ひげ太夫の宣伝美術・渡辺佳代による出し物師達の観察日誌

77(パルテノン多摩の大階段で出し物をする) 

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4月29日

ルテノン多摩で行われる、アートバザールというイベントにひげ太夫が出演した。

アートバザールとは、パルテノン多摩小劇場フェスティバルと
同時開催されるアートのイベントで、その最終日の「ファッションデイ」に、ひげ太夫も13分ほどの出し物で出させていただくことになっていたのである。

( アートバザールの公式HPはこちらです。詳しくは、こちらをご覧下さい)

しかし、その肝心なときに、座長は再び松葉杖生活に戻っていた。
松葉杖を使わない方が早く治ると考えて、前回公演中からなるべく自力で歩くようにしていたらしいのだが、医者によるとそれは逆効果で、「今後は私がいいと言うまで必ず松葉杖を使いなさい。じゃないと、半年間、棒に振りますよ」と厳しく言われたのだという。

ということは、状態は、前回公演中よりむしろ悪化しているという事ではないか。

慣れない松葉杖のせいで、階段で倒れそうになったとか、電車で親切な女の子に席を譲ってもらってありがたかったとか、家では四つん這いで暮らしているとか、聞いてみるとかなり大変そうな生活である。

それでも本人は、「そりゃ、思う存分動けはしないけど、10分程度の出し物なので何とか乗り切れると思う。初めてのお客様と出会えると思うと、わくわくする」と、あくまでも強気な態度である。

それ以上詳しい情報は入って来ず、そして当日になった。

***

日、当方は、開演の少し前に、会場に着いた。
会場というのは、パルテノン多摩の外壁の大階段である。

そろそろ開演の時間ではあったが、ひげ太夫の出番は最後の方だったので、控え室がある4階へと行ってみる。
出し物師たちは、会議室を借りて
リハーサルをしていた。
最初、座長(手前)は、松葉杖を机に立てかけ、床に片ひざをつき、自分は暴れずに、口頭だけで皆に指示を出していた。

と思ったら、急にこんな風に人の上に乗り始めるので驚いた。

下の人は、背中に杖の先が刺さって痛くはないのだろうか、と少し心配になるが、別段痛がっている風でもなかった。
ともかく、座長出し物師たちも、いままでとは一味違う技を、あれこれ工夫して今日に臨んでいた事が分かった。

***

回の演目は、昨年のエンブナイトで出したのと同じものである。ただし、骨折バージョン」である。

当方は、客席から撮影をさせてもらうことにする。
一足先に会場へ行き、階段前の広場に座って、他のプログラムを楽しむ。

やがてひげ太夫の出番になり、出し物師たちがお経のような低い声で唸りながら、しずしずと一列に並んで登場してきた。

すると
、背後にいたお客様の中から、「あ、松葉杖」、とささやく声が聞こえた。
そして、周囲もほんの少しざわついた。

もしかしたら、お客様も一瞬、戸惑われたのかもしれない。

しかし、今回は、松葉杖で諸国を旅する男の物語である。だから思い切り松葉杖を使ってかまわない設定なのである。


会場のお客様からも、次第に笑い声が起こってきた。座長はいよいよ調子よく、松葉杖を逆手にとって暴れだした。


戦ったり、


船に乗ったり、


武器にしたり、

飾りにもする。



そして、何があっても、上に乗るときは乗る座長


最後の方のセリフで、
「世の中に、『無理』なんてことあるものか、俺だって、骨折していても、組体操の上に乗れたじゃないか!」
と力強く言い放ったときの座長は、かなり誇らしげに見えた。
そして、それはまた、持ち上げている下の出し物師達のおかげでもある。片足がギプスの人間を乗せるのだから、下の人にも相当な苦労があったに違いない。

それにしても、空が広くて気持ちがいい。


後から聞くと、出し物師達は、ものすごく緊張していたという。
ひげ太夫を知らないお客様ばかりの前で演じるのは、日頃の舞台の緊張とはかなり違うらしい。

ともかくこうして、無事に出し物は終了した。その後は、この日の出演者全員による盛大なファッションショーのフィナーレが行われ、アートバザール「ファッションデイ」は華やかに終了したのであった。


5月2日

刻、手渡すものがあり、バイト帰りの座長と路上で待ち合わせた。

やってきた座長の松葉杖の使い方はさらに上達していた。
その後の足の状態を尋ねると、
「松葉杖をうまく使えば、普段よりも早く歩ける」と座長は、少し怒ったような早口で言った。
「松葉杖を前に出す間に、もう片方の足でケンケンを入れるともっと早い。サラリーマンなんかごぼう抜きだ」と、突然、ものすごい勢いで、松葉杖をついて前の方に進んで行ってしまった。

そんなに急ぐ事も無いと思うが、
多分、弱っていると思われたくなかったのだろう。

同じ方向に歩いていた勤め帰りの人が数人、気配に驚いて振り返り、そして慌てて道をあけた。
その人たちに軽く会釈をしながら、座長の後を小走りで追う。座長は自転車置き場で自転車を出すと、カゴに松葉杖を入れ、「じゃ」と片足でこぎながら意気揚々と引き上げて行った。
ともかく、元気な様子ではあった。

そして気が付けば、もう次の公演の準備に入らなくてはならない時期になっているのである。
数日中には次のチラシの撮影をしなくてはならない。現在、撮影場所をあれこれ検討しているところである。

***


と一月ほどで、座長は全快する見込みです。次の公演では、思い切り、「切れ」のある出し物をご披露すると当人も申しております。
皆様のお越しを、一同心よりお待ち申し上げております。



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