74(「烈々宙王」のチラシ)

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2月20日

長・吉村やよひは、先週末まで、下北沢で椿組の「春の海月(くらげ)」 に客演中であった。
久しぶりに、ひげの無い現代の女性を演じる。勿論、それは前もってわかっていたことなのだが、もはや座長にはひげがあるのがあたりまえになっているので、実際に舞台上でひげがない吉村を目にすると、やはりちょっとびっくりする。

座長は、少し機嫌の悪そうな妹の役であった。
不機嫌そうに黙り込むシーンが何度かあり、そのたびに、次の瞬間突然暴れだすのではないかと、無意識のうちにおびえながら観ている自分に気付いた。

ともかくそんなわけで、長の客演は無事に終了した。

一方、丁度そのころ、
ひげ太夫の次回公演のチラシができあがってきた。
今までは、中国を思わせる物語が多かったが、次回は物語の舞台がもう少し西に進む。具体的にどこの国かは定かでないが、ともかく今までの物語よりも、うんと西の方である。

チラシのコピーは、「目もくらむ出し物芸、ついに西アジアに進出」だ。

***

ラシの撮影は、たいてい、座長にスケジュール確認の電話をかけたときなどに、「じゃ、明日、撮影する?」といった具合に唐突に決まる。
だからここ何回かは、その急な招集に対応できる出し物師だけが参加することになっている。

今回、その役は、神宮になった。

いままで撮影していた新宿の公園は、何かと物騒になってきたので、今回は自宅からほど近い川原で撮影を行う。

1月の始めのことである。
撮影は昼過ぎから、ということであった。
神宮は時間通りに、おみやげまで持参してやってきた。

座長はいつものように、
遅刻してやってくる。撮影前に何か食べなくても大丈夫かと尋ねると、「目が覚めてから、おまんじゅうを食べてきたから大丈夫」と言い、神宮とともに早速準備にとりかった。

余談になるが、座長をみると、なぜかつい、空腹でないかを尋ねてしまう。悪い癖だ。座長はもう立派な大人なのだから、顔を見るたびにそんなことを尋ねるのはどうかと思うが、しかしどうもお腹をすかせていそうに思え、ついつい訊いてしまう。
ところが、この撮影の数日後
、古参出し物師・鍵原から偶然聞いたのだが、神宮の方が、座長よりも、空腹度が高いらしい。
神宮は、なぜかいつでも、すっごくお腹をすかせているんです」とのことである。
しまった。座長の方に気を取られていて、神宮に空腹かどうかを尋ねるのを忘れていた。少し反省した。

もかく、2人は、カバンから衣裳やメイク道具を取り出して準備に入る
神宮は、持参した衣裳に着替え、「巻き方を練習してきました」と素早く頭に布を巻きつけ、携帯のカメラで自分を撮ったりしている。クールである。

なかなか決まらないのは座長の方だ。
2種類の衣裳を持参していた。それぞれ、上下3枚ほどから構成されているので、全部身に付けて、さらに、数枚の布を巻いたり、腰に結んだり、肩からたらしてみたり、もう体中布だらけになって、立ったり座ったり後ろを向いたりして、鏡の前で悩んでいる。

やがて、「ちょっと布の巻きすぎではないだろうか」、という意見が出て、少し
布を減らす。こうしてようやく衣裳が決まり、それからメイクに取り掛かる。
今回は、物語の舞台がいつもより西方であるため、今までとの違いを強調しようと、張り切ってひげを増量している。
しかも巻き毛風。さらに、強い日差しに照らされた感じを出すために、おでこや鼻のまわりのシワも、鏡を見ながら注意深く描き入れている。

こうして、迫力のある表情になったのはいいが、しかし、ちょっと「怖い」。

ともかく、準備が完了し、ようやく外に出たのは2時過ぎだった。
このメイクで集合住宅のエレベーターに乗るのは緊張する。途中の階で乗ってきた住人に、座長神宮は無言のまま静かに会釈した。


原に出た。少し離れた場所で、正月らしく、タコ揚げをしている子供が何人かいるだけだった。
明るいうちに、動きの激しい撮影をしようということで、剣を持ってジャンプしたり、走ったり、はだしで土手を駆け上がったり、繰り返し動いてもらった。



こうして、我々が刀をもって走り回っているというのに、そこへヨチヨチ歩きの幼児が、ひとりで近くによってきた。
危ないと思って横目で気にしながら撮影をしていると、母親が駆け寄ってきた。座長よりもはるかに若い感じの母親だ。

子供を連れて戻るのかと思ったら、その母親はしっかり子供を両腕にだきとめ、そこに腰をおろした。どうやら子供と一緒に見物することに決めたらしい。ヒーローショーの見物といった感じだろうか。

時々、自転車に乗った人や、犬の散歩をしているおじさんが、こちらをみながら通り過ぎていった。

(散歩中のシベリアンハスキーと、こちらを見ながら歩く男性)


部分拡大)


部分拡大)





3時を過ぎると、もう日が傾き始め、そこで動きの速い撮影はあきらめ、作戦会議でもしているような感じで座ってもらい、あとは自由にうごいてもらって撮ることにする。


(↑この写真が、チラシ裏面の画像↓になった)



こうして撮影は3時半ごろに終了した。先ほどの母子は、最後まで我々を見物していた。

座長は、顔を洗ってひげを落とし、空腹のまま、椿組の稽古場へと向かっていった。

***

影後早速、人物と背景を組み合わせ、いくつかのラフ案を作成した。
そして結局、今回のチラシは、こんな具合に仕上がった。

が、実はこのほかにもうひとつの別案があり、最後までどちらにするのか決めかねていた。これがそのもうひとつの案である。

座長
電話で話しながら、どちらの案がよいか、繰り返し検討を続けたが、どうにも判断がつかない。

大体こういうのは、ずーっと見ていると、何がなんだか分からなくなってくるものである。
そもそも、我々は座長ひげがついているほうがあたりまえで、ついていないとびっくりするのだから、すでに、自分たちの判断基準をあまり信用する事は出来ないだろう、という話になった。

そこで、何人かに、第一印象を尋ねてみた。
「ジャンプしているのは顔が怖すぎていやだ」という人がいた。案の定、である。
しかし、「個人的には、ジャンプしている方が好き」という人もいた。「勢いがあっていい」という人もいた。
一方、別案の方が、「おかしみ」があっていい、という意見もあった。

結局のところ、どちらがいいか、意見はほぼ同数なのであった。たずねる人を増やしてみても、なぜかこの比率はかわらないのである。

散々迷った挙句、結局、勢いを重視して、今回はあえてシンプルな方でいくことになった。

***

の客演が無事に終わり、いよいよひげ太夫第13回公演の稽古が始まりました。次回公演では、新たに、出し物師が2名加わります。近々皆様にご紹介できる予定です。

次回公演は

 『 烈々宙王 (れつれつちゅうおう)』
  4月16日(水)〜4月20日(日) 
  こまばアゴラ劇場

チケット発売日は、2月26日(水)です。



皆様のお越しを、出し物師一同、心よりお待ち申し上げております。



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