ひげ太夫の宣伝美術・渡辺佳代による出し物師達の観察日誌

78(「厳目綴り」のチラシ) 

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6月11日

だ前回公演の舞台写真をHPに掲載もしていないうちに、気がつくと、次回公演「厳目綴り」のチラシを作成しなければならない時期になっていた。
仮チラシとほぼ同じイメージで作成したこの背景に、新たに撮影した人物を配置することになった。
撮影は、ゴールデンウィーク後の土曜日、とある公園で行うことになり、
座長のほかに久々に鍵原登場してもらうことになった。

***

日の午後、座長鍵原も布袋2杯くらいの衣裳をもってやってきた。この時点ではまだ物語の詳細は決まっていないので、それらを羽織ったり脱いだりしつつ、座長が頭の中で思い描いている今回の物語のイメージを聞いて衣裳を決めていく。

上着を脱ぐ度に座長は、「最近腕の筋肉が増えた」と言っては何度も力こぶを見せるので、まずそういった感じの写真を撮ることを提案する。

座長はあまり乗り気ではなかったが、「今まで一度も見たことない雰囲気だ」と当方が言い、鍵原も困ったように「確かにランボーみたいで、見たことない感じです」と言い、やがて座長もほんのちょっぴり乗り気になった。そんなわけで、ひとしきり、こんな写真を撮る。



座長は最初、「え、どうなの、どう見えてるの。今回はクールな役柄なんだけど、どうなの」とぶつぶついいながら、しかし、次第に調子が出てきて、力こぶを思い切り見せながらポーズをとった。

ランボーみたいなのもあったし、葉加瀬太郎氏のようなのもあった。

その後、もう少し厚着の衣裳に着替えて、座長の撮影は終了した。


一方、座長を撮影する間、鍵原は、大忙しである。

レフ板を持ったり、

(レフ板を頭のうしろに置いているのは、合成するときに頭髪部分の切り抜き作業をラクにするためである)


座長の首に巻いた布が風になびいているように見せるために、持ち上げてはためかせてみたり


荷物を置いた場所と撮影場所が20メートルくらい離れていたため、自転車に乗ってパトロールもしていた。


次に「途方も無い取引を持ちかける謎の男」を演じる鍵原を撮る。

「近寄ってきたかわいくて大きな羊が、でもよくみたら結構汚れていたのでちょっと困った。という表情をお願いします」などと注文をしながら撮る。

***


真は当日のうちに出来上がり、どれもなかなか面白い雰囲気だった。
しかし、出来上がった写真を見て、座長がものすごくいやそうに笑いだした。
「この『ランボー』みたいなの、暑苦しすぎる」。
それに、どこか「しな」を作っているような感じがいやだ。と座長は続けて言った。当方が変なポーズをつけたのがいけなかったようだ。

「今回はクールな役にしようと、頭の中に色々思い描いていたのに、これでは全然心穏やかに見られない」

なるほど。
そこで帰宅後、試しに少し飾りをつけて、暑苦しいなりに、どこかほがらかな印象になるように加工を施してみる(右)。
 
だめだ。ますます座長が気に入りそうもない雰囲気になってきた。そこで、この衣裳で撮影した写真を大きく使うのは断念し、後方に小さめに配置することにした。

かわりに、メインに使うのはこちらの厚着の方のにする。「ランボーを撮影して、なんだか楽しい気分になったのか、随分と力のこもったいい表情をしているじゃないか」と、フィルム代が無駄になったと思わせないように、当方は『ランボー』の効能をそれとなく口に出したりしてみた。いや実際、かなり気迫のこもった表情といえるだろう。ちょっと悪人面ですらある。


前は、ラシの撮影を稽古場で行っていたが、稽古場よりも、屋外の方が、断然良い表情になる。
行き交う人の不審そうな視線を跳ね返しながら撮影することで必要以上に気迫がみなぎるからか。
そしてもうひとつ。犬の散歩が頻繁に通ることの影響も大きい。心の広い飼い主さんが、抱かせてくれたりもする。
動物を触ったりしていると、だんだんばかばかしさと大まじめさが交じり合って、ひげ太夫のチラシにぴったりの顔つきになってくる。

この犬は、最初、駆け寄ってきて、座長に激しくじゃれついた。嬉しくなった座長が飼い主さんに向かって、控えめに、「あの、抱いていいですか」、というと、「だめ」という返事だった。
あたりまえだ。「ひげ」や「もみあげ」を描いて、こんな暑苦しい衣裳をつけた変な大人に、愛犬を抱かせたくないのは当然だ。と思っていたら、30分程して戻ってきて、こちらが何も言わないうちに、「抱いてもいいわよ」と言って抱かせてくださったのである。

こうして、なんとか写真を選び、動物をいくつか配置し、影をつけたりぼかしたりして、期日までにチラシは完成した。

***


ラシの入稿には、いつも細川が行ってくれるが、今回は当方も一緒に行かせてもらった。

印刷所で、担当の方と納品先のことなどを一通り話終えたところで細川は、チラシをジーっと眺め、「このネコは、どこのですか」と突然訊いてきた。
「魚をくわえたネコなんて日本ではみませんよね。それに、形が日本のネコと違う」

チラシの下のほうに小さく配置してあるネコのことである。

このネコは、ギリシャを旅行中に撮ったネコだった。

港で釣りをしていたおじいさんを見かけ‥‥

近寄っていって、身振りで写真を撮ってもいいか訊ねてみた。おじいさんはにっこり笑って頷き、そして、さっき釣った魚を、体をねじって少し離れたところに放り投げた。

すると投げたところにはこのネコがいた。
猫は素早く魚をくわえると、しっかりこちらを見ながら走り去った。つまりおじいさんは、写真用に、釣った魚を一匹サービスしてくれたというわけだ。
と、その場で印刷所の方をお待たせして、ここまで細川に説明する時間はなかったが、そういうわけでこのネコは魚をくわえているのである。

おじいさんありがとう。おかげでチラシになりました



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