【作品紹介】
第248回例会 こまつ座
父と暮らせば
父と暮らせば いかなるときにも変わらない
人間の尊巌を、市井の名もなき父子に託した、
井上ワールド。
●スタッフ
作=井上ひさし;演出=鵜山仁

●キャスト

辻萬長,西尾まり

〔上演時間1時間20分〕
    
●会員手帳
昭和23年、原爆投下三年後の広島。図書館に勤める美津江は生き残った負い目を感じながら、ひっそりと暮していた。

原爆資料集めに情熱を注ぐ木下青年の好意にいつしかひかれていくが、頑なに幸せになることを拒む。父、竹造は何かと、美津江の心をひらかせようとするのだが...

●公演ビラから
■初演から十年。これまでに、すまけい・梅沢昌代、前田吟・春風ひとみ、沖恂一郎・斉藤とも子の三組の、珠玉のようなキャストによって、八演計二六九回の上演を重ねた不朽の名舞台。北海道から沖縄まで、全国一一一カ所を巡演し、二〇〇一年のモスクワ公演でも盛大な喝采を浴びたあの名作が、三年ぷりに、新しいキャストを迎えて、ついに始動する!

原爆投下から三年後の広島を舞台に、父と娘の精繊な対語が織りあげる、ほのかな恋の物語。しかし核兵器の、人類の存在をも脅かすそのおぞましい力は、可憐な娘の心にも大きな傷跡を残していた。生きる喜びを失くしてしまった娘にふたたび希望の光を甦らせるために、いま、父は全身全霊で娘に語りかける。

■ヒロシマ、ナガサキの話をすると、「いつまでも被害者意識にとらわれていてはいけない。あのころの日本人はアジアに対して加害者でもあったのだから」と云う人たちがふえてきた。たしかに後半の意見は当たっている。アジア全域で日本人は加害者だった。

しかし前半の意見にたいしては、あくまで「否!」と言いつづける。あの二個の原子爆弾は、日本人の上に落とされたばかりではなく、人間の存在全体に落とされたものだと考えるからである。あのときの被爆者たちは、核の存在から逃れることのできない二十世紀後半の世界中の人間を代表して、地獄の火で焼かれたのだ。だから被害者意識からではなく、世界五十四億の人間の一人として、あの地獄を知っていながら、「知らないふり」することは、なににもまして罪深いことだと考えるから書くのである。おそらく私の一生は、ヒロシマとナガサキとを書きおえたときに終わるだろう。この作品はそのシリーズの第一作である。どうかご覧になってください。