今週のCDご紹介5

『MUTATIONS/BECK』 『MOMENTS/SPEED』
『唱遊/王菲(フェイ・ウォン)』 『Automatic/宇多田ヒカル』
『ファブリケーション・ディフェクト/トン・ゼー』 『cook some dishes/YUKARI FRESH』 
『バースデイ/アソシエイション』『パーティ・マニュアルVOL.1/エヂ・モッタ』
『ダンシン・グルーヴス/ハービー・ハンコック』『ダーティ・ブギ/ブライアン・セッツァー・オーケストラ』

評価は5段階です。(★が得点。☆はオマケ)

 

★★★★

『MUTATIONS/ベック』 ダンスビートとメロディの融合は多くのミュージシャンの究極の課題だろう。90年代中盤以降、この難題解決にあたって、我々は少なくとも2枚のオールマイティ・カードを獲得した。ドラムンベースローファイ(Lo-Fi)。ローファイはサンプルビーツのグルーヴと手弾き楽器のフィジカルなダイナミズムを最善のバランスで融合するために、楽器の録音ビットを落としてサンプルビーツと馴染ませてしまうという強引な荒技。この手法はフォーク、ジャズ、ブルースなどとヒップホップサウンドの融合を飛躍的に向上させた。 ベックの2ndアルバム『オディレイ』は、アメリカのルーツ音楽とヒップホップ手法の融合に成功した傑作。ザ・バンドやライ・クーダーのテリトリーである“ルーツ探究”をバラエティ感覚でクリア。ルーツ音楽の広大な荒野を俯瞰で見下ろして再編集する為にはベックの好奇心と才能に加え、ローファイというオールマイティ・カードが必須だったはずだ。 今作はローファイというオールマイティ・カードを使わないベックの「パス1回」に当たるアルバム。ジョーカー無しでも、強い強い! 8と9のカードを隠し持っての堂々たるパスイチ。この勝負(七並べ)も最終段階ではベックの勝利だろう。でも、パスは3回までだからね! 関連(

 

★★★

『MOMENT/SPEED』 早くも総括期に突入したSPEEDのベストアルバム。改めてシングル楽曲を聴き通して実感したことは、彼女達が「アイドル歌謡」の20世紀最終形態を提示してしまったのかな、と。 サウンドはダンスビートを強調しているが、コード進行の自由度が高く、その分だけベースラインの主張は無いに等しい。にも関わらず、「ダンス+メロディ」の公式が成立していると感じさせてしまう鍵は、リズムトラックとボーカルだけがピークを作り続けるサウンド構成。リズムマシンと歌以外の音に意識が向かわないと言ってもいい。これって「ニッポン的」だな、と思う。でも待てよ。いったい過去に誰が達成した? 安室奈美恵は成し遂げていない。小室哲哉は安室チャンの声を、あまり信用していないんじゃないかな? 伊秩弘将が寛子&絵理子の発声の強さを前提にしてサウンドプロダクションをしていることは明確に理解できる。「コブシ歌唱」で、ビートに喰ってかかる寛子はプロデューサーの要請に100%応えている。(ただし、表現力には欠けると思う) 歌とビートが同時に青筋たてて主張しながら共存。SPEED以外のグループが歌っても面白味には欠けるだろう。「バージョンアップ歌謡曲」としてのSPEEDの方法論を僕は支持する。

★★★☆

『唱遊/王菲(フェイ・ウォン)』 フェイ・ウォンの音楽は不思議だ。安定した綺麗な高域歌唱が、中域では一転してヨーデルを思わせるコブシ歌唱にモーフィングする。発声を抑えながらコロコロと回るコブシがスウェーデッシュポップを思わせるアコースティック・サウンドに乗る瞬間、「これは世界でたった1つの音楽だ」と思う。香港の音楽シーンはニッポンより遅れていると思っている人、いませんか? その認識は間違っています。スウェーデッシュがニッポンで一般的になった契機を思い出して欲しい。クランベリーズがニッポンでブレイクしたのはウォン・カーウェイ監督の『恋する惑星』が発端だ。クランベリーズがFMオンエアでヘヴィ・ローテーションになったのは『恋する惑星』の劇場ヒット以降だから、映画を観る前にクランベリーズを聴いたと言っても言い訳にはならない。 不思議なコブシ歌唱とスウェーデッシュ路線とが絶妙に掛け合わされた音楽。これは亜細亜圏の音楽がグローバルに流通される為の理想的で戦略的なスタイルだ。ニッポンでは残念ながらソウル・フラワー・ユニオンや上々颱風ぐらいしか思い出せない。その2バンドにも増してフェイ・ウォンが素晴しいのは高等な音楽の送り手でありながら、チャーミングなポップ・アイコンであること。つまり、彼女は充分に可愛い!

★★★

『Automatic/宇多田ヒカル』 “超大型新人”って、こんな人のことを言うのでしょうね。UA以降、ニッポンの女性R&Bシンガーがゾロゾロと登場。ニッポンの女の子って、こんなに歌が上手だったんだっけ? カラオケが歌唱を向上させているのかしら?(そう思えるR&Bシンガーもいますよね) ローリン・ヒルのブレイクも強力な追風だろう。 宇多田ヒカルの場合、15歳という早熟さや“美人の元演歌歌手”が母親である、といった背景で語られがちだが、それは不当な評論というものだろう。作詞・作曲・歌唱の全てが高水準。しかも、テクニカルに完成していない。これは良い意味で彼女が若い、ということだ。ツボは押さえているけど、あざとくはない。絶妙に行き届かない感じ。だから、Misiaのようにハイトーンの「聴かせどころ」など設定せずに低い方で歌い始めたり、コーダの盛り上げどころで声が震えていたり、斬新でフレッシュ。グイグイ引き込まれる。SPEEDがダンスビートを通俗化させたのならば、宇多田ヒカルはR&Bを通俗化させることに成功するだろう。アンファン・テリブル! 若い女の子から世界が変っていく。それは正しい。ゾクゾクします。

★★★★

『ファブリケーション・ディフェクト/トン・ゼー』 トン・ゼーというミュージシャンにも、彼が参加した「トロピカリズモ運動」にも明るくないので、先入観無しに聴かせてもらった。ブラジルのアーティストなのだけれど、いわゆるボサノバ・サウンドは収録されておらず、世界サウンドのゴッタ煮的に何でもあり、の楽しいアルバム。ポップで前衛的で、エキセントリックでエキゾチック。通しで聴くと脈絡が一切読み取れない程にバラエティの横幅が厚い。しかし、どの曲もリズムが強靭にして複雑。複雑なのはアレンジの問題で、ダンス対応は万全。なにしろモダンです!! 新しい音楽の発進源として完全に独走状態のブラジルですが、本当に止まるところを知らないようだ。トン・ゼーはかなりのベテラン(つまりは高齢)らしいのですが、まるで新人アーティストのように野心満々の「自由&実験的」な発想が素晴しい。要は感性の瑞々しさの問題なんですねぇ。 P−FUNKを思わせるジャケットデザインのセンスも若いっすね、ご隠居!

★★★

『cook some dishes/YUKARI FRESH』 “ユカリ・フレッシュ”って何者? そもそも、このCDはインディーズなの? よく判らないままに試聴でワクワクしてゲット。これって素敵なことだと思わない? CDのリリースなんて、このくらい自由(ラフ)で良いのではないか、と。だって、外国圏で成功しているニッポン人アーティストって、正当なノウハウでプロモートしても国内セールスを稼げないわけでしょ? (石野卓球は別格)  この状況は古い流通体制ではもはや収束できっこない。市場は完全に二分化しているのだから。僕はドメスティックな「純ニッポン音楽」は大好きだけど、ハイセンスな音楽がスポイルされてきたニッポン音楽産業の歴史には辟易する。このCDにはスタートラインからとっくにニッポン市場を放棄したような潔さがアッケラカンと漂う。このアーティストはメジャーレーベルに中指立てるわけではなく「聴きたくなきゃアッチ向いててもイイよ」的に飄々とサウンドを決める。しかし、自虐的では無い。むしろポジティブ。音楽のレベルは高いです。グランド・ロイヤルレーベルに通底するクール&キッチュなサウンド。お洒落で新しモノ好きなリスナーには好感を呼びそう。 それにしても、お洒落な音楽=非メジャーって風潮、納得行かないなぁ。

★★★★

『バースデイ/アソシエイション』 ソフトロック(以下、SR)も本質は米国産なのかなあ。「SRこそが英国的」と僕が思い込んでいた根拠って、ウイングスとパイロットとバッド・フィンガーとエルトン・ジョンが英国産であるって程度なのかも。 一方、ハーパス・ビザールやラヴィン・スプーンフルといった米国組こそが“昨今のSRブームの根幹”というのが相場だろう。英米SRの決定的な違いは受け皿の大きさにあるような気がする。皿の容積も、皿に盛り付ける素材の豊富さも桁が違う。コンビニと築地市場ほどの差があるのでは? 皿の底辺に塗られたバターの脂肪分が更に違う。すなわちリズム。英国組の音が“箱庭的”に自己完結してしまう一方で、米国組の音がしっかりと外に向かう原因はリズムの大きさだろう。チョコマカと転調するメロディも、どっしりとしたグルーヴに乗れば、案外せせこましくはない。 アソシエイションは非常に優秀なクリエイター集団だ。僕が英国ポップの中でも飛び切り優秀だと思うゾンビーズのサウンドに欠けていた唯一のモノを完璧に埋め込んでいる。それは「大らかさ」だ。 僕は生粋の英国ポップスマニアだったけれど、最近は米国産ばかりが好きになる。ビーチボーイズのファンの方にもお薦め!  関連

★★★☆

『パーティ・マニュアルVOL.1/エヂ・モッタ』 ブラジルのR&Bシンガー(27歳!! 老けすぎ!)の2ndアルバム。全世界が足並み揃えてR&Bブーム状態。今風のリズムトラックでダシを取って、鮮度の良いボーカルを程よく煮込んで、ソウル・エッセンスの匙加減で味を整えたら一丁あがり。目玉を一品替えたなら新商品、ってなファストフード感覚で味覚は画一化。今なら目玉はエレピだね。特に米国のR&Bシーンは“優秀なのにユルい状態”が長期化中。TLCの新譜はいかに? ニッポンのR&Bが独特の醤油味を醸し出すように、エヂ・モッタも絶妙に訛っている。ブラジルならではの音楽的特異性は彼の髪の毛ほどに薄いのに、弦や打楽器群は非米国的。70〜80年代テイストのソウル系R&Bを正統的に歌いあげても、ポルトガル語の歌唱が微妙に。きっと英語圏の人間が聴く日本語R&Bもなのだろう。ハンバーガーの中にホットスパイスが無自覚に調合され、米国バーガーに慣れた舌には美味。愛聴できそう!! 70年代(超全盛期)のスティーヴィ・ワンダーが今存在したならば、きっと特異な存在だったはずだ。彼は焼き焦げたハンバーグに目分量の粗塩をバサバサと振りかけた結果、世界一のバーガーを完成することができる調理人だったからだ。(過去形)

 

★★★★

『ダンシン・グルーヴス/ハービー・ハンコック』 圧倒的なハービー再評価の波に乗って、73〜78年というジャズ・ファンク〜ディスコ・オリエンテッド時代のアルバムからファンク曲をコンパイル。 “ファンク”というメインストリームの中で、ハービーが“異端”“王道”の両極に振幅を持っていた事実に驚く。コンポーザーとしての懐の深さとサウンドクリエーターとしての実験的な志が矛盾だらけのまま成立している。ジャズ・アプローチによる楽曲では、ファンク・フレーズに潜む“自由度”を証明してみせる。独特のアクセントはJBP−FUNKのスタイルに慣れた耳には斬新。(ただし、下品さは圧倒的に不足) 一方、クインシー・ジョーンズ的なポップ・ファンクではヴォコーダーによるスペース・ボイスが主役だ。ZAPPに比べると控えめなヴォコーダーだけれど、“ボーカルの加工”というよりは“シンセ・プレイの延長”と捕えるべきだろう。それにしても、全曲を通じてシンセの使用法は素晴しい。各時代のハードウェア・スペックに“新解釈”を与え続けた、と言っても過言ではない。 ところで、ジェフ・ベックのジャズ・ロック(『Blow by Blow』『Wired』)って、ハービーのパクリじゃん!

 

★★★☆

『ダーティ・ブギ/ブライアン・セッツァー・オーケストラ』 祝復活! オマケに“ニュー・スイング”ブームだってさ。こたえられないっスね、ストレイ・キャッツ時代から全然スタイル変えてないのにさ! ギターの腕前は相変わらず超絶です。これはリスナーの趣味の問題なのでしょうけど、ボーカルがもっとゴージャスな感じだったら、僕はもっと好きになったと思う。ゴージャスなブラスをバックにロケンロールなシャウトを聴きたいって気持ちも理解できるけどね。こういう比較はフェアーじゃないと思うけど、若き日のエルヴィスにはロックシャウトと、甘〜いバラード歌唱という2大唱法があった。ラフでエレガントだった。セッツァーのダミ声シャウト唱法はアップテンポの楽曲でこそ輝く。バラード曲で聴かせるシャウトも程良くせつないのだけれど、不思議と色気が足りない。ブラスがおいしいトコロを総取り。やっぱり、アップテンポのヤサグレたシャウトこそが絶品。 “ニュー・スイング”をロケンロールの枠で把握するか、ジャンプ・ジャズ(ジャイブ!)として把握するかでアルバムの評価は2分するだろう。僕はジャイブが欲しかったな。 このニュー・スイング・ブームで服部良一を再評価してもらえないものかしら?  関連

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