World News Tonight    ワールド・ニューズ・トゥナイト   ★★★
放送局: ABC
放送日: 1/3/06 (Tue) 18:30-19:00
プレミア放送日: 1978「World News Tonight」
プレミア放送日: 1983「World News Tonight with Peter Jennings」
ホスト: ボブ・ウッドラフ、エリザベス・ヴァーガス

内容: 新アンカーを迎えた「ワールド・ニューズ・トゥナイト」。

World News Tonight 一昨年から昨年にかけ、ネットワークのワールド・ニューズのアンカーが全員辞めるか鬼籍に入るかして、ネットワークにだけではなく視聴者にも大きな衝撃を与えたことは、まだ記憶にも新しい。その後、NBCの「ナイトリー・ニューズ」のように既に後継者が決まってつつがなく転換期を乗り越えたところもあれば、CBSの「イヴニング・ニューズ」のように、まだ後継者探しに忙しいところもある。

「イヴニング・ニューズ」はアンカーのダン・ラザーが辞めた直後、CBSは新「イヴニング・ニューズ」は複数アンカーになるだろうと発表していた。ところが現在では前言撤回して、やはり「イヴニング・ニューズ」は、中心となる人物が一人でアンカーを担当する従来通りの体裁が好もしいと、180度方針を転換している。暫定アンカーのボブ・シーファーが一応問題なく現状維持していることもあり、焦らずに後継者を探すつもりのようだ。

昨夏肺ガンのために急逝したピーター・ジェニングスがアンカーを務めていたABCの「ワールド・ニューズ・トゥナイト (WNT)」の場合は、年末に、ボブ・ウッドラフとエリザベス・ヴァーガスの共同アンカーで新年から再出発するという発表があった。ジェニングスの場合、「ナイトリー・ニューズ」のトム・ブロコウのように自ら身を引いたのではなく、「イヴニング・ニューズ」のダン・ラザーのように自分の身から出た錆びの引責でもなく、病気によるものだったため、「WNT」におけるアンカーの交代は、CBS、NBCのそれに較べ、なにかしらセンチメンタルな印象がつきまとった。

今でこそ報道のABC、みたいなとらえられ方をしているが、TVの黎明期から80年頃までは、報道といえば、「グッドナイト&グッドラック」でも描かれたエドワード・マーロウや、ウォルター・クロンカイト等の著名キャスターを有するCBSが、実力、名声共にNBC、ABCを圧倒していた。次いでNBCが続き、ABCは3大ネットワークの中では最も報道関係は弱かった。スポーツ実況でこそハワード・コゼル、ジム・マッケイなんて名物アナウンサーがいたが、一般的なニューズ報道でABCがようやっと3強の一角に加わったのは、ピーター・ジェニングス、フランク・レイノルズ、マックス・ロビンソンという3人の共同アンカー体制による「WNT」が始まった、78年以降のことである。

現在、新体制のネットワークのワールド・ニューズは、複数アンカー起用が主流であるが、実はこうやって一時期、複数アンカーを模索していた時代が既にあった。歴史は繰り返すという感じがする。さらに言うと、この時の「WNT」は、ジェニングスはロンドン、ロビンソンはシカゴ、レイノルズはワシントンD.C.からと、それぞれ異なった場所からレポートしていた。つまり、今の新しい「ナイトライン」の原型を既にこの時に試していた。さらについでに言うと、ニューヨークからもバーバラ・ウォルターズが不定期にレポートしていたそうだ。

その「WNT」は83年からジェニングス一人だけの時代を迎え、新しく「ワールド・ニューズ・トゥナイト・ウィズ・ピーター・ジェニングス」が始まる。ほぼ同時期にCBSではラザーが、NBCではブロコウがそれぞれワールド・ニューズのアンカーに就任しており、我々が昨年まで認識していたワールド・ニューズ・アンカーの三羽烏の時代は、それから20年余り続くことになる。

そしてジェニングスの「WNT」は、80年代中盤から90年代前半にかけて、初めて視聴率でCBS、NBCを抑えることに成功する。この時代が、ABCの報道関係としては黄金期であった。しかし90年代中盤に代わってブロコウの「ナイトリー・ニューズ」が視聴率トップになり、その後ろを僅差で「WNT」と「イヴニング・ニューズ」が追うという展開が、ここ数年定着していた。

近年、報道に力を入れたABCは、「WNT」だけではなく、実は深夜にもワールド・ニューズを放送している。1992年から始まった「ワールド・ニューズ・ナウ (World News Now)は、深夜2時から早朝5時までという放送時間帯のせいもあり、「WNT」ほど注目されているわけではないが、ネットワークで唯一の深夜ニューズということもあって、それなりに固定視聴者がいるようだ。もちろん私もその一人である。

実は私は夕方6時半放送の「WNT」よりも、この「ナウ」の方を身近に感じる。だいたい、私はいつも不精して、夜、TVを見ながらカウチの上で横になって、そのまま数時間寝て、当然カウチの上では快適な姿勢をとることができないため、夜中に身体がヘンに凝るために目を覚まし、ついでにまたTVの続きを見るという、不精といえば不精、仕合せといえばこの上ない仕合せな怠惰な生活を至上の喜びとしている。そうすると、だいたいTVではこの、「ワールド・ニューズ・ナウ」が垂れ流しになっているということが非常に多いのだ。だいたい私のワールド・ニューズ情報は、この時間帯に仕入れたものだったりする。

おかげで私は、いくらピーター・ジェニングスがABCのワールド・ニューズの顔であるといっても、「ナウ」のアンカーであるロン・コーニングとヘザー・カボット、アンドレア・カニング、タイーナ・ヘルナンデスの方により親近感を持っていた。見る頻度で言えば、年に数回しか見る機会のない「WNT」と、感覚としてはほぼ一日おきくらいに見ているという感じの「ナウ」とでは、天と地くらいの差があるのだ。「ナウ」は深夜の肩肘張らない時間帯ということもあり、時にアンカーがジョークを飛ばしながらニューズ報道を行ってくれるというところもポイント高い。こちらが半醒半眠の状態であまりシリアスにニューズを読まれても、理解できなかったりするのだ。当然私と似たような朦朧状態の視聴者の割り合いはかなりの数に上るはずであり、それに合わせたスタンスの取り方は悪くない。

ただし私は、この「ナウ」を番組のはじめから見たことは、これまでにただの一度もない。カウチの上で寝ていたからいつも出だしを見逃しているということはもちろんあるが、それだけではなく、「ナウ」は、基本的にABCの系列の都合によって、深夜の好きな時間帯から放送を始めてもよいことになっているからだ。例えばニューヨークのWABCの場合、2時台には前夜11時からのローカル・ニューズの再放送が編成されたりする。そのため、「ナウ」が始まるのは3時過ぎからになるのだが、その時、TV画面は「既に進行中の『ワールド・ニューズ・ナウ』を放送します」というテロップが流れた後に、いきなり番組途中の「ナウ」が始まるのだ。

「ナウ」は建て前としては一応朝5時までということになっているが、実は4時半から、まったく同じ番組、同じアンカーのまま、番組タイトルが「ワールド・ニューズ・ディス・モーニング (World News This Morning)」に変わる。最初私はこのことに気づかず (実際にTVガイドを見てもABCのHPを見ても、こういう番組は存在しない)、あれ、いつの間にか番組名が変わっている、さっきまで「ナウ」を見ていたものだとばかり思っていたのは気のせいだったかと、混乱 (というかぼんやり) したことも一再ならずあった。たぶん番組名が変わる時に、別番組に切り替わる系列局があるんだろう。

さて、「ナウ」が5時まで放送された後、今度は5時からローカルのニューズが始まる (だいたいどの系列局でも「アイウィットネス・ニューズ (Eyewitness News)」と題されているようだ。) それが7時まで続いた後、言わずと知れた有名ニューズ/ヴァラエティ番組の「グッド・モーニング・アメリカ (Good Morning America: GMA)」が7時から9時まで放送される。つまりABCは、深夜、早朝、午前中、夕方、夜、と、かなりの時間ニューズを編成しており、ネットワークの中にあってニューズ番組に割く時間が最も多い。これに「20/20」や「プライムタイム」といったニューズ・マガジンまで入れたら、さらに多くなる。報道のABCと目される所以である。

そして、その中でABCを代表する報道番組となると、これはやはり衆目の意見は「WNT」ということで一致するだろう。ABC自体が「WNT」を自社報道体制の基幹番組として位置づけており、代々のニューズ・アンカーが最も重きを置く要の番組として「WNT」を見ている以上、これはもう誰が見ても「WNT」のアンカー=ABCを代表するアンカーということになる。新アンカーに抜擢されたエリザベス・ヴァーガスとボブ・ウッドラフの興奮と自負と気負いはいかにというところだ。

因みに個人的な意見を言わせてもらえるならば、ヴァーガスは服のセンスがもうちょっとよかったならと思わないでもない。ヴァーガスはだいたいいつ見ても襟なしのブラウスにジャケットという服装で、機能性一点張りというスタイルがいつも変わらない。私は特に女性アンカーだからといって着るものに目が行く方ではないのだが、その私でさえ気づくくらいなのだから、地味というかセンスがない。元々かなり美形 (今でもやはり美人の部類に入ると思うが) で知られていたわけだが、さすがに歳を重ねて近年ちょっときつい感じが出てきたために、昔と比較してそういう感じを受けやすいんだと思う。

さて、ウッドラフとヴァーガスの指名はかなり前から噂されており、ほとんど順当だったと言える。今さら「20/20」を降りたバーバラ・ウォルターズを持ってくるわけにもいかないだろうし、ダイアン・ソウヤーは早くから「WNT」に興味はないことを表明していた。実は最初ABCは、最後の大物とも言うべき「GMA」のチャールズ・ギブソンに白羽の矢を立てようとしていた。しかしギブソンの場合、ウォルターズ、ソウヤー同様、経歴は文句ないのだが、いかんせん62歳という年齢はかなりネックだ。66歳で死去したジェニングスとほとんど変わらない。たとえ「WNT」のアンカーに任命されても、重責を抱えたままあと何年番組を続けることができるかは疑問であり、口には出さなくてもABCの懸念がそこにあったのは間違いない。さらに、「GMA」の視聴率は、現在徐々にではあるが上昇しており、万年1位のライヴァル番組であるNBCの「トゥデイ」にもう少しで追いつき追い越すというところまで来ている。血の滲む思いでそこまで育ててきた番組の最も重要な時期に、やはり主要キャスターを移動させようとは誰も思わないだろう。

そこでABCはまずギブソンに、2年間だけ「WNT」のアンカーをしてもらうことを提案した。そうやってちゃんとレールを敷いて状況を整えた上で、ヴァーガスとウッドラフを晴れて「WNT」のアンカーに就けようという腹だ。ところがギブソンは、もし「WNT」をやるなら、次の大統領選挙の年、つまり2008年まではやりたいと希望した。米大統領選は、当然のことながら世界中の注目が集まるジャーナリストにとっての晴れ舞台であり、どうせなら「WNT」で大統領選を担当して勇退したいと考えたギブソンの気持ちはよくわかる。しかしABCとしてはそこまで待つつもりはなかった。そこまで待って「WNT」が振るわない結果に終わり、さらに「GMA」まで調子を落としたら、それこそ元も子もない。そこで結局この交渉は物別れとなり、当初に目された通り、昨年末、ヴァーガスとウッドラフが「WNT」の新アンカーとして発表になった。

その新生「WNT」は、年が明けた1月3日から始まったのであるが、その前日、新年早々ペンシルヴェニアの炭鉱で13人が生き埋めになるという大事故が発生したため、即座に彼らがこの大役を務め果たすことができるかという最初の試金石となった。というのも、新「WNT」はアメリカ両海岸において生放送を行うことになっていたからだ。

最初私は、ニューズ番組が生放送?、当たり前すぎてなんで人が騒ぐのかまるでわけがわからないと思っていた。そしたらそうではなく、「WNT」は、東海岸でも時差が3時間ある西海岸でも生放送をするというのだ。これにはびっくりした。基本的に「WNT」はニューヨークのタイムズ・スクエアにあるスタジオから放送されるわけだが、そこで夕方6時半からまず最初の放送を行った後、NY時間では夜9時半、LA時間で6時半にまた番組を放送するのだ。

これは結構きつそうだ。もちろん今だって、通常ローカルのニューズ・アンカーは夕方6時台と夜11時台のニューズをだいたい掛け持ちしており、場合によっては日中、早朝も担当させられる場合もある。とはいえ、それは何人もいる主要アンカーの間でそういうローテーションが組まれているからであって、その後数日間オフになるという場合が多い。しかし、基本的に「WNT」でそう簡単にアンカーを変えるわけにはいかないだろう。これでは家族と一緒にディナーをするなんて夢のまた夢の話になってしまう。

一方、その3時間の間に、大きくニューズが変わるかという疑問もある。例えば前述の炭鉱事故の場合、3時間前と後でも、状況はほとんど何も変わっていなかったりする。結局同じニューズを3時間後にまた読み上げるだけなら、西海岸でもライヴにする意味はほとんどない。他のネットワークから、このライヴ放送がただの話題集めのスタントと見なされる所以でもある。現在のところ、例えば年頭のアーノルド・シュワルツネッガー、カリフォルニア州知事の演説が、NYでは間に合わなかったが、LA版ではニューズになっていたりするそうで、必ずしも効果がないわけではないようだ。もちろんNY在住の私には西海岸フィードの「WNT」を見るつてはなく、実際に皮膚感覚としてこういう効果を感じるわけではない。

さて、その新「WNT」では、「ナイトライン」のテリー・モラン同様、ウッドラフが中東入りし、イラン、イラクを回ってレポートしていた。今、最もニューズになりやすいところに実際に人を派遣するのは、最も手っ取り早い効果的な注目を集める手段だと言える。ウッドラフはそのままイラクに滞在してレポートし、NYではヴァーガスがスタジオからまとめを行っていた。そのウッドラフが軍のトラックに同乗している時に、イラク軍に砲撃され重傷を負ったという知らせが入ってきたのが、1月30日のことである。当然のことながらその日の「WNT」は、ウッドラフ重傷というニューズから始まった。ウッドラフは生命には別状はないものの頭に怪我をして安静の状態が続き、2月現在、復帰の見込みはまだ立たない。

新「WNT」が始まってから一と月も経たないうちに状況はいきなり苦しくなってしまったわけだが、ABCもこれには頭を抱えた。いずれにしても、ここは当分ヴァーガス一人で乗り切るか、あるいはまた誰かをパートナーか助っ人としてヘルプさせるかを早急に決めなければならない。結局ABCがとった策は、ギブソンとソウヤーを交互にヴァーガスのヘルプに当てるというもので、結局、結果的にギブソンもソウヤーも「WNT」の手助けをすることになった。当座はこの体制でしのぎ、最終的にどうするかはウッドラフの回復の状態を見てから決めることになる。

そしたら明けて2月、ヴァーガスが二人目の子供を身ごもっているということが明らかになった。もちろんめでたいことではあるのだが、ということはあと数か月後には、ヴァーガスは産休に入らざるを得ない。ABCにとってはめでたさも中くらいなりといったところだろうか。ヴァーガスが休みに入った時にウッドラフがもし回復していなかったらという恐怖は、ABCの関係者なら内心誰でも感じていると思う。昨年から常に話題を提供しているというか、問題が山積みの「WNT」、今が正念場という感じがありありとするが、今年をうまく乗り切りさえすれば、今度はかなり前途は開けているという感じもするのだが。


追記 (2006年5月)
災難続きで将来が懸念されていた「WNT」、5月に入ってもウッドラフは病院から退院したとはいえまだ復帰のめどは立たず、ヴァーガスのお腹はだんだん目立つようになってきて、8月からは産休に入る。それでもこのままギブソンとソウヤーを臨時ホストにつけたまま番組を続けていく意味はあるのか。さらに番組にとって致命的な打撃となったのが、ここ数年間、3大ネットワークのワールド・ニューズで、「ナイトリー・ニューズ」の後塵を拝しているとはいえ、常にその後ろの第2位に着けていた「WNT」が、なんと現在暫定的にシーファーがホストを担当している「イヴニング・ニューズ」に視聴率で抜かれてしまったということだ。

さすがにこれ以上事態を静観しているわけにはいかなくなったABCは、ヴァーガス/ウッドラフのダブル・ホストを諦め、ギブソンを新「WNT」ホストにすると発表した。結局そういうことになったか。とはいえ、ウッドラフもヴァーガスもいなくなるという状態では、それも致し方あるまい。

一方、これまでギブソンがソウヤーと共同ホストに就いていた「GMA」は、最近、ライヴァル番組の「トゥデイ」に追いつき追い越せという上り調子にあったのだが、ギブソンが抜け、ソウヤー一人だけではたぶんその可能性はもうないだろう。とはいえ、ABCには他にチョイスはなかったろう。

「イヴニング・ニューズ」は、現在、「トゥデイ」の人気女性キャスターであるケイティ・コーリックが9月から新ホストとして就任することが発表になっている。シーファーという暫定ホストなのに視聴率が上向きになっているのは、その後の番組に対する期待という前効果の意味が大きい。激震が続く米報道界、まだまだ今年いっぱいは何が起こるか目が離せない。



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