私達は、人垣の外周に辿り着きました
人垣といってもさほどの人数ではないので、
何が起ってるのか見ることが出来ました



校門の前に先生が二人立っています


一人は知っている先生です
眼鏡を掛けていて、小柄で細身で温厚な、古典の先生です
学年副主任でもあります


もう一人の先生は…知らない先生です
ジャージを着ていて、樽のようないかつい体格をしています
毛むくじゃらの手に、竹刀を持っています
門を潜る女生徒に、なにか言っています
「怒鳴っている」の方が、より近い表現でしょうか
厚い唇から、唾が跳んでいます
パンチパーマの頭に、脂ぎった感じの顔
暗い澱んだ光を放つ目



「鬼憑口だ」


「知ってるの?」


「ああ、前にこの学校にいたんだ。異動になったはずだったんだけど…」


「恐い顔…」


「うん、あいつには気をつけた方がいいよ。嫌な噂がいっぱいあるし」


「どんな噂…あ、咲ちゃん!」



私達とは人垣の反対側から、咲ちゃんが校門を抜けようとし、
鬼憑口先生に乱暴に呼び止められました



「コラァ!お前、何だその頭はぁ!」


「何って…」


「我が校はパーマは禁止だ!それにお前、脱色もしとるな!」


「あの、私、もとからこういう髪なんだけど」


「口答えするなぁ!規則はちゃんと守らんかぁ!」


鬼憑口先生は、咲ちゃんの頭の髪を乱暴に掴みました


「痛ぁい、何するのよ!」


「なんだぁ!教師に向かってその口のききかたはぁ!」


「せ、先生、乱暴は…」



やせた古典教師が止めに入りますが、鬼憑きにあっさり振り払われます
彼はもう片手に持った竹刀を振り上げ…打ち下ろしました!


激しい、痛い音


ただ、それが鳴ったのは、咲ちゃんの肩口ではありませんでした

人垣から進み出た八房君の、握った左手の中でした




「なんだぁ、お前は!」



そう乱暴教師に凄まれても、八房君は竹刀を握ったまま無言です


「離さんかぁ!」


鬼憑口教諭は、竹刀を取り戻そうと引っ張ります
力を込めて引っ張ります
けれど、微動だにしません
咲ちゃんの髪を掴んでいた手を放して、両手で引っ張ります
けれども竹刀は、空中で固定されたようにうごきません



「離せ、離さんかぁ…!」


「はい」



急に八房君が手を放しました
教諭はあおりをくらって盛大に尻餅をつきます



「行こう」

「…うん」



その場を立ち去る八房君と咲ちゃん
その後ろ姿に尻餅をついたままの鬼憑口は叫びます



「こらお前等、あとで生徒指導室に来い!」





くすくすくす…




笑い声が聞こえます
みんな笑っています



「貴様らなにがおかしい!」



その罵声に皆は沈黙します
けれど、一人だけまだくすくす笑っています
私の後ろから、その声は聞こえます



「水生さん、この愉快な方どなた?」



もう、声で分かります
ひふみさんです

今日は、取り巻きが一緒にいません
一人です

一人だけ、ずっと、くすくす笑っています
手を口に当てての忍び笑いですが、明らかに聞こえるように笑ってます



「何がおかしい!」



ひふみさんは、答えません

蔑むような笑みを浮かべたまま、怒る男をみています
その笑みは、教諭の怒りに油を注ぎました



「どけえ!」



彼は人ごみを掻き分けて迫ってきます

私もその太い腕に払われそうになりましたが、
その時、佐久君が横から腕を引いてくれて、
それでよけることが出来ました



「お前かぁ!」



鬼憑口はひふみさんに掴み掛かってゆきます
ひふみさんは、笑みを浮かべたまま変わらぬ表情で
掴み掛かって来る手に自分の手を掛けて、くるっと
体を入れ替えました

まるでワルツかなにかを踊るように

目標を見失った鬼憑口教諭が勢いあまってたたらを踏みます
ひふみさんはその白くてかたちのいい足を太股のかなり上までさらしながら、
その尻を蹴っとばしました




「ぐげっ!」



教諭は顔から地面に突っ込みます

また起る笑い声


地面から上げられた鬼憑口教諭の顔は、真っ赤でした



「貴様ぁー!」



笑ってるひふみさんにまた掴みかかってゆきます
ひふみさんは、優雅なステップで後ろに跳んでよけます



「こら、待て、こら!」


「あはははは」



ひょいひょいひょい



まるで、鬼ごっこです
そのまま、ひふみさんは門を抜け、校舎の方に向かいます
鬼憑口が、その後を追います






私達は、彼がいなくなった隙に校門を抜けました















「あの人、どういう人なの?」


「何でも県の教育関係の偉い人の息子で、だから
ああいう無茶苦茶が許されてるってきいたけど…
本当に気をつけたほうがいいよ、目をつけた女の
子を呼び付けて乱暴するって話で、行方不明も…」
















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