
| 「ノワール」とは? 「ノワール」の定義はできません。 私にはできないのです。何故なら、きちんとした枠の中に収まる代物ではないと思うからです。 では、定義ができないものを何で判断するのか? 私は「匂い」で判断します。 「ノワール」の匂いがするかどうか? 「ノワール」の匂いがぷんぷんするから「ノワール」である、ということですね。 独断と偏見と言われればそれまでですが、私はこのような方法で「ノワール」な作品だと選定しております。 ですから、私の「ノワール」の定義とは、 『私が「ノワール」の匂いを強く感じるものが「ノワール」である』 ということになります。 「匂い」と言われても何のことやらわからないと思うので、例をあげて説明してみます。 みなさんにわかりやすいように、最近の映画を取りあげます。 “フラッド” Hard Rain 1998 米 ミカエロ・ソロモン監督、クリスチャン・スレイター、モーガン・フリーマン主演。 この作品に、「ノワール」の匂いを強く感じました。 「ノワール」ではない部分、「ノワール」な部分に分けて述べてみます。 まず、「ノワール」ではない部分です。C・スレイターとM・ドライバーのラヴのあたりですね。ラヴはいいのですが、その根底に「善良」があります。これがいけません。 ふたりでお金を奪って逃げるのなら「ノワール」に近くなります。さらに、仲間割れして、お金の奪い合いをすれば、もっと「ノワール」です。 それから、活劇シーンです。活劇を見せるための活劇に堕しています。ストーリーが展開しての活劇がある、というのではありませんでした。 次に、「ノワール」な部分です。 お金に目のくらんだ、人間の剥き出しの欲望が描かれています。これが「ノワール」なのですね。 洪水に襲われた町という設定もいいし、夜のシーンが多いところも「ノワール」です。 「ノワール」は基本的に白黒映画であり、かつ夜の場面が多くなければいけません。 エド・アスナーの、中盤で明かされるエピソードもいいですねえ。 さらに、ランディ・クエイドが演じるキャラクターが、とても「ノワール」の匂いを放っていました。 惜しい! 実に惜しいのですよ、この作品は。凄い「ノワール」に成り得る要素があるのです。 以上で、私の嗅覚がどのように働いて「ノワール」の匂いを嗅ぎ出すのか、少しはおわかりいただけたかと思います。 なお、ここではアメリカン・ノワールをとりあげるつもりです。 フレンチ・ノワールとアメリカン・ノワールは区別すべきだと思うので、フレンチ・ノワールについては新しいコーナーを設ける予定です。 フレンチ・ノワールに関しては、既に「如是」という入り口があり、これはジョゼ・ジョヴァンニ特集になるのですが、フレンチ・ノワールと重なる部分が多くあります。 |
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深夜の告白 黒い罠 過去を逃れて |
Double Indemnity 1944 米 |
| この世は、互いの恐ろしい秘密を握り合ったふたりの人間を容れる程広くない…… ……蕗沢忠枝訳 「ノワール」のトップに “深夜の告白” 持ってきました。 脚本にレイモンド・チャンドラーが参加しており、主演がバーバラ・スタンウィックなので冒頭にコメントします。 日本題名に示されているように、深夜に保険勧誘員のウォルター・ネフ(フレッド・マクマレー)が口述蓄音機(ディクタフォン)に告白する形で描かれてゆきます。 「金と女のために人を殺した。しかし、結局、金も女も手に入らなかった。笑ってくれ」 ウォルターは悪女フィリス(バーバラ・スタンウィック)と共謀し、彼女の夫を殺害して保険金詐欺(倍額支払い特約)を企てました。 この女と関わったら大変なことになる、この女の望みを聞き入れると、きっと取り返しのつかないことになる……。 ウォルターは理性の部分ではわかっているのに、まるで蟻地獄にからめとられるようにフィリスの企みに加担し、殺害計画を立案してゆくのです。 蜘蛛の巣に引っ掛かり、もがけばもがくほど、罠糸が手足にからみついてくる、ウォルターは逃げようにも逃げられない。 計画は実行されたものの、詐欺であることを見抜かれ、抜き差しならない地点まできて、 「逃げないで、最後までいっしょよ、いいわね」 と、ウォルターがフィリスに念を押されます。 この場面、ジェリー食料品店でサングラスを外して威嚇するように言うバーバラ・スタンウィックが素晴らしいですねえ。 「ノワール」らしく、告白のシーン、殺害を実行するシーン、それから、ウォルターとフィリスの対決するシーン、と重要な場面は夜が舞台です。 エドワード・G・ロビンソンの渋味も良かったですねえ。 原作のラストは、たったの一行、 月が出た。 これだけです。この一行のラストに魅せられて、ジェームス・M・ケインに惚れこんでしまった覚えがあります。 原作のフィリスの凄味ときたら、背筋がうそ寒くなるほどでした。 |
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原作 「殺人保険」 ジェームス・M・ケイン 新潮文庫 Double Indemnity 1943 James M Cain |
Touch of Evil 1958 米 |
| 夜のシーンが多いというのがフィルム・ノワールの特徴ですが、 “黒い罠” は夜から始まり、夜で終わります。 白黒ならではの光と影のコントラストは、鮮やかというより、巧妙に使われています。たとえ昼間であっても、室内のシーンでは壁に影を落とさせるなど、ウエルズは光と影に凝っています。 裏切りと殺人はフィルム・ノワールには欠かせません。 ここに描かれている裏切りはハンク・クィンラン(オースン・ウエルズ)を裏切るピート・メンジーズ(ジョセフ・カレイラ)です。ふたりとも相応の結末を迎えることになります。 殺人の犠牲者はアンクル・ジョー・グランディ(エイキム・タミロフ)。このシーンは見ごたえがあります。窓の外でネオンが点滅していて、ネオンの光が射し込み、明暗の明滅のなか、かたわらには額に汗を浮かべているジャネット・リー……、この殺害方法には深い意味があり……、とさすがにオースン・ウエルズ、このシーンは圧巻です。 フィルム・ノワールは舞台となる都市が重要です。この “黒い罠” の舞台は国境の町ティファナ、犯罪・汚職・麻薬汚染などが渦巻く混沌とした国境の町の雰囲気がありました。 (実は、ヴェニスで撮影されたそうですが……) 1993年にリバイバルされたものは「完全版」ということでした。公開時とは別ヴァージョンということならいいのですが、「完全版」とは……? オースン・ウエルズにとっては「不完全版」ですよ。そもそも、オープニングの長いクレーン・ショットにクレジットを入れられたことに彼は腹を立てていますから。 私も、あのクレーン・ショットに文字がかぶさるのには不満です。 オースン・ウエルズは “黒い罠” で、もう1ヶ所、とんでもないクレーン・ショットをやっているんですよ。私も、最初はぜんぜん気づきませんでした。 マレーネ・ディートリッヒの出演シーンはほんのわずかです。しかし、ディートリッヒという「天使」が登場したおかげで “黒い罠” はいちだんと素晴らしい作品になりました。 ラスト、「ハンク!」と大声を出して走ってきてから、河を流れてゆく死体を見つめ、 「He was Some Kind of Man」 とつぶやくあたり、忘れられないシーンです。 余談をいくつか……冒頭で爆殺されるリネカーの娘マルシア役はジョアンナ・ムーアです。ジョアンナ・ムーアはティタム・オニール、グリフィン・オニールのママです。 ジャネット・リーがモーテルでいたぶられるとき、壁から声が……メルセデス・マッケンブリッジはやっぱりこわいです。( “エクソシスト” の悪霊の声ですから) オースン・ウエルズの盟友ジョセフ・コットンもツー・カットぐらいかな……出演しています。変装(?)してますからわかりにくいですね。 |
Badge of Evil 1956 Whit Masterson |
Out of Past 1947 米 |
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◇現在 ジェフ・ベイリー(ロバート・ミッチャム)はカリフォルニアのブリッジポートという小さな町でガソリンスタンドを経営し、静かに暮らしている。 地元の娘アン(ヴァージニア・ヒューストン)と親しくなり、いっしょに釣りなどして静かに生きているのだ。 「あの入り江のそばに家を建てて、きみといっしょに暮らしたい」 ◇過去 数年前、ジェフはニューヨークで私立探偵をしていた。 賭博場を経営しているギャングのスターリング(カーク・ダグラス)の依頼を受けて、スターリングの愛人キャシー(ジェーン・グリア)を連れ戻す仕事を引き受けた。 キャシーはフイッシャーという男とともに、スターリングの金4万ドルを持ち逃げしたのだった。 キャシーを追跡したジェフはアカプルコで彼女を発見する。 しかし、キャシーは金を盗んだことを否定し、その魅力でジェフを虜にしてしまう。ジェフはキャシーとサンフランシスコに逐電する。 ふたりの隠れ住処をフイッシャーが見つけ出し、キャシーはフイッシャーを射殺、銀行預金通帳から、やはりキャシーが盗んでいたのだとわかる。 ◇現在 ブリッジポートにスターリングの子分が現れ、再びジェフはスターリングの仕事をしなければならなくなる。 キャシーはスターリングの愛人として元の鞘におさまっていた。 そして、ジェフは罠に嵌められ、2件の殺人容疑者として追われることに……。 この “過去を逃れて” はフィルム・ノワールの傑作といってもいいでしょう。 原作のジェフリー・ホームズ著「俺に高い絞首台を作ってくれ」を読んでいないのですが、映画化された作品は出色の出来です。 まず主人公のジェフ、穏やかな堅気の稼業をしているのですが、過去からは逃れられない……これが邦題になっています。そして再び、出口のない世界に戻ってゆくのです。甘美な誘惑とでも言えばいいのか、そういう世界の住人だったわけです。このあたりがノワールですね。 このような主人公をロバート・ミッチャムが演じていて、実にぴったりなんですね。 フィルム・ノワールには魅力的かつ鮮烈な悪女が登場しなければなりません。この作品ではジェーン・グリア演じるキャシーという女、その美貌と戦慄的な行動パターン、まさにノワール美女にふさわしい圧倒的存在感です。 当然、ノワールですから夜のシーンが多く、アカプルコのシーンなど、わざわざ夜のシーンしているだけあって、雰囲気がよく出ています。 ラストに向かって、ふたりは昏い道程を歩んでゆくあたり、見事なノワール的結末です。 ロンダ・フレミングが少しだけ登場します。 あまり重要な役どころではありません。 |
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