■ 蒼のマハラジャ ■

登場人物は、基本的に名前のある人、それに準ずる人に限っています。

 蒼のマハラジャ第1巻
◇コメント◇
第二次世界大戦前夜、イギリス大使の父の後を追って、はるばるインド・ジョドプールまでやってきた モイラと母エヴリン。
そこでモイラは、ジョドプールのたったひとり生き残った王子・シルバに 出会う。ジョドプールに馴染んでゆくモイラとは対照的な、母エヴリン。そしてやがて父の政治的企み に、モイラは関わってゆく……

モイラが両親の死を目の前にしながら、ジョドプール側について、すぐにも攻めてくるイギリス軍 に立ち向かうところは、彼女の強さが涙が出るほどいじらしくもカッコイイ!このたった一冊の コミックスで流れる時間の間に、ほんの子どもでしかなかったモイラとシルバが、 大人びた少年少女に化ける様は、お見事です。読んでいて、爽快。
イギリス人のモイラが、全く見知らぬ文化圏で生まれ育ったシルバと交流を深めてゆく過程は、 簡潔ながらも適切に、当時のインドの状態が掴めるようになっています。また、イギリス軍を 追っ払うシーンも、歴史に強い神坂さんならではの(地味といえば地味ですが)作戦で、 なかなか楽しいですよね。

あと、これは個人の勝手な推測の域を越えないのですが、この作品の時代設定、スタートが丁度 1940年前後らしいという点と、「豊かで富める、白人に支配されない国」を作る という全ストーリーの目標を合わせると、神坂さんは、「T・E・ロレンス」を幾ばくか引き継ぐ形で 「蒼のマハラジャ」を描こうとしたんではないかな、と思えるのです。
「T・E・ロレンス」の骨組みであるアラブの独立(ロレンスが夢見たもの)、それから、 ロレンスが1935年に死んでいる(第二次世界大戦は全く体験し得なかった)その先を、 モイラとシルバは歩んでいっているからです。
尤もモイラたちは、「逆境でもめげずに頑張る」 まんが的ポジティブな主人公ですし、あくまで「蒼のマハラジャ」は「冒険活劇」なので、 両作品の神坂作品的系統は別々なのですけれど。

 蒼のマハラジャ第2巻
◇コメント◇
いよいよ話も本格的に始動、主要登場人物も出揃い、モイラの驚天動地な冒険が始まります。
イギリスに帰国するも、牢獄みたいな女学校に閉じこめられたモイラは、せっかくイギリスを 公式訪問したシルバとも会えず、自力で脱出を計ります。
シルバの残していったシバとパンディットに巡り会ったモイラは、彼らを従えて(と言うより、 お荷物2人組を抱えて)、なりゆきでドイツ軍に狙われながら、一路インドを目指そうとする のですが、そうは問屋が下ろしません。
カイロで、ほんの一瞬の隙にシバ達と別れてしまった モイラは、シルバそっくりの、サウジのエミール・ラージャに出会います。

この巻は、わたしが個人的に好きなキャラクターが多いので、楽しくてしょうがありません。
お祖母ちゃまがシルバに出会うシーンで、最初の「まあ…わたしの孫の彼は白いよ」という発言、 わたしはちょっと(気にしすぎと分かっていても)びっくりしてしまいましたが、次のコマを見て そのあっけらかんとした上品さに、肌の色はそれ以上でも以下でもない、と面白く思いました。

シバとパンディットの、ドーバーをボートで渡るという暴挙に対する何のためらいもない様、 コンパスを持っていながらメッカの方向だけを確認する以外の使い道を思いつかないところ、 フランスを出国してからフランを用意するなど(しかもセリフは極めつけ「マハラジャの小切手は 永遠に不滅です」)、おかしすぎ。モイラには気の毒ですが、彼らのテンポ感には、 神坂さん独特のお笑いエッセンスが凝縮されていて、わたしはすごく好きだ〜

そして、エミール・ラージャ。シルバにうり二つながら、性格はまるで違うという設定を背負って 登場する彼(彼の「サウジのエミール」という立場も、ちょっと「T・E・ロレンス」の延長線を 感じてしまったりして…)。
ラージャは理想的な男の子・シルバと違って、 良くも悪くも自分に正直なキャラクターであり、現実味があって、なかなか魅力的だと 思うのです。モイラと心の交流が生まれるシーンは、しみじみと感動。

そうよね。いつだって真実の前には偽りは破れるものよ
ラージャの告白は、私によせた信頼という名の友情

どんな力にも屈しない、アラブの戦士のような彼女
彼女の拒絶にであうたびに、おどろきとまどう…
私は今、彼女と同格でいなくてはならないような気がする




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