Ice Road Truckers   アイス・ロード・トラッカーズ   ★★★

放送局: ヒストリー・チャンネル
プレミア放送日: 6/17/07 (Sun) 22:00-23:00
製作総指揮: ソム・ビアーズ、フィリップ・セガール

内容: 氷結した湖上を走るトラック・ドライヴァーたちを追う。

Ice Road Truckers 近年、ドキュメンタリー専門のディスカバリー・チャンネルが得意としている、というか力を入れている節が見受けられるジャンルに、自然の驚異、あるいは単純に限界に対する人間の挑戦もの、とでも言える一連のシリーズがある。近年のディスカバリーは、ドキュメンタリーというよりも、その手のどちらかというとエンタテインメント性に重点を置いたリアリティ・ショウの方が主体で、それなりに人気がある。

これらの番組としては、原生林や秘境でサヴァイヴァル生活をしてみる「マンvsワイルド (Man vs Wild)」、そのアイディアを極限まで推し進めた「サヴァイヴァーマン (Survivorman)」、人が嫌がる仕事に取り組む「ダーティ・ジョブス (Dirty Jobs)」、そしてこの種の番組では最も人気のある「ベーリング海の一攫千金 (Deadliest Catch)」等がある。こないだ映画を見に行ったら、劇場での本編前の予告編で「ベーリング海の一攫千金」の予告編がかかっていたから、ディスカバリーもかなり推していると見ていいだろう。

この手の最新の番組として登場した「アイス・ロード・トラッカーズ」が異色なのは、まずこれが歴史ドキュメンタリー専門のヒストリー・チャンネルのオリジナル番組であることがまずその理由の筆頭に挙げられる。ヒストリー・チャンネルも、その嚆矢はディスカバリーよろしくお堅いドキュメンタリー番組専門で、ほとんどリアリティ・ショウめいた番組は見られなかった。しかしやはりそれだけでは視聴者の獲得は難しく、近年はより人が喜んで見そうなリアリティ・ショウ製作にも取り組んでいる。その最新の番組が、この「アイス・ロード・トラッカーズ」であるわけだ。

「トラッカーズ」は、ほとんど北極圏内に入るかと思われるカナダの最奥部のダイヤモンド鉱に必要物資を運ぶトラッカーたちの仕事振りをとらえる。まあ楽な仕事ではなさそうだなというのは容易に想像がつくが、この仕事が本当に大変なのは、この仕事が冬季だけの仕事であるというところにある。この地域は基本的に山の中で、冬になるとダイヤモンド鉱は雪の中に閉ざされ、外界との交通が途絶える。とはいえ、そんなこと言っていたら仕事にならない。ではどうするかというと、冬になると、今度はトラッカーたちは氷結した湖の上を走って物資を輸送しているのだ。

こいつはかなり怖い。マジで怖い。一応綿密に事前に氷の安全性を確かめ、氷の厚さが16インチ以上になったことを確認してから氷の上を走ってもいいというお上の許可が下りるわけだが、それも絶対安全という保証になるわけではない。至る所で氷の厚さを計測しても、そこは自然のなせる技、どこかは平均よりも厚い氷が張り、またあるところでは薄い氷もできる。その上を走ればなんらかの拍子で氷が割れない保証はどこにもないのだ。お上による氷上走行の許可は、あくまでも一応の安全の目安に過ぎず、もし氷が割れて底に落ち込んだからといって、誰が責任をとってくれるわけでもない。いずれにしたって死んだら一巻の終わりだ。実際、割れた氷からトラックごと湖に落ちて死ぬトラッカーもいる。華氏マイナス40度の世界。しかしレイディオのDJが言っているように、これくらい寒くなったら華氏も摂氏もほとんど関係ない。ただただ身を切るように寒いだけなのだ。

トラッカーたちはその寒さの中を、輸送の拠点であるカナダ北西部のイエローナイフから、さらに200-300マイル山奥 (湖奥?) の、世界最大のダイヤモンド企業であるデビアスのダイヤ鉱に向けて突っ走る。それにしても、デビアスのダイヤ鉱って南アフリカにあるだけじゃなかったのか。こんな人里離れた山奥の、冬には訪れる人も絶えようかという場所にダイヤ鉱なんか掘っても商売が成り立つくらい、世の中の人間というものはダイヤを欲しがっているのか。人間の欲望、そしてその欲望がある限り成り立つ資本主義ってすごい。その中に巻き込まれると、トラック・ドライヴァーという人間の命なんか屁のようなものなんだろう。

もちろんトラッカーたちだって命を張っているわけであり、報酬はべらぼうに高い。だいたい500マイルくらいを走る一往復で貰う金は2,000ドル前後だそうだ。丸一昼夜をかけて往復した後、たぶん一日くらい休憩してまた次の輸送に入る。だいたい湖に充分な氷の張っている期間は厳冬期の2か月くらいだそうで、トラッカーはその間に平均して20-30往復くらいをこなす。つまり2か月で4万から6万ドルくらいを稼いでしまう。一家3人くらいならそれだけで充分1年は暮らしていけるだろう。あとの10か月はまた他の仕事を探してもいいし、長い休暇と考えても誰も文句は言うまい。ただし、こんな厳冬地にしか見えないカナダの山奥にも現実に地球温暖化の波は押し寄せてきているそうで、湖が凍結している期間は年々短くなってきているそうだ。華氏マイナス40度が30度になったって違いなんかなさそうな気もするのだが、そうでもないらしい。

それでも、トラッカーたちは何度も往復すればするほど金になるから、だいたいのトラッカーは多少の無理はしても仕事をしたがる。しかしいくら氷上といえども、長時間一人でトラックを運転していたらどうしても眠くなるから、彼らは本当の意味での覚醒剤に手を出して眠らないようにつとめる。もちろんそれだとやばいから、いざ仕事に入る前に彼らはドラッグ・チェックを義務づけられる。まるで競技会に挑むアスリート並みだ。それだってヴェテランならともかく、今年初めてこの仕事に取り組むというまだ二十歳前後の彼なんかは、それだけでもう緊張してしまい、検査に必要なためのおしっこがどうしても出ず、それだけで周りのドライヴァーからからかわれたりしている。それでも出ないものは出ないのだ。

湖の上を走るのは全行程の何分の一かでしかないのだが、それまでの地上だって路面は凍結しており、決して運転が楽なわけじゃない。それでも、地上からいざ湖上に入る瞬間というのはどんなに熟練したトラッカーといえども緊張する。何十トンもの重いトラックなのだ。たとえどんなに厚く氷が張っていようとも、タイヤの下で氷がきしむ音がする。これは怖い。運転しているケツの下からぴきぴきいう音がして、心臓が縮み上がらない者はいないと思う。さらにトラックを進めると、進行方向に向かって重みでたわんだ氷にぴきぴきと亀裂が走るのだ。どっひぇーっ、これは怖い。本当に怖い。TV画面で見ていてすら恐怖感を覚える。

実際、初めてこの仕事をするドライヴァーはだいたいがここでパニクるそうだ。当然だろう。どんなに金を貰おうともこんな仕事できないしやりたくない。これを撮っているカメラマンだってきっと怖いだろうにと思う。トラックに同乗あるいは同道しないといけないカメラマンも絶対イヤだ。アンリ-ジョルジュ・クルーゾーの「恐怖の報酬」を思い出す。こちらは運んでいるものがニトログリセリンというわけではないが、派手に揺らしたりして横転したりなんかしたらあの世行きという点では変わらない。実際にこんなことして生計を立てているやつがいるのか。

トラックは当然事前に念入りにチェックし、防寒仕様にして調整しているのだが、極寒である、無事何の問題もなくシーズンを終えられるトラックなんて、見ているとほとんどない。例えば、仕事前にラジエーター関係の水抜きは念入りに行われる。マイナス40度でエア関係にほんの僅かでも水が入れば、凍結して他のすべてに影響を及ぼしてしまうのだ。実際、番組第1回では先頭を走るアレックスのトラックが途中でエア抜きが必要になってしまい、数マイル走る毎に車外に出てエア抜きし、また数マイル走るということを繰り返さざるを得なくなってしまう。

この寒さで定期的にそういうことをしなければならないということだけでもかなり難儀なことなのに、だらかといって運転を休んで救援や夜明けを待ったりするわけにも行かない。エンジンを止めて暖房を切ったら凍死するが、氷上の一定位置で止まったままエンジンを動かし続けると、その振動のせいで氷が割れやすくなるからだ。いったん仕事に入ったら前進あるのみなのだ。途中リタイアは本当に死を意味してしまう。とはいっても外で仕事していて、それが手からグローヴを外さざるを得ない細かい仕事だと、十数分で指先が真っ赤になって軽い凍傷になってしまう。やっぱりこんな仕事、私は死んでもできない。

その他にも夜間にホワイト・アウトでほとんど何も見えない中を運転しないといけなかったり、スリップしてジャック・ナイフになって牽引車を待たざるを得なくなったり (湖上じゃなくてよかった)、脱輪して救援を呼ばざるを得なくなったり (これまた湖上じゃなくて命拾い)、皆さん、やはり苦労しているようであった。しかし、そういう人里離れた場所だからまだ手付かずのダイヤ鉱なんてのが残ってんだよねえ。人がこんな思いして発掘するダイヤだから値段が高いのか、と納得もするのだった。

私がこの番組を見て思ったのは、これ、映画になる、ということだった。当然「恐怖の報酬」を連想したりもしたが、これはこれでまたオリジナルのストーリーを作れるだろう。目的地は世界最大のダイヤ鉱、そこへ凍結した湖上を走って物資を輸送する命がけの行程、極寒の中、頼れるものは何もない自分一人の力だけ。そこへ暗躍してその行程を阻もうとする敵の企業スパイ。もうこれだけで「ブラッド・ダイヤモンド」か次の「007」が作れそうな気がする。やり手のハリウッド・プロデューサーなら絶対食指を動かすと思う。3年後にこういう設定で次の「007」や「ダイ・ハード」が公開されても私は驚かない。


追記 (2007年7月)
上記をアップロードした翌日、本文中で言及したディスカバリーのサヴァイヴァル番組「マンvsワイルド」の主人公/ホストのベア・グリルスが、必ずしもサヴァイヴァル生活に徹しているわけではなく、日中は屋外にいたとしても、夜はホテルに泊まることがあるということがすっぱ抜かれた。いかにも彼自身が作ったようないかだも、前もってスタッフが作ったいかだをばらしておいて、後でさも自分で最初から作ったように組み立てただけということだ。実は私が最初そのことを聞いたのはCBSのデイヴィッド・レターマンがホストの「レイト・ショウ」でだったのだが、てっきりこれはレターマンのジョークなんだろうと思っていた。そしたら本当にそうで、スキャンダル・ネタになってしまったわけだ。自然児だと思っていた男が、夜はホテルに帰ってエア・コンのついた部屋で快適に寝ているわけか。こういうのって、ちょっと詐欺だよなあ。



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