In the Bedroom   イン・ザ・ベッドルーム   ★★★1/2    (2002年1月)
In the Bedroom 今回のゴールデン・グローブ賞では、映画のドラマ部門の主演女優賞でこの「イン・ザ・ベッドルーム」のシシィ・スペイセクと「ディープ・エンド」のティルダ・スウィントンという通好みの中堅女優がノミネートされており、こういう人選はなかなか嬉しい。二人とも好演していただけに、なおさらである。しかも両方とも息子がトラブルに巻き込まれ、その結果自分の人生までもが大きな転換を迎えるという大まかなプロットもそっくりで、要するに、二人共そういう年代になったのだなあという気がする。

ニュー・イングランド地方の港町。マット・ファウラー (トム・ウィルキンソン) はそれなりに成功した医者で、学校でコーラスを教えている妻のルース (シシィ・スペイセク) と、建築家を目指して勉強している一人息子のフランク (ニック・ストール) がいる。フランクは歳が一回りほども違う年上で二人の子持ちのナタリー (マリッサ・トーメイ) に首ったけだが、ナタリーの元夫のリチャード・ストラウト (ウィリアム・メイポザー) はそれが気に入らない。ある日、ついに切れたリチャードがフランクと揉み合いになった挙げ句、フランクは銃弾を正面から受けて死亡してしまう‥‥

この場面まででも結構緊張感のある演出を見せるのだが、本当のドラマはここから始まる。フランクの事件は誰が見ても殺人事件で、リチャードが一生刑務所から出られないことは誰の目にも明らかに見えた。しかし法廷での証言で、ナタリーは実際にリチャードがフランクを撃った瞬間を見たわけではないことが明らかにされる。その結果、もしかしたら銃は暴発してしまったのかも知れず、殺人罪ではなく、過失致死が適用されることになり、リチャードは数年で刑務所から出てこれることになる。リチャードは町一番の缶詰工場の息子でもあり、名士が後ろについているということもリチャードに有利に働いた。終身刑は固いと思っていたファウラー夫婦は、ただでさえ息子を失った悲しみに暮れているのに、その息子を殺した犯人がたった数年で大手を振って刑務所から出てこれるという事実に愕然とする。そしてルースが町で買い物をしている時、既に保釈金を積んで自由の身になったリチャードを見た瞬間、彼女の中で何かが壊れる‥‥

こういうメイン・プロット以外にも、小さなエピソードの数々、登場人物の背景やキャラクターの描き込みが深いので、物語に厚みがある。ルースとマットの間柄は冷え切っているとは言わないまでも既に話し合うことはあまりなく、お互いにそれぞれの立場からフランクを溺愛している。ルースは言葉に出しては現さないが、フランクをナタリーにとられる気がして嫉妬心を感じているのがありありで、マットの方も、張りのない生活の一服の清涼剤として、ルースとの生活よりもフランクの成長を楽しみにしていた。こういう家族間の関係は、登場人物が口にするのではなく、すべて些細なエピソードの積み重ねで観客にわからせるようにできており、作り方は非常にうまい。その二人がフランクの死後、初めて激情のあまり本心をぶつけ合うシーンから、物語は新たな展開を迎えることになる。

リチャードだって、ナタリーやフランクに暴力を振るうが、完全に悪玉として設定されているわけではない。彼が子供を愛しているのは誰の目にも明らかだし、ファウラー家から見れば鼻摘み者だとはいえ、町の皆から毛嫌いされているわけではない。ナタリーの元夫だとはいえ完全に離婚したわけではなく、ナタリーはまだストラウト姓を名乗っており、リチャードがまだナタリーの元に現れるのは、ナタリーにそういう隙があるというか、リチャードを完全に拒絶する態度を見せてないからだということもできる。ナタリーだって一回り下のフランクと本当に結婚できるかどうか確信しているわけではないし、多分リチャードから金をもらっているからこそ母子家庭なのに一軒家で生活できるんだろう。ナタリーがリチャードの暴力に対し、これは本当に危険だと感じた時には、すべてが遅すぎたのだ。

私はこの映画を見て9月11日のテロ事件を思い出したのだが、その理由は、今夏FOXで放送された「マーダー・イン・スモールタウンX」というリアリティ・ショウが、「イン・ザ・ベッドルーム」に描かれていたのと同様のニュー・イングランド地方の港町を舞台としていたということにある。この番組で見たのと映画に描かれていた風景が非常によく似ているために、なんとなく「マーダー」を思い出し、そして、その「マーダー」で優勝した参加者がニューヨークの消防隊員で、テロ事件で崩れたツイン・タワーの瓦礫の山に巻き込まれて死亡したという、いたたましい事実をどんどん連想したのだ。また、息子を殺された夫婦が、法律は当てにできないと他の方法はないかと模索する様も、テロの後、すぐに報復を叫んだアメリカを思い起こさせた。しかし、戦争になっても結局、徒らに世界の至る所で傷口を広げるだけで、根本的な解決などまったく見つからない。「イン・ザ・ベッドルーム」の二人も、どういう結末になろうが夫婦の喪失感は埋め合わされることはないし、ずっと傷が癒えることもないだろう。

マットとルースのファウラー夫婦を演じる主演のウィルキンソンとスペイセク、それにナタリーを演じるトーメイは、それぞれ皆素晴らしい。欲を言えば、スペイセクをもっと見たかったとか、トーメイがもっと話に絡んできてもよかったのにと思う。考えたら二人共既にオスカーを受賞したことがあるんだと気づいたが、これだけできるんだから、当然だろう。スペイセクは子育てのために一時映画出演から遠ざかっていたが、それも一段落して、最近またスクリーンに登場するようになっている。因みに彼女の旦那さんは、今年話題になっているもう一本の作品、デイヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」でプロダクション・デザインを担当しているジャック・フィスクである。ウィルキンソンはイギリス俳優ということもあり、私が知っているのは「フル・モンティ」くらいだが、あの時の冴えないおっさんがこういうのもできるのか。

監督のトッド・フィールドはこれが初監督作品。もう、本当に、インディ系の監督は、デビュー作でほとんど巨匠と見紛うような、手慣れた重厚な作品を平気で撮る。いったいどこで修業しているかわからないが、見事なもんだ。「アイズ・ワイド・シャット」でピアノ弾きを演じた俳優でもあるということだが、そんなのまったく覚えてないよ。原作は短編の名手として知られているアンドレ・デビュースで、フィールドはそれをロブ・フェスティンガーと共同で脚色している。因みにこの作品は昨年のサンダンス映画祭に出品され、特別審査員賞をとっている。

スペイセクはゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされているわけだが、実は出番からいうと、夫のマットを演じたウィルキンソンの方がスクリーンに映る時間はずっと長い。それなのにスペイセクはノミネートされてウィルキンソンがノミネートされないというのは、ちと可哀想だ。スペイセクの方が印象に残る演技をしたというよりも、単純にネイム・ヴァリューの大小のせいだという気がする。私はスペイセクのファンであるが、今回はウィルキンソンを無視するわけには行くまいと思う。しかし、もちろんこれでスペイセクがゴールデン・グローブのみならずオスカーをとっても、まったく文句はない。



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