2001年アメリカTV界10大ニュース

かつてないほどの激動の一年を経験したアメリカTV界、今年の印象を決定づけた重要なポイントを振り返る。


1. 同時多発テロ中継

9月11日の同時多発テロは、TV界も含め、アメリカ全土にこの上ない衝撃をもたらした。この事件に関するアメリカTV界の反応やニュース報道の詳細は、「アメリカ: トリビュート・トゥ・ザ・ヒーローズ」の方に詳しく書いたのでそちらの方を参照してもらうとして、とにかく、TVという媒体が始まって以来、ここまで最も長時間にわたってコマーシャルなしでニュースが報道されたのは過去例がなく、これまでの記録であったJ. F. ケネディ暗殺事件時を凌ぐ報道体制が敷かれた。

特記しておくべきことは、平常時は視聴率の0.1%に一喜一憂するアメリカのネットワークが、今回に限っては視聴率やスポンサーの意向に汲々とすることなく、一メディアの使命、ジャーナリストとしての意地を見せて報道に当たったことで、変にスポンサーにも大衆にもおもねることなく、ベストを尽くして事件の真実の姿をとらえようとしたその姿勢は、賞賛に値する。普段は辛口で鳴らすニューヨーク・タイムズ他の活字媒体も、アメリカのTVもやればできるじゃないかという、嬉しい驚きを口にしていた。ただし、それからしばらくしてブッシュがアフガン爆撃を決意した時くらいから、また、いつものようにアメリカ・イズ・No.1的な姿勢が表面に出てきて、俺たちが世界のリーダー、世界の良心、みたいな慢心が見え隠れしながら現れてきたのには、やっぱリか、という気分にさせられたが。


2. リアリティ・ショウの衰退

一昨年のABCの「フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア」、昨年のCBSの「サバイバー」によって一挙に花開いたリアリティ・ショウのブームは、9月11日を境に急激に終焉を迎えることになった。同時テロ以前にも、結局人気のあるリアリティ・ショウは「ミリオネア」と「サバイバー」を筆頭とする一部の番組だけであることは事あるごとに指摘されており、失敗するリアリティ・ショウの方が多いことは誰でもが知っている事実であった。しかし、全米市民の目がリアリティ・ショウを向いている時に人気リアリティ・ショウを編成できないことは局の沽券にかかわるため、とにかく、猫も杓子もリアリティ・ショウを製作編成するという、アメリカのTVの歴史が始まって以来のリアリティ・ショウのブームが到来したのであった。

それが9月11日を境にリアリティ・ショウのブームはいきなり終焉を迎えた。既に「ミリオネア」も「サバイバー」も全盛時の勢いはなく、遅かれ早かれリアリティ・ショウのブームは終わるだろうとは言われていたが、ある特定の日を境に、こうもいきなりあるジャンル全体の人気の度合いが激変したというのは、かつて例がないし、多分今後も起こることはないであろう。実際、国を挙げて生き死にがかかる戦争という一大事に突入しようという時に、少人数の間で誰かを一人追放したとかしないとか、クイズに一問正答したとかしないとかで一喜一憂するリアリティ・ショウに人々が興味を失ったのは、当然といえばあまりにも当然と言える。

この展開を象徴する出来事が、今夏FOXが放送した「マーダー・イン・ザ・スモールタウンX (Murder in the Small Town X)」で優勝したエンジェルがFDNY (ニューヨーク消防) の消防士であったという事実で、彼は救助活動のため貿易センタービルに入り、そのまま帰らぬ人となった。リアリティ・ショウの優勝者が事件の日に命を絶ったという事実は、リアリティ・ショウの終焉という時代の流れをそのまま象徴しているような気がする。いずれにしても事件後、今春、連続して裏番組の「フレンズ」を撃破していた「サバイバー」は、今秋は既に「フレンズ」の敵ではなく、同様に今春までは我が世の春を謳歌していた「ミリオネア」の視聴者数は、今秋には春の3分の1にまで落ち込んだ。「サバイバー」は一応パート4の製作までは決まっているが、その後も続いていくかは未定であり、「ミリオネア」は今春視聴率1位の座に何度も着いていたくせに、もしかしたら今シーズン限りと噂されている。流行りすたりは世の常とはいえ、時に非情ですらある。


3. 「レイト・ショウ・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」スピーチ

同時多発テロのニュース報道のせいで、それから約一週間、アメリカの定時番組はすべて放送が一時的に宙に浮いた状態になった。深夜トーク番組ももちろん放送されなかったわけだが、基本的にその日のショウを放送する深夜トーク番組は、既に製作済みの番組を放送するドラマやシットコムとは異なり、放送が再開した時に、どうしても多発テロ事件に触れないわけにはいかない。しかも事件に触れながら、なおかつお笑い番組であるという番組の本質を保てることができるのか。そういった全米注視の中、事件後最初に放送された深夜トーク番組が、CBSのデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」であった。

私は普段、この時間は裏番組のNBCのジェイ・レノがホストを担当する「トゥナイト」を見ることの方が多い。レターマンのギャグは差別ギャグが多く、時々笑えないだけでなく、不愉快になったりすることがあるからだ。逆にレノのギャグは保守的すぎてつまらないという意見があることも知っているが、まあ、とにかく最近は「トゥナイト」を見ることの方が多かった。それが「レイト・ショウ」を見ることになったのは、とりもなおさずその日は「トゥナイト」の放送はなく、事件後、先陣を切って放送が始まったのが「レイト・ショウ」だけであったからという、ただそのためである。因みにLA収録の「トゥナイト」に対し、「レイト・ショウ」は地元ニューヨークのブロードウェイに収録劇場がある。

そしたら、その「レイト・ショウ」、さすがにこの日はいつもはジョークを飛ばすレターマンも始終しかつめ顔を崩さず、最初から最後まで一つも笑いのない進行だった。まあそれもしょうがないかとは思ったが、しかし、こちらはレターマンは基本的にコメディアンだと思っている。そのため、もしかしたらどっかでギャグを飛ばすんじゃないかと、なんとはなしに期待のようなものを持っていたりする。レターマンが同時テロに言及した番組のオープニングのスピーチは、だからこそその期待を裏切って逆に感動的だった。冷静さの中に静かな怒りを込めて、テロの理不尽さを糾弾し、犠牲者に対して援助を惜しまなかったニューヨーカーに言及して、だからこそニューヨークは世界で一番の都市なんだと言い切ったレターマンのスピーチは会場では満場のスタンディング・オヴェイションを受けて迎えられたが、ここでは外人である私の目から見ても非常に感動的であり、ほとんど涙がこぼれそうになった。

また、この日はゲストが同じCBSで連日連夜ニュース報道のアンカーを務めていたダン・ラザーで、彼はそれまでにも救済活動に明け暮れるニューヨーカーの姿を報道しながら思わず声を詰まらせたとかで、ニュース・キャスターが逆にニュース・ネタになっていたりしたのだが、この日もまたレターマンと話をしながら涙を見せていた。地は結構感動屋のようだ。いずれにしても、このエピソードを見て、レターマン、やっぱり悪くないじゃない、と思った人間は私だけではなかったようで、この日を境に、「レイト・ショウ」はいきなり視聴率を上げた。私もこれまでは「トゥナイト」一辺倒だったのに、最近ではその日の気分によって「レイト・ショウ」を見たり「トゥナイト」を見たりと切り換えている。これまでは視聴率争いでは「トゥナイト」が常時「レイト・ショウ」を抑えていたのに、今では五分の戦いになった。たった一つのエピソードが、番組の運命を大きく変えることもある。


4. 「バフィ 恋する十字架」ザ・ミュージカル

今年最も印象に残ったエピソードは、「ザ・ソプラノズ」でも「ウエスト・ウィング」でも「ER」のエピソードでもなく、ミュージカル仕立てで構成した「バフィ 恋する十字架」の一エピソードであった。「バフィ」は今年、放送していたWBに製作費/放送権の値上げを要求、WBが首を縦に振らず交渉が揉めていた時に、チャンスと見たWBのライヴァル・ネットワークであるUPNがいきなり1エピソード200万ドルという高額を提示してWBから放送権を奪ってしまった。しかし1エピソード200万ドルというのは、アメリカの相場から見ても非常に高値である。それに「バフィ」はいかに若者の間で人気があろうとも、老若男女すべてにアピールするまでは行っておらず、ABCやCBS、NBCの老舗ネットワークが編成する番組に比較すると、視聴率はよくてその半分、「ER」と比較するとせいぜいその5分の1程度である。そういう番組に1エピソード200万ドルは確かに高すぎるという気が私もした。しかし、UPNに移って最初に放送された2時間版の「バフィ」は、いきなりUPNとしては記録的な高視聴率を叩き出し、それまではボラれたとか、バカなことをしたとか散々言われていたくせに、いきなりあれは安い買い物だった、とUPNの英断を誉める声が巷から聞こえるようになった。まったく、すべては結果オーライである。

その「バフィ」が1エピソードをすべてミュージカル仕立てで構成するという話は早くから伝わっており、当然のことながらUPNは大いにそのエピソードを煽っていた。自信があったのかそれともただ歌の途中で切るわけにはいかなかったからなのか、そのエピソードは1時間10分というまったく半端な長さで編成された。私は単に面白半分で見始めたのだが、そのできのよさに感嘆してしまった。「ムーラン・ルージュ」を見たものなら既にわかっているように、現代のミュージカルのできというのは必ずしも出演者の歌唱力に左右されない。それよりも雰囲気であり、その人の持ち味や役へのはまり具合、演技力、さらには演出力である。もちろん音程を外さないくらいの最低の歌唱力は要求されるが、プラス・アルファは歌唱力以外のところにある。

「バフィ」でも主人公バフィを演じるサラ・ミシェル・ゲラーは、お世辞にも歌がうまいとは言い難い。彼女よりはむしろ脇を固める俳優の方がよほどうまい。しかし、それでも彼女のぶれ気味の声がバフィのかなわない恋という今の「バフィ」のストーリー・ラインに乗っかった時、ゲラーの声とバフィの心情がシンクロして、実に見事な効果を上げていた。その他の部分でも、人間とヴァンパイアの絡みをミュージカルで構成するという試みが、これほどうまく成功するものだとはまったく意外だった。クリエイターのジョス・ウェドンが最初からそこまで考えてこの効果を狙っていたとしたら、実に大したものだ。私の予想以上の才人であったようだ。

もちろん、こういった試みがいつも必ずしも成功するとは限らない。特に思い出すのが、WBで放送されている、やはりティーンに人気のドラマ「フェリシティの青春」である。「フェリシティの青春」は一昨年のシーズン大きく視聴率を落としたが、その理由の多くを、それまで視聴者がチャンネルを合わせる最大の理由になっていた主人公フェリシティの恋愛模様から大きく逸脱して、番組製作者の遊びが幅を利かせるようになったことに負っている。ハロウィーンに合わせてホラー仕立てでまとめたエピソードなぞは、アイディアは悪くないと思ったが、視聴者からはそっぽを向かれた。そういう前例があったから、「バフィ」がその轍を踏まないという保証はどこにもなかったのだ。そのことを考えると、「バフィ」の冒険の成功は誉めて然るべきだろう。話はそれるが、「フェリシティ」は、番組の人気が落ちた時がフェリシティ役のケリ・ラッセルが髪を切った時とたまたま重なったため、WBは慌てて、全番組の出演者に事前に了解なくして髪を切ることを禁じる通達を出した。しかしUPNに移った「バフィ」のゲラーは新年早々髪を切ることが発表になっており、既に髪を切った後のゲラーの写真が出回っている。「バフィ」の今後の展開がますます興味津々である。


5. 「シックス・フィート・アンダー」

今年始まった全TV番組の中で、最も大胆で、最も時代の最先端を行き、かつ最も面白い番組と言えば、HBOの「シックス・フィート・アンダー (Six Feet Under)」をおいて他にないだろう。6月から始まったために、5月までに放送された番組が対象となるエミー賞の候補からは漏れたが、その面白さは既に誰もが知るところである。この番組がなければ、非常によくできた番組であるのに、今イチ認知度が高まらないA&Eの「100センター・ストリート (100 Centre Street)」を推したいところだが、「アメリカン・ビューティ」のアラン・ボールが製作した「シックス・フィート・アンダー」の質の高さは、「ザ・ソプラノズ」や「ウエスト・ウィング」と較べてもまったく遜色ないどころか、その上を行っているとすら言える。来年のエミー賞が「ザ・ソプラノズ」、「ウエスト・ウィング」に「シックス・フィート・アンダー」を加えた三つ巴の争いになることは、既に今から火を見るより明らかだ。

‥‥と思っていたが、実は「ザ・ソプラノズ」の来年度の新シーズンは、早くても初夏、もしかしたら秋口までずれ込むかもしれないということが、既にもう発表になっている。昨シーズンが終わってから次シーズンが始まるまで丸々1年間もブランクが空くわけだが、クリエイターのデイヴィッド・チェイスのたっての依頼とあってHBOも断れず、下手に製作を急がせて質を落とすよりは、たとえブランクが空こうとも製作者のやりたいようにさせるのが得策と判断したようだ。チェイスは、「ザ・ソプラノズ」はあと2シーズンやって終わり、それ以上はもうないと言明しているから、引き延ばし引き延ばし小出しに放送していこうとするHBOの判断は、むしろ当然だろう。しかし、そこで問題となるのは、ということは、「ザ・ソプラノズ」はもしかしたら来年のエミー賞にノミネートされる資格を欠くことになるかも知れないということだ。丸々1年間以上放送されないなら、その可能性は充分ある。その場合は、エミー賞は「ザ・ソプラノズ」なしで、「ウエスト・ウィング」と「シックス・フィート・アンダー」の一騎打ちになるかも知れない。うーん、どうなるんだろう。


6. 「フレンズ」復活

同時多発テロは、視聴者の嗜好を保守的なTV番組に逆戻りさせた。「フレンズ」がこの傾向から最も恩恵を受けた番組であるというのは間違いない。いくら現在アメリカで最も高い視聴率をとっているシットコムだとはいえ、「フレンズ」の視聴率は毎年漸減しており、現在人気が急上昇しているCBSの「エヴリバディ・ラヴス・レイモンド」に抜かれる日が来るのもそう遠くはないと思われた。それがテロの反動で人々が事件を忘れさせてくれる、軽いノリの番組を求めていた時、その気分にしっかりと合致したのが「フレンズ」であった。

軽い、ハートウォーミングな番組というのは、シットコムにせよドラマにせよ、他にもある。それなのに「フレンズ」および一部の番組だけが、明らかに事件の影響で以前より視聴率を上げた。この時にポイントになったのが、「既にヒット番組として以前から確立していた、よく知られている番組」であり、毒にも薬にもならないような番組こそが求められた。つまり、人々は気持ちを落ち着かせるために、時代の先端を行くような番組ではなく、既に何度も見たことがあり、その番組を見ることによって安心して笑うことのできる番組を選んだのである。「フレンズ」は最近笑いにエッジがなくなり、保守化していると言われるようになり、番組に何か梃入れが必要といわれていた矢先に、その保守的な印象こそが「フレンズ」を復活させた最大の理由となったのであった。本当に番組の運命なんてわからない。

また、番組がちょうどレイチェルの妊娠が発覚というベイビーねたで推移していたのも、視聴者の気分にしっくり来た見逃せないポイントである。多くの人間が生き埋めになった時、少なくとも新しい生命の誕生をテーマに番組が進行する「フレンズ」には、多くの視聴者がチャンネルを合わせたいと思わせる要素があった。実際、私は最近「フレンズ」を見ることはほとんどなくなっていたのだが、それでも事件後、なんとなく「フレンズ」を続けて何度も見ていた。なんというか、この番組を見ていると安心するのである。「フレンズ」は究極の現実逃避番組なのだ。番組クリエイターも視聴者の逃避気分によって「フレンズ」が復活したことを認識しており、そのため、現在、多くのドラマが番組内でテロに言及して、それでドラマを盛り上げようとしているのに対し、「フレンズ」は今後も番組内で事件に触れることはないと言明している。背景の小道具に星条旗を持ってきたり、出演者がNYPD (ニューヨーク警察) のベイスボール・キャップを被っていたりFDNY (ニューヨーク消防) のトレーナーを着ていたりと、さり気なくテロを忘れているわけではないということはアピールしているが、それ以上のことをやることはない、それが番組の使命であると言っている。「フレンズ」は、もうしばらくは安泰のようだ。


7. エミー賞授賞式、再々延期の上に開催

今年最も呪われたTV番組と言えば、エミー賞授賞式中継以外にないだろう。9月に予定されていた最初の授賞式は同時多発テロの影響を受け延期、その一と月後に予定された二度目の授賞式も、その日にアフガン空爆が始まるという日と重なってしまい、やはり延期、果たして二度延期してまでも授賞式をやる意味があるのかということで、業界内に喧々囂々の議論が巻き起こった。結局三度目の正直ということで、今度は何が起こってもやると宣言して割り振られた11月最初の日曜は、裏番組に史上初めて11月までずれ込んだメイジャー・リーグのワールド・シリーズの最終第7戦の生中継と重なってしまうという、やはりついてない展開となった。しかも今年はテロの被災地であるニューヨークのヤンキースが最後まで勝ち残っていることもあり、対戦相手のアリゾナ・ダイアモンドバックスの地元以外はほとんどヤンキースを応援しているという、近来になく全米市民の目が注目しているワールド・シリーズであった。

エミー賞は毎年高視聴率を獲得するアメリカTV界の祭典なのだが、これでは到底勝ち目がない。案の定、エミー賞中継は健闘はしたものの、ここ数年で最高の視聴率を獲得したワールド・シリーズ中継の敵ではなかった。授賞式自体も、折りからのごたごたを象徴するように、主要の賞の多くで受賞者が欠席するという、だいぶ寂しいものとなった。式自体はホストのエレン・デジェネレスが頑張ったこともあり、近年になくよくまとまったものになったと思ったのだが、受賞者の喜びや驚きの顔を画面に映せないのではしょうがない。

しかし、本当に貧乏くじを引いたのは、もう一つの裏番組であったNBCのミニシリーズ、「アップライジング (Uprising)」であろう。「アップライジング」は、今年のエミー賞でミニシリーズ作品賞をとった「アンネ・フランク」同様の第2次大戦を舞台とするドラマであり、批評家受けもよかったのだが、エミー賞とワールド・シリーズのために完全に霞んでしまった。製作者が番組自体には自信を持っていたのは疑いなく、視聴者が見る機会さえあればチャンネルを合わせたはずだと考えていたのは、こんなはずじゃなかったと思った製作者が、その後ニューヨークでなんとこの番組を3時間の映画にして劇場公開してしまったことからでもわかる。ほとんど黙殺されたのがよほど口惜しかったようだ。しかし裏番組にエミー賞だけならともかく、ワールド・シリーズの、しかも最終第7戦が来るのが決まったのは、番組の放送予定日の前日である。今さらこちらも放送予定日をずらすというわけにもいかず、結局、視聴率の上では勝負にならず、涙をのんだのであった。物事は一つ何かが崩れると、あとは雪崩現象で他にも影響していくという、なんか、マーフィの法則でも目の当たりにしているような今回の出来事であった。


8. 「ロウ&オーダー」フランチャイズの遍在化

放送開始から10年以上経つのに人気が上がり続けているNBCの「ロウ&オーダー (Law & Order)」は、アメリカTV界7不思議のうちの一つである。確かに面白く、見てて飽きないが、それが2年前に「ロウ&オーダー: スペシャル・ヴィクティムス・ユニット (SVU)」、そして今年「ロウ&オーダー: クリミナル・インテント (Criminal Intent)」とスピンオフ番組を二つも輩出、それらが共に本家を脅かさんばかりの人気番組となるとは想像もしてなかった。いまだに本家の「ロウ&オーダー」の方が視聴率の点では優っているが、「SVU」、「CI」も安定した視聴率を稼いでおり、「ロウ&オーダー」フランチャイズの人気は微動だにしない。

その上「ロウ&オーダー」はケーブルやシンジケーションでも再放送されているため、今では「ロウ&オーダー」を見ようと思ったら、いつどこにいようともまったく不自由しない。既に10年選手だから昔見たエピソードの内容はほとんど覚えてなく、また新鮮な気持ちで見れるし、しかも番組そのものが完全な一話完結型なので、続きを気にする必要なぞなく、また好きな時に見たければ見ればいい。視聴者が気楽な気持ちで見れるのも、「ロウ&オーダー」に限っては再放送でもプレミア放送時に較べそれほど大きな視聴率の違いが出ない理由となっている。例えば、今、ドラマでは断トツの人気を誇る「ER」でも、再放送になったら視聴率はプレミア放送時の約半分くらいにがくんと落ちるのだ。しかし「ロウ&オーダー」では、再放送でもやはり高視聴率を獲得する。そのため再放送先の引く手も数多で、再放送を希望するチャンネルが跡を絶たない。まだまだ「ロウ&オーダー」の躍進は続きそうだ。もしかしたら来年当たりスピンオフ第3弾、なんてのが出てくるかも知れない。


9. 今年最も活躍した俳優は‥‥CIAエージェント

今年アメリカTV界を席捲したリアリティ・ショウを抜きにしても、今年始まった番組で印象的なのはいくつもある。その代表が「シックス・フィート・アンダー」であるのは疑いを入れないところだが、その他にも、スーパーマンの若い頃を描くWBの「スモールヴィル (Smallville)」、「マトリックス」並みの特撮が印象的なTNTの「ウィッチブレイド (Witchblade)」等、記憶に残った番組はいくつもある。既にキャンセルされてしまったが、「X-ファイル」のスピンオフ「ザ・ローン・ガンメン (The Lone Gunmen)」てのもあった。日本人としては、工藤夕貴がアメリカTVデビューを果たしたSci-Fiの「ザ・クロニクル (The Chronicle)」にも言及しておきたいところである。

しかし、今秋始まった新番組の中で最大の特色となると、CIAエージェント、FBIエージェント等を主人公としたアクションものが一挙に編成されたことに触れないわけにはいかない。この種の番組はアクション・ドラマの王道とも言えるもので、毎年必ずどこかのネットワークが一つは編成するのだが、それにしても今年は多かった。 ジェニファー・ガーナーがダブル・エージェントとして活躍するABCの「エイリアス (Alias)」、同じくABCで、泥棒ペアが活躍する「シーヴス (Thieves)」、囮捜査官の悩み、活躍を描くNBCの「UC: アンダーカヴァー (UC: Undercover)」、CIAエージェントの活躍を描くCBSの「ジ・エージェンシー (The Agency)」、やはりCIAエージェントの活躍を描くFOXの「24」と、4大ネットワークが全部この種の番組を編成したために、実際に見てみるまではまったく区別のつけようがなく、視聴者だけでなく、批評家までもが混乱した。「今年最も活躍した俳優は‥‥CIAエージェント」というのは、別に私が言い出したことではなく、この状況を指してニューヨーク・タイムズが言っていたことを借用したものである。

この中で最も下馬評の高かったのは、1シーズンを通して一つの事件を描き、しかも番組中の1時間が視聴者の現実の1時間と同じ長さであるという凝った構成を見せた、FOXの「24」だろう。1シーズン、24エピソード (つまり24時間だ) が終わった後に事件が解決するという気の長い編成で、この度FOXが追加オーダーを発注したために、少なくとも今シーズンはキャンセルなく一応今の話に無事終止符が打てる手筈になっている。私が今追っかけで見ている唯一のドラマだ。実は新シーズンが始まるまでは、私の予想では、最も受けそうなのは、「24」を別にすればABCの「シーヴス」じゃないかなと思っていた。「フルハウス」出身のジョン・ステイモスとメリッサ・ジョージが政府にリクルートされた泥棒になるという話で、特にジョージが格好よく見えたのである。そしたら、上記のうち、この番組だけが既にキャンセルされた番組となってしまった。本当にヒット番組の予測は難しい。「UC」も現時点でこの番組だけが延長かキャンセルかの発表がない。はっきり言ってこれは黄信号で、他の「エイリアス」、「エージェンシー」が既に今シーズンを通しての存続を決めているだけに、「UC」はちと将来危うい。

「エイリアス」は実際にはあり得そうもない女性ダブル・エージェントの活躍を描くものだが、主演のガーナーは今シーズン始まった番組では最も魅力的な主人公の一人だと言えるだろう。番組クリエイターは「フェリシティの青春」のJ. J. エイブラムスで、ガーナーはそれに端役出演していたところをエイブラムスに見込まれて今回の抜擢となったものである。プレミアの回で、台湾にスパイとして乗り込んで捕まり、巨大なプライヤーで歯を引っこ抜かれるという悶絶もんのリンチを受けるのだが、止めてくれと叫び、女は見場が大事だから抜くんなら奥歯から抜いてくれと頼む。あれは「24」で暗殺者に扮したミア・カーシュナーと同じくらいは格好よかった。一方の「エージェンシー」は「エイリアス」とは対極にあるリアルな描写を重視したドラマで、こういう手触りの異なるドラマがそれぞれ早々と人気を得たところも面白い。


10. テロ犠牲者追悼コンサート3種

同時多発テロの後、ハリウッドや音楽界を含めたエンタテインメント業界は即座に反応して、義捐金を募る犠牲者支援コンサートを企画した。最も早く反応を示し、最もネイム・ヴァリューの高いハリウッド・スターやミュージシャンを一堂に集めたことで、「アメリカ: ア・トリビュート・トゥ・ヒーローズ」は最も注目度が高かった。事件が起こったのが9月11日、その10日後の9月21日には、アメリカの7大ネットワークを含む30チャンネル以上が、「アメリカ」を同時生中継した。その次に行われたのが、ポール・マッカートニーを軸とするコンサートで、「アメリカ」が場所を公けにしない、観客もいない、いわば閉じられた空間での、ひっそりとした、どちらかと言うと厳かな雰囲気の中で進んだパフォーマンス集だったのに対し、マッカートニーが主催した「ザ・コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ (The Concert for New York City)」は、事件後一と月以上経った10月21日に、マディソン・スクエア・ガーデンで、犠牲者の家族や関係者を集めて大々的に行われた。この時は既に人々の心理は犠牲者を悼むというよりも仕返しを求めていきり立っていたので、雰囲気も「アメリカ」とは異なり、大分騒がしいものになった。「ニューヨーク」はケーブルの音楽チャンネルのVH1が生中継したのだが、当初夜8時から12時までという予定だったのが、私がその日8時前にチャンネルを合わせたら既に始まっており、延々と夜中の1時半頃まで続いた。主催のマッカートニーは気苦労もあり、大分疲れたのだろう、終わり頃には「もうこれでおわり、本当におしまい」と、疲れ過ぎて逆にハイ状態になっていた。

コメントを述べるゲストも多数いたのだが、観客の好戦気分を反映して、戦争ではなく平和を説く仏教に感化されているリチャード・ギアが壇上に上った時には、ブーイングが起こっていた。ブーイングと言えば、元ファースト・レイディのヒラリー・クリントンがスピーチをする時もブーイングが起こったのだが、あれはなぜだったんだろう。彼女も平和支持者だったっけ? それとも、ただ、ほとんど犠牲者支援に活躍しているようには見えない点が嫌われたか? 実際、事件後のニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニの仕事振りは目覚しく、いつニュースを見ても生放送のはずなのに画面に映って、人々を励ましたり救済活動の指揮をとったり記者会見を行ったりしているので、いったいいつ寝てるんだと思ったくらいだ。それに対してニューヨーク選出議員のヒラリーが、ほとんど何にもしていないように見えたのは事実である。多分そのせいかも知れない。また、マーティン・スコセッシやケヴィン・スミス等が事件の後急遽撮ったニューヨークをテーマにした短編というのも披露されたが、さすがにこれは時間がなかったのだろう、どれもこれもあまり面白くなかった。

3番目の特別コンサートとなったのが、マイケル・ジャクソンが主催した「ユナイテッド・ウイ・スタンド (United We Stand)」で、こちらはコンサート自体は「ニューヨーク」の翌日の10月21日に行われたのだが、ABCでの録画放送は11月1日になった。マイケルは実は「アメリカ」の方に出たがって、自分の方から出てもいいよと言ったのに、でしゃばりマイケルに雰囲気をぶち壊されることを怖れたプロデューサーに断られたため、マイケルが自分で自分を中心としたコンサートを企画したものだ。ただし、コンサートそのものは成功裏に終わったようだが、この種のコンサートの最後尾となった「ユナイテッド」の中継は、視聴者ももう飽きただろうということでほとんど番宣もなく、1時間に短縮してひっそりと放送された。しかもマイケル自身のパフォーマンスがほとんどなかったため、あまり話題にもならず、視聴率もとれなかった (この辺の経緯は「アメリカ」、および「マイケル・ジャクソン: サーティース・アニヴァーサリー」の方に書いたので、興味ある方はそちらを参照のこと)。これら以外にも、カントリー・シンガーが結集した「カントリー・フリーダム・コンサート」というのもあったのだが、私がまったくカントリー音楽に興味を持てないため、誰が出てたかは知りません。

これらの番組は、「アメリカ」1億5,000万ドル、「ニューヨーク」3,000万ドル、「ユナイテッド」200万ドル、「カントリー」500万ドルと、相当額の義捐金を集めた。特に事件の記憶も生々しい事件直後で、その上ハリウッド・スターが大勢顔を揃え、全世界中に中継された最初の「アメリカ」が集めた金額が、やはり突出している。これらのコンサートは、その後CDとなって発売されたのだが、その時には既に人々は冷めていたのか、売れ行きは芳しくなかった。これらのCDも売り上げの何割かは寄付に回されたのだが、音楽ファンは、寄付は寄付で別の、直接被害者に届くチャリティを選び、この手のコンピレーション・アルバムに特有の、別に好きでもないアーティストも歌っているCDを買うのは躊躇ったと言われている。それに、これらは2枚組みで定価も高かった。消費者も犠牲者を助けたい気持ちは山々だが、この時までに既にできる寄付は済ませてしまったものが多かったし、これ以上財布の紐を緩めるわけにはいかなかったのだろう。それにしても以上の3種のコンサートは、目的が一緒でも手触りがまったく違った。中心となる人物や放映の時期によって、こんなにも結果として異なるコンサートができあがるところが面白い。彼らがまた1年後に記念追悼コンサートのようなものでも企画してくれると、また違った面白い番組ができるような気がする。


次点. 「バンド・オブ・ブラザース」

2000-2001年シーズンを代表するミニシリーズといえば、エミー賞をとった「アンネ・フランク」か、ジュディ・デイヴィス渾身の演技が光った「ライフ・ウィズ・ジュディ・ガーランド: ミー・アンド・マイ・シャドウズ」のどちらかということになろう。しかし、今年全体を見渡せば、9月に放送されたHBOの「バンド・オブ・ブラザース (Band of Brothers)」を忘れるわけにはいかない。スティーヴン・スピルバーグとトム・ハンクスが手を組んで製作した、3年前に放送された「フロム・ジ・アース/人類、月に立つ」を彷彿とさせる10時間の大作ミニシリーズである。今年ミニシリーズではABCの「アンネフランク」だけでなく、NBCもリーリー・ソビエスキ主演の「アップライジング」を放送したが、それらのミニシリーズ同様、「バンド・オブ・ブラザース」も第2次大戦を舞台とするアクション/ヒューマン巨篇で、製作費1億2,000万ドルと、並みのハリウッド・アクション映画より金をかけている。

第1回では「フレンズ」のデイヴィッド・シュウィマーが、口だけは立つが実力の伴わない指揮官役として出演しており、私の印象だと、この人、シットコムに出るより、こういう情けない役でのドラマ出演の方がよほど合っているという気がした。元々「フレンズ」以前にシュウィマーが注目されたきっかけは、「NYPDブルー」で演じた、優柔不断で気が弱く、最後にはそれがあだとなって殺されるという弁護士役だった。それが実に彼の見かけに合っており、私はいまだにその印象が抜けない。そういう雰囲気を誇張して出した今回のキャスティングはうまいと思う。第2回目以降の番組全体の印象としては、スピルバーグの「プライベート・ライアン」に近いと言えば感じがわかるだろうか。いずれにしても製作規模の点から言って、当分は「バンド・オブ・ブラザース」を凌ぐ番組は出てこないだろう。

それにしても今、ミニシリーズだけではなく目をTV映画全般に向けると、頑張っているのはほとんどがケーブル・チャンネルばかりである。今年のエミー賞でTV映画部門にノミネートされたのは、全番組がペイTVのHBOとショウタイムの番組で、やっとミニシリーズになってネットワークが放送した番組が入ってきた。昨年まではTV映画にも力を入れていたCBSとABCは、今年大幅に製作本数を減らし、NBCに至っては、ミニシリーズを除きほとんどこのジャンルから撤退している。今後ネットワークがまたこのジャンルに力を入れる気配はほとんどなく、ますますTV映画/ミニシリーズではケーブル・チャンネルがシェアを伸ばすことになろう。かといってドラマやシットコムではまだネットワークは安泰かというとそうでもなく、既にHBOの「ザ・ソプラノズ」や「Sex and the City」がネットワークの牙城を脅かしている。アメリカTV界の視聴率競争は、ますます熾烈になってきている。



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