谷プロジェクトいるかHotel破稿 銀河鉄道の夜

1999.02.11(木・祝) 於:下北沢駅前劇場 18:00開演の回 桟敷席二列目中央やや左で鑑賞

【物語】

 センター試験をあと三ヶ月後に控えた10月、高校の放課後、演劇部の部室。カナエ(三谷)は受験勉強に身が入らず、引退したというのに演劇部の後輩の練習につきあったり、発声練習をしたり。友達のサキ(宇仁菅)の忠告も聞き入れず、三者面談もすっぽかしてしまう。

 一年の高校生演劇大会でやった「想稿 銀河鉄道の夜」の台本を開くと、どこからともなく小学校からずっと一緒だった親友、トウコ(松本)が現れる。「想稿〜」を出品作にした高校演劇の県大会のこと、一生懸命やった練習のこと、おかしな先輩や部員達、先生達のこと。カナエが一生懸命推したBGM、「銀河鉄道999」の本番用テープ。
 「演劇は風に書いた文字」。幕が下りれば残るのはただ思い出だけ。だから使った台本もただの紙。鴻上兼史やら北村想やらのエッセイからつぎはぎして先輩が作った部訓。作った芝居が終わると、円陣を組んで一斉に台本をちぎり空に放り投げる伝統儀式。
 次から次へと思い出を語り合って、はしゃぐ二人。

 けれど、もう幕は下りてしまった。進路のこと、受験のこと、現実に向き合わなければならない時が訪れている。いつまでも楽しかった頃の思い出にひたっていてはいけない、と言うトウコ。彼女が死んでしまって二年も経つのだから、前を向いて歩かないと。そう、「想稿 銀河鉄道の夜」の台本を開く時だけ、カナエはもうこの世にいないトウコに会えるのだった。

 台本を破ろう。演劇は風に書いた文字なのだから。いつまでもこうしてちゃいけない。促され、トウコとの別れのつらさにためらいながら、泣きながら、心を引き裂かれる思いで、儀式の言葉を唱えながら台本を引きちぎるカナエ。

 ばらばらになった台本を片づけ、県大会用に作った「999」のテープをデッキにかけた時、部室がはげしく震動する。トウコを迎えに、銀河鉄道が停車したのだった。発車間際、トウコは「想稿〜」のカンパネルラの台詞を口にする。「これから出会う全ての人達をカンパネルラだと思って。」

 三者面談から戻ってくるサキに、カナエは言う。「とりあえず、受験勉強するわ。」現実に向かって、前に歩きはじめたカナエ。

 予備校に行くために二人が部室を去ったあと。電気も消え、無人となった部室。かすかな音が響き、オートリバースでテープをB面に変えたラジカセが再び「999」を流し始めた……。「さあゆくんだ、その顔を上げて。」 

【感想】

 「破稿」は、「やぶれこう」と読む。切なくてでもとても前向きな気持ちになれる、どこか懐かしい作品。

 舞台セットが良くできていた。古めかしい、木造校舎っぽい部室。正面に(恐らく芝居の小道具なのだろう)雨ざらしになった木のベンチがあり、隅々に積み上げられる段ボールや衣裳、カンカン帽。文化系の部室に良くある、ファンシーボックスに入った部員持ちよりの文庫やら漫画やら。天井からつり下げられた、エジソンランプっぽい、黄色じみた色合いの電球たち。リアルなのだけど、どこか懐かしさ、失ったものを見ているかのような気持ちのしてくるセット。

 効果音の使い方がとても印象的。何度もとちって頭を合わせるブラバン部の練習の音、階下へ降りてゆくサキの足音、観客に見えるのは部室だけなのだが、部屋の外につながる校舎、グランドの空間が、学校の存在感が、ハッキリと伝わってくる。目に見えるかのように。BGM(ニューシネマ・パラダイスのテーマ、銀河鉄道999)の使い方も抑え目で◎。キャラメルとかピスタチオみたいに「これでもかー!」な使い方をするんではとヒヤヒヤしたけれど、良心的だ。ラスト、オートリバースで再び流れ出す999も心憎く、切ない使い方。

 「演劇は風に書いた文字。幕が上がればただの紙。」二人の少女が何度も口にする部訓は、そのまま死んでしまった親友と、彼女と共にいた時間を引きずって現実と向き合わないカナエの姿を示唆している。

 カナエと同様受験勉強から逃げ出して部室にやってきたのか、あるいは高校を中退してしまったのかと思わせられたトウコが実は二年も前に死んでいたという事実を、なんの力みもない「私が死んでから……」というシンプルな台詞ひとつ、しかも他に照明や音楽等の効果を加えずにで知らせる巧みさにむう。よい。

 カナエの思い出から解き放たれたトウコを迎えに来る、銀河鉄道。汽笛が鳴るとともに、震動で部室が揺れる。それを天井に連ねて下げた電球の揺れ、車窓から漏れる光の通過によって表現した。

 一点気になったのは、カナエの決断について。「高校を卒業したら大学へ行くのが当たり前だと思っていた」ことに迷いを感じたのに、トウコという過去の思い出と別れ、現実と向き合い、前に進む決意をした彼女が口にしたのが「とりあえず、受験勉強する」というのはちょっと納得いかない。型にはまらない、本当にやりたいことを見いだす、彼女独自の進路を見いだす、という方向付けをした方が自然だったのではなかったのだろうか?あるいは、作者はカナエはまだ自分らしい進路を発見し、歩きはじめる準備ができていない。だから「とりあえず受験」というせりふを言わせたのだろうか。それとも、本来高校演劇コンクールに出品した作品だということなので、なんというか、たてまえ的な結論に持っていかざるをえなかったのだろうか……?
 ただ、それは大人になってしまった私だから思うことなのかもしれない。「まず前向きに生きることから始めよう」という力強さに満ちた作品なのだ。そして、高校三年生の身の丈をつま先立ちせず描くなら、きっと「大学受験」はすごく身近で切実で大切な現実なのだ。うん。

 忘れていた何かが胸の中でよみがえってくるような、そんな作品だった。高校時代、私は漫研と文芸部に所属していたのだが、その頃のことが次々と頭をよぎった。思い出したくないことも、楽しかったことも。不思議だ、もう何年も思い起こさなかったのに。おそらく、高校(生活も、場所としても)のディテールを丁寧に再現した舞台が、私の中に眠っている「高校時代」を揺さぶり起こしたのだろう。

 本来マチネを見に行くつもりが、遅刻したためソワレになった。千秋楽だったのが残念だ。もう一公演あれば、もう一度観劇したのに。

【DATA】

1999.02.09(火)〜11(祝) 於:下北沢駅前劇場 公演はすべて終了。

演出:谷省吾
作:水野陽子(原案・監修:谷省吾)
キャスト:三谷恭子(売込隊ビーム) 松本知佐 宇仁菅綾
舞台監督:篠恒雅男
照明:三浦あさ子
音響:中田摩利子
美術:岡一代
演出助手:河部文
制作:あべじゅんこ

問い合わせ:いるかHotel(0798-68-1128)