The John Walsh Show   ザ・ジョン・ウォルシュ・ショウ   ★★1/2
放送局: NBC (シンジケーション)
プレミア放送日: 9/9/02 (Mon) 11:00-12:00
製作: NBCエンタープライゼス
製作総指揮: アレクサンドラ・ジェウェット
監督: アンディ・バーシュ
ホスト: ジョン・ウォルシュ

内容: ウォルシュがホストとなって、毎回その時の話題のトピックをテーマに話を進めるトーク・ショウ。第1回は、ちょうど事件後1周年を迎えるニューヨーク、ペンシルヴァニア、ワシントンD.C.の同時多発テロ現場から、遺族の話を聞く。

The John Walsh Show いよいよ2002年秋の新シーズンが始まった。ネットワークの新シーズンは毎年9月下旬から始まるのが恒例だが、シンジケーション枠の番組は通常、それよりも早い時期から小出しに少しずつ編成される。シンジケーション番組が編成されるのは日中か深夜、それと週末の午後の時間帯であるので、家庭の主婦や学校から帰りの早い生徒等を除けば、一般的に日中外で働いている人たちが見る番組は、普通、深夜か週末に限られる。それでだいたい、トーク・ショウやクイズ番組等の女子供の好む番組が日中、アクション系のドラマやデート系のリアリティ・ショウが深夜や週末に編成される。

私は日中働いている上にトークやクイズ番組にほとんど興味がないので、通常ならば週末のアクション系のドラマを除いて、ほとんどシンジケーション番組は見ない。ついでに言うと、そのアクション系ドラマでも、私がほぼ毎週欠かさず見ているPGAゴルフ中継と重なることが多いので、それも大概は見られない場合が多い。つまり、私はあまりシンジケーション番組は見ていない。それでも、その私が通常ならまず見ないシンジケーション番組の、しかも日中放送されているトーク番組を録画までして見ようという気になったのは、とりもなおさずホストのジョン・ウォルシュという名前に大きく興味を惹かれたからに他ならない。

ジョン・ウォルシュと聞いて即座に誰か顔が思い浮かぶ日本人は、アメリカに住んでいる者を除いて、あまり多くはないだろう。しかし、アメリカ人にとってウォルシュは、FOXの長寿番組「アメリカズ・モスト・ウォンテッド (America's Most Wanted)」のホストという役によって、絶大なる知名度を誇る有名人である。

「アメリカズ・モスト・ウォンテッド (AMW)」は、まだ逮捕されない犯罪者をTVという媒体を通して視聴者に訴え、犯罪撲滅を目指す番組である。最近流行りのリアリティ・ショウの先駆けのような番組と言ってもいいかもしれない。リアリティ/ドキュメンタリーの「コップス (Cops)」、アニメーションの「シンプソンズ」と共に、FOXの開局以来から続いている3本の長寿番組のうちの1本だ。別に毎回視聴率のベスト・テンに顔を出すほどの視聴率を稼ぐような番組ではないが、根強い人気があり、AMWと「コップス」が続けて編成されるFOXの土曜夜の編成は、ここ数年まったく変わらない、隠れた人気番組の時間帯である。

私は最初AMWを見た時、いたずらに視聴者の扇動を目的とする、日本のワイド・ショウの乗りのえげつない番組かと思った。 しかしこの番組、それにしてはコアのファンがついている。しかも実際に、この番組を見た視聴者からの連絡によって、実際に犯罪者が逮捕されたという事例が跡を絶たない。これまでこの番組のおかげで逮捕された者の数は722人に及び、その中には殺人事件等の重罪を犯した者も含まれる。わりと真面目に見られ、信頼されているのだ。この番組がどれだけ信頼されているかは、昨年のテロ事件の後、事件首謀者を捕まえるために、実際にFBIからの要請によって、番組内において主要容疑者逮捕の協力が呼びかけられたことからもわかる。AMWの影響力というのはばかにならないのだ。

何ゆえにこの番組がそこまで信頼され、長寿番組となるのか。もちろん、これがハリウッド・スターや普通に知られている司会者等がこの番組のホストをしているのだったら、番組にこういうマジな雰囲気を与えることには成功していなかったに違いない。ところがジョン・ウォルシュがホストを担当することによって、AMWは番組に大きく信憑性を与えることに成功した。とはいっても、彼の喋りのテクニックが群を抜いているとか、容姿端麗で見た目がいいとかいうわけではない。そういうわけではなく、AMWが成功した最大の理由は、ウォルシュ自身がこういった犯罪の被害者であったからということにある。様々な犯罪の被害者と対等の視点から意見を述べることができるウォルシュがホストを担当することで、番組は視聴者からの信頼を勝ち得たのだ。

ウォルシュは、元々はまったくTV界とは関係ない、一介のビジネスマンだった。ホテル開発業者として人生半ばにして将来の成功は約束されたも同然で、美しい妻と息子に囲まれ、いわばアメリカン・ドリームを体現したような人生を送っていた。しかし81年、当時6歳になるそのウォルシュの一人息子アダムが誘拐され、殺害される。この事件は、アメリカ人ならほとんどの者が知っている有名な事件である。ウォルシュは息子が誘拐されて初めて、先進国アメリカといえどもそういう誘拐された者たちを追跡するシステムが構築されているわけではないことを知った。一人息子が誘拐されたというのに、親であるウォルシュが警察に届けた後にできることは、ただ指をこまねいて待つこと以外なかったのである。ウォルシュは数日後にアダムの死体が発見されるという最悪のニュースに接する。この事件の犯人はいったんは逮捕され、自白するが、後で自供を翻し、そのまま獄中で病死したために、事件は全面解決していない。

ウォルシュは悲嘆に暮れ、何をする気もなくなり、妻とも離婚、ビジネスからも足を洗い、一挙に人生の泥沼に転落する。しかし一方で、二度とこういう事件は起きてはならないと決心もする。人々には、何か事件が起きた場合、情報を共有する場所が必要だ。もし警察機構がそういうシステムを備えていないのなら、自分が作ってやろう。そしてウォルシュの尽力によってできあがったのが、AMWという番組なのだ。視聴者はウォルシュが大マジなのを知っているから、こちらも真面目に見る。その結果として、本当に犯罪解決に役立つ情報提供番組ができ上がったのだ。ウォルシュはAMW以外にも、私財を投じて行方不明になった人物の発見に協力する機関や基金を設立したりしている。いまだに事件の悪夢からは完全に立ち直っていないらしいが、いずれにしても人々から一目置かれる存在になっていることには変わりない。

そのウォルシュがまた新たにシンジケーションで番組のホストを担当する。毎日日中放送される新番組「ジョン・ウォルシュ・ショウ」は、今度は犯罪撲滅のためというよりも、世界をよりよくするための様々なテーマを毎回選び、スタジオにゲストを招き、討論したり話を聞いたりする番組である。そのプレミアは時宜もあり、スタジオからではなく、ウォルシュがニューヨークのグラウンド・ゼロに飛び、そこでテロ1年後の節目に犠牲者の遺族と話をするという体裁がとられた。

同時多発テロの後、私が犠牲者の遺族へのインタヴュウとかを見ていて強く感じたことが、信じるものを持っている者は強い、ということだった。あるいはもっと端的に、宗教は強い、と言ってもいい。もし私の家族がテロによって死んでしまったとする。神様なんてまるで信じていない私ができることは、ただ悲嘆にくれることだけだろう。しかし、カソリックだろうがプロテスタントだろうが基本的にクリスチャンのアメリカ人は (もちろんクリスチャン以外の犠牲者もいたが)、最初は嘆き悲しみこそすれ、わりと短い期間で立ち直ってきたという気がする。その時に彼らの拠って立つ基盤となったのが、神は耐えられない試練を人に与えることはない、という強い信念だった。そういう意見を述べる遺族をいったいどれだけ見たことか。そしてその信念のおかげで、実際にどれだけの人間が思ったよりも早く立ち直ってきたか。信じるもの、頼れるものを持つ人間は強いと、つくづく思い知らされた。

「ジョン・ウォルシュ・ショウ」のプレミアを見て、私はその印象をまた新たにした。もちろん遺族の傷が簡単に癒えることはないだろう。しかし、アメリカ人って、やはり根本的に前向きな人たちなのだ。そしてその印象は、心に傷を負いながらも、やはり前向きに生きようとしているウォルシュ自身にも言える。なんやかやいいつつもこのような番組に出演するパワーをまだ保有し、人々の役に立とうと決心する。これが肉食民族の底力なのか。

話は変わるが、コートTVというケーブル・チャンネルで、今夏から「パワー、プレジャディス&ジャスティス (Power, Prejudice & Justice)」という番組が始まった。こちらはトーク番組ではなく、セレブリティの犯罪に焦点を当てたドキュメンタリーであり、ヴァニティ・フェア誌にセレブリティの犯罪関係の記事を寄稿して有名になったドミニク・ダンがホストを担当している。実はこの番組と「ジョン・ウォルシュ・ショウ」の間には、大きな共通点がある。それは、やはりダンも実の娘を殺されている、犯罪事件の犠牲者であるということだ。ダンの娘ドミニークは、「ポルターガイスト」に長女役で出ていたれっきとした役者だった。しかしこの映画に出た直後、その時つきあっていたボーイフレンドに首を絞められるという痛ましい事件で亡くなった。(「ポルターガイスト」はドミニークだけでなく、その他の出演者が何人も出演直後に死亡している呪われた映画として有名なのだが、そのことはちょいと置いておく)。

ダンはその時までにハリウッドの映画プロデューサーとしての仕事がうまくいかなくなって、ドラッグ漬けとなり、充分辛酸を舐めたと思っていた。しかしその後、自分の娘が殺されるという事件までが起きようとは夢にも思っていなかった。しかもその事件が、殺人罪ではなく、娘を殺した男の過失致死ということで判決が下り、その男がたかだか数か月で刑務所から出てくることになった (この辺の展開は「イン・ザ・ベッドルーム」を彷彿とさせる)。ダンは失望し、その時の裁判を傍聴した記録を細大漏らさずヴァニティ・フェアに寄稿した。それが評判となり、その後、ダンは特にセレブリティが関係する犯罪に関して本を書くようになった。そのダンがホストの「パワー、プレジャディス&ジャスティス」は、ケーブルTVにおいてはわりといい視聴率をとっているのだが、それも実際に殺人事件の被害者の遺族であるダンがホストをしているからこそ説得力があり、視聴者が見るのだという感じが濃厚にする。つまり、「パワー、プレジャディス&ジャスティス」とAMWは、実際の犯罪事件の犠牲者の遺族が自分の体験を踏まえて視聴者に訴えかけることで大きな訴求力を持つのだ。

しかし、それでも、私が感じることは、例えば私を含め日本人が彼らと同じ立場に立ったとして、それを踏み台にしてTVのホストなんかできるだろうかということである。多分無理だろう。しかし彼らはそれをやり、視聴者はどちらかというと興味半分ではなく (もちろんそういう輩も多いだろうが)、彼らの意見を信頼するという立場で番組を視聴している。こういう番組と視聴者の関係というのは、TV大国アメリカでも滅多に見られない。ホストという立場から見れば、視聴者から信頼されることはホスト冥利に尽きるだろうが、しかし被害者の遺族となるという体験をしてまでTV番組のホストをしたかっただろうか。答えは多分ノーだろう。それでもTV番組のホストに従事する彼らを見ていると、ついつい精神的、肉体的タフさというものを感じずにはいられない。



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