
「バツイチ、コブつき、波瀾万丈。」
僕は幸福と危険がつねに背中合わせになっていた無謀な冒険と放浪の人生を、幸福へと導いて下さった唯一の神様に心から感謝と祈りを捧げたいと思います。僕は今日現在、こうして生きてこういう形で自分が直面してきた試練に満ちた人生の物語を、このような本にして伝えることが出来て最高に幸せです。
さあ、これから皆さんをジャングルの中を抜けるのに一番安全なアフリカ象の背中に乗せて、暗黒大陸(アフリカ)の真ん中からジャングルの中を抜けて、歴史的伝統と紛争のもっとも絶えない地域(中東)を経由し、そこから進路を東に取り、神秘に満ちた極東の最も遠い国(日本)へと向かう旅にご案内いたしましょう。
皆さんはこの本をお読みいただくうちに、恐らく何があっても夢や希望をあきらめない意志の力を体感してしてくださることでしょう。そしてまた、恐怖や死と直面するようなことがあったとしても、決して後戻りすることなく進み続けることができるようになるでしょう。そして異国の人びとの文化や習慣、宗教を素直な気持ちをもって受け入れれば、世界中どんな場所でも、生き残っていけるでしょうし、皆さんの身を危険にさらそうとする人が出現した時、そうした状況を理解するヒントとなると思います。身を守るために、きわどい状況をいかに回避するのか。その一方で、時には愚かで無謀な行動や無知であると思われることが、いかに身の危険を回避する術となることを知っていただけることでしょう。
異国の地では、「郷に入りては郷に従え」という教えのとおり、その国の伝統と文化に従って行動しましょう。そうすれば、たとえばこの本の中に登場するパレスチナ人の母親のように、自分の息子が30歳まで生きる道がないと分かっていながら、愛国心のため、信仰心のために、自分の気持ちや人生を犠牲にする真の気持ちが理解できるようになると思います。
本文の表現のいくつかは非常に生々しく、かなり露骨なものもありますが、そういう表現をしなければ僕が伝えたい本当の意味が伝わらないと思ったので、あえてそうさせていただきました。何卒お許しくださいますようお願い申し上げますとともに、ご理解をいただけましたら幸いであります。僕は時にはストレートに言いたいことを表現してしまいますが、どうぞストレスに感じないようにしてください。
この本は、僕自身どうしても伝えたかったことがあったからこそ、ここまで書き続けることができたと思っています。もちろん書くのをやめようと思ったことも何度もあります。かつて日本に滞在した経験がある外国人や現在もくらしている外国人が、この日出ずる国(日本)の時に不思議に思える文化の壁を、いかにして克服してきたかについて書いた本をいくつも知っているからです。でもこの「バツイチ・コブつき」はこれまで外国人が書いた本とは少し趣が違うはずです。これは僕がアフリカ出身の黒人の男だからこそ書ける内容なのです。来日するまでの危険極まりなく愚かな冒険の旅路、流れ着いた日本や中東という場所、そんな僕の人生の物語を皆さんと分かち合いたいのです。
この本を読む前からあまり興奮しすぎないように前置きはこの辺にしておきましょう。このスリリングにしてざっくばらんとした、冒険や夢、感動、愛そして物議を醸し出しかねない話題がぎっしり詰まった物語の最終判断は皆さんにお任せすることにします。じっくりとお楽しみ下さることを願っております。
クレメント・ニー・アダムソン
クレメントから最初に本書の翻訳を依頼されたのは、春から夏へと季節が変わる頃のことでした。あれから世の中の動きは、まるでジェットコースターのように急激に変化していきました。
今思い起こせば、私がこの仕事で使える武器は、「兄弟関係」以外、まったく見当たらなかったような気もします。これまで仕事で英語を使った経験も海外経験も皆無な私に一体何ができるのか……?
気がついてみれば、私は猛スピードで疾走するジェットコースターの最前席に座っていたような気がします。そして原稿の中のドラマの世界をさ迷いながら、いつの間にか私は「弟」の視点で、白いキャンバスに等身大の「兄」を描いていました……。
いささか誇張した表現ではありますが、これが不器用な私からクレメントにしてあげられる精一杯の回答なのでした。でも不思議なことに、この運命的な「兄弟」は、恐らくいかなる才能を持ってしても対抗できないほどの強力なタッグチームだったのかも知れません。
本書の企画を推し進める間に、世界を大いに震撼させた、あの同時多発テロ事件が発生しました。同時にそれは、私たち日本人にとっても、それまでのように「対岸の火事」として安穏としていられなくなった瞬間でした。戦後の日本を支配するアメリカ文化に何ら疑いを持つことなく浸ってきた私たちは、こうした事件の背景に見え隠れする「見慣れない価値観」に対して、メディアにその情報源を求めています。それでもジェットコースターのように日々変化する情勢のスピードについて行けないまま、私たちは、何が正しくて何が間違っているのかという疑問すらを見失いそうな状況に追いやられているような気がします。
私はクレメントがこんな時代の到来を予感していたかのように、本書を書いていたのではないかと思う瞬間があります。実際にクレメントが本書の前半で明かしているレアな体験は、日本で生まれ育った私たちからはまったく想像もつかないほどドラマ性に満ちたものですが、ひょっとしたら、こういう世相を冷静に見極める指針となり得る、生々しいドキュメンタリーに思えてならないのです。
そんな先の見えない時代の真っただ中、本書を世に送り出すこととなったのは、関係者一同驚きを隠せないところだと思います。私としても時代の節目、人生の転機となるこの時期に、本書の刊行に立ち会うこととなったことを天命と受けとめたいと考えています。
本書を世に送り出すに当たって多大なご理解ご協力を賜わりました関係各位の皆様方へ、心より感謝申し上げます。この一冊がお読みいただきました皆さんの楽しい日々の一助になることを願いつつ……。
大 倉 レ イ