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■2009年09月

2009年09月30日(水) 君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 (DVD)
・評価:6(満足)

・制作年・国:06年ハンガリー

・監督:クリスティナ・ゴダ

・出演: イヴァーン・フェニェー、カタ・ドボー、シャーンドル・チャーニ、カーロイ・ゲステシ、イルディコー・バーンシャーギ、タマーシュ・ルダーン、ヴィクトーリア・サーヴァイ

1956年、ソ連支配の共産主義政権下にあったハンガリーのブダペスト。改革を求め学生運動に身を投じる女子学生ヴィキ(ドボー)とメルボルン・オリンピック出場を目前にした水球チームのエース・カルチ(フェニェー)が出会う。それまで政治に無関心だったカルチも、秘密警察(AVO)や軍の横暴に傍観者ではいられなくなる。同時にヴィキを愛するようになったカルチは、オリンピックよりも彼女の傍にいることを決意するが・・・。

1956年、東側諸国で初の武装蜂起となった「ハンガリー動乱」と、その数週間後に行われたオリンピックの水球でハンガリーとソ連が戦った「メルボルンの流血戦」という史実を背景に、脅しに屈しない恋人たちの姿を描いた愛と悲劇の物語。ラブ・ストーリーを主軸にしているため共感は得やすいが、歴史や政治的背景の説明は少ない。

ソ連軍の戦車とブダペスト民衆との市街戦と、代理戦争ともいえるスポーツとの直接対決を並行して描いている点がユニークだ。エンディングでは自白を拒否して刑場に向かうヴィキの悲劇があり、一方で歓喜の中で金メダルを勝ち取るカルチの栄光がある。ハンガリー国家を歌いながら「光と闇」が交互に描かれ、その悲劇性を高めている。

冷戦当時、東側諸国の民主化の動向や警察国家・監視国家による横暴ぶりは、『善き人のためのソナタ』(06年)や『存在の耐えられない軽さ』(87年)、『プラハ!』(01年)でも見られる。「ハンガリー動乱」の12年後に「プラハの春」と呼ばれる「チェコ事件」が起こり、33年後の1989年に遠く中国で天安門事件があり、その5ケ月後にベルリンの壁崩壊し、ついに東西冷戦が終結する。

東側諸国の近代史は日本人には馴染み薄いが、映画から知ることも少なくない。ラストに記される以下の言葉の重みも噛みしめたいものだ。「自由の国に生まれた者には理解も及ぶまい/だが私たちは何度でも繰り返して噛みしめる/自由がすべてに勝る贈り物であることを」。
2009年09月24日(木) チェンジリング (DVD)
・評価:7(佳作)

・制作年・国:08年アメリカ

・監督:クリント・イーストウッド

・出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン、コルム・フィオール、ジェイソン・バトラー・ハーナー、エイミー・ライアン、マイケル・ケリー

1928年、ロサンゼルスの自宅から9歳の少年ウォルターが行方不明になる。事件から5ケ月後、警察から見つかったと連絡があり、母親クリステイン(ジョリー)は念願の再会を果たすが、ウォルターに似た別人だった。母親は間違いを指摘し再捜査を訴えるが、警察は取り合わない。警察の態度に業を煮やしたクリスティンはマスコミを通じ警察の間違いを告発するが、これに腹を立てた警察は彼女を精神病院に強制入院させる。同じころ、郊外の養鶏場では恐るべきことが起きていた・・・。

Changelingとは、「妖精のいたずらによって子供が取り替えられる」というヨーロッパの民間伝承から採られている。「狂騒の20年代」と呼ばれた禁酒法、KKK団、世界恐慌前夜の時代。警察が違う子供を母親に押しつけ、母親が自分の子供でないと訴えると精神病院へ隔離するという信じられない話だが、「コリンズ事件」として実際にあった事件というから驚く。権力の欺瞞さや横暴さは、多かれ少なかれ今も昔も変わらないのだろう。

物語は、平凡な主婦が子供の行方をつきとめたい一心で腐敗した警察に立ち向かう姿を描き、児童連続殺人鬼のエピソードもからみ紆余曲折するが、ミステリー的な演出も功を奏して退屈することはない。

イーストウッドの映画は、昔から権力への批判や異常殺人鬼が多くみられる、この作品も彼ならではのテーマ性や趣向性が覗ける。ラストのクリスティンが犯人に対して「地獄へ堕ちろ!」と叫ぶ場面や、目を背けたくなる死刑執行場面でのねちっこい演出は、彼の若かりし頃からの情動が伝わってくるようだ。

主演のアンジェリーナ・ジョリーも、アクション映画とは打って変わり抑えた演技で、『17歳のカルテ』(99年)のような芸達者ぶりをみせ好演している。
2009年09月19日(土) 棒の哀しみ (SCR)
・評価:6(満足)

・制作年・国:94年日本

・監督:神代辰巳

・出演:奥田瑛二、永島瑛子、高島礼子、哀川翔、白竜、春木みさよ、平泉成、天宮成、竹中直人、桃井かおり、中島宏海、庄司哲郎

大村組の若頭・田中(奥田)は、任された仕事はそつなくこなし、組のため懲役も努めた律儀な男。しかし、組長は跡目を弟分の倉内(白竜)に継がせ、田中には別の組を作らせ、さらに上納金を増やそうとする。田中は弟分の杉本(哀川)と巻き返しの策略を練り始める。対立する大川組との抗争は体よく断り、さらに組の若者に自分を襲わせ、一芝居をうって倉内を封じ込める作戦に出る・・・。

ロマンポルノの旗手として注目を浴びた神代監督の、劇場公開版としての遺作で、キネ旬ベストテン4位を獲得。撮影には酸素ボンベに車椅子姿で現場入りし、17日間というハードスケジュールで撮ったという。

長回し撮影を多用し、ヤクザ映画にありがちな情緒に流れることなく、堕ちていく男の悲哀をハードボイルド・タッチで描写する。後半の性描写はリアルで迫力あるが、あまりいやらしさは感じられない。

主演の奥田瑛二は、「棒っきれのように生き、棒っきれのようにくたばる」ケチなヤクザを好演し、キネ旬主演男優賞を受賞。劇中「電機メーカーの課長さん」と言わせるほど背広にネクタイを締めて、一見サラリーマンと変わらない。掃除・洗濯・裁縫もこまめにやり、刑務所暮らしが長かったためか独り言も多い。

そのヤクザが何度も腹を刺されては自分で傷口を糸で縫い、シャブ漬けになった女をセックス調教する。サラリーマン風の背広姿と、のたうち回るような裸姿を違和感なく演じ、文字通り身体をはった演技だ。

原作は北方謙三の同名小説だが、公開後のビデオ題名は『真極道 棒の哀しみ』であったという。どうりで当時レンタルショップで探しても見つからなかった訳だが、「しんゆり映画祭」でやっと鑑賞できた。奥田瑛二と白鳥あかねのトークもあり、題名「真極道」変更のいきさつや、神代監督の口癖「なんかなぁ〜い」と常にアイデアを求めていたエピソードなどを聞くことができた。
2009年09月18日(金) 男はつらいよ 寅次郎心の旅路 (DVD)
・評価:7(佳作)

・制作年・国:89年日本

・監督:山田洋次

・出演:渥美清、竹下景子、淡路恵子、柄本明、倍賞千恵子、三崎千恵子、下條正巳、太宰久雄、吉岡秀隆、前田吟、イッセー尾形、笠智衆、笹野高史、マーチン・ロシュバーガー


寅次郎(渥美)は、旅の途中で自殺を図ろうとしたサラリーマンの坂口(柄本)を助ける。坂口は、お礼にウィーンへ連れていくという。さくらたちの反対で一時はやめる決心をするが、結局は行く羽目に。ウィーンについた2人だが、趣味が合わずに別行動。坂口は美術館や舞踏会に出かけ、寅さんはホテルから1歩も出なかったが、3日目に公園を散歩するうちホテルに帰れなくなる。偶然会った久美子(竹下)という日本人ツアーコンダクター率いる一団についていってしまう・・・。

ウィーンを舞台にしたシリーズ41作目で、最初で最後の海外ロケとなる。ウィーン市長が機内で観た「男はつらいよ」に感銘し、「ぜひウィーンでロケを」とオファーしてきたのが事の始まりという。寅さんとウィーンではあまりに場違いな感じだが、寅さんが異文化に投げ込まれ、言葉は通じなくても気持は何となく通じるというところがこの映画の面白さだろう。

公園のベンチでは、上品なお婆さんに煎餅をあげ「歯は丈夫そうだね」と日本語で言うが、コミュニケーションはとれているようだ。久美子との散歩のとき、神父を御前様と呼び、お互い挨拶を交わす。「美しき青きドナウ」を眺めながら「大利根月夜」を口ずさみ、久美子に望郷の念を思い起こさせる。

寅さんは何処へ行こうと、誰に会おうと、気後れせず、束縛されず、あの腹巻スタイルで徹底したマイペースぶりだ。寅さんは変わらぬ「日本人の心」で坂口を助け、久美子を幸せにし、意図せず海外友好親善まで行うが、最後は失恋で終わるのはいつものお約束だ。また、寅さんの「生涯旅人」の生き方に憧れる、満男の気持もよく分かる。

ウィーン・ロケも本格的で、名所名跡を押さえながら、『第3の男』(49年)にまつわるオマージュ・カットを挟み込みながら、ウィーンでの暮らしぶりも垣間見せる。笹野高史やイッセー尾形、柄本明、淡路恵子など、脇役陣の見せ場もそれぞれに楽しい。
2009年09月12日(土) ビフォア・サンセット (DVD)
・評価:6(満足)

・制作年・国:04年アメリカ

・監督:リチャード・リンクレイター

・出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、ヴァーノン・ドブチェフ、ルイーズ・レモワン・トレス、ロドルフ・ポリー



ウィーンで一夜を共にしたアメリカ人・ジェシーとフランス人・セリーヌ。半年後の再会を約束したものの、それは果たされぬまま9年の歳月が流れた。作家となったジェシーは、パリの書店で行われたキャンペーンの席で偶然セリーヌと再会を果たす。喜び合う2人だが、彼らに残された時間はジェシーが飛行機に乗るまでのたった85分。2人はパリの街をさすらいながら、9年の空白を埋め合わせるかのように思いを語り合う・・・。

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95年)の9年後の続編で、舞台を前作のウィーンからセリーヌの住むパリへ移している。前作は夜明けまでの14時間がタイム・リミットだったが、今作は夕暮れまでのたった85分。映画が81分だから、「24」よろしくほぼリアルタイムで物語が進展していく。前作同様に事件らしい事件は全くなく、会話だけで成立させてしまうのはアメリカ映画としては珍しい。

前作はラストシーンで、彼らが辿った足跡を追う空白の風景がモンタージュされていたが、今作はファーストシーンで、彼らがこれから辿る空白の風景がモンタージュされて映画が始まる。

冒頭の書店からカフェまで、さらにカフェから公園まで、2人が歩きながら会話する様子を、数分に渡り何回かワンショット・ワンシークエンスで撮った移動撮影がある。徹底して2人の会話や表情を追い、感情の揺れを切り取ろうとする姿勢が明確なため、いささか実験的ではあるが違和感は少ない。

この映画を観ると、やはり9年間の隔たりが感じられた。ジェシーの額には深いシワが刻まれ、情熱を欠いた結婚生活であることを物語っている。一方、セリーヌも青春時代の煌きは失われ、次々と男と付き合うが、未だに独身を貫きときおり孤独の影がつきまとう。

お互いに相手への思いが残っていたため、決して心が満たされなかった9年間。お互いの人生に強く影響を与え合う存在であることが分かっていながら、9年前に戻ってやり直せない現実。人生経験を積んだ分、夢のある話が無くなり、現実的な話が増えてくる。願わくは、私は2人からあまり苦悩の言葉は聞きたくなかった。

ラストシーンは、またしても曖昧なまま幕を閉じる。ジェシーは飛行機に間に合ったのだろうか? そして、また何年後かに続編が作られるのだろうか? 50年後の再会を描いた名作『もういちど』(00年)のように、人生の総決算として、死の間際での再会を観てみたい気もする。
2009年09月10日(木) プラハ! (DVD)
・評価:6(満足)

・制作年・国:01年チェコ

・監督:フィリプ・レンチ

・出演:ズザノ・ノリソヴァー、ヤン・レーヴァイ、ヤロミール・ノセク、アルジュヴェタ・スタンコヴァー、アンナ・ヴェセラー、ルポシュ・コステルニー、マルタン・クバチャーク、オンドジェイ・シーペク

自由で開放的な雰囲気に包まれた1968年夏のチェコスロヴァキアのプラハ。高校卒業を目前に控えたテレザ(ノリソヴァー)たち女子高校生3人組は、燃えるような恋と初体験に憧れていた。ある日、サンフランシスコを目指す脱走兵のシモン(レーヴァイ)たち3人組が現れる。女子高校生と脱走兵たちは自然と惹かれあい、恋に落ちていく。しかし、プラハ動乱と呼ばれるソ連軍の侵攻がすぐそこまで近づいていた・・・。

時代は、社会主義国でありながら民主化が進められた「プラハの春」と呼ばれた時で、ポップ・カルチャーやフラワー・ムーブメントの波がプラハにも押し寄せていた。この映画は、最後にソ連軍の戦車が突然現れ、束の間の青春時代と共に、束の間の「プラハの春」も終わったという感慨を残して終わる。しかしそれ以外は、徹底してポップでお洒落で少しオバカな60年代のミュージカル映画だ。

音楽は「恋のダウンタウン」や「シュガータウンは恋の町」、「花のサンフランシスコ」などが流れ、聞き覚えのある曲だが全てチェコ語で歌われるためとても新鮮だ。冒頭の色鮮やかで躍動的な「恋のダウンタウン」のダンスシーンから一気に引き込まれる。

『プラハ!』(原題は"Rebelobe"で反逆者の意味)といっても、プラハの街並みはほとんど出ず、その街並みの景観を期待すると裏切られる。その代わり森や湖、1両編成のローカル列車などの牧歌的な中欧の風景が楽しめる。手押しトロッコも出てくるが、『ライフ・イズ・ミラクル』(05年)を始めとするクストリッツアの映画でよくみられるのどかな光景だ。

政治的なテーマを内包しながら、あえてオバカでユーモラスに表現するシニカルな目線も感じられた。
2009年09月06日(日) ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 (DVD)
・評価:7(佳作)

・制作年・国:95年アメリカ

・監督:リチャード・リンクレイター

・出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、アドンドレア・エッカート、ハンノ・ペシュル、エルニ・マンゴールド、ドミニク・カステル


アメリカ人青年ジェシー(ホーク)とソルボンヌ大学に通うセリーヌ(デルピー)は、ユーロトレインの車内で出会った瞬間から心が通い合うのを感じる。ウィーンで途中下車した2人は、それから14時間、街を歩きながら語り合う。家族の話や人生や霊的な話、恋愛や友人やセックスのことなど、たわいもない会話を夜通し続けて理解を深め合う2人。そして日が昇り、別れの時がやってくる・・・。

旅先で出会った若い男女がウィーンの街を夜通し歩きつづけ、ただひたすら会話するというシンプルな構成。異国の地ウィーンでの、翌朝までの14時間というミニマムな設定。その中で交わされる会話の中で、彼らの人生観や価値観、そして微妙な心の揺れが見え隠れする。事件らしき事件は全く起らないが、オールロケを活かしたライブ感のある街並に、お洒落で知的な会話が延々と続き、退屈することは全くない。

主人公2人は、ロメールの映画のように喋りっぱなしで、2人の自然な会話と瑞々しい表情・仕草に惹きつけられるが、ウィーンという舞台が一体となり影のように支えていることが分かる。『第3の男』(49年)でお馴染みの大観覧車での初キスやトラム(路面電車)での <質問ゲーム>、レストランでお互いの気持を確かめ合う <電話ごっこ>、クライネスカフェに現れる手相占い師、ドナウ運河沿いの吟遊詩人との出会いなど、場所と状況を変えさまざまに感情が増幅される。

私は、セリーヌがスーラの絵を見て感想を語る次のセリフが好きだ。
「人物が背景に溶け込む感じが好き。環境のほうが人間よりも強いの。人間は移ろいやすいのよ。束の間の存在ね」。
この映画は人間が際立っているように見えるが、実際は環境や状況の方が人間より強い。ラストシーンで、朝になり2人の辿った場所をカメラが追う、人気のない物哀しいシーンがそれを証明しているだろう。

この映画を観て、私もユーロトレインに乗り、気ままな旅をしたくなった。この映画は半年後の再会を約束して終わったが、その約束は果たされなかったようだ。しかし、9年後のパリで奇跡的に再会する『ビフォア・サンセット』(04年)という続編が作られていた。この映画も誠実に作られているようなので、ぜひ観たい。
 

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