300   300  (2007年3月)
300 紀元前5世紀、当時無敵を誇ったペルシアはスパルタもその支配下に収めようとしていた。しかしスパルタの王レオニダス (ジェラルド・バトラー) はペルシアの王クセルクセス (ロドリゴ・サントロ) の伝令を歯牙にもかけず、使いの者全員を手にかけてしまう。怒ったペルシアは10万の大軍をスパルタに送り込み、一方スパルタは一騎当千の精鋭軍人300人をテルモピレーの峠に配し、それを迎え撃った‥‥


凝りすぎとも思えるくらいのヴィジュアルが印象的な「300」は、予告編からでもかなりヴァイオレントな雰囲気が伝わってきて、これは見る者を選びそうだなと思っていた。そしたら公開初週の興行成績は7,000万ドルと、ほとんど「スパイダーマン」レヴェルのあっと驚くスリーパー・ヒットで、翌週には誰もがこの作品の噂をする。ヴァイオレントそうだからと見ないと宣言していたうちの女房までもが、「エンタテインメント・ウィークリー」に特集されているのを見て話題にし始めた。いったい何がこれほどまでに人々にアピールしたのか。

「300」は「シン・シティ」のフランク・ミラー原作の同名グラフィック・ノヴェルの映像化だ。当然それを聞いた時からエロ・グロ、ヴァイオレンスはかなりのもんだろうと予想はしていた。そして実際、そのヴァイオレンス度はかなりのものだ。とはいえ「ヒストリー・オブ・バイオレンス」のデイヴィッド・クローネンバーグのように生理的にムカムカキリキリするほどグロくはないし、メル・ギブソンの「アポカリプト」のように本当に痛そうで目を背けるという感じでもない。

それに較べると「300」のヴァイオレンスはいかにもマンガという感じで、これでもかというばかりに誇張されているので、たとえ刀を振り回して生首飛ぼうとも、思わず目を背けるという風にはならない。要するにヴァイオレンスというよりはアクションなのだ。そこには痛そうなリアリティよりも、スピード感や一見してどのように絵になるかの方により注意が払われている。元々グラフィック・ノヴェルは、動く絵である映画との親和性は高いということは当然あるだろうが、「シン・シティ」といい「300」といい、ミラー原作は特にヴィジュアル重視になる。そういう映像作家に最もアピールするんだろう。

「300」は明らかにロケーション撮影でなく、ステュディオ撮影CG合成で撮っている。現在のCG技術は以前と較べて格段に向上しているが、どんなに技術が向上しようともブルー・スクリーンを前に演じているのは生身の俳優である限り、彼らは頭の中に思い浮かべた仮想敵や仮想弓からの攻撃に対し、いかにも応戦しているという演技をせざるを得ない。あり得ない高さや距離を飛んだり、それぞれのアクションが誇張されたりするのだが、こんなのあり得ないだろうという反駁があることをまったく気にしていないという印象を受ける。「サイボーグ009」じゃあるまいし、本当にあんなケープをまとったままじゃ、邪魔で飛べないし戦えないだろう。

とはいえヴィジュアル重視の「300」の場合、そういった点が必ずしも作品としてはマイナスになっていないのは、要するにこういうアクションというものは、粋を極めるとどうしても様式美的なものにならざるを得ないからだろう。そういう些細な作り物的な部分は不可分なのだ。今思い返してみても、「300」は連続したアクションというよりも、一つ一つの絵、あるいは一つ一つの絵が独立して続く紙芝居、コマ送り的なものとして印象に残っている。あるいは現代の観客ならヴィデオ・ゲームを連想する者が多いに違いない。たぶん原作にそのイメージの元となった基調となる絵があり、それを膨らませて展開しているような感じが濃厚にする。

もちろんそのことに是非はなく、ジョン・ウーだろうがジョン・フォードだろうがシュワルツネッガーものだろうが「ダイ・ハード」だろうが「ダーティ・ハリー」だろうが、よくできたアクションには必ずと言っていいほど見得が入る。要するに「300」はその連発なのだ。嘘くさいが見てる分には面白く、充分興奮させる。むしろ見せ物、アトラクションとしての映画という立場から見るならば、これほど原点に立ち返って、ただアクションに没頭させる映画もない。様式美としてのアクションに傾注し、大衆にアピールし稼ぎまくる‥‥その点で私が思い出すのは、「シン・シティ」というよりも「マトリックス」だ。原則として「300」には続編はあり得ないだろうが、その気になればハリウッドなら作っちゃうかもしれない。

主演のレオニダスに扮するのはジェラルド・バトラーで、「オペラ座の怪人」の時とは打って変わった泥臭いカリスマの方が似合っていると感じさせるところが、逆に「オペラ座」での怪人役がミスキャストと断ぜられた理由なんだろう。その妻の女王ゴルゴを演じるのが「抱擁」のレナ・ヘディ、彼女をたぶらかす貴族院のセロンにこないだ「ハンニバル・ライジング」にも出ていたドミニク・ウエストが扮している。しかし単純に最も印象に残ったのは、ペルシア王クセルクセスに扮したロドリゴ・サントロで、これがあのシャネルのコマーシャルでニコール・キッドマンの恋人を演じた二枚目かと思うほどの変わりようで、最初から知っていなかったら絶対にわからなかった。演出は「ドーン・オブ・ザ・デッド」のザック・スナイダーで、「ドーン」もかなりヴィジュアルを意識したホラーだったが、今回はさらに徹底している。

「300」の予想外の大成功は業界でも大きな驚きを持って受け止められていて、既に今年のハリウッド10大ニューズの一つを占めるのは間違いないと思われる。この分だと人気グラフィック・ノヴェルの映画化が加速するんじゃないかという気がするのだが、とはいえ、そうそう大ヒット間違いなしという原作が転がっているわけもなし、ここはたぶん、最近輸入と人気が加速しているジャパニーズ・マンガからなにかヒット作が飛び出しても、と期待してしまう。絶対映画化の話が進んでいる原作がいくつもあるに違いない。と、書店の英訳されたマンガ・コーナーを覗く度に、さて、次話題になるマンガはいったい何か、その中でも徐々にスペースを増やしているロリ系マンガをハリウッドが実写映画化したらどうなるかなどと、勝手に想像を逞しくしているのだった。



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