
野ざらし紀行を読む(2004年3月21日〜4月14日)
野ざらし紀行ー全文 潁原退蔵『芭蕉』(日本古典読本。昭和14年)(『泊船集』による)
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| 番号 | 本文 | 鑑賞 月日 |
| 1 |
千里に旅立ちて路粮をつゝまず、三更月下無何に入るといひけん、昔の人の杖にすがりて、貞享甲子秋八月、江上の破屋を出づる程、風の声そゞろ寒げなり。 野ざらしを心に風のしむ身かな 秋十とせかへつて江戸をさす古郷 |
2000 年 3/21 |
| 2 | 関越ゆる日は、雨降りて、山みな雲に隠れけり。 霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき 何某千里といひけるは、此たび路のたすけとなりて、万いたはり心を尽し侍る。常に莫逆の交ふかく、朋友に信あるかな此の人。 深川や芭蕉を富士に預け行く 千里 |
3/22 |
| 3 |
富士川のほとりを行くに、三つばかりなる捨子の哀げに泣くあり。此の川の早瀬にかけて、浮世の波をしのぐにたへず、露ばかりの命まつ間と捨て置きけん、小萩がもとの秋の風、こよひや散るらん、あすや萎れんと、袂より喰物投げて通るに、 猿を聞く人捨子に秋の風いかに いかにぞや、汝父に悪まれたるか、母に疎まれたるか。父は汝を悪むにあらじ、母は汝を疎むにあらじ。たゞこれ天にして、汝が性の拙なきを泣け。 |
3/25 |
| 4 |
大井川越ゆる日は、終日雨降りければ、 秋の日の雨江戸に指折らん大井川 千里 眼前 道のべの木槿は馬にくはれけり |
3/26 |
| 5 |
二十日余りの月のかすかに見えて、山の根ぎはいと闇きに、馬上に鞭を垂れて、数里いまだ鶏鳴ならず。杜牧が早行の残夢、小夜の中山に到りて忽ち驚く。 馬に寝て残夢月遠し茶の煙 |
3/27 |
| 6 |
松葉屋風瀑が伊勢に有りけるを尋ね音信れて、十日ばかり足を留む。 暮れて外宮に詣で侍りけるに、一の鳥居の陰ほのぐらく、御燈処々に見えて、また上もなき峰の松風、身にしむばかり深き心を起して、 三十日月なし千とせの杉を抱く嵐 腰間に寸鉄を帯びず、襟に一嚢を懸けて、手に十八の珠を携ふ。僧に似て塵あり。俗に似て髪なし。我僧にあらずといへども、鬟なきものは浮屠の属にたぐへて、神前に入るをゆるさず。 |
3/28 |
| 7 |
西行谷の麓に流れあり。女どもの芋洗ふを見るに、 芋洗ふ女西行ならば歌よまん 其の日のかへさ、ある茶屋に立寄りけるに、てふといひける女あが名に発句せよと言ひて、白き絹出しけるに書付け侍る。 蘭の香や蝶の翅にたきものす 閑人の茅舍をとひて 蔦植ゑて竹四五本のあらし哉 |
3/29 |
| 8 |
長月の初め故郷に帰りて、北堂の萱草も霜枯れ果てて、今は跡だになし。何事も昔にかはりて、はらからの鬢白く、眉皺よりて、たゞ命有りてとのみ言ひて言葉はなきに、兄(このかみ)の守袋をほどきて、母の白髮をがめよ、浦島の子が玉手箱、汝が眉もやゝ老いたりと、しばらく泣きて、 手にとらば消えん涙ぞあつき秋の霜 |
3/30 |
| 9 |
大和の国に行脚して、葛下の郡竹の内と云ふ所にいたる。此処は例の千里が旧里なれば、日頃とゞまりて足を休む。 藪より奥に家あり 綿弓や琵琶に慰む竹のおく 二上山当麻寺に詣でて、庭上の松を見るに、凡そ千歳も経たるならん。大いさ牛をかくすともいふべけん。かれ非情といへども、仏縁にひかれて、斧斤の罪を免がれたるぞ幸にしてたつとし。 僧朝顔いく死にかへる法の松 |
3/31 |
| 10 |
独り吉野の奥に辿りけるに、まことに山深く白雲峯に重なり、煙雨谷を埋んで、山賤の家所々にちひさく、西に木を伐る音東に響き、院々の鐘の声心の底にこたふ。昔より此の山に入りて世を忘れたる人の、多くは詩にのがれ、歌に隠る。いでや唐土の廬山といはんも亦むべならずや。 ある坊に一夜をかりて 砧打ちて我に聞せよや坊が妻 |
4/1 |
| 11 | 西上人の草の庵の跡は、奥の院より右の方二町ばかり分け入るほど、柴人の通ふ道のみわづかに有りて、嶮しき谷を隔てたる、いとたふとし。かのとく/\の清水は昔にかはらずと見えて、今もとく/\と雫落ちける。 露とく/\こゝろみに浮世すゝがばや もしこれ扶桑に伯夷あらば、必ず口を漱がん。もしこれ許由に告げば、耳を洗はん。山を登り坂を下るに、秋の日すでに斜になれば、名ある所々見残して、まづ後醍醐帝の御陵を拝む。 御廟年を経てしのぶは何を忍草 |
4/3 |
| 12 |
大和より山城を経て、近江路に入て美濃に至るに、今須・山中を過ぎて、いにしへ常盤の塚あり。伊勢の守武がいひける、義朝殿に似たる秋風とは、いづれの処か似たりけん。我もまた、 義朝の心に似たりあきの風 |
4/4 |
| 13 |
不破 秋風や藪も畠も不破の関 |
4/5 |
| 14 |
大垣にとまりける夜は、木因が家をあるじとす。武蔵野を出でし時、野ざらしを心に思ひて旅立ちければ、 死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮 |
4/6 |
| 15 | 桑名本当寺にて 冬牡丹千鳥よ雪のほとゝぎす 草の枕に寝あきて、まだほの暗き中に、浜のかたへ出でて、 曙やしら魚白き事一寸 |
4/7 |
| 16 |
熱田に詣づ。社頭大いに破れ、築地は倒れて草むらに隠る。かしこに縄を張りて、小社の跡をしるし、ここに石を据ゑて、其の神と名のる。蓬・荵心のまゝに生えたるぞ、なか/\にめでたきよりも心とまりける。 しのぶさへ枯れて餅買ふやどり哉 |
4/8 |
| 17 |
名護屋に入る道のほど諷吟す 狂句木がらしの身は竹斎に似たる哉 草枕犬も時雨るゝか夜の声 |
4/9 |
| 18 | 雪見にありきて 市人よこの笠売らう雪の傘 旅人を見る 馬をさへながむる雪の朝かな 海辺に日暮して 海くれて鴨の声ほのかに白し |
4/10 |
| 19 |
爰に草鞋をとき、かしこに杖をすてて、旅寝ながらに年のくれければ、 年くれぬ笠きて草鞋はきながら といひ/\も山家に年を越して、 誰が聟ぞ歯朶に餅おふうしの年 奈良に出づる道のほど 春なれや名もなき山の朝霞 |
4/11 |
| 20 |
二月堂に籠りて 水とりや氷の僧の沓の音 京に登りて三井秋風が鳴滝の山家をとふ。 梅林 梅白し昨日や鶴をぬすまれし 樫の木の花にかまはぬすがたかな |
4/12 |
| 21 | 伏見西岸寺任口上人に逢うて 我が衣にふしみの桃の雫せよ 大津に出づる道、山路を越えて 山路来て何やらゆかしすみれ草 湖水眺望 辛崎の松は花よりおぼろにて |
4/13 |
| 22 |
昼の休らひとて旅店に腰をかけて 躑躅いけてその蔭に干鱈さく女 吟行 菜畠に花見顔なる雀かな 水口にて廿年を経て古人に逢ふ 命二つ中に活たる桜かな |
4/14 |
| 23 |
伊豆の国蛭が小島の桑門、これも去年の秋より行脚しけるに、我が名を聞きて草の枕の道づれにもと、尾張の国まで跡を慕ひ来たりければ、 いざともに穂麦くらはん草枕 此の僧我に告げて曰、円覚寺大顛和尚、ことしむ月のはじめ、遷化し給ふよし。まことや夢の心地せらるゝに、まづ道より其角が方へ申し遣しける。 梅恋ひて卯の花拝む涙かな 贈杜国子 白けしに羽もぐ蝶のかたみ哉 |
4/14 |
| 24 |
二度桐葉子がもとに有りて、今や東に下らんとするに、 牡丹蘂ふかく分け出る蜂の名残哉 甲斐の国の山家に立ち寄りて、 行く駒の麦に慰むやどりかな 卯月の末いほりに帰り、旅のつかれをはらす。 夏ごろもいまだ虱をとり尽さず |
4/14 |
| 参考にさせてもらった書籍 | ・杉浦正一郎・宮本三郎・萩野清校注「芭蕉文集」(岩波書店) ・筑摩書房「松尾芭蕉集」から井本農一訳〈奥の細道〉 ・加藤楸邨著「芭蕉の山河」(読売新聞社) ・今栄蔵校注「芭蕉句集」(新潮社) |
| 参考にさせてもらったサイト | ・芭蕉DB http://www.ese.yamanashi.ac.jp/~itoyo/basho/basho.htm ・芭蕉庵ドットコム http://www.bashouan.com/index.htm |