seiribako[696-705]


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【目次】
◯成瀬巳喜男『娘・妻・母』(1960年)
◯成瀬巳喜男『乱れる』(1964年)
◯成瀬巳喜男『女が階段を上る時』(1960年)
◯浅野晋康『新しい予感』

[NO.699] 2005/10/7 (金) 23:50

『娘・妻・母』(1960年)


成瀬映画一直線! という感じで成瀬映画ばっかり観てますが、ぼちぼち俳優の顔と名前が合致
するようになりまして、成瀬映画を見るのが楽しくてしょーがないです。





成瀬巳喜男『娘・妻・母』(1960/カラー・シネスコ/東宝)を観ました。
監督:成瀬巳喜男。
脚本:井手俊郎、松山善三。
撮影:安本淳。美術:中古智。照明:石井長四郎。
出演:原節子/高峰秀子/三益愛子/杉村春子/草笛光子/団令子/淡路恵子/中北千枝子/森
   雅之/宝田明/仲代達矢/加東大介/上原謙/太刀川寛/笠智衆ほか。


所は東京。160坪の敷地に建つ旧家に住む大家族のドラマ。
この家に住んでいるのは間もなく還暦を迎えようとしている母:坂西あき(三益愛子)。
小さい事業をやりながら投資にも熱心な長男:坂西勇一郎(森雅之)と、よくできた妻、和子(
高峰秀子)と独り息子である小学生の義郎(松岡高史)。
そしてワイン製造会社のOLで進歩的な考えを持ている少し跳ねっ返りなところがあるけど明る
く元気でちゃっかり者の三女:坂西春子(団令子)。この春子には朝吹真(太刀川寛)というボ
ーイフレンドがいる。
そしてお手伝いさん:たみ(江幡秀子)の6人。

この家には他にもいろんな人間がやって来る。
フリーの商業写真家で、三女:坂西春子が勤めるワイン製造会社の広告写真を撮ったりして収入
を得ている次男:坂西礼二(宝田明)。とその妻の美枝(淡路恵子)。美枝は銀座のバーに勤め
ている。この夫婦には子供はいない。
それと谷家に嫁いでいる次女:薫(草笛光子)と夫の谷英隆(小泉博)。薫は谷英隆の母:加代
(杉村春子)、つまり姑とのソリが悪く気苦労が絶えないでいる。
そして主役である長女の早苗(原節子)。早苗は日本橋にある曽我家に嫁いでいる。

そんな一家に起こる、まず初めの出来事は、長女の早苗(原節子)の夫が慰安旅行中に事故死し
てしまい、早苗はその生命保険金100万円を持って曽我家を出て、実家、坂西家に戻って暮ら
すようになったこと。これで坂西家の住人は7人になった。
もう一つの出来事は、長男:坂西勇一郎(森雅之)が投資していた鉄本工業という会社が倒産し
てしまい、100万円の損害を被ってしまう。オマケにその投資の金100万円は家を抵当に入
れて作った金だった。そして、倒産した鉄本工業の社長である鉄本庄介(加東大介)は、勇一郎
の妻:和子の叔父だった。

とにかく、なんやかんやとすったもんだがあって、修羅場まではいかないものの、金のトラブル
が絡むといくら兄妹でもギクシャクするもので、それと母の面倒を誰がみるのか、という問題も
浮き彫りになってきたりするのだけれど、そんなこんなで、場面は夫を亡くして独り者になった
早苗(原節子)の縁談話とロマンスへ移っていく。

早苗は二人の男と出逢うことになるのだけれど、一人は三女:坂西春子(団令子)が勤めるワイ
ン製造会社の醸造所の技師である黒木信吾(仲代達矢)。黒木信吾は真面目ないい男で、年上の
早苗に惚れてしまい、早苗もまんざらでもない。
もう一人は、早苗の友人、生命保険の勧誘員である戸塚菊(中北千枝子)の紹介で軽い見合いを
することになるのだけれど、その相手、五条宗慶(上原謙)。この五条宗慶は早苗よりも年上で、
人柄も良く、立派な紳士。
そんなこんなで、適当にデートしたりしーの、黒木信吾とラブシーンがありーので、時は過ぎて
いく。

ところで、これ以上書き続けても、とにかく登場人物が多いのでややこしくてしょーがない。
下の《人物相関図》を参照願います(しかし俺もヒマ人やなこれ・笑)。


         坂西あき
        (三益愛子)
          |
  ┌───────┴───┬─┬─────────┬─┐
  |           | |         | |
  |           | |         | | 公園の老人
  |    ┌鉄本庄介  | |         | | (笠智衆)
  |    |(加東大介)| |         | |
  |    |      | |         | | 早苗の友人:戸塚菊
 勇一郎===和子     | |         | | (中北千枝子)
(森雅之)|(高峰秀子)  | |         | |
     |        | 早苗………五条宗慶 | | お手伝いさん:たみ
    義郎        |(原節子)(上原謙) | | (江幡秀子)
  (松岡高史)      |      黒木信吾 | |
          ┌───┘     (仲代達矢)| |
          |               | |
         礼二===美枝  ┌───────┘ |
      (宝田明)(淡路恵子) |         |
                  |   加代    |
                  | (杉村春子)  |
                  |    |    |
                  |    |    |
                  薫===谷英隆   |
                (草笛光子)(小泉博) |
                            |
                           春子………朝吹真
                          (団令子) (太刀川寛)


とにかくですね、早苗は五条宗慶(上原謙)と結婚することを決意し、母を嫁ぎ先に引き取って
「一緒に暮らしましょ」と言うのだけれど、なんと母は老人ホームに入る手続を密かにしていた。
このドラマは、娘と妻と母という、それぞれの「女のステージ」を一つの大家族の中に見せて、
最後に「老い」というテーマを観る者に投げかけて、「終」の文字が出るのだけれど、ラストの
母役の三益愛子と近所に住む老人:笠智衆との、公園でのラストシーンが素晴らしかった。

赤ちゃんを乗せた乳母車を押す笠智衆に三益愛子が「お孫さんですか?」と声をかけるのだけれ
ど、「いいえ、孫ではないんです。一人暮らしのものですから。こうして人さまの子を預かって、
子守りをさせてもらってお金を頂いてるんですが、いろいろとありましてね。年をとるというの
は………」と答える笠智衆。「そうなんですか」と言って短い会話を交したあと、三益愛子は家
に帰るためにベンチから腰を上げ、歩き出す。そこで赤ちゃんが泣きはじめる。赤ちゃんを抱き
かかえ、あやす笠智衆。三益愛子はその泣き声を後ろに聞きながらしばらく歩いて、振り返る。
この時の三益愛子の表情が複雑で、顔のアップが数秒間続き、そのあと、赤ちゃんと笠智衆がい
る場所まで小走りで引き返す三益愛子。そして赤ちゃんを抱きかかえる。それを引きのまま撮っ
ているキャメラ。
柔らかい光がふりそそぐ公園。汚れなき赤ちゃんの清々しくさえ思える泣き声が遠くに聞こえて、
その泣き声はすべてを洗い流すような響きに聞こえ、笠智衆の朴訥とした立ち姿と笑顔と、三益
愛子の赤ちゃんをあやす手慣れた手つきも見てとれて、実に平和で「幸福」な感じがするラスト
シーンなのだけれど、「輪廻」という言葉が一瞬、頭の中をよぎりました。

他にも素晴らしい画面がいくつもあったんですが、2つ3つ上げると。
母の「還暦の祝い」に次男:礼二(宝田明)と三女:春子(団令子)と春子のボーフレンド朝吹
真(太刀川寛)の三人が8ミリカメラで、葡萄園をロケーションにして早苗(原節子)と黒木信
吾(仲代達矢)を主人公にしたサイレントのラブストーリー、ショートムービーを撮るのだけれ
ど、それを後日現像、坂西家で春子が弁士になって映写するシーンがあって、この映像は凄かっ
たです。映画の中に映画があるのだけれど、そんじゅそこらのソレではなかった。
それと、広いダンスホールのシーンの最後、早苗(原節子)が見せる恥ずかしそうな身体の動き
を引きで撮っている画面の、言語化不可能な映像。
それと早苗(原節子)が黒木信吾(仲代達矢)の家を訪れた時、広いキッチンの隅に電気掃除機
を見つけ「電気掃除機! わたし初めてなのよ」と言って床の掃除を始める。その時にキスシー
ンになるのだけれど、このシーンもナニ気に凄いもので、掃除機を掛けているところからキスシ
ーンに入っていくなんか、誰が考えましょうか、ピンク映画の発想みたいですけれど、原節子の
演技の凄さもあって画面に立ちこめる空気は特殊なもので、これは名シーンだと思いました。

それと、またしょーもないことですが、1960年。ワイン製造会社のOL:春子のサラリーが
9000円。映画館(三本立て)の料金が55円。苺ショート1ホールの値段が80円。新製品
の洗濯粉石鹸が一箱100円。

それとこの映画、出演者の面子が贅沢。 超が付く大女優の二人、高峰秀子原節子の共演と三益
愛子と杉村春子と笠智衆と上原謙の共演。
楽しみどころ満載の映画でした。
それと映画に関係ない話ですが、上原謙が加山雄三のお父さんなのは有名ですが、脚本の松山善
三(映画監督)は高峰秀子のダンナさんなんですね(こないだオカンが言うてた・笑)、知らな
かった。





[NO.698] 2005/10/4 (火) 23:50

『乱れる』(1964年)





成瀬巳喜男『乱れる』(1964/白黒・シネスコ/東宝)を観ました。
監督:成瀬巳喜男。
脚本:松山善三。
撮影:安本淳。美術:中古智。照明:石井長四郎。
出演:高峰秀子/加山雄三/三益愛子/草笛光子/白川由美/藤木悠ほか。


所は静岡県清水市。
オープニング・シーン。開発途上を想わせるホコリっぽい一本の道を一台の軽トラック、スーパ
ー・マーケットの宣伝カーが、「卵10個、50円!! 早く買わないと売り切れます!! お
早めに!!」というセールス文句を、スピーカーでけたたましく流しながら走っている。
カットは切り替わり商店街の小売店の店頭。食料品店主人(柳谷寛)が宣伝カーの音を聞いて「
卵が50円!?」と驚く表情の後、キャメラは店頭に並べてある卵に素早くパン。そこに映され
たのは〈卵10個 110円〉という値札。
経済発展めまぐるしい60年代、薄利多売:スーパー・マーケットが町の小売店を圧迫し始めた
のがこの頃という訳。勢いを増すスーパー・マーケット、閑な小売店。悲喜こもごも。

そんな商店が立ち並ぶ一角に、一件の古い酒屋があった。
店を切り盛りしているのは森田礼子(高峰秀子)。
礼子は森田家に嫁いでからずっとこの酒屋を守ってきた。
礼子の夫、森田は新婚間もなく大平洋戦争で戦死していて、礼子は未亡人。しかしまだまだ女盛
りを過ぎていない。

森田家、つまり酒屋には母:しず(三益愛子)、長男:幸司(加山雄三)、そして礼子の三人が
住んでいる。
他に、既に森田家から出て嫁いでいる長女:久子(草笛光子)、次女:孝子(白川由美)がいる
のだけれど、この二人は母に会うためによく実家に顔を出す。
そんな一家の中で、礼子だけは森田家に嫁として来ているので、一人だけ他人が混じっているよ
うなもので、やや肩身が狭い位置づけにあった。

そうそう、この映画は「メロドラマの王道」なので、世間をはばかるような恋愛関係がなくては
ならない。それは長男:幸司:(加山雄三)と、礼子の、つまり義理の弟と姉のメロドラマ。
幸司は礼子のことを「姉さん!」と呼び、礼子は「幸司さん」と呼ぶ。
幸司が口にする「姉さん!」という呼び方には明らかに「愛」があるけれど、礼子の呼ぶ「幸司
さん」には、そう簡単に「愛」を込められない。どこまでも死んだ夫の弟の「幸司さん」であり
続けなければいけない。

この幸司という若者は素直でミョーに正義感が強くて、まあ、好青年ではあるけれど、演じてい
るのが加山雄三ですから、ぼかぁ〜幸せだなぁ〜と小鼻のよこを人さし指でポリポリ掻くような、
あっけらかんとしているというか、声がちょっと大きくて内緒話しはコイツとはでけへんなぁ〜、
みたいな男である。
なので、近所でトラブルを起してしまったりする。幸司には嘗て東京で仕事していた時に付き合
っていた彼女(浜美枝)がいるのだけれど、この女が馬鹿丸出しの女で、そういう女と付き合っ
てしまう男でもある。

そんなこんなで、卵を売っていた食料品店の店主(柳谷寛)が首を吊って死んでしまったり、余
り働かずパチンコばかりしていた幸司が突然真面目に店の手伝いを始めたりと、なんじゃかんじ
ゃと出来事があって、映画は中盤に入る。

森田家は一つの決断をすることになった。それは時代をかんがみて、いっそのこと酒屋を改造し
て小さなスーパー・マーケットにしよう!! という大改造劇的ビフォーアフターみたいな話が
持ち上がり、一家親類縁者が大騒ぎになる。
そのスーパーマーケットの社長に幸司を据えよう! という計画になるのだけれど、問題は礼子
の処遇だ。
親類縁者たちには「礼子さんはちょっと邪魔かなぁ」みたいな心理がはたらいていて、頭のいい
礼子はそれを敏感に察知してしまい、身を引いて田舎に帰ろう、という決断をすることになって
しまう。

で、幸司はというと、大改造劇的ビフォーアフター・スーパー・マーケット計画にいやいやなが
らも従うことになるのだけれど、なにせ加山雄三ですから、ここで、ついに、礼子に「姉さんの
ことが好きなんだ!!」と大きな声で告白してしまう。「だめよ、だめよ、そんなこと、幸司さ
ん」と言う礼子に、更に「姉さんのことが好きなんだ!!」ともう一度大きな声で。それでも礼
子は「だめよ、そんなこと、幸司さん!!」の一点張り。

そして礼子は荷造りをして森田家を出る。
幸司は諦め切れない。でも礼子が出ていくのは仕方ない。幸司は「姉さん、駅まで送るよ!」と
言うのだけれど、礼子は頑に拒否。

そして、礼子を乗せた北へ向う夜行列車は駅を出ていくのだけれど、なんと! その汽車に幸司
も乗っていた!! 礼子はびっくり!!
乗ってしまっているのだからしょーがない。電車は止まらない。礼子と幸司は席に座り、ミカン
などを食べたりしながら車中を過ごす。そして昔話しなどしながら、礼子は白い紙でコヨリを作
り、幸司の指にそれを結んだりした。

ここから映画は終盤に入る。

途中で汽車は温泉街の駅で停車。この時、礼子は何を思ったか「ここで降りましょ、幸司さん!」
と突然言い出す。慌ててホ−ムに降り立つ二人。
改札を出て歩く二人(上の画像)。この時、礼子はついに幸司に「幸司さんのことが好きなのよ」
と告白してしまう。しかし、礼子は幸司と付き合うとか結婚するとか、そいう考えではなく、礼
子と幸司は世代が違う。やはり礼子には世間というものが気になる。だから絶対に踏み切れない。
礼子は田舎に帰るまでに気持を整理しておきたかった。気持の整理がついたら、そのまま田舎に
帰るつもりでいた。

とにかく温泉宿で一泊することになるのだけれど、なにせ男と女が同じ宿で一泊するのだし、礼
子の告白を聞かされた幸司は燃え上がっておるのだから、幸司がケモノに豹変しない訳がない。
「姉さん!!」「だめよ、だめよ」「姉さん!!」「だめよ、だめよ、幸司さん!!」「姉さん
!!」「だめよ、だめよ、だめなのよ」。
結局ダメだった。

幸司は諦めきれないまま、違う宿の一室で酒を煽る。

一方の礼子は宿で眠られず、考え続けている。

そして、朝が来た。

ところが、宿の外が大騒ぎになっていることに礼子は気づく。
窓を外を見ると、細い道を町の人達が布を被した担荷を手に持ち、大声を出しながら走っている
のが見えた。
そこへ宿のおかみ(浦辺粂子)がやって来て、礼子に「誰かが崖から落ちたらしいんですよ。若
い男の人らしいんですけどね。死んじゃったらしいよ。自殺かも知れない。可哀想にねぇ」。
不吉な予感。
もう一度窓の外をよく見ると、担荷に被せられた布の隅から出た手の指には…………。
宿の階段を走り降り外へ飛び出す礼子。
ここで「終」の文字が出るのでした。



先日、商売の神様、ダイエーの中内さんが亡くなりましたが、卵の値段。10個=110円〜5
0円と、四十年経っている今と大きく変わらない。やはり卵は物価の優等生。
そしてメロドラマも、昔も今もたいして変わっていない。

ところで64年のこの映画。61年から成瀬作品の鉄壁の布陣の一人であるキャメラの玉井正夫
が成瀬作品から抜けて、この作品は安本淳が担当している。
因みに小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、黒澤明に代表される監督主導主義による専属重視の
キャスティングと制作と、配給までの流れ、いわゆる「撮影所システム」(東宝は藤本真澄を中
心にしたプロデュサー主導の制作システムを早くから導入していたが肝心な制作スタッフは監督
の自由にさせていた。40年代までのハリウッドのスタジオ・システムとは少しニュアンスが異
なる)が崩れ、日本映画の黄金期は既に終っている。しかし、売れる優秀な映画監督にとっては、
こういった変化は「映画の質」に影響していないようだ。
素晴らしい映像がいっぱいあった。
特に印象に残っているのは、終盤の、夜行列車が夜を切り裂き走り抜けるカットが、間をおいて、
全く同じアングルで何度か繰り返される、あの映像の凄さ。
そして強烈なラストシーン。
担荷に被せられた布からはみ出している「手の怖さ」と、息を呑み凍り付く高峰秀子の表情の怖
さ。



この画像では伝わらないけれど、照明の妙と畳み掛ける短いショットによって強烈に印象に残る
ラストでした。白黒映画は照明の妙が楽しめるのでおもしろい。


[NO.697] 2005/10/2 (日) 23:50

『女が階段を上る時』(1960年)





成瀬巳喜男『女が階段を上る時』(1960/白黒・シネスコ/東宝)を観ました。
監督:成瀬巳喜男。
脚本:菊島隆三。
撮影:玉井正夫。美術:中古智。照明:石井長四郎。衣装:高峰秀子。
出演:高峰秀子/仲代達矢/森雅之/中村鴈治郎/加東大介/小沢栄太郎/淡路恵子/細川ち
   か子/団令子/中北千枝子/沢村貞子/賀原夏子/千石規子/山茶花究/多々良純/藤
   木悠/菅井きんほか。


所は銀座のネオン街。700件ものバ−がひしめく日本一の水商売激戦区。
銀座の小さなビルの二階にあるバー「ライラック」の雇われマダムである圭子(高峰秀子)は、
身持ちが固いことで知られる美人ママ。優秀なマネージャーである小松(仲代達矢)と共に6
人ほどのホステスをコントロールしながら店をやりくりしている。
しかし銀座は激戦区、浮き沈みが激しく、客の数が減り始めていたところへ飲み代の回収率も
悪くなり、店は下降する一方だった。

その原因はママ・圭子やマネージャー・小松やホステスの力量不足だけではなく、嘗て「ライ
ラック」でホステスをしていたユリ(淡路恵子)が独立して持ったバーに、客が流れてしまっ
ているのが最大の理由で、その流れを作ったのが常連客である美濃部(小沢栄太郎)という男
だった。
圭子はこの美濃部と縁を切る為に「ライラック」を辞め、マネージャーとホステスを連れてバ
ー「カルトン」へ移った。
この店もビルの二階にあり、あまり変わり映えはしないものの、新たにスタートを切る圭子だ
った。

店に金を多く落としてくれる常連客は、おおまかに言って3人いる。
その一人は、銀行の支店長、藤崎(森雅之)。妻子持ちだがダンディーな二枚目で、いつも部
下を連れて飲みに来てくれる上客。佳子はこの藤崎に密かに惚れている。
もう一人は大阪の実業家、郷田(中村鴈治郎)。気取らないナニワの爺さんで、金はたんまり
持っている。
そしてもう一人は、30人ほどの従業員を抱えるプレス工場の工場主・関根(加東大介)。小
太りのぱっとしない男なのだが、如何にも人が良さそうで、いつも圭子のことを気にかけてお
り、圭子を水商売の女としてではなく一人の女として見ているところがあり、そしてこの関根
という男は、圭子の元夫(既に病死。佳子は夫のことが今でも忘れられない。佳子の身持ちの
固さはそれが理由)にどこか風貌と性格が似ていて、圭子の良き相談相手でもある。

そんなこんなで、マダム圭子の夜は過ぎてゆく。
嫌いな美濃部が来店したりして気持が荒れて深酒をしてしまったり、ライバルのユリ(淡路恵
子)が突然死んでしまったりもし、飲み代の回収率は依然かんばしくなく、もうヘトヘトの圭
子。
佳子は「こんな雇われマダムで辛い思いをするくらいなら、自分の店を持って頑張ってみたい」
と思い始める。
そこで常連客に出資のお願いをしに回るのだが、郷田(中村鴈治郎)だけは「金を出してやっ
てもええで」と言ってくれ、それに甘える圭子なのだけれど、そこは大人の世界、郷田は見返
りを求めてくる。

そんな時、圭子はハードな仕事と深酒が原因で血を吐き倒れてしまう。
とは言っても、病状は胃潰瘍で大事には至らず、でも大事をとって、実家がある下町「佃島」
で長期療養ということになり、しばらくのんびりと母と兄がいる実家で過ごすことになった。
ところが、圭子の実家には問題が山積しており、貧しい暮らしで、母(賀原夏子)とは口喧嘩
が絶えず、おまけに兄(織田政雄)はお人好しで嫁に逃げられ貧乏をしており、更に息子は小
児マヒに罹って松葉杖の生活。銀座の華やかな世界とは正反対の実体が、圭子の実家にはあっ
た。
華やかな世界と言っても銀座のマダムは借金だらけで裕福とは言えない。しかし兄に「息子の
病気を治す為の金を貸して欲しい」と言われれば、なんとか工面して出さざるをえなくなり、
圭子は益々凹んでいく始末。

そんな時に優しい言葉を掛けてくれたのが、プレス工場の工場主であり未だに独り者の関根(
加東大介)だった。
関根は「もう水商売をやめて、私と結婚してくれないかい」というプロポーズを圭子にする。
気が弱っている佳子は、元夫とどこか似ている人の良さそうな関根の言葉に合意、その決心を
する。
女として安定した幸せな生活が約束され、佳子は幸せな気分でいた。
ところが!!!! 一本の電話によって、この状況はひっくり返る。

電話は、なんと「関根の妻」と名乗る女からのものだった。
そして佳子はその関根の妻と名乗る女と逢う約束をし、女のいる所、つまり関根の家へ向う。
すると、関根の家は想像もしないボロ屋で、子供が二人いて、関根の金遣いの荒さの為に妻は
貧困の中にいた。
関根の妻はこう言う「あの人は悪い人間じゃないんですけど、ああ見えても女の人に見栄を張
るところがありましてね。酒も飲めないのに、いろんなバーへ行っては女性に声を掛けて、見
栄を張って贈り物をしたり、その内に自分が独身だと思い込んでしまうところがあって、結婚
を求めたりする癖があるんです。そのせいで尻を拭わされて、見ての通り、家はこんな状態で、
しばらく家に帰って来ないもんですから、また悪い癖が出たかと思って主人の手帖にあった女
の人の電話番号を片っ端から電話しているところなんです。まさかあなた様のような美しい方
に、あの人が………」。
圭子は絶句、奈落の底へ。

益々荒れる生活、自暴自棄になる圭子。
そんな時、銀行の支店長、藤崎(森雅之)と関係を結んでしまう圭子。しかし藤崎には家庭を
捨てる勇気はなく、結局遊び相手にされただけで、藤崎は大阪へ転勤、去っていった。
大阪の実業家、郷田(中村鴈治郎)は、圭子が可愛がっていたホステスである純子(団令子)
に出資し、純子は独立、店を持つことになるというオマケ付き。

亡き夫をも裏切ることになってしまった佳子は、もう後戻りはできない。そして今日もバーの
階段を上る。「夜の世界」で女が生きていく厳しさを味わった佳子は、強くなっていた。その
覚悟を決めた表情は凛としていて美しく、その顔にキャメラがゆっくり寄っていく。画面いっ
ぱいに映し出される晴れやかとさえ思える笑顔で、「終」の文字が出るのでした。



それにしても、高峰秀子が綺麗だった。オーラを発している。すごい色気だった。ラストのア
ップは目に焼き付く。
中村鴈治郎、細川ちか子。このベテランの演技は味わい深く、見ごたえがあった。
それとストーリーを細々と書きたくなってしまうのは、成瀬巳喜男の映画が素晴らしい脚本に
よって活きづいていることもあるけれど、加えて、凄い繊細な演出と映像(カットの繋ぎ)が、
ドラマの「抑揚」や「情感」や「驚き」に見事に寄り添っていて、映像の素晴らしさだけを抽
出することによって「映画を語る」よりも、成瀬の映画はそれを当然のように内包していて、
実に素晴らしく「よく出来ている『映画』」だと思うのです。
演出とカットの繋ぎ(編集)とキャメラの玉井正夫、美術の中古智、照明の石井長四郎、この
いわゆる成瀬組の仕事による素晴らしい映像の感動は、もうドラマと完全に結合してしまって
いる。そこが凄いと思う。成瀬映画はメチャクチャおもしろい。


[NO.696] 2005/9/30 (金) 24:10

浅野晋康『新しい予感』




PFFアワード2004 vol.4』を観ました。
 [1]大吉信隆監督作品『五月ノ庭』(カラー/43min/DV)
 [2]浅野晋康監督作品『新しい予感』(カラー/54min/DV)


◯大吉信隆『五月ノ庭』(2003年/カラー/43min/DV)
出演:嶋津穂高/皆見ひとみ/渥美定義。

あらすしと審査員コメント

オシャレなトーンの映像で貫かれている静かなロードムービー。
山間を走り抜ける道路や高原などの綺麗なロケーションを背景に、ほとんどが車の中のシーン
で出来ているのだけれど、フロントガラスの映り込みが効果的に使われていたり、音楽や効果
音の使い方も良かった。ただ人物の描写が浅いと思った。
アッバス・キアロスタミの『10話』と比較するのはちょっと酷かもしれないけども、車内で
の二人の会話に深みがまったく感じられないのが辛いところ。
映像はオシャレかもしれないけど、審査員コメントの高い評価が信じられない。私には「映像
アイデアが先行してしまっている非映画的な作品」としか思えませんでした。





浅野晋康『新しい予感』(EMotionPictures/2002年/カラー/スタンダード/54分/DV)
出演:持山優美/足立智充/粕谷吉洋/関寛之/村井美樹/杉山冴子/井上幸太郎/井苅智幸
/笠木泉。

あらすしと審査員コメント

2002年の作品ですから『be found dead』の「2話」の二年前ということになるので、
やはり「2話」に比べて洗練味に欠けるものの、私は『新しい予感』の方が好きです。
なんかいっぱい詰まってる感じなので1度観ただけでは分かりにくかったけど、2回目を観た
時はすんなりと入り込めて、感動してしまった。
人間臭いところも好きだし、いい映像もいくつかあった。陽がまだ上っていない早朝の青く見
える町のカットとか、光りと影のコントラストとか、顔のアップとか、走るシーンとか、ラス
トの空とか。
「新しい予感」の「予感」という言葉は、まったく「予測不可能な出来事の連続」で、ぜんぜ
ん「予感」などしていない刹那的なものに見えるけれど、しかし結局最後は繋がるのだろう、
という楽観を超えて「確信」に近い感じかした。
それは人と人との繋がりを信じている美しい心だったし、スキンシップだったし、持山優美
地球儀のボールを抱えて眠るショットが、結局人はぐるっと一周回って繋がっているのだし、
女が子供を産むのだし、だからラストの「行くぞ! 百姓!!」とい台詞にも繋がるのだろう。
それにしても、笑わせてくれたし、主人公の三人が愛すべきキャラクターだった。



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