第33回目(8/13)





呼ばれて入った職員室の雰囲気は、ぎすぎすと、きちきちと、張り詰めています



生徒が教師を殴るとは…
…全治一ヶ月…

…新聞社かね、君、社長を呼んでくれたまえ…
分かりました、警察は抑えられるのですね、ありがとうございます…




「お前、何入ってきているんだ!」



私はいきなり怒鳴られました
からだがびくっとなります

そちらを振り返ると
いつも緑のジャージを着ているげじげじ眉毛の体育教師です



「勝手に入ってきて何のつもりだ!」

「あ、あの…」



彼が私の胸倉をつかもうとする寸前、
私を呼んだ担任教師の止めが入ります



「ああ、その子は私が呼んだんだ」

「ああ?!勝手に生徒を出入りさせては困るんですがね」



そんな体育教師の言葉に何の反応も返さず、
担任の先生は自分の机の所に私を手招きします

私が小走りに駆け寄ると、
先生は引き出しからプリントの束を手渡して、
私にこれからの指示を与えました



「次の授業は自習だ。このプリントを配って、皆に
やらせておいてくれ。その後は平常の授業にもどる
が…五時間目は…理科か、八岐先生の授業だな。
あの人も今日は忙しくて出れないから同じく自習だ。
その時は、これをやるように。残ったら宿題だ」



さらに分厚いプリントの束が、私の手の上に追加されました
こちらも、先ほどと同じく英語のプリントでした
(つまり、理科のプリントではありませんでした)


「それから、僕も今日はいそがしくて君たちを見ることが出来
ないから、ホームルームはなしだ。君たちの方で何もなければ
そのまま解散して構わないから、そのようにしてくれ給え」

「はい」

「以上だ。すまないけどよろしく頼む」

「はい、分かりました。では失礼します」





…今日、授業を自習にした先生達は、皆地元の人たちです
(彼らの名字を冠した商店や事務所がこの町の至る所にあります)

察するに…地縁血縁を用いてもみ消しをしているのでしょう
どこの学校も変わりません



八房君が捕まったり少年院送りになるのは確かに、あまり望ましくありません
けれど、出来事が何もなかったように消されるのも、恐いことです



自分も、消されるのかもしれないのですから…
存在した、ということも含めて…





更に、クラスに帰って自習をさせるという役目は気が重くなります
多分、今日一日は騒がしいでしょう
平常通り授業をしている先生もいるようですから、きっと怒鳴りこんでくるでしょう
その時に何か言われたり役割を強要されるのは私なのです
学級委員なのですから

元々、こういう役職はクラスの顔役とか誰もが納得する真面目な人とか、
つまり人から一目置かれている人がするべきものなのです

私では誰も言うこと聞いてくれないし…
雑用係だからこそ私に押しつけられたのですが…



はぁ…



プリントが、重いです





















実際は、クラスは静かでした
ひそひそと話し声はやはりあるものの、隣の教室の先生の耳に届くほどではありませんでした

ひふみさんが一言、


「うるさいわ、静かになさって」


というと、誰もが沈黙するのです

その事については、私は彼女に感謝しました
事柄についてだけ


どうしても、ひふみさんの存在を嬉しいとは思えません
なぜなら、彼女は代償を求めるのです



「今夜、つきあってね」





















夜、ひふみさんは私を部屋まで迎えに来ました

出かけるから着替えなさいと言われました
服は、綺麗な服は避けた方がいいと言われました



「どこに行くの?何をするの?」

「狩よ」



ひふみさんは、薄く笑いました

私はそれほど服を持っていないので、仕方なく体操服を着ました
ひふみさんは、黒いシャツに黒いミニスカートでした












ひふみさんは月光の下、田圃のなかの道をどんどん歩いてゆきます
私はそれについてゆきます

気配がします
それにかすかな獣の息づかい…







やがて道は、神社を中心とする小さな集落のなかに入ってゆきました
無人の家や小規模な鶏、豚の飼育場、さびれた小さな作業所の多い並びです

ひふみさんは、境内のなかにはいってゆきます
私もついてゆきます

空気が、澱んで濁っています
バンが一台、止めてあります
中に人はいないようです


社の中から、明かりがもれています

ぎっぎっと床板の鳴る音がします
声もします
喘ぐ声
小さな叫び
殴る音
悲鳴



ひふみさんが、社の階段を上りました
扉に手をかけ、開きます


なかには、数人の、男達
そして、床には服を裂かれ手足を押さえつけられた女の人


男達は、まだずいぶん若い顔をしていました
幼いといってもいいくらいです
皆、ズボンを脱いでいました

何人かは女の人の手足を押さえ、
一人はビデオカメラを持ち、
一人は女の人にのしかかっていました


彼らは呆気にとられた目で私たちを見ました
女の人は、生気のない、どろりとした目でこちらをみました


忌まわしい光景です
吐きそうになります



男達の何人かが、ゆらりと立ち上がりました
口の端には、下卑た笑いが浮かびます



「ようようお姉ちゃん達…」




その台詞を遮るようにして、ひふみさんが指を鳴らします
すると私のそばを、一陣の風が通り抜けました


いいえ、それは風ではありません
大きな、二匹の山犬です

ひふみさんに仕える、古い古い獣です



彼らは次々と男達を屠ってゆきました
頭を噛み砕き、腹を裂き、足を加えて振り回し、四肢を裂き…


逃げることもかなわず、男達は皆酷く殺されました
女の人は、すでに死んでいました










「ここは腐ってしまったから、腐った人でない者達が集まってくるのよ」

「…非道い…」

「そうね、非道い連中だわ。だから殺してしまうの。それは貴女の正義感にもかなうでしょう?」

「それにしてにもこんな…分かっていたのなら、女の子も助けられたのでしょう」

「あら、それは無理よ。私もいつも見張っている訳にはいかないし、そもそも
そんな義理はないもの。それにその子、もともと死体だったのかもしれないし」

「…嘘」



私がにらむと、ひふみさんはくすりと笑いました

頭の半分を食いちぎられた男の滴る脳漿を指ですくって、
その小さな口のなかに入れます



「まあ、どうでもいいじゃない。良い狩り場なんだから」














もどります