交響曲第1番ト短調『セリューズ』

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 彼が自ら『最初の交響曲』と呼んだこの作品は、1842年にウィーンで完成され、その翌年、ストックホルム王立歌劇場において、いとこのヨハン・フレデリック・ベルワルドの指揮で初演された。ベルワルドの生前、彼の交響曲が彼自身の立ち会いのもとで演奏されたのはこのときだけであった。

 

第1楽章、アレグロ・コン・エネルジア、ト短調、4分の4拍子。提示部-展開部-再現部からなるソナタ形式。

 フォルティシモの短い和音で開始され、すぐ音量を落とし、ほの暗い、不安な第1主題が弦楽の低音部で提示される。ひたすら下行する第1主題に対し、ヴィオラ、ヴァイオリン、木管楽器が上行する旋律を付加するが、音楽は、沈んだ不安なムードを漂わせる。この第1主題はその後、簡単に展開され、確保されるが、今度はヴァイオリンと木管楽器で奏され、より鮮明となる。ぼそぼそ呟くような経過句とヴァイオリンの長いトレモロが続き、変ロ長調に転調、さわやかな第2主題が現れる。第2主題の付点音符の繰り返しは、メンデルスゾーンを思い起こさせるところがある。洗練された第2主題が姿を消すと、無骨なシンコペーションが連続する推移部を経て、非常に個性的なクライマックスが出現する。まず、トランペットとホルンが8分音符のBの音を繰り返し、弦と木管が短い対句を入れるフレーズだ。このきわめて斬新で、けたたましい4小節に続いて、弦が2分音符でのびやかに上行し、再び、8分音符で、舞い降りるように下行する。このクライマックスや、第2主題のメロディーラインは、ベルワルドの最高の持ち味の一つであろう。

 展開部では、まず呟くような経過句と第1主題とが組み合わせれて展開される。展開が進んだ後、ティンパニーのトレモロに続いて、第2主題が変ホ長調で雄大に奏でられる。 再現部は再びト短調に戻る。古典的スタイルの素直な再現部であるが、第2主題はト長調で奏される。

 

第2楽章、アダージョ・マエストーソ、ヘ長調、4分の4拍子、自由な3部形式。

 牧歌調の静けさと嵐のような激しさが交錯する美しい緩徐楽章。上行する冒頭の主題はドミナントを意図的に避けて、神秘的、あるいは、宗教的な厳かさを感じさせる。これが2回繰り返された後、オーボエのエコーを伴って、ホルンとトランペットによる角笛が聴こえてくる。音楽は次第に高揚するが、やがて弦楽器の安らかなメロディーに引き継がれ、一つの流れを締めくくる。ここまでが最初のブロックで(A)、これに少し手を加えたA’が続いた後、突然、ティンパニーのトレモロと弦の上行するグリッサンドによりニ短調で中間部Bが開始される。少し進むと、弦楽器全体に、16分音符のピツィカートのモティーフが出現する。このモティーフは簡単に展開され、クライマックスを作る。そして最後にAの素材が短く繰り返されて(A'')楽章を結ぶ。

 

第3楽章、ストレット、ト短調、4分の3拍子、3部形式。

 メヌエットではなく、もっと激しいリズムの舞曲を用いたのは、いかにもロマン派らしい。また、各パートがたたみかけるように絡む部分(49〜64小節など)はベルワルドの個性をよく反映している。トリオはイ長調という系列の違う、かけ離れた調に転調する。少女がスキップするような優しく、無垢な音楽である。

 

第4楽章、フィナーレ、アダージョーアレグロ・モルト、ト長調-ト短調、4分の4拍子。導入部-提示部-再現部-コーダからなる変則的なソナタ形式。

 第3楽章から切れ目なしで演奏される。導入部で、第2楽章の角笛のモティーフが再び用いられているのは非常にユニークで、第3楽章の激しいストレットが、一時の幻のように感じられる不思議な効果がある。そのほか、第1主題の対位法的な展開や、曲想にあわせたテンポの指定、装飾的な伴奏(特に3回目に第2主題が現れる303〜324小節)、ワーグナーを連想させるような結び方など、非常に手の込んだ造りとなっている。

 アレグロ・モルト、ト短調の主部に入っても、第1主題はなかなか姿を現さない。これは、ベートーベンの交響曲第9番の影響なのだろうか? 第1主題は弦と木管のフォルティシシモで提示される。応援歌調で、大衆じみたテーマが峻厳で情熱的なト短調で高らかに歌われ、トロンボーンが不器用な伴奏を入れるところは、当時の一流作曲家の作品ではとうてい考えられないことだ。一時期、ベルワルドとともにベルリンに住んでいたメンデルスゾーンは、ベルワルドの作品を認めようとしなかったというが、こうしたベルワルドの音の使い方は、確かに当時のドイツ・オーストリアの伝統から逸脱していたのかもしれない。しかし、現代の我々が聴けば、これはこれで結構刺激的でおもしろい。何たって、我々はブルックナーもマーラーもムソルグスキーもボロディンも、さらに、もっと確信犯のストラヴィンスキーもショスタコーヴィチも体験してしまっているわけだから!

 第2主題(変ロ長調)は、ブラームスの交響曲第3番・第1楽章、第1主題と第2主題の間の経過句にちょっとだけ似ている(もちろん『他人のそら似』だが)。何かにあこがれるような美しいテーマで、テンポを落として演奏するよう指定されている。

 第2主題の提示が終わると、クレッシェンドすると同時に、徐々にテンポを戻すよう指示されており、結びのパッセージに突入する。この部分が、また、不安定で、かつ、スリリングで、おもしろい。 展開部が省かれるため、再現部が拡大され、ここで第1主題が対位法的に展開される。第2主題はト長調に移調されただけで再現する。

 コーダは、まず第2主題が登場し、続いて、結びのパッセージの一部がつなぎに使われ、最後に第1主題が情熱的に歌い上げられる。結末では、弦とティンパニーのトレモロに乗って、トロンボーンの分散和音が響き、最後は全オーケストラが、ピアニシシモからフォルティシモにクレッシェンドするという、スペクタクルな趣向が凝らされている。

 

 

 

 

  ベルワルドの他の交響曲

   1. 交響曲第2番二長調『カプリシューズ』

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   3. 交響曲第4番変ホ長調『ナイーヴ』

 

 

 

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