第9回目(7/14)







私は、八房君と一緒に歩いています。
帰り道を、やや早足で

(それは私にとっての早足で、彼にとっては普通の歩調です)











言葉が無い・・・・












車一台分の幅しかない、古い町並みを通るアスファルトの道です
たまに車がくると、私は彼の後ろに除きます


そしてそのまま歩き始めると、いつの間にか二人並んで歩いています・・・













無言で・・・・













自転車も、通りかかります
おばさんの乗った買い物自転車が、何回か・・・



八房君は地元の人なので、地元のおばさん達とお互いに知っています
(良く出来る子だと評判で)








おばさんは声で挨拶します

「あら、次郎ちゃん、こんにちわ」






八房君は、まっすぐな背を少し曲げて、会釈します(完璧に)
私もその横で(私が挨拶されたわけではないけど)、小さく、かすかにお辞儀します






そのあと、そのおばさんは私を見て、大体こう言います

「次郎ちゃんの彼女?」





八房君は、その時になってはじめて、口の端に苦笑めいたものを浮かべ、言います





「いえ」











それを聞いておばさん達は安心したのかがっかりしたのか納得したのかしてないのか
分からない表情を浮かべて別れを告げてまた自転車を漕いで去ります。






私はそれを聞いて、心のどこかに小さな刺を感じるのです・・・















その後、まだ無言が続いて・・・












「あの・・・」

滅多に無いことですけど、私が話し掛けました
どうしても、沈黙に耐え切れなくて・・・






でも、次の言葉が思い付きません
振り向いた八房君の、厳粛な(そう、いつもそんな感じです)表情に向かうと・・・









もう一度、「あの・・・」を繰り返そうとした、その時 初めて八房君が口を開きました






「神原さんは、下の名前は、確か、水生だったよね。」
「えっ、ええ・・」
「誰が付けてくれたの?」
「あの、親・・両親です・・・」
「なぜ、水生、なの・・・水生さん」






八房君に初めて名前で呼ばれた・・・
(前に私を水生と呼んだ子は、指を無くしてどうしてるだろう・・・)






「・・・分からない、分からないけど・・・きっと、いい名前だからだと・・」
「うん、僕もそう思う、いい名前だと思うよ」




「あの、ありがとう・・・」




「僕は、長男だけど、次郎丸という・・・」

「でも、別に、構わないと思います・・・その・・そういう名前たくさんあるから」

「弟は、三郎丸、その下は、四郎丸、もしいたらだけど。 うちではね、代々、男は次郎から始まるんだ」






「なぜなら、太郎は、いつも喰われてしまうから」










・・・・!
言葉にならない、こころの叫び!
夏なのに、冷たい・・・










「という、したきりというか・・・その、そういう設定で、子に名前をつけるんだよ。」

「・・・」

「実際には、そんな事はないんだ。喰われた子なんて、いない。
一度、調べたことがある。そんな記録、昔から何処にも無い。
そして、どうしてそういう事をするのかすら、誰も知らない。
父も、祖父も祖母も・・・文献、伝承すらないんだ・・・・」


「なのになぜ僕は、次郎、次郎丸なんだろう・・・?」








分かりません
意味がありそうで、でもどういうことか分からない話です

青い空から日光はまぶしく射します






「・・・大丈夫、上原さん・・・?」
「・・・え、うん・・・」
「顔色、おかしいよ、どこかで休もうか?」


「ううん、いい・・・」








そのまま無言でいくらか歩きます・・・









「すまない、変な話を聞かせて」

「え、ううん、別に・・・」

「でも、君に、聞いて欲しかったんだ。まともに聞いて考えてくれる人に、話したかった
他の奴は、昔から知っているけど、とてもこういう話をするやつらじゃない、でも
その、君は、藤倉さんから、とても頭が良くて、不思議なことを言うと聞いてたから。」






藤倉さん・・・
(意外なところで出てくる)







そして、裏道のような通りを歩いて行くと・・・








「ああ、これが僕の家だ。」

長く続く板塀に大きい門、外から見える古くて大きな建物、昔ながらの白塗りの倉があって

(大きいというのは、これは私の目から見てです)
(この地元では、普通より少し大きいぐらいです)









その中から声がして

「じゃあ、おばさま、また来ますから。」
「お母さんにもよろしくね」






出てきたのは、その藤倉咲さんです!








「あ、水生ちゃん!」

私を認めると、太陽のような笑顔で大きく手を振ります
何とか笑みを浮かべると、私も小さく手を振り返します











そして、私は、咲さんを見ながら、小さな声で、隣の男の子に告げました














「太郎は、本当に食べられたんだよ」

と・・・











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