
The Wire ザ・ワイヤー ★★★
放送局: HBO
プレミア放送日: 6/2/02 (Sun) 22:00-23:00
製作: ブラウン・デッドライン・プロダクションズ、HBO
製作総指揮: デイヴィッド・サイモン、ロバート・コールスベリー
製作: ニーナ・コストロフ-ノーブル
共同製作: カレン・ソーソン
監督: クラーク・ジョンソン
脚本: デイヴィッド・サイモン
撮影: ウタ・ブリーセヴィッツ
編集: ジェラルディン・ペロニ、キャリー・パチコフ
美術: ヴィンセント・ペラニオ
出演: ドミニク・ウエスト (ジェイムス・マクノルティ)、ランス・レディック (セドリック・ダニエルス)、ラリー・ジラードJr. (ダンジェロ・バークスデイル)、ソーニャ・ソーン (シャキマ・グレッグス)、アイドリス・エルバ (ストリンガー・ベル)、ウッド・ハリス (エイヴォン・バークスデイル)
物語: ボルティモアの裁判所で、ダンジェロ・バークスデイル (ラリー・ジラードJr.) が殺人の罪で裁かれていた。白昼の事件で目撃者もおり、有罪は堅いと見られていたが、案に相違して目撃者が証言を翻し、ダンジェロは無罪となる。ダンジェロの甥、エイヴォン・バークスデイルは一帯を仕切るドラッグ・ディーラーで、裏で金を使って目撃者を買収したのだ。事件に興味を持っていた殺人課の刑事マクノルティ (ドミニク・ウエスト) は、事件の担当でもないのに裁判を傍聴していたところを裁判官に見られており、裁判官の部屋に呼ばれ、バークスデイル一家が現在ボルティモアで力を持つドラッグ・ディーラーであることを話す。裁判官はマクノルティの上司に連絡、ダニエルス (ランス・レディック) を長とし、マクノルティやグレッグス (ソーニャ・ソーン) を集めた特別班が構成される。ダニエルスは可及的速やかに事件を解決しようとするが、相手が一筋縄では行かないことを知っているマクノルティは、もっと丹念に、念には念を入れる必要性を強調する‥‥
現在「ザ・ソプラノズ」、「Sex and the City」、「シックス・フィート・アンダー」等、ネットワークを上回る質と話題性を持つ番組の編成で知られるHBOの最新ドラマ・シリーズ。ドラッグがはびこるボルティモアを舞台に、ドラッグ・ディーラーと、それを取り締まる側との駆け引き/戦いを描く。
HBOがまたやってくれましたねえという感じである。HBOのシリーズ番組には、「ザ・ソプラノズ」、「シックス・フィート・アンダー」等のドラマと、「Sex and the City」、「アーリス」、「マインド・オブ・ザ・メアリード・マン」等のコメディの二つの系統があるが、私は圧倒的にドラマの方ができがいいと思う。以前は「ラリー・サンダース・ショウ」という、コメディでもなかなかと思える番組を放送していたが、今ではそういったコメディよりも、クリス・ロックのスタンダップ・ショウをそのまま中継して放送する番組などの方がよほど笑えるため、私がHBOのコメディ番組を見ることはほとんどなくなった。
一方で、ドラマに関しては、今やネットワークよりもHBOの方が断然充実している‥‥といっても、レギュラー番組では「ザ・ソプラノズ」と「シックス・フィート・アンダー」、「OZ」くらいしかないんだが、この3本があるだけで、もう既に他のチャンネルが霞んでいるような気がする。ネットワークにだって、「ウエスト・ウィング」や「ロウ&オーダー」、「ER」や「NYPDブルー」、「プラクティス」等、質の高いドラマはあるんだが、猥雑さも併せ持った話題性ともなると、下手にヌードや暴力シーンを描けないネットワークでは、そういった規制を持たないペイTVのHBOやショウタイムの番組にまるでおよばない。
しかし、もちろん、裸や暴力が描けるからできのいいドラマになるわけではないことは、その他諸々のハリウッド映画を見てみれば一目瞭然である。まず軸となるドラマや葛藤をしっかりと描き、その上で裸や暴力をきっちりと演出できるからこそできのよい番組になるのであって、この辺をちゃんと理解しての製作者や出演者の人選はさすがである。因みに「ワイヤー」クリエイターのデイヴィッド・サイモンは、以前にもHBOで同じボルティモアを舞台に、ドラッグに関係する人々を描く「コーナー」を製作している。
ボルティモアといえば、普通、人々が即座に思い出すのは、バリー・レヴィンソンが描くボルティモアだろう。「ダイナー」のような昔懐かしいボルティモアであろうが、「ホミサイド」のような危険なボルティモアであろうが、ボルティモアというと、すぐさまバリー・レヴィンソンという名前がセットで思い浮かぶ。デイヴィッド・サイモンのボルティモアは、「ホミサイド」のボルティモアをさらに押し進めた街であって、「コーナー」を見た時は、ボルティモアってのはこんなに恐ろしい街なのかと思わされたが、そういう雰囲気は今回も健在である (因みにサイモンはボルティモア出身のジャーナリストで、「ホミサイド」の脚本家としてTV界に進出した)。
ただし、「コーナー」はほんとにそういう雰囲気を持つスラムだけが舞台であったが、今回はちゃんとした? 社会生活が送られている、刑事の住む一般社会も描かれるため、どちらかというと「コーナー」ほど追い詰められたようなぎりぎりの状況が描かれるわけではない。しかし、その切迫感はやはり「コーナー」と同じ質のものであって、危なそうであることには変わりはない。サイモンにとっては、そういう危険な場所の方がより自分に身近な存在であるのだろう。
プレミアの回では、パートナーはいるが、やや一匹狼っぽいはぐれデカのマクノルティが、自身の口が撒いたツケを払わされ、ボルティモアでも最も組織だったドラッグ・ディーラーの一味を検挙する役回りを振られるまでが描かれる。上司のダニエルズは、部下で最も信頼の置けるエースの女性刑事グレッグスをメンバーに引き入れ、一挙に組織の壊滅を図るが、相手の用心深さを知り抜いているマクノルティは、外堀から地道に、堀を埋めていくように進めるのが一番だと主張する。彼は現在、FBIがどんな最先端の技術を用いているかを知っており、同様の技法を駆使することが捜査を進展させる近道であると確信していた。そういう盗聴 (ワイヤー) 技術を含めた虚々実々の駆け引きが第2回から描かれることになる。
この番組が従来の番組と最も際立って異なっているのは、正と悪、取り締まる側と取り締まられる側の線引きが明瞭でないことだろう。一応、一見すると当然正義は刑事の側にあり、悪はドラッグ・ディーラーであるわけなのだが、警察機構の中でも、出世や派閥、保身に関連して種々雑多な思惑が渦巻いており、単純に彼らが正義だとは言えない。一方で悪の立場のドラッグ・ディーラーにおいて、秩序立った組織と、その組織を動かす規律や家族愛は一本筋の通ったものであり、彼らにとってはこちらの方こそ守るべき道なのだ。組織の一人、ダンジェロは、偽札でドラッグを騙し買おうとする男にすら同情心を抱いてしまう。多分、彼が組織の裏切り者となって、警察が組織の内部に盗聴を仕掛ける時の密通者となるのだろう。
事実上主演のマクノルティに扮するのは、ドミニク・ウエスト。イギリスの俳優ということもあり、これまで彼の出ている作品を見たことはない。「スターウォーズ: エピソード1」に宮殿の護衛役で出ているそうだが、そんなの覚えているわけない。マクノルティとチームを組むシャキマに扮するソーニャ・ソーンは、黒人の女性刑事でしかもレズビアンという演じるのが難しそうな役なんだが、ちゃんとそう見える。黒人男性のゲイというのは大勢おり、マンハッタンを歩くといかにもそれだとわかるものに大勢ぶち当たるが、そういえば、黒人女性でゲイというのはあまり見ないなあと、番組を見て改めて思った。その他、ドラッグ・ディーラーのダンジェロに扮するラリー・ジラードJr.あたりが印象に残った。
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