レビュー

依存

西澤保彦のタックシリーズ第6弾です。このシリーズは論理思考、すなわちロジックを最大の売りにしてきたはずなのですが、この作品に関してはそれが薄れている気がしてなりません。作者がトリッキーなテーマを良くも扱ったなって関心はするのですが、ミステリーには、いささか重すぎるテーマだったように思います。私の好きな、純本格でパズル的な要素の強い傑作『麦酒の家の冒険』(タックシリーズ)に比べると、本格度、パズル性、エンタテイメント性の点ですべてが劣ってしまっています。 クローズドサークルに代表される純本格ミステリーが好きな人にはこの作品はつらいでしょう。また、キャラモノで思うのですが、タックシリーズの傾向と篠田真由美さんの建築探偵シリーズの最近の傾向が似通っている点も興味深いところです。両者の共通点にキャラへの過度の依存と心情描写の増加が挙げられ、その結果として本来のミステリーの楽しさが薄れてしまっています。キャラモノ、それはホームズやルパン、金田一、ポワロ、コロンボに代表されますが、これらに共通するのはキャラに依存してはいるが、キャラのある種の秘匿性は必ず守れているという点です。コロンボは『うちのカミさんが・・』といつも言っていますが、決してカミさんが登場することはないのです。またホームズはほとんど心情を吐露することはなく、ワトスンの推理による部分で表現されているだけです。この神秘性こそがキャラモノの成功の鍵ではないでしょうか?それにしても最近、このような深遠なテーマを扱った作品が増えてきました。一時期、新本格というジャンルが話題になったように『新社会派』とでも命名されるのでしょうか(笑)
P.S.このシリーズは素晴らしいキャラがすでにいるので、キャラを増やしたのも疑問といえば疑問でした。また、好きなシリーズだけに辛口になってしまったことを付け加えておきます。

月光亭事件

太田忠司氏というと霞田兄妹のものが有名ですが、どっこい、この物語に登場する石神探偵事務所の野上シリーズも良いです。太田氏のキャラの描写は多すぎもせず、少なくもなく、良いバランスを保っているので読んでいても不思議と人物の名が頭に入ってきてスムーズに読むことが出来ます。キャラの描写というのは、あまりに希薄すぎると人物の相関関係が頭に入らず、(新本格と呼ばれるミステリーに多い)何回も人物表を見返すはめになるし、また集中力も低下し読むのに疲れます。また、キャラの描写があまりに多いとトリック、ロジックがおろそかにされがちでミステリー性にかけるきらいがあります。そこにくると太田さんの作品はキャラの描写のバランスが実に素晴らしいといえるわけなんです。

図書館の殺人

アガサ賞,マガヴィティ賞の最優秀処女長編賞を受賞したジェフ・アボットの作品。著者のことはほとんど知らないのですが、ほどよくユーモアが効いていて、謎の展開もスムーズで実に面白いです。本作品は図書館館長のジョーダン・ポティートを主人公とし、シリーズ化されているようです。日本のおどろおどろしいミステリーも結構ですが、たまにはライトな感じのミステリーも読みたいと思ったら迷わずこの作品をお勧めします。しかし、主人公がハンサムで自分もそう思っているというのが結構笑えます。トリック云々、ロジック云々ではなく、ストーリを楽しむ作品ですね。

さかさ髑髏は三度唄う

司凍季さんの本格ミステリーです。デビュー作(一尺屋遥シリーズ)でいきなり、これからこのシリーズを背負って行くべき助手役があっさり死んでしまったのですが、本作に、はやくも助手役が登場する運びとなりました。(笑)だったらデビュー作で助手役を殺すことはないのにっと思わず突っ込みをいれたくなりました。しかもこの作品は一人称(私)で書かれているので、これだったらデビュー作の助手役の推理作家の方がぴったりだったのではと思うのです。やはり、助手役不在より、いた方が話の展開が面白くなりますね。デビュー作より、面白いです。前作と同じくこの作品も横溝を意識した作りとなっています。

からくり人形は五度笑う

司凍季のデビュー作である。女史の作品は『湯布院の奇妙な下宿屋』を読んでいるので今回で2作目ということになる。この作品は極めて挑戦的な試みがなされている。それに触れる前に構成を説明しなければならない。本作は一部と二部に分れ視点に変動がある。一部は一人称による推理作家による視点で二部は三人称の視点。ミステリーの多くの場合において、探偵は助手的な立場の人間を必要とするモノが多く、またそれが主流であるのに、この作品では一部に登場し、探偵役に出馬を願う推理作家が助手役をにおわせるのにも関わらず殺されてしまう。だから、二部において視点が変わるのだが、正直に言ってこの試みは成功とは言い難いものである。一人称の視点で書かれた前半部分に比べ後半は非常に読みにくいものとなり、また探偵を一人にすることで謎解きが単調になってしまっているからである。このことから、探偵役に疑問を投げ掛ける助手役の必要性が逆に証明されてしまう格好となってしまった。これはシリーズものであるので、これからも助手役不在で話が展開していくのかある意味楽しみである。また、トリックに関しては、あまりに荒唐無稽で呆れるもので、それが原因で謎解き部分が独断的なものとなってしまっている。また作風的には横溝を感じさせものがある。

第七の機密

アーヴィング・ウォーレスはアメリカのベストセラー作家で、本書は1985年に発売され、ニューヨークタイムズ10週連続ベストセラー上位になった。第二次世界大戦末期のヨーロッパ、瀕死のドイツは1945年にヒトラーの自殺により実質的に崩壊した。しかし、その死に疑問をもった世界的な歴史学者はヒトラーとエヴァ・ブラウンの死の調査を開始した。ところが、その歴史学者は開始した直後に謎の死を遂げる。父の死後、研究を引き継いだ娘のエミリーは単身ベルリンへ飛ぶ。サスペンス性が強く、綿密な取材とフィクションが巧みに融合し面白く仕上がっている。歴史の暗部にメスを入れ、なおかつ新しい仮説を提示した作品。

仮面の島

篠田真由美さんの建築探偵シリーズ第8弾です。前作『櫻闇』はらせんをモチーフとした秀逸な短編集で好評みたいです。今回の舞台はかつて地中海に君臨した海洋商業都市ベネチアが舞台です。さて、感想ですが舞台は一流、ストーリーは二流、感想は三流(笑)といった感じで、出来は良くない感じがします。本作も建築探偵の最近の流れにはまり、メインは蒼であり、それをどうとるかで評価が違うかもしれませんが・・いまいちですね〜。ただ、今回のミステリーは、作者も触れているように観光用に使えると思います。もうちょっと早く出してくれたら、使えたのにな〜(笑)。ベネチアにひとこと。確かにボートはチケットがなくても乗れそうだった。(笑)陸の道は迷路のようにくねっている。もう一回行きたいような素晴らしい場所であった。

名探偵は密航中

若竹七海さんのオムニバス・ミステリーです。長編だとばかり思っていたのに・・・(泣)。実はオムニバス形式は苦手で好きじゃないのです。ちなみに西澤保彦の『解体諸因』もそういう形式なのですけど、やはり面白くなかったし(笑)。期待しないで読んでみることにします。舞台は船上なのですが、個人的には『海神の晩餐』の出来のほうが良いような気がします。マイナスポイントは、オムニバス形式による視点の入れ替わりで、逆に読みにくくなってしまっているところです。オムニバス形式が好きな方っていられます?

閉ざされた夏

若竹七海さんの長編ミステリーです。期待して挑んだ作品でしたが、期待通りとは行かずに、残念ながら飛ばし読みを敢行してしまいました。致命的な点は、意外性がなく先の展開が読める部分にあると思いました。事件は、主人公の働いている記念館の周辺で起き、それが解決されます。

とんち探偵一休さん〜金閣寺に密室

鯨 統一郎さんのミステリーです。『邪馬台国はどこですか?』で鮮烈なデビューを飾った氏の第3弾のようです。ちなみに第2弾を読んでいないもので・・・。題名のとおり、一休さんが密室の謎を解くことがメインの謎であるのですが、それ以外に『このはしわたるべからす』や『屏風の虎を捕まえてみろ』など、細かいエピソードがじつに面白く挿入され、アニメの一休さんをみた世代には実に面白く感じることでしょう。また、新右衛門さんや将軍さまも出てきて、実に面白い仕上がりとなっています。完成度の高い一品です。