Celebrity Boxing   セレブリティ・ボクシング   ★★★
放送局: FOX
プレミア放送日: 3/13/02 (Wed) 21:00-22:00
製作: UTLプロダクションズ
製作総指揮: ハリー・テシー、ロッキー・ティアラ
製作: エヴリン・オーティス、ジャック・サイファート
監督: サンディ・グロスマン

内容: 過去の有名人によるボクシング・マッチ中継。

Celebrity Boxing いったんは消え去るかに見えたアメリカTV界におけるリアリティ・ショウがしぶとく視聴者に根づいていたのは、「ザ・チェア」、「ザ・チャンバー」等のリアリティ・ショウが続けて編成されたことでも明らかだった。2月にFOXが編成した「ザ・グラットン・ボウル」なんぞは、さすがはFOXと思わせる低俗な大食い競争中継で、このジャンルがまだまだすたれてはいないことを思い知らせてくれた。それにしてもこの種の愚劣な番組を編成させたら、本当にFOXの右に出るものはない。

ところが、今回、FOXはさらにその上 (下?) を行く番組を編成してきたのだ。題して「セレブリティ・ボクシング」、過去の著名人をリングに上げて戦わせ、一般視聴者はそれを見て楽しむという番組である。ちゃんとルールに則ってセレブリティを戦わせるだけなら、それは単にスポーツ中継と言えなくもない。それがここまで話題となり、低劣さを際立たせたのは、なんといってもボクシング・マッチに挑むセレブリティの人選のおかげである。

第1試合に出場するダニー・ボナデュスとバリー・ウィリアムスの場合は、共に「パートリッジ・ファミリー」と「愉快なブレディ家」という過去のヒットTV番組の出演者ということもあり、別にまあいいんじゃないかと思う。第2試合のヴァニラ・アイスと「アーノルド坊やは人気者」に出演していたトッド・ブリッジスの試合も、既に過去のラッパーとなってしまったヴァニラ・アイスの人選はただの客寄せっぽいなあと思うが、それでも別に文句があるわけでもない。しかし、第3試合のメイン・イヴェントのトニヤ・ハーディングとポーラ・ジョーンズの試合は、これはもう、まったく見世物としか言いようがない。

トニヤ・ハーディングと聞いて、すぐに誰だったかとピンと来る者は、スポーツ好き、もしくはアイス・スケート好きの輩だろう。そう、リレハンメル冬季五輪で、知人に頼んでその時のライヴァルであったナンシー・ケリガンを襲わせ、ライヴァルをなきものにしようと画策、それがばれて全国的スキャンダルを巻き起こした、「バッド・ガール」の代表とも言えるあのトニヤ・ハーディングが、今度はボクシング・グローヴを手に嵌め、リングに上がるのだ。

対するのはポーラ・ジョーンズで、これまた名を聞いてすぐにピンと来るものは、こちらはわりと政治好きに違いない。そう、モニカ・レウィンスキのスキャンダルよりはるかに昔、クリントン大統領をセクハラで訴え、クリントンの一連のスキャンダルのそもそもの嚆矢となった、ホワイトハウスのあのポーラ・ジョーンズである。ジョーンズはホワイトハウス時代に仕事よりも自分の見場に神経を配っていたのは明らかで、彼女が鼻を整形したのはアメリカ人なら誰でも知っている事実である。それなのにボクシングの試合なんかに出たら、せっかく形よくした自慢の鼻がまた崩れちゃうことになるかも知れない。それでも出るというのは、彼女の目立ちたがり精神、名誉欲の深さを物語っていると言えよう。とにかくどんな理由でもいいから有名になりたいようだ。そう言えばプレイボーイ誌でも脱いでいたな。

いずれにしてもこの二人の人選は、これはいくらなんでもボクシングではない。一応元々はアスリートのハーディングはともかく、ジョーンズの人選はまさしく客寄せ以外の何ものでもなく、過去にスポーツの経験などほとんどないという彼女に、まともなボクシングの試合などできるわけがない。視聴者はどちらが勝つかなんかまるで気にしておらず、過去スキャンダルを構築した二人の女性が殴り合いするのを見物するという、スポーツとは異なるただの見世物でしかない。要するに、昔流行った女性同士のドロレスを見る感覚に近いと言える。

しかもこの人選、実はジョーンズが選ばれたのは窮余の一策であって、ジョーンズの前に候補に上がっていたのは、これまた誰あろうロング・アイランドのロリータこと、エイミー・フィッシャーであった。フィッシャーが有名になった事件はあまりにも三面記事的な扱いだっただけに、さすがにアメリカ国外では知っている者は少ないだろう。しかし、90年代半ばの当時のアメリカ国内では、まるで台風のごとくフィッシャー事件旋風が吹き荒れたものだ。

フィッシャー事件とは、当時まだティーンエイジャーのフィッシャーが、その時逢瀬を重ねていた妻子持ちのジョーイ・バタフューコという男にそそのかされ、バタフューコの妻を銃撃したという事件である。あんな可愛い子がなんでこんなへんちく顔の男に騙されるのかがよくわからなかったのだが、それだからこそ痛く世間の好奇心を刺激したらしく、とかく当時はひっきりなしに取り上げられたトップ・ニュースだった。この事件を題材に3大ネットワークがそれぞれTV映画を製作し、そのうちの1本でフィッシャー役を演じたのはなんとドリュー・バリモアだったということからでも、当時のこの事件の扱いの大きさが知れる。

フィッシャーはその後実刑判決を受けたが、刑務所に入ってからも看守にレイプされたとか何とかで話題を提供し、わりと長い間ゴシップ記事を賑わせていた。いやあ、そのフィッシャーが出るなら、確かにこれは何が何でも見たいと思わせるものがあった。しかし、フィッシャーは今は保釈中の身で、TVに出演するためにはその筋の許可を得なければならず、当然のことながらその許可は下りなかった。そのため、第2候補のジョーンズに白羽の矢が立ったものである。

しかしなあ、どうせこういう番組を製作するならなあ、これはやはりフィッシャー、見たかったなあと思う。彼女は刑務所から出てきてまだ日も経ってないことでもあり、多分、働かせてくれるところがそれほどあるとも思えないし、経済的に瀕していたのだろう。本人自身はこの番組に出て銭を稼ぎたかったようだが、お上がうんと言わなければしょうがない。数年後にまたこういう番組が製作されるならば、その時はぜひぜひ出てもらいたい。ついでに言うならば、そのフィッシャーと、こちらは年端も行かない教え子とセックスして身ごもったかどでやはり刑務所入りした女性教師、メアリ・ケイ・ルトーノーが戦うとでもなれば、これは万難を排してでも見たい。たとえPPVだろうと、50ドルくらいまでなら私は出すぞ。

また、ハーディングを出すなら、やはり相手はナンシー・ケリガンであってもらいたいと思う。当時のスキャンダルの渦中の者同士の禍根試合、これも面白そうだ。ジョーンズも、別にそんなに悪い人選だとは思わないが、ジョーンズが出るなら、やはりモニカ・レウィンスキはどこ? と思うのは人情というものだろう。ついでにリンダ・トリップにも出場を要請するなら、これは無差別級も作らなければなるまい。

男子の方も、ただ単に過去の著名人というだけでなく、もっと面白い人材、それこそフィッシャーをかどわかした男、ジョーイ・バタフューコを連れてくることができれば面白かったのに。対する相手は、これはもう一昨年、当時最大の話題となったスキャンダル・リアリティ・ショウ、「フー・ウォンツ・トゥ・メアリ・ア・マルチミリオネア」に出演し、結婚相手を公開TV番組で選んだ挙げ句逃げられた、リック・ロックウェル以外いるまい。その結婚相手だったダーヴァ・コンガーも、ハーディングの相手として悪くなかったかも知れないな、なぞと自分で勝手に想像を膨らませてしまうのであった。

つまり、ここまで想像力を刺激するほど下種な番組というのは、これはやはり価値があると言えるだろう。ここまで破廉恥な番組を平気で製作してしまうFOXには、開いた口が塞がらないというよりは、むしろ感心してしまうのも事実である。あまりにも低俗な番組であるあまり、各マスコミ媒体から一斉に集中砲火を浴び、「低みを極めた」と散々叩かれていたが、これは面白そうだと思ったのは私だけではなかったようで、この番組、結構な話題になり、最初に番組が放送された一週間後には、好評を受けて再放送されたくらいだ。

私はFOXのくだらないリアリティ・ショウには結構うんざりしていたのだが、このくらいやるなら意味がある。流石にネットワークとしての自負があるABC、CBS、NBCの古株のネットワークでは、どんなに視聴率が稼げるよと言われても、こういう番組を編成するのはプライドが許さないだろう。それをやってしまうFOXのこの徹底してあこぎな姿勢は、少しばかり見直したのも事実である。ヘンに中途半端なリアリティ・ショウでお茶を濁すよりは、これくらいのやつをいつも編成して、我々視聴者をあっと言わせてもらいたい。

そうそう、言い忘れていたが、この勝負、第1試合はボナデュスがウィリアムスを2ラウンドTKOで破り、第2試合は判定にもつれこんだが、終始勝負をリードしていたブリッジスが危なげなくヴァニラ・アイスを下した (因みに勝負は3ラウンド制である)。ハーディングとジョーンズは、最初は二人ともやる気満々のところを見せていたが、すぐにアスリートとそうでない者の力の差が現れ、1ラウンドが終わる頃には既にジョーンズは逃げ腰になっていた。

あまりにも逃げ腰なので、第1ラウンドの終了間際、ハーディングの放った右フックをテンプルに受けたジョーンズが倒れたのを、腰が引けていたためのスリップと見たレフェリーはダウンを取らなかったのだが、第2ラウンドのゴングが鳴っても、既に戦意喪失したジョーンズはもう戦いたがらない。おまえ、両手を一緒に前に突き出すなよ。そりゃパンチでも何でもないだろうが。ジョーンズは結局、第2ラウンド早々ダウンを喫し、立ち上がりこそしたが、完全にレフェリーに試合を止めてもらいたがっているのが見え見え。しかしいくらなんでもそこで試合を止めてしまったら話にならないので、レフェリーはジョーンズに無理矢理ファイティング・ポーズをとらせる。そこへすかさず攻め込んだハーディングが、また逃げようとするジョーンズの、ほとんど後頭部に右ストレートを叩き込み、これはもうダメだ、試合にならないと見たレフェリーが、今度こそTKOを宣言して試合を止めた。やはり次回はエイミー・フィッシャーか、ナンシー・ケリガンを持ってきてもらいたい。



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