慶応義塾劇研:迷宮ラビリンス:公演感想「耳の演劇とは何か」(1) 00-06-30          1.劇場への路  6月の雨はどうやら降るだけふったのだろうか? 日吉キャンパスは夕暮れがちか く、学生は駅に向かっている。わたしは正門から劇場へ歩きながら、ふと86年を思 いだした。この日吉の近辺は住宅塗装のセ−ルスでよく歩いた。慶応大学の反対側そ して大学の裏側と。しかし、わたしは一軒も契約がとれなかったのである。大きな運 動場で応援団が声をからし訓練をしていた。しかし梅雨の季節のせいだろうか、どこ となく暗いのである。キャンパスを歩く学生もそれぞれがタコツボに入っている閉塞 感がある。しかし、批判的な眼による世界像は、自分の世界を実は映し出す鏡である。 タコツボに入っているのは、わたしであり、閉塞しているのはわたしなのだ。そして 現在の世界とは迷宮である。  開演までまだ時間があるので、生協でタバコを買おうと、行ったが、すでに閉まっ た後だった。「5時でおわりですから」と若い店員が云う。それではしかたがない、 日吉駅までいこう。自動販売機では150円の「エコ−」は売っていない。帰りの電 車賃を確かめながら、もういちど正門を出たとき「オオスッ」とガ−ドマンに大きな 声であいさつをした。  日吉図書館入り口前は広場である。「天はひとの上にひとをつくらず、ひとの下に ひとをつくらず」福沢諭吉銅像そして大きなイチョウの大木、梢の葉たちが風とたわ むれている。わたしが福沢諭吉のこの言葉を教えられたのは小学5年生のときだった。 長い廊下を歩いていた。休み時間、校庭での集団遊びから教室に戻ると、女子たちが 「これからみんな視聴覚教室に来なさいって」わたしはみんなの後からついていった。 たしか教育テレビだったと思う。空の映像と福沢諭吉銅像が画面に映し出される。空 の映像、そして音声は格調をもって「天は・・・」と語るのである。その言葉にわた しは衝撃をもった。幼いわたしにとって世界とは貧しき家と裕福な家の階層こそが村 であり街であったから。「天と人」をめぐる福沢諭吉の言葉こそが、わたしにとって 思想とのはじめての出会いだった。早稲田大学をつくった大隈公は自由民権運動から 政治へと向かう。その政治と大学のとおり早稲田は敗戦後学生運動の拠点となる。 しかし慶應は政治から距離をとり、学問の形成に徹底していたのだろう。学生自治会 の政治主張が書いたタテカンが無いのは、伝統なのだろうか?  しかしガ−ドマンのキャンパスかと云えば、そうでもない、学生たちは顔があり、 姿はミ−ハ−ではないのだ。根性を感じる。図書館の階段に座り商学部の学生と話し た。何故、自分は村上龍より村上春樹が好きなのか、ていねいに説明してくれた。前 の校舎で学生たちが勉強をしている、あれはゼミですよ、もっと人数がいる大きな講 義なら自由に入れますね、三田には刺激的な教授がいますよ、と、わたしの表情を読 みながら説明してくれるのは、さすがだと思う。個人を感じる。それじゃあ、友達が 来ましたから、さわやかな風のごとく彼は去っていった。福沢諭吉は江戸に維新軍が はいり、上野に幕府軍を追いつめていた大砲が鳴りやまぬときでも、学生相手に講義 をしていた話は有名である。慶應には学問をするという根性があるのだろう。天皇を 絶対的な神として近代国家を誕生させたのが明治維新である。福沢諭吉はこの明治政 府に対しいかなるスタンスをもったのか興味がある。  学生会館正面入り口に「迷宮ラビリンス」のセンスある看板をみて安心する。勝負 しているかどうかは、一発でわかるものだ。まだ時間があるのでロビ−に座る。前で は「てめぇ、都合が悪くなると日本語がわからないのかようぉ!ええ!、てめえの一 言で彼女がどれほど傷ついたか、わっかっているのかよお!ふざけんじゃ、ねえよ! このやろう!ああ!おのれの目をちゃんと、みろよ、てめえ!」日本人学生が目をつ りあげて、童顔の東洋人学生をどうかつしている。わたしはタバコをふかしながら、 観察している。昨年の秋、この地下にある劇場にきたときより、個人と個別において 物語はより深刻に深部へと流れ、表層空間に立ち現れている。  わたしは日本人学生のどうかつを聞きながら、慶應熟生新聞をつかみ、ひろげてみ る。一面「メディアセンタ−が新サ−ビス」「差別・落書き事件・塾生による犯行・ 目的は復讐行為」「医師国家試験・合格率、今年も低下」「遺伝子研究・21番染色 体を解読・清水教授らが成功」「ラクビ−・栗原徹&野沢武史・日本代表デビュ−」 「Web履修申告・SFC4人に1人利用」「三田ITC・PC貸し出し開始」  二面へと広げてみる。「東京六大学野球リ−グ戦・意地見せた早稲田に連勝・最終 順位は4位に」「早慶サッカ−・勝機のがしドロ−・MVPは玉田が受賞」「不在が 示す存在感・渡辺武彦」「アメフト早慶戦・上昇へ一歩刻む・気迫で圧倒20−9」 「ラクロス部優勝」「ソッカ−部・天皇杯予選敗退」「バスケット部・選手権で大健 闘」「女子柔道部・インカレ出場権を獲得」「日吉生協書籍売上ベスト10・1−脳 を鍛える(立花隆)2−経済のニュ−スが面白いほどわかる本(細野真宏)3−だか ら、あなたも生きぬいて(大平光代)4−日本人はなぜ英語ができないのか(鈴木孝 夫)5−経済ってそういうことだったのか会議(佐藤雅彦・竹中平蔵)6−サイエン ス21(ミチオ・カク)7−;個と公;論(小林よしのり)8−ハンニバル(トマス ・ハリス)9−インタ−ネットの素朴な質問(SFC鈴木寛研究生の学生たち)10 −東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ(遥洋子)」  三面である。「塾内世論調査・今の政治に不満71%・連立与党不支持が圧倒的」 「支持政党・”民主支持”が躍進」「落選運動・適切か否か判断必要」「総理大臣・ 票われ有力候補出ず・;森喜朗:は1・4%」「義塾のごみ事情・熟生主体の活動に 期待・リサイクル・分別・身近なところから」「優先すべきはどちらの政策・景気回 復・財政再建・景気回復−多数が悲観的」支持政党別表を読む。「自民党−支持16 ・6%、不支持17%」「民社党−支持14%、不支持3・1%」「日本共産党−支 持4・9%、不支持19・6%」「自由党−支持4・4%、不支持2・9%」「社会 民主党−支持1・7%、不支持19%」「公明党−支持1・1%、不支持2・7%」 「保守党−支持0・4%、不支持5・4%」「支持無し50・3%、不支持無し24 ・7%」「その他無回答−支持6・6%、不支持5・6%」  いよいよ四面である。「五月初旬、吹き荒れたGジャンの嵐:慶応:意識が見え隠 れしている・三田女伝説・イメ−ジをまとう女たち」これらを読んでいると6時5分 前になった。すぐ前では、日本人学生のどうかつはますます激しくなっている。心配 そうに学生%屬・い鬚弔・辰討い襦・錣燭靴藁・曽紊・襦・景垢鮓・・吋・丱鵑砲 まい、地下げの階段を降りていけば、迷宮ラビリンスの世界が待っていた。  演劇とは祝祭である。受付において観客は一発で、その劇団を集団のセンスとして 判断する。制作主任の餅田さんや劇研の人々には、この5月当日運営でお世話になっ た。背広姿である。観客を迎える根性を感じる。いいと思う。荷物あずかり、ほとん ど男子学生である。この4月早稲田大学劇研所属:少年杜中:公演では、観客案内は 女子学生であった。わたしが学生演劇に基礎をみいだすのは、情熱と祝祭に疾走する 姿であり、なによりも観客をたいせつに迎える姿勢にある。少年杜中におりこみ行っ たとき、わたしは制作の人に云った「今度、ぜひ野球のように演劇の早慶合戦をやっ てくださいよ」と。  いよいよ劇場にはいる。いつもの場所をとる。今回、なにも手伝えなかったが、み るという姿勢でしか応えられない。このひんやりとした空気が好きだ。それはスッタ フと俳優たちのはりつめた緊張度の高揚が、周波数として生成させる劇場独特の開演 前の空気だろう。外は梢の葉たちが風とたわむれるているに違いない。そして劇場に も風がある。その風に福沢諭吉がいるのだと云ったらひとは笑うだろう。慶應劇研は 起源を集団に内包した良質なひとびとだと思う。民衆演劇と定性できるほどに。照明 と音楽は観客に吸い込まれ、そして波のように高揚する。耳の演劇は幕が切って落と された。俳優とスッタフと観客による三位一体の息をのむ至福な瞬間である。