鬼怒天皇物語 (きぬてんのう・ものがたり)
(1)           塚原勝美(つかはら・かつみ)

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 じりじりと照りつける旧盆、荒木素子は故郷の駅を降りた。見上げると高原山は
入道雲におおわれている。蒸し暑い盆地の匂いが素子にはなつかしく思われた。
鮮やかな日の丸、<東京>と漢字が入ったTシャツを着た回帰世代の後から、素子
は改札口をでる。

 すでに「平成」の年号は、5月7日、明仁天皇の崩御により、「満腔(まんこう」
の年号に変貌していた。満腔とは、人類が宇宙空間へと日常的に飛行する進歩の意味
を、名誉学術大学教授たちによる年号制定機関が定性したと、素子は新聞で読んでい
た。荒木素子18歳、栃木県矢板市が故郷である。

 彼女は、名古屋福祉大学1回生、矢板東高3年生から、革命的ヤンキー主義同盟の
革命者であった。その理念は、日本の天皇制を覆し、アメリカUSAへ日本を併合し
日本民衆を世界コスモポリタンとして奪還する、日本自己否定運動としてあった。
しかしながら、日本はまたとしても「平成」から「満腔」への天皇代替わりにおいて
「昭和」へと反復したのである。


                         

 満腔1年7月10日、東京武道館において国家生活党は華々しく開催されようとし
ていた。マスメディア各社の報道スタッフがデジタル・カメラ・マイクをかまえる。
異常な熱気が武道館にあふれる。

 午前の部がおわり、昼食休憩、ロビーにおいて、島田紀子はインタビューを受ける。
代議員として紀子も参加していたのである。日本の宇宙時代を語る皇道娘ここにあり、
それはパソコンTVモニターと明日の新聞紙面を飾り、臣民の茶の間に送信されるはず
である。
 
 
                                                    

  ワシントン空港からメリーランド州に着いたオルブライトは、出迎えの海軍所属リム
ジンで、昼前にはアナポリス海軍士官学校に到着した。今日の演説は21世紀に飛び立
つ青年たちに気合いをいれなくてはならない。クリントン大統領からも「頼むよ」と念
を託されてきた。彼女は軽い昼食をとり、午後1時からの演説にエネルギー集中の準備を
する。やがてオルブライト国務長官は、大講堂へ向かっていく。「クリントン大統領の
次は血統がいいゴアが大統領になるだろう、自分はゴアのブレーン官僚になるためにに
も、最高の演説をするだろう。ヒットラーをしのぐ情熱で、若造どももに鼓舞してやる
ヤンキー魂をたたきこんでやる」

 ここは世界戦争の訓練場だ、大講堂には、士官候補生たちが、彼女に起立した。
オルブライトは、会場の青年たち、ひとりひとりの顔をなめるように見渡し、ゆっくり
と口火をきった。

 海軍士官学校のみなさんと外交問題年次会議に参加のみなさんに演説できる機会を
持つことができて、うれしく思います。

 私はまた、会議の組織者のみなさんが、ことしのテーマに、現在の偉大な未完の大
儀である、民主主義のためのたたかいを選んだことに満足しています。

 海軍士官学校は、そのたたかいの多くの英雄たちの訓練場でありました。

 彼らの思い出は、われわれにとっていまも強烈であります。われわれはその思い出
を大切にしています。われわれは過去数年間にさまざまな記念日を祝ったが、もっと
もすばらしいものは「第二次世界大戦勝利」50周年の記念日でありましょう。われ
われがノルマンディー、北フランス。第二次世界大戦における連合軍の対ドイツ反撃
上陸作戦から太平洋レイテ湾、タラワ島硫黄島、いずれも太平洋上における日本帝国
との激戦地、そのいたる戦争現場での海軍、空軍、陸軍、海兵隊の将兵の勇敢さを想
起するとき、彼らの犠牲的精神に畏敬の念をおぼえ、先輩の模範的行動に鼓舞されな
い兵士諸君は、ここに居ないでしょう。

 
  (つづく)