格闘技地獄篇 第64回

「禁断の遺恨試合・小川 VS 吉田戦を斬る(前編)」

小川直也 VS 吉田秀彦
(2005年12月31日 PRIDE男祭り 2005 さいたまスーパーアリーナ大会)


 一昨年2004年のPRIDE ヘビー級GPに電撃参戦し,準決勝まで駒を進めたもののエメリヤーエンコ・ヒョードルの前で圧倒的な実力差を満天下に暴露し,秒殺負けした"キャプテン・ハッスル"こと小川直也…今年の3月で38才になるという年齢的な問題と,主戦場である「ハッスル」がよもやの大ブレイクで,もはや過酷な総合格闘技に出場する必然性もないと思われたため,彼がPRIDE マットに上がることは無いだろう…と僕は考えていた.だから昨年11月14日のDSEの記者会見で大晦日の「PRIDE 男祭り 2005〜頂(いただき)〜」に小川が参戦し,しかも吉田秀彦と対決するという速報をネットで知った時は本当に驚愕した次第である.おそらくDSEが「大晦日視聴率戦争」のために兼ねてから温めていた「切り札的カード」であり,水面下で両陣営と度重なる交渉の末に実現と相成ったものなのであろうが…二人とも正直なところ(特に小川の方は…),やりたくなかったんだろうなあと思う.

 この試合が発表されてからは,各種マスコミでは「明治大学柔道部時代から確執があった」等と「小川と吉田の仲の悪さ」を引き合いに出し「遺恨試合」として煽っていたようであるが,本当に二人はそんなに仲が悪いのであろうか?…と僕は少し疑問がある.先日,以前に録画していた古いプロレス・ビデオを見直していたら,格闘家に転向前の吉田がゲスト解説者を務めているものがあった…吉田は「いや〜小川先輩は大学時代とは全然違いますねえ!(2001年4月21日/小川と三沢光晴のタッグ対決・ZERO-ONE)」「小川先輩の試合,もっと見たかったスねえ(2002年1月4日/小川 VS 佐々木健介の無効試合・新日本プロレス)」等と実に嬉しそうに,実況席で語っているのである.また一方の小川も,吉田がプロ転向を表明した時に「吉田をUFOに勧誘する.」云々とコメントしていたりするので,僕的には言われるほど仲が悪いとは思えないし,あの緊張感漲ったDSEの記者会見も「大会を盛り上げるための双方合意の演出」だったような気がしてならないのである.だが,いくら「なんちゃって遺恨」であったとしても試合自体は真剣勝負であったことは言うまでもなく,実にリスキーな近来稀に見る「大物日本人同士」の決闘であったと思う.結果次第では二人の今後の人生の明暗を分け,敗北者が失うダメージがあまりにも大き過ぎる「非情とも言えるマッチメーク」を小川も吉田もよくぞ飲んだものと拍手を送りたい.

 予想していたように故橋本真也のテーマ曲である「爆勝宣言」で入場してきた小川の姿を見た時に,僕は何故だか分からないが不覚にも涙が出そうになった…プロレス復興という命題と共に,亡くなった友人の魂を背負ってリングに上がる小川の覚悟が単純に僕の涙腺を刺激したという部分もあるが,あのヒクソン・グレイシー戦での高田延彦(1997年10月11日)とも共通する悲愴感のようなモノが小川から感じ取れたからである.かつて暴走王と呼ばれていたギラついたオーラは無く,どこか小川は何かを悟ったような穏やかな顔に感じられた.そしてT シャツを脱いだ彼の容姿を見た時に僕は「小川は負けるのではないか?」と直感的に予測した…確かにシェイプされてはいるが,首は細く筋肉までもが削げ落ちて,物凄く貧相な身体つきに思われたからである.吉田は初めて柔道着を脱いだ…当日行なわれた瀧本 誠 VS 菊田早苗戦を見て脱ぐことを決断したそうだが,彼の全身からは小川とは対照的に研ぎ澄まされたビリビリとした「殺気」を放っていた.ゴングが鳴った瞬間,小川の異変に気が付いた…本来サウスポー・スタイルの小川は右足を前にスタンスをとるのであるが,逆の左足を前にしてオーソドックスで構えている.動きも硬く,身体のキレも悪い小川は吉田のロシアン・フック気味のパンチでロープ際まで後退してしまう…リーチも長く打撃においてはアドバンテージがあると考えられていた小川が,吉田に立ち技で押されるのは意外であった.何かがおかしい….

 いずれ真相が明らかになるかもしれないが,ここからは僕の推測である…多少技術的な文章になるかもしれないが御勘弁願いたいが,おそらく試合前に小川は右足を痛めていたのではないかと思う.僕がやっている少林寺拳法を例に出すと,通常の小川のように右足を前にして構え,踏み込んで左手で直線的な突きを打つ場合,必然的に体重は前足である右足にかかる.ボクシングのようにフットワークを使って,動いている相手に突きを打つことを想定するならば,構えの時点で前傾姿勢となり前足に重心がかかる…思い切って利き手でストレートを打つ時は,その反対側の前足の踏み込みとスムーズな体重移動が要されるのである(実際に身体を動かして,やってみて欲しい…).小川が本来のサウスポー・スタイルを捨てオーソドックスに構えたのは,まだ踏み込みの利く左足を前に出すことと負傷した右足がロー・キック等に曝される危険性を回避したからではないだろうか?しかし痛めている足が後であると,相手のパンチをスエーバックで交わすことは相当に困難となる…動体視力の良い小川が,吉田の大振りなロシアン・フックを直立不動で受けている写真を目にすると,「小川右足負傷説」は決して妄想ではないと思うのであるが如何なものだろうか?

(写真:僕が「小川右足負傷説」を確信した一枚.吉田のロシアン・フックは大振りな上に雑で,決して精度の良いものではないのであるが,小川は殆ど避ける素振りもなく直立不動で受けている.完全に横を向いている隙だらけの吉田に対して,このままスエーバックで交わしながら右方向へ回り込めば,現在の小川であっても不安定な状態の吉田を捕まえて,十分にテイクダウンが狙えるはずだと思うのだが….また通常サウスポー・スタイルの小川が,この試合に限っては常に左足を前にしたオーソドックス・スタイルで対峙していることにも注目.)
(以下後編に続く)


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