◯森の中(夜)
暗闇の森の中。
周囲なぎ倒された樹木、木の実の食い散らかした跡。
ふとも森の中を疾駆する影にインサード。次第に速さを増す影。
テロップ「中国・雲南省」
影の眼前に広がる湖。その湖面の中央にポツンと明るい灯火。
◯同・湖上
一隻の船が浮かんでいる。その後方にライトを灯した甲板。
甲板上で釣り糸を垂れる人民軍の軍曹と日本人・小野雄一の姿。
軍曹「つれないな。何もいないのか? この沼には」
小野「いや、いろんなものが釣れますよ----」
小野は釣り竿を上げ、背後の甲板に逃げる。
甲板に転がる石油缶。大きな金属音が響く。
その周辺には空き缶やら長靴がある。
小野「観光客が投げ捨てた空き缶、農民一揆が残した長靴----」
小野、再び竿を湖水にら投げる。同時に竿先がピクリッと動く。
軍曹「こ、こいつはでかいぞッ!」
ググッと持ち上がる水面。ニヤリと笑う小野。
小野「そしてもう一つ----」
船が左右に揺れる。そして水が一気に持ちあがる。
小野「時代が残した古代の遺物----」
水面から突如噴出する黒い影。同時に隣にいる軍曹。
軍曹「撃てッ!」
周辺から銃声が響きわたる。水中内に水しぶきと同時に倒れる。
軍曹「ライト点灯!」
同時に船上、湖畔一帯のライトが点灯。
周囲には中国人民陸軍の車両、兵士たちがあらわになる。
小野は竿を甲板のクレーンにつなぎ、動かす。
水面を凝視する一同。
吊される長い体。大蛇である。
小野は蛇の頭部を叩く。反応がない。
小野「あんた、まさか-----」
軍曹「安心しろ!」
軍曹は機関銃の弾倉をぬく。「麻酔弾」。
同時に大蛇の目が光り、小野に牙が襲いかかる。
軍曹「----!」
小野は軍曹から銃を奪い取り、撃つ。
麻酔弾を受ける大蛇、ゆっくりと倒れていく。その衝撃で糸が切れ、湖水の飛沫。
軍曹「拿捕しろ!」
船上の兵士たちが鯨拿捕用の網を湖面に打ちつける。
ブラックアウト。
◯香港(俯瞰)
ビクトリア湾に浮かぶインテリジェント・ビル群。
◯同・香港大学
大学棟の一部にクローズアップ。
声 「蛇という生き物に関しては、世界で色々な解釈がある-----」
◯同・講堂内
あくびをしている学生たちが机に並ぶ。
演壇で講義をしているのは生物学教授の陳輝明。
陳 「聖書ではアダムとイブに林檎を唆した邪悪な動物----」
携帯ラジオを聴いている学生A。あわてて学生にイヤホンを差し出す。驚愕する学生Bの姿。
陳、それを無視して講義を続けている。
陳 「ここ香港では不老長寿の動物、そして日本では神に使える神聖な動物----」
学生BがCを手招きする。そしてCがDへ。次第にそれらを中心にガヤガヤしはじめる。
陳 「実際、これだけ評価が違うのは特異な外見からくる。蛇には手も脚もない。にも関わらず、
木に登れたり自分より大きい卵を飲み込む。まさに変幻自在な才能を活かしながら生息してき
たため、は虫類の中では生存率が高い」
そのとき、学生Dの持っていた携帯ラジオのイヤホンがはずれる。
同時に講堂いっぱいに広がるアナウンサーの声。
アナウンサー「-----繰り返しお伝えいたします。中国雲南省で大蛇が捕獲されました!」
驚愕する陳の表情。
◯香港上空
澄み切った青空。そこをフライトする巨大な人民軍の輸送機。
輸送機は啓徳空港へと向かっている。
アナウンサーの声「なお、この大蛇は詳しく生態調査を行うため、
香港の国際展示場に空輸されます」
◯香港国際展示場
記者たちが集まっている。中央の演壇で人民軍の高官が演説している。
高官「そのとき、我々は麻酔銃を撃ち込むことで大蛇を弱らせ----」
それをつまらなそうに聞いているのは香港中央テレビ記者・李慧嫻
(以下ワイハン)の姿。 ワイハンは立ち上がる。
ワイハン「前置きはいいから! 早く現物みしてくれない?」
ムッとする高官。高官は演壇から降り、倉庫の方へと歩む。
隣にいるカメラマンの周が笑う。
周 「機嫌悪いな?」
ワイハン「蛇なんかより人間の方で忙しいのに----」
ワイハンはシステム手帳を広げる。張られている新聞記事の見出しは、
「疑惑、中国人民解放軍が新兵器を開発?」「数百名の兵士が行方
不明に」「人民解放軍幹部、依然として
沈黙を守る!」
周 「例の解放軍の兵器開発疑惑か」
ワイハン「糸口をたどろうとしていた矢先にこれだもん」
そのとき倉庫のシャッターがゆっくりと開かれる。記者たちが立ち上がる。
ガラス張りの中には巨大な蛇が横たわっている。
目を見開いているワイハン、周。
ワイハン「これって----」
同時に、ガラスケースの横に立つ小野。
小野「全長80m、重量1t、横幅8m。いずれもギネスブックを更新する---」
ワイハン「あなたは?」
小野「日本のY社の生物研究員、小野雄一という。今回中国政府の
請で捜索に加わっていた」
小野は周囲の記者に叫ぶ。
小野「なお、この大蛇はニシキヘビから分岐した新種で、おそらく雲南の
山中に長く住み着いていた生き残りだと推察される---」
記者A「オスですか? メスですか?」
小野「オスだ。だが、性器を見たところ交尾の形跡がない」
記者B「つまり、この種は一頭だけということですね」
小野「そうだ。ここ最近、雲南省で巻き起こった蛇騒動はこれで終結した」
ワイハン、周、そして記者たちが廊下へと走り出す。
◯同・廊下内
走っているワイハン、周、撮影隊たち。
ワイハン「撮った?」
周 「バッチリ。後は次は玄関先でフラッシュレポート(ニュースの冒頭解説)」
ワイハン「シッ-----」
ワイハンは携帯電話を取り出してプッシュする。
周 「オッ! さっそく北京へ攻撃開始か?」
ワイハンは頷く。が、ワイハンの電話は通じない。
電話の液晶表示板を見ると<通話圏外です>。
ワイハン「チッ-----」
ワイハンは周と撮影隊に叫ぶ。
ワイハン「先にセッティングしといて。その間に私は北京行きチケットをとるから」
ワイハンは展示場内の公衆電話へと戻っていく。
◯同・展示場内
公衆電話に並ぶ各取材記者たち。その長蛇の列にため息をつくワイハン。
ワイハンはふと背後を振り返る。
ワイハン「-------?」
蛇の前でたたずむ一人の人物。陳である。
陳 「笑わせてくれるな---」
そこへと歩いてくる小野。
小野「ご不満かな?」
陳 「なにを企んでいる?」
小野「企む?」
陳 「確かにこいつは外見からして、立派なニシキヘビだ。だが、こいつは
あの、雲南の悲劇の 主人公じゃない---」
小野「おまえは、まだあの証言を信じているのか?」
陳 「事実だ----」
小野「事実というのは証拠があってはじめて成立する。俺は証拠を示した。おまえは?」
陳 「-----」
陳は出口へと歩き出していく。
ため息をつく小野。そこへやってくるワイハン。
ワイハン「あの人は?」
小野「香港大学のは虫類の蛇博士。あんたも香港のマスコミだったらしっ
とくんだな。雲南に夢を 馳せるロンチスト、だってな」
ワイハン「雲南省-----」
小野「ところで、今夜あいてる? どう? ヘビ料理でも」
ワイハン「ごめんなさい。私、ヘビ苦手なモンで」
ワイハンは電話口へと走っていく。それを不服そうに見つめる小野。
◯香港大学・陳の教授室
壁一面に張ってある記事やメモ。そこの文字は、「雲南省で蛇騒動」
「全長300mの大蛇がいる?」「毒気を吐いて応戦!? まさに怪獣」。
自分のデスクに座っている陳。陳は机の引き出しからカセットテープを取り出す。
陳 「-----」
陳はそれをレコーダーにセットする。レコーダーはラジオの歌謡ショーの音声を再生。
声 「----稲刈り歌でした。そういえばもうそろそろ旧盆ですね。もう1981年も半分すぎたか!
はやいなあ!」
依然としてボーとしている陳。ふと音声が堅いアナウンサーの声に切り替わる。
声 「番組の途中ですが、ここで昨日、雲南省におこった怪現象についてのニュースです」
◯(1981年夏)雲南省
誰一人存在しない、静止したような雰囲気。
周囲には倒壊した家屋、家財道具が一面に散乱している。
ラジカセはテープを録画している。
それを前に座り込んでいる陳(当時九歳)の姿。
声 「一夜にして死者300人、重軽傷者4000人を出した被害は、
当日の気象状況から竜巻が発生
した観測が強いとのことです」
陳は立ち上がり、呆然として周囲を見渡す。
声 「なお、この被害の救助のため各国政府は災害救助の物資
を運ぶとの声が出されていますが、北京政府は人民軍による迅
速な救助活動が進んでいるため、その必要はまったくないと声明を
出しています」
◯陳の教授室(現在)
レコーダーが再生している。
声 「-----さあ。気を取り直して続きの曲いってみましょう!」
それを止める陳の指。震える拳を机にたたきつける。
陳 「絶対に違う-----!」
陳は引き出しを開ける。その中にはクシャクシャのドル紙幣が山のようにある。
◯香港中央テレビ・玄関口
車から降り立つワイハン。不満気な表情で屋内へと歩く。
◯同・報道局オフィス
やってくるワイハン。
込み合う記者たちを払いのけ、ガラスで隔離されている個室のドアへと直進する。
個室ドアに書かれている文字は<報道局長室>。
◯同・報道局長室
悠然と座っている報道局長。やってきたワイハンに視線を馳せる。
局長「その後どうかね。キミの進めているスクープの方は?」
ワイハンは企画書を机に叩きおく。
その表示は<中国人民解放軍、大量兵士動員の行方/
企画:李慧嫻(レイ・ワイハン)>。
ワイハン「ええ。さっき北京の中央軍事委員会に行方不明になった
兵士たちの行方の取材を行おうとしたら-----それはもう取材済み
だとか?」
局長はミネラルウォーターを一口飲む。
ワイハン「どういうことです!」
局長は引き出しから書類を差し出す。
局長「これが中央軍事委員会からのデータだ」
ワイハン「な-----!」
局長「北京駐在事務所の連中に調べさせた。兵士の投員先は内陸
部開発の警備だ。この資料が示す限り、キミの推測する秘密兵器
>研究開発の可能性はゼロだ」
ワイハン「そんな! 嘘です! 行方不明の兵員のほとんどが技師、
それも過去に兵器開発に携わった生え抜きの連中です。それが
内陸開発----それも警備なんて-----」
局長「確かにキミの洞察力は時代背景に即している。98年の大統
領スキャンダル事件、12月の
イラク制裁、そして北朝鮮への核査
察強行策。パックスアメリカーナ(世界アメリカ覇権主義)の
瓦解の中で、この、北京それも人民解放軍の奇妙な動き-----」
ワイハン「だったら------」
局長「確証は闇の中にある」
局長は書類を指で叩く。
局長「この資料の通り、北京政府は情報公開が正当にされて
いない。それを嘘だと叫ぶとしたら、それなりの説得力を持った
確証が必要だ。その、ゆるぎない確証は現段階の我々の力ではない」
ワイハン「------つまり、取材から手を引けと?」
局長は笑いながら、ミネラルウォーターをまた一口。
局長「別に打ち切れとは言ってない。裏付けさえあれば、いつ
でも電波にとばしてやる。すべては
確証だ」
◯同・報道局オフィス
脚を投げて座っているワイハン。
その横でコーヒーを飲んでいる報道記者の郭。
郭 「それって呈のいい取材打ち切り勧告ですよ」
ワイハン「まあね-----」
郭 「局長がああいっている以上は、このネタはボツですか」
ワイハン「冗談でしょう」
ワイハンはチラリと窓越しに局長オフィスを見る。
ミネラルウォータをグビのみしている局長の姿。
ワイハン「顔面蒼白、チアノーゼによる水分不足。多大なストレスが彼を追いつめている」
郭 「はあ----」
ワイハン「加えて局長は日本の経済界に大きなパイプを持っている。
80年代から始まる彼のスクープにつぐスクープのほどんどが東アジア、
特に日本の関わった経済ネタ。それによる今の地位の形成から考えれ
ば答えは一つでしょう」
郭 「日本が圧力をかけているってことですか?」
ワイハン「こいつはデカいよ。日本って国は根回しがうまい。それが
ここまで露骨に箝口令を出して
いるってことは、よっぽど慌ててい
るのか、それとも----」
郭 「それとも?」
薄ら笑いを浮かべるワイハン。
ワイハン「とりあえず圧力先の状況を把握する」
郭 「日本への取材攻勢ですか?」
ワイハンはバックの中から資料を取り出し、郭に渡す。
ワイハン「明日から三日間の日本企業の工場取材の企画を通した。
取材そのものは半日もあれば終わるから、その脚で調べて。カメラ
撮影は平壌にいる社会部遊軍を差し回す-----」
郭 「え? それって僕がやるんですか?」
ワイハン「警告通達が公的に出た以上、私がうろうろ嗅ぎ回ることはできない」
そのとき、入ってくる撮影隊と周。
ワイハンは周に手を挙げつつ、資料にメモを走らせそれを郭に渡す。
ワイハン「これが私の連絡先----イリジウム(携帯衛星電話)だから料金、気をつけて」
郭 「どちらへ行くんですか?」
ワイハン「とりあえず、珍ネタに身を投じる------」
ワイハンは周、撮影隊とともに出ていく。
◯中国大陸上空
天空を疾駆する中国南西航空。
◯雲南省・昆明空港
玄関口から降り立つ陳の姿。
◯同・昆明市商店街
次々と食料を買っている陳の姿。
◯同・市内広場
現地人たちの人だかり。その中央に荷物を山積したジープ二台と陳。
陳 「香港大学の生物学講師の陳です。これから三日間、20Kmキロ先の
山中でフィールドワーク (現地研究)をします。そのサポートをしてもらいたい!」
現地人たちが互いを見合わせている。
陳 「報酬は一日30US$だ。誰でもいい!」
現地人A「行き先はどこだ?」
陳 「美深村周辺だ------」
現地人B「美深って、あの美深か?」
ザワつく人々。人々は彼の元を去り出す。
陳 「40USドル、いや五〇米ドル出そう!」
誰も振り向かない。落胆する陳。
そのとき、去りゆく人々の前に止まるステーションワゴン。
中から出てきて立ちはだかる女ワイハンと周、撮影隊たちの姿。
ワイハンは周のカメラを背景に、懐中から札束を取り出し、みせる。
ワイハン「100USドル、しかもテレビつきってのは?」
驚愕する人々、そして周。
◯雲南地方山中
山道をジープ二台とワゴンが台走行している。
◯同・ジープ内
運転する陳。その助手席に座るワイハン。
陳 「どういうつもりだ?」
ワイハン「取材です。貴方が主役の」
陳 「俺が主役?」
ワイハンは書類を広げる。
その文字<香港大学の蛇博士、雲南に幻の大蛇を追う!>。
ワイハン「展示場での貴方の言葉、興味をもってね」
陳 「茶化すつもりなら願い下げだ」
ワイハン「バカにしないでよ-----あんたがヘビのプロフェッショナルなら、
私は人間を見るプロフェッショナルよ。あなたは、あの展示場の大蛇に
疑問をもっているように、私も、あなたという人間に疑問をもっている。
それを知りたいのよ」
◯美深村(放棄された村落)
倒壊した家屋が立ち並ぶ村。
灼熱の太陽、陽炎が立ち上る中、陳と現地人たちが、破砕した
瓦礫の中を掘り返している。
それを脇で撮影している周と撮影スタッフ。皆、汗だくである。
◯同・隣家内
日陰の家屋内で水を浴びるように飲んでいる撮影スタッフたち。
スタッフA「頑張りますね、あの先生-----」
スタッフB「ったく、ここに入ってからずっと土木作業ばっか。これって
本当に生物学の研究か?」
そんな会話をよそに黙々とカメラを調整している周。
そこへやってくるワイハン。
ワイハン「どう思う?」
周「確かに妙だな------この村は」
周はカメラから目線を外す。
周「無人の村ってワリには建物も町並みもしっかりしている」
室内の中央のテーブルの上にあるラジオのつまみを調整し
ている撮影スタッフの一人。
スタッフ「見ろよ。このラジオ。品は古いがまだまだ使えるぞ」
ワイハン「それだけじゃない----」
ワイハンはテーブルに息を吹く。
テーブルの上に山積した埃が舞い、出現する皿、茶碗、コップ。
箸などの食卓。それらに乾涸らびた魚や野菜が載っている。
それに驚愕する周と撮影スタッフたち。
周 「なんだよ! こりゃあ!」
ワイハン「まるである日、人間だけ蒸発しちゃったってカンジ。それに-----」
ワイハンは窓の向こうに視線を投げる。
窓辺には周囲をきょろきょろと見回している現地人たちの態度。
ワイハン「昆明で雇ったポータたち----まるで何かが出てくることを
確信しているようなあの態度---」
周 「買収は?」
ワイハン「ダメ。いくらカネ払っても口を割らない----」
周 「ってことは、やっぱあの博士の言う150mの大蛇がいるってこ
とを知っているのか-----」
ワイハン「あるいは第三者の圧力がかかっているのか」
そのとき窓の向こう側から歓声が上がる。
◯同・戸外
瓦礫を掘り返している陳と現地人たち。
ワイハン、周、撮影スタッフたちがやってくる。
陳はゆっくり瓦礫へと手を伸ばし、取り上げる。
そこには半透明な袋状の物体。強烈な生臭さで鼻を覆う一同。
ワイハン「ゴミ袋?」
陳 「鱗だ」
ワイハン「鱗? 鱗って-----」
ポータたちが広げ出す。その大きさは六畳間ほどの大きさ。
◯同・役場舎内(数日後)
地図を広げている陳。地図には数カ所の矢印がマークされている。
それを見入るワイハン、周と現地人たち。
陳 「ここ数日間で発見された鱗の発見地点。その家屋の倒壊具合を矢印で示した-----」
ワイハン「矢印の示す方向は------」
指をたどるワイハン。指先の延長線上にはダムのマーク。
その文字<水資源開発公社>。
◯水資源開発公社
入っていくジープとワゴン。
◯同・ダム畔
説明しながら歩く技師。それに肩を並べて歩く陳とワイハン、それを撮影する周。
技師「大蛇ですか? いや。我々はこの周辺を約十年開発に携わっ
ていますが、そんな話は聞いたことがない」
陳はダムをジッと見る。
陳 「調べさせてもらってよろしいですか?」
技師「どこを?」
f陳 「ここを-----」
指をさす。陳の指先にはダムの湖面が。
◯同・ダム湖上
ボートの上にいる陳とワイハン、それを撮る周の姿。
機器から湖水内へと伸びるコード。その機器を操作している陳。
周はそれを撮りながら語る。
周 「魚群探査装置ね。今度は恐竜発見番組みたいになってきた-----」
陳 「恐竜だったらまだロマンがあっていい。何たって、ここにいるのは-----」
ピピッと警報音が鳴る。電波反射表示を見ると、一筋の巨大な影が。
陳 「決まりだな」
◯同・ダム畔
クレーンを操作している現地人たち。それを指示している陳。
陳に怒鳴る技師。
技師「待ってくださいよ! 我々は毎日ダム内の水を管理しています! 何もいませんよ!」
そんな言葉を無視して作業を指示する陳、まるで何者も寄せ付けない雰囲気。
それを脇で撮影している周。そのカメラを止めるように指示するワイハン。
ワイハン「あんた、なんかおかしいよ! もう少し冷静になってよ!」
陳 「(現地人に)よし。チェーンを引き揚ろ-----」
陳の言葉にクレーンが作動する。
ワイハン「ここに何がいるっていうの?」
陳 「全長150メートル、雲南省に伝わる伝説の大蛇だ!」
水面から出現する鎖。そこには巨大な樹木。
ため息をつく技師、ワイハン、周たち。
ワイハン「これが?」
◯美深村(夜)
崩れた役場庁舎の中に灯火が一つ。
◯同・役場舎内
寝ている人々と周ら撮影スタッフ。
そのカーテンの敷居の向こうには、暖炉に薪をくべるワイハン、
そして机の上の地図を見ている陳の姿。
陳は地図を見ながらつぶやく。
陳 「明日はダムの向こう岸を捜索する」
ワイハン「どういうこと? まるで見てきたようなあの態度------」
陳は窓辺を見る。月明かりが倒壊した家屋を映し出す光景。
陳 「ここは俺の故郷だ-----」
◯同村内・陳家納屋(1981年 夜)
窓の外では地面にたたきつけるような土砂降りの雨。
それを格子戸から見ている陳の母。
陳(当時九歳)がその横で新品のラジカセをいじっている。
陳の声「俺が子供のときだ。ある晩、それは台風のときのことだ。
俺たち家族は納屋に籠もって台風が行き過ぎるのを必死で待っていた-----」
ドアが開き、屋外から雨合羽の陳の父親が入ってくる。
陳の父「ため池の関が決壊したみたいだ-----」
陳の母「関? だって去年なおしたばかりじゃない」
陳の父「ああ。これぐらいの雨じゃ崩れないはずだが-----。それも一つや二つじゃない」
陳の父は棚から農業用シートを取り出す。
陳の父「このままだと野菜が水につかっちまう。手伝ってくれ-----」
陳の母が立ち上がる。その手を引く陳。
陳の母「大丈夫。すぐ戻ってくるから------」
陳 「魚-----」
陳の母「え?」
陳 「魚の臭い、しない?」
陳の父「おい! いくぞ」
陳の父、母が戸口に立つ。そのとき真っ暗になる室内。
陳の父「なんだ? 今度は停電か? 輝明(ユウメン)! 懐中電灯を!」
暗闇の中で手探りする陳。
陳 「どこ?」
陳の父「お前の尻のところに-----」
そのとき凄まじい衝撃音。
同時に周囲は突風と雨がたたきつけ、その中に響く轟音、陳の父、母の悲鳴。
それが10秒ほど続く。
10秒後、シンと静まる室内。陳が暗闇に顔を上げる。
陳 「父さん----? 母さん?」
返事がない。陳は尻もとの懐中電灯をつける。
陳 「-----!」
電灯が照らし出す大蛇(ラオカイマザー)の姿。
巨大な口腔が陳の父と母の身体を咀嚼している。
大蛇の鋭い視線が陳に向けられる。腰を抜かした陳が呆然。
同時に頭上の崩れかかった屋根が倒壊。暗闇に瓦礫と砂塵が舞う。
陳の声「崩れた瓦礫のおかげで、俺は奇跡的に救われた」
◯同村・路上(被災の翌朝)
倒壊した家屋、家財道具が一面に散乱している中、陳が座り
込み、ラジカセを聞いている。
陳の声「数日後、崩壊した村を訪れた人民解放軍は自然災害だという---」
◯同村・役場舎内(1999年現在)
暖炉に薪をくべる陳。ジッと聞いているワイハン。
陳 「俺は納得できなかった。預けられた孤児院を脱走し、海南
島からボートに乗り込み香港へと渡った。
香港ならば、あのとき
の事実を裏づける環境が揃っている、そう信じて。そしては虫類
研究に身を 投じた-----」
ワイハン「人に歴史アリか-----ただ、150mの大蛇ってのは客観的
に言って難しいと思う。まず発見した
のが子供の頃だということ。
子供の身長からは何だって大きく見える。だから香港の、あの蛇を見て----」
陳 「あれは違う!」
ワイハン「何でそう言い切れるの?」
陳 「フェロモン分泌臭だ」
ワイハン「フェロモン?」
陳 「メスの蛇は交尾の時期に独特のフェロモンを分泌する。あのとき、あ
の魚のような臭いはそれだった---」
ワイハン「待って。確か香港展示場の蛇の性種は-----」
陳 「オスだ」
唖然とするワイハン。そのときワイハンの持つバック内から電話の音が。
ワイハンはイリジウム(携帯衛星電話)を取り出す。
ワイハン「もしもし?」
◯東京・某ホテル客室内
窓の向こう側に映る東京タワーを背景、電話している郭。
郭 「あ、郭です。いま、東京のホテルです」
ワイハンの声「それで? どう? 例の件」
郭はテーブルの上のモバイルコンピュータを叩く。
郭 「やっぱりワイハンさんの睨んだ通りですよ。ここ数年の中国人民解
放軍と接触した民間企業を片っ端に調べら、一つだけ妙な企業に当た
りまして。物流関連の会社で、トラックや通信調達品といった大口の受
注をハデに展開しているんですが、その納品の実態は中古車や安価
の消耗品ばかり。それも資本金400万円の中小企業で、住所、電話と
もに架空、完全なペーパーカンパニーです」
◯雲南省・美深村役場内
ワイハンが電話している。
ワイハン「人民解放軍への融資窓口ですね----それで? そこでおめおめと
引き下がった?」
郭の声「まさか。そこでその会社を設立した社長の経歴を追ってみました。-----
会社社長の正体は防衛庁 装備局の課長。防衛施設庁たたき上げのプロパー
(ノンキャリア)です」
ワイハン「防衛庁-----? ずいぶん物騒な話になってきたじゃないの。それで?
その人物とは接触とれた?」
郭の声「ダメです。現在、公判中で拘置所の中にいます-----」
ワイハン「公判?」
◯同・役場内別室
寝ていた周が起きあがる。寝ぼけ眼で戸外へと出ていく。
その絵に重なるワイハンと郭の言葉。
郭の声「1年前、防衛施設庁の方で備品調達の不正疑惑が持ち上がりまして。
彼はその当事者の嫌疑がかけられ、逮捕されました-----」
ワイハンの声「トカゲのシッポ切りか。やられたな」
◯同・戸外
木の根に向かって小便をしている周。
周の背後の暗闇から白い吐息が、ふと振り返る周。
その絵に重なる郭とワイハンの声。
郭の声「ただ、この人物が防衛施設庁から本局に抜擢される間際、ある民間企
業と接触していた形跡を発見しました-----」
ワイハンの声「それはいいところに目を付けたな。それは?」
郭の声「Y社です」
ワイハンの声「Y社-----?」
振り返る周の驚愕の顔。
◯東京のホテル
郭がコンピュータ画面を見ている。その文字は<データ受信中>。
郭 「バイオテクノロジー産業で最近業績をあげています。今、Y社のデータベー
スから装備局課長との窓口となっていた研究員のデータをダウンロードしています」
◯雲南美深村・役場内
ワイハンがバックからモバイルコンピュータを取り出している。
ワイハン「わかった。じゃ、こちらのアドレスを教えるから、転送、頼む」
イリジウムを断信するワイハン。イリジウムとモバイルコンピュータと接続する。
そのとき響き渡る周の悲鳴。
周 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
陳、ワイハンがハッとし、屋外へと出る。
◯同・屋外
逃げてくる周。ワイハンが捕まえる。
ワイハン「どうしたの?」
周 「でた------!」
そのとき背後の役場屋社が瓦解する。倒壊する瓦礫。
見上げると、そこには巨大な大蛇が。呆然とする陳。
◯同村内
次々と建物を破壊する大蛇、逃げまどう人々、惨劇の光景。
その渦中で陳は立ち尽くしている。
陳 「こいつだ! こいつがあのときの蛇だ!」
そのとき背後に急停車するワゴン。ドアが開き、ワイハンが陳の手を引く。
ワイハン「なに脳天気にこと言ってるの! はやく乗って!」
◯山中
森林の中を走り抜くワゴン。その後を追う大蛇。
◯同・ワゴン車内
後部扉の向こう側に迫ってくる大蛇の姿。それを見ながら運転席の周に叫ぶ。
ワイハン「もっと速く走って!」
周 「そんなこといわれたって-----」
そのとき、眼前に巨大な樹木が。慌てハンドルを切る周。
スリップするタイヤ。崖にを転落するワゴン。
◯崖下
横転しているワゴン。陳、ワイハン、周が車内から抜け出す姿。
陳は崖上を見上げる。そこには周囲を見回している大蛇の姿。
陳 「ライトをつけろ!」
ワイハン「見つかっちゃうよ!」
陳 「すでに丸見えだよ! ヤツには見えている-----蛇は赤外放射を探知する
能力を持っている ----ライトだ!」
周 「ダメだ。エンジンがかからない!」
大蛇がピタリとこちらに顔を向け、ずるずると滑ってくる。
陳は舌打ちし、床下のガソリンタンクをこじ開ける。
陳 「みんな! 離れろ!」
一同慌てて離れる。陳はタンクに火を投じ、ジャンプする。
同時に燃えさかる炎。
蛇は火の前でたじろいでいる。
周 「どうする? 通信機器は全部火の中----逃げ道はねえぞ!」
ハッとするワイハン。手元のモバイルコンピュータをのぞき込む。
モバイルコンピュータには郭の送信してきたデータ用紙が。それを払いのけ、
差し込んであるイリジウム(携帯衛星電話)を取り出す。
それを見た周が叫ぶ。
周 「それで誰かに連絡を!」
ワイハン「バカ言わないで! アタシたちはジャーナリストだよ!」
ワイハンはコンピュータのキーを叩きながら、周に怒鳴る。
ワイハン「カメラをこのコンピュータに繋いで。アダプタはバックにあるから。それと!
中央テレビ のメインコントロール(主調整室)のID教えて」
周 「どうする?」
ワイハン「確かこの時間はニュース番組をやっている。SNG(サテライト・ニュース・
ギャザリング/ 衛星中継システムのこと)に潜り込んで番組に割り込む!」
その横では一帯にガソリンをまく陳。大蛇と陳との間に火のカーテンができる。
陳 「これで安心だ!」
陳は振り返る。
カメラを構える周。その前でワイハンがマイクをもってたつ。
ワイハン「ここで臨時ニュースをお伝えします」
◯香港・香港中央テレビの報道局オフィス
画面に映るワイハンの姿に騒然とする報道局員たち。
画面の前で局長が立ち尽くす姿。
画面内のワイハン「ただいま私は中国雲南省の某所にいます」
◯同・九龍ストリート
街角の巨大なマルチビジョンに人だかり。そこに映るワイハンの姿。
画面内のワイハン「ご覧ください! これが雲南に伝わる大蛇の正体です」
そのとき、画面にジャミングが入り、パッと消えてしまう。
◯雲南省・山中
周のカメラに向かって叫ぶワイハン。
ワイハン「香港の大蛇は偽物です!」
周がカメラを落とし、背後でモバイルコンピュータを操り出す。
ワイハン「どうしたの?」
周 「衛星が軌道を外した。交信ができない」
ワイハン「そんなことって!」
周 「こりゃ、誰かが電波妨害しているぞ」
ワイハン「電波妨害? なんで!」
そのとき背後の大蛇が首をもたげる。
そして川の水を吸い込み、口から燃えるワゴンに放水。
ワイハンが陳に怒鳴る。
ワイハン「何が安全だって?」
唖然としている陳。
陳 「こ、こんなことができるわけがない!」
ワイハン「でも現実的にこのありさまはなに!」
消火するワゴン。その上から伸びる大蛇の頭部。大きく口を開き、周を一飲み。
大地に落ちる周の脚。それを見て蒼白になる陳とワイハン。
ワイハン「そ、そんな------!」
大蛇は再び、陳とワイハンの方を刮目する。
二人は身を伏せる。同時に大蛇はピタリと静止する。陳は目を開ける。
陳「------?」
大蛇は口を閉じてゆっくりと後退していく。
そのとき、周囲一帯に巨大な閃光。
尾翼に赤星旗をかざした人民解放軍の戦闘ヘリが木陰から出現する。
それを呆然と見ている陳、ワイハンら一同。
戦闘ヘリの巨大スピ−カ−から声(小野の声)が。
小野の声「手を挙げろ! キミたちは完全に包囲されている」
陳らが周囲を見回すと、武装した人民軍兵士たちが銃を構えながら包囲している。
ホバリング(空中遊弋)しているヘリの風で、ワイハンの顔にデータ用紙が被さる。
先刻、郭から送られてきたデータ用紙である。
ふと、そこに書かれているデータを見て唖然とするワイハン。
データ用紙には小野の顔写真入りデータが。
そのとき武装兵士の中から出てくる白衣の研究者・小野雄一。陳は唖然とする。
陳 「なんで貴様が----」
小野はニヤリと笑う。
小野「キミたちを拘束する」
◯中国雲南省・水資源開発研究所(俯瞰)
山奥の中に近代的な施設が。
◯同・研究所内廊下
手錠をかけられ歩く陳、ワイハン。
二人は廊下の展示品に驚く。それらはトカゲ、カエル、ワニなどの奇形生物。
◯同・応接室
ソファに座っている陳、ワイハン。二人の手錠が外される。
同時にコーヒーを差し出す小野。
小野「まったく、やっかいなことをしてくれた」
ワイハン「やっかい?」
小野は持っていたリモコンを押す。
同時に彼の背後のパネルモニターに世界中のテレビニュースが映し出される。
いずれのニュース番組もセンセーションなテロップ。
「雲南大蛇騒動再発!」「まだいるのか! 巨大蛇!」「香港中央電子台、
未だ沈黙を守る」
小野「昨晩の放送で世界中が大騒ぎだ。展示場のヘビよりも大きいヘビが
この世に存在するってな-----」
ワイハン「だって事実じゃない」
小野はワイハンの前に立ちはだかり、ワイハンの持つステックシュガーを奪い取る。
小野「(鬼のような形相で)いくつ?」
ワイハン「ひ、一つ-----」
小野はコーヒーの中にドバッと砂糖を投じていく。
カップの中に山盛りの砂糖。ワイハンは目を背ける。
次に小野は陳の前に立つ。陳は小野を睨む。
陳 「あの蛇はお前がつくったな。地球上にあんな蛇は存在しない-----」
小野はニヤリと笑う。
小野「アンタに見せたいものがある-----」
小野はリモコンのスイッチを入れる。同時に正面横のカーテンが開く。
そこには巨大な大蛇の標本が。
全長150mはある大蛇が巨大な水槽の中にホルマリン漬けになっている。
その前に立ちすくむ陳、ワイハン。
陳 「------これは!」
小野「そう。キミが二〇年前に見た伝説の大蛇-----ラオカイマザーだ」
陳 「ラオカイマザー?」
ワイハン「死んでいるけど? それに昨日見たのとは違うようだけど-----」
小野「今から10年前、この付近で解放軍の哨戒兵が発見した。解放軍生物
化学研究所はこの死骸を解剖し、卵巣の中に未成卵を発見----非公式
の外交ルートを使い、Y社生物学遺研究所に調査を依頼。抜擢された私の
研究チームは遺伝子操作の技術を使い、人工授精に着手、95年についに
卵の生育に成功-----」
小野はリモコンを操作する。同時に真横のウィンドーが明き、窓越しにダムの光景。
ダムの中に悠然と泳ぐ全長400mの大蛇(雲南Tメス)。
小野「雲南T、TYPE♀だ」
唖然としている陳、ワイハン。
ワイハン「だったら香港のは-----」
小野「雲南UTYPE♂、こいつが産んだ子供だ」
ラオカイマザーの標本を見ている陳。
陳 「詳しくはなしてもらえないか?」
小野「すべての始まりは1965年、ベトナム戦争だった」
ワイハン「ベトナム戦争?」
◯ベトナム・トンキン湾(1960年代)
砂浜に次々と乗り上げる強襲艇。米兵たちが上陸している光景。
小野の声「米国は当時、ソ連邦の勢力下にあったベトナムへ侵攻、
大量の重火器と兵員による、お得意の数による強襲で短期決戦に望んだ
2 のに対し-----」
◯同・ジャングル
多い茂った樹木から米兵に襲いかかるベトコン(ベトナム兵)。
小野の声「ベトナムは主要機能を湖沼とジャングルで覆われている北部内
陸地帯に移転。戦車や重火器の使えない地の利で広域ゲリラ戦を展開し、
事態は泥沼を呈していた」
◯北京・中南海
湖のような池の中央の浮島にある望楼。
そこに毛沢東と軍服組が密談している。
小野の声「ときのベトナム政府は、長引く戦局の一局打破をはかるため、
中国共産党政府に対し密林戦に対応した最新兵器を依頼。中国政府
首脳は、終戦後のベトナムの権益を得ようとこれに同意し、一の生物学
者に白羽の矢をたてた-----」
そこに出現する神経質そうな顔の生物学者。
小野の声「その人物は中国人民軍生物化学研究所の主席研究員で、
生物遺伝子については天才といっていい。彼をここまで育てたのは戦前
の日本陸軍だ。日本陸軍は中国侵攻の際、陳理博の才能を
いち早く見抜き、満州の731部隊の研究施設で英才教育をほどこした」
生物学者は毛沢東と握手する。
◯研究室
地図、本、書類が山積みされている。
その中で討論している生物学者と研究者たちの姿。
小野の声「その天才はベトナムの地理条件を参考にした結果、蛇、
それも巨大で獰猛な大蛇がもっとも有効的な生物兵器と判断-----」
◯ベトナム国境・ラオカイ付近
見渡す限り山地の中にそびえ立つ巨大な建物群の俯瞰。
小野の声「中国・ベトナム両政府の支援のもと、1967年国境の街・ラオカイ
で機密研究所を開設、世界中の蛇を取り寄せ、遺伝子操作による人工
大蛇の生成にあたった----」
◯(現在)雲南・水資源研究施設内
大蛇の標本(ラオカイマザー)を見ながら語っている小野の姿。
小野「そしてついに1977年4月、このラオカイマザーは生成された」
ワイハン「待ってよ。1977年って----もうベトナム戦争は終わってるはずだ
けど。どうしてベトナムにあるはずのものがここに?」
ニヤリと笑う小野。
小野「この、ラオカイマザーが再び国際政治を動かしたんだ」
◯ホワイトハウス(1977年)
大統領と補佐官、幕僚たちがテーブルで話し合っている。
小野の声「DIA(米国国防情報局)の諜報部からそれを知ったNSC(米国
国家安全保障会議)は敵対していたベトナム政府と接触、国連加盟の
見返りに、世界初の人工大蛇を要求した」
◯ラオカイ市郊外山中
中国国旗を翻した人民解放軍の戦車が施設を目指して進む光景。
小野の声「生物兵器開発の表沙汰をおそれた中国政府は1979年2月、
中越紛争に乗じてラオカイへ侵攻-----」
◯同・研究施設内
机に倒れている生物学者の姿。その横で炎上している書類。
小野の声「生物学者と研究事実を抹殺し、ラオカイマザーの確保に走った----」9
窓の向こうで暴れる大蛇のシルエット。
小野の声「だが、その際、ラオカイマザーが逃亡、大蛇は国境山岳地帯へと消えていった」
◯雲南・水資源開発施設
小野が述懐するような目つきで標本を見ている。
対して消沈している陳。
小野「残念だな。キミの追い求める伝説の大蛇はもう死んでいるんだ-----」
ワイハン「どうして----何が目的でこんなものを再生したの?」
ワイハンは資料を投げる。
ワイハン「-----あれを戦闘兵器にするつもり?」
小野「核兵器よりは環境に優しい----」
そのとき兵士が入ってくる。
兵士「準備できました」
◯同・ダム畔
脇の線路上に貨車四〇両近くの長い貨物列車が停止している。
その上にクレーンからつるされている大蛇(雲南Tメス)。
空の荷台にゆっくりと収まっていく。
そしてシートがかぶせられ、ワイヤーで括られる光景。
>9 それを傍らで見守る小野、そして兵士に銃口を突きつけられて
誘導される陳、ワイハン。
小野の元に別の兵士がやってきて耳打ちする。小野は頷く。
同時に大爆音。背後の研究施設が爆発したのである。
黒煙をあげる施設を見ているワイハン。
ワイハン「証拠隠滅してどこへもって行くつもり?」
小野「香港フェリーターミナルだ」
ワイハン「フェリーターミナル? 香港の中心部に?」
小野「アメリカの軍事衛星が人民軍各基地への偵察を開始した」
小野は車掌車両に乗り込む。
小野「まもなく香港中のマスメディアが雲南地方へ出張にやってくる。
しかも到着予定は日曜日の朝。市街地はフリーパスだ」
陳 「最終目的地は-----日本か?」
ニヤリと笑う小野。
◯香港新界・獅子山トンネル付近(夜明け前)
朝焼けを鼻先に走る大蛇護送列車がトンネルへと入っていく。
長い貨物車両の先頭を行く機関車、その直後に繋がれた車掌車両。
◯同・車掌車両内
古風な車内に似つかないようなハイテクコンピュ−タ−がいくつも駆動している。
コンピュータモニタ−には大蛇(雲南Tメス)の生態がリアルタイムに流れている。
それらを操る兵士たちの背後を、小野が見ている。
小野はコンピュータから伸びるコードに沿って歩く。
コードは後部の窓から外に出て、後ろに
繋がれた貨物車両へと伸びている。貨物車両の
上にはシートに括られた大蛇(雲南Tメス)の頭部が。
銃口を突きつけられながら、車床に座る陳とワイハンが見ている。
陳 「そのコンピュータに蛇の状況が?」
小野「状況だけじゃない。このコンピュータで感情をコントロールできる」
ワイハン「感情のコントロール? どうやって-----?」
陳 「おそらく低周波だ。蛇は手足がないぶん、特殊な感覚器官持っている。
とくに人間が聞くことのできない低周波によって情報管理していることがわ
かっている----」
小野は頷きながら微笑む。
小野「まさに人類の英知の勝利だ-----」
陳 「そうだとしたら、なぜ香港展示場の大蛇はダムから逃げ出した?」
ハッとする小野。
◯同・最後尾車両
次々とトンネルへと入っていく貨物列車。
一番最後の貨車上で大蛇(雲南Tメス)のシッポ部分がシートに覆われている。
その車両がゆっくりと宙に持ち上がるっていく光景。
◯同・車掌車内
毅然と態度で小野を睨む陳。不思議そうなワイハンの表情。
ワイハン「逃げ出したって?」
陳 「-----あの大蛇、鱗がひからびていた。あれは長い間、照り返しに
あっていた証拠だ----違うか?」
小野「雲南Uは未熟蛇だった。だから野に放棄したまでだ」
陳 「慎重派のアンタにしては説得力がない行動だな−−−」
小野「私にとって重要なのはこのメスの雲南Tだ。メスはいくらで
も卵を産むことができる-----E=-オスでしかない雲南Uには興味
がない-----それだけだ!」
そのとき急ブレーキが車内を襲う。よろける一同。
慌てて小野は携帯無線機をとる。
小野「どうした?」
◯同・機関車内
携帯無線機で行進している機関士。
機関士「それが----動かないんだ」
小野の声「機関車が壊れたのか?」
機関士はメーター機器をのぞき見る。
馬力計と油圧計が最高値を示している。
機関士「いや----最大馬力を出しているんだが-----」
機関士は眼下を見下ろす。運転台の下の車輪が線路の上で空転している。
◯同・車掌車内
小野は兵士たちを凝視する。
小野「見てこい」
立ち上がる兵士たち。銃を持って次々と出ていく。
◯トンネル内・線路上
降り立つ兵士たち。貨車の方を見る。
ピチョン、ピチョンという奇妙な音。
銃を構えて音の鳴る方へと歩いていく兵士。
それは貨車下。兵士は銃を構える。
水が地面に滴り落ちている。
兵士「----?」
兵士は水の流れをたどる。それは貨車の上である。
兵士「-----!」
驚愕する兵士。そこには全身ビッショリに塗れた大蛇(雲南Tメス)の身体。
そのときトンネル中に響きわたる轟音。
ガシャン----!
◯同・車掌車内。
携帯無線機をとる小野の姿。
小野「どうした?」
◯同・機関車
暴走している機関車車両。
その運転台で携帯無線機を握りながら叫ぶ機関士。
機関士「連結器が---はずれた---!」
ものすごい勢いでトンネルを出ていく機関車。
◯同・香港側トンネル出口
カーブになっている線路。機関車は曲がりきれず、横転、大破。
◯同・車掌車内
出口で燃える機関車を窓から乗り出して見ている小野。
小野「いったいこれは---」
その背後で語り出す陳。
陳 「あんたはまだ、重大なことに気づいてないようだな----」
ハッと車内に振り返る小野。
陳 「本能だ。長い歴史の中で培われた動物としての闘争本能。
血で血を流して闘争した爬虫類の長い歴史、その中で培った
生存の遺伝子。たとえ最先端の科学をもってしても、この動物を
操ることは不可能だ」
陳 「そして、その本能が拘束された感情から解き放たれる要素をキミはつくった-----」
小野「要素?」
ワイハンが周囲に鼻を利かす。
ワイハン「なんかヘンな臭いしない?魚が腐ったような-----」
陳 「20年前のあのときと同じ臭いだ------」
ワイハン「って----まさか」
陳 「フェロモン分泌腺だ----やつは、人工授精に頼らない自然交尾を求めている」
ワイハン「交尾っていったって-----これと同じサイズのなんて-----」
小野「雲南U(香港の大蛇)か------」
陳 「そうだ。この大蛇は低周波で香港の大蛇を感知したんだ!」
ワイハン「でも、あれは子供でしょう」
陳 「子供だろうが何だろうが本能は自分以外にコントロールできない。
優秀なメスは優秀なオスを得て初めて種を継続する−−−それが動物界の定理だ」
そのとき貨車が後ろに向かってゆっくりと動き出す。
車内の兵士たちが大蛇(雲南Tメス)に銃を構える。
それを見た小野、慌てて彼らの前に立ちはだかる。
小野「傷をつけるな!」
兵士「しかし---!」
小野「これは私のつくった芸術品だ!」
徐々に加速しはじめる貨車と車掌車。トンネル入口の光が見えてくる。
兵士「後部車両が持ち上げられている!」
陳 「全員かがむんだッ!」
そしてついに最前部の車掌車両がトンネル入り口へ。同時に車両は宙に浮く。
◯トンネル入口付近
山に尻尾を絡め、立ち上がる大蛇(雲南Tメス)の姿。
首についている車掌車両を振りほどこうとしている光景。
連結器は外れたものの、頭部と直結した電気コードが外せない。
◯車掌車内
空中で大きく左右に揺れる車両。次々と兵士たちが大地にたたき落とされる。
その中で必死に捕まっている陳、小野、ワイハンの姿。
ワイハン「なんとかしてよ!」
陳がコンピュータに銃口を向ける。
陳 「とにかく外すしかない!」
小野「やめろ!」
◯トンネル入り口
車掌車両がついに外れる。山麓へととばされる車掌車両。
◯香港・獅子山山腹付近
暴れている大蛇(雲南Tメス)の下でつぶれている車掌車両。
車両からぬけだす陳、ワイハン、小野。
やってきた兵士が大蛇(雲南Tメス)に向けて銃口を向ける。
それを払いのけ、車内から麻酔銃を出す小野。
小野「傷つけるなっていっているだろうッ!」
兵士は麻酔銃をとり、撃つ。
弾丸は大蛇(雲南Tメス)の身体に付属した貨車やワイヤーに当たり、跳ね返る。
兵士「クソッ!」
小野「ムダだ。あれはレインボーブリッジにも使用しているセラミック
合金のワイヤーだぞ!」
兵士「だったら-----?」
小野「ヘリを呼べ-----」
◯獅子山・頂上付近
山頂で暴れている大蛇(雲南Tメス)。
人民軍の四機の攻撃ヘリ(ABCD)がミサイルを発射。
貨車に当たり、炸裂するミサイル。
大蛇(雲南Tメス)は衝撃で横倒しになり、坂を転げ落ち、
九龍水塘に着水する。
周囲を旋回するヘリ部隊ABCD。攻撃ヘリAの兵士が叫ぶ。
ヘリAの兵士「どうだ? 死んだか?」
水面へと降下する攻撃ヘリB。そこに突如、口を開けた
大蛇(雲南Tメス)の首が出現。
大蛇(雲南Tメス)の口腔にかみ砕かれる攻撃ヘリB。墜落し大炎上。
ヘリCの兵士「くそ!」
攻撃ヘリA、C、Dが降下し、次々とミサイルを打ち込んでいく。
水面下へと逃げる大蛇(雲南Tメス)。雨のようなミサイルがその後を追う。
数秒後、湖底で炸裂する大爆発。
水しぶきと津波のような大波紋が何度も九龍水塘を揺るがす。
同時にせき止めている水門に亀裂が入る。亀裂は凄まじい勢いで広がっていく。
それを見たヘリAの兵士の悲鳴。
ヘリAの兵士「マズいぞ!」
同時に水門が崩れ決壊。鉄砲水と化した濁流が河口の家々を襲う。
その濁流の流れに流されていく大蛇(雲南Tメス)。
◯小野のヘリ
通信機器から聞こえてくる攻撃ヘリAの兵士の声。
声 「こちら攻撃ヘリ部隊アルファー、大蛇は濁流に乗ってチェンワン付近の
住宅街を蹂躙中! 住宅街のため発砲できない!」
それを聞いて驚く小野。
小野「無能な連中だ!」
慌てて受令器を掴む小野。
小野「小野だ。これから合流する。大蛇(雲南Tメス)は日中両国の貴重な財産だ。
くれぐれも発砲するな、繰り返す、発砲するな!」
ワイハン「何で日本人っていうのはそんなに国家が大切なのか-------」
小野「わかったような口を利くな! 女のクセに!」
小野は麻酔銃をワイハンに向ける。慌てて陳がその間に割ってはいる。
小野はハッとし、自らの失態に頭を抱え、そして笑う。
小野「俺にも昔、お前のような女がいた-----俺はその女にのめり
込んだ。けど、振られた」
どうして、と言おうとするワイハンの口を塞ぐ陳。
陳 「寝取られたのか?」
図星をつかれて爆笑する小野。
小野「まるでどっかの宗教のような話さ。その男はまるで蛇のような
ヤツだった。どこからともなくやってきて、自慢の禁断の果実でたっ
た一晩でさらっていった。たった一晩でだぞ。こっちは三
年がかりで惚れた腫れたとやっていたのがさ」
陳 「------」
小野「それからだ。人工大蛇研究にのめり込んだのは-----」
小野は再び麻酔銃に弾丸をこめはじめる。
小野「理屈も倫理もない悪しき爬虫類、手も足もないあの身体、そのくせ
人間に刃向かうタフな 神経------! いつかこいつを自分の手で造っ
てやる、そしてお前を操作してみせる!」
小野は麻酔銃の銃倉を装着する。
小野「それが俺の-----男としての完全勝利なんだってな!」
陳 「狂ってる-----」
小野「あ?」
陳 「あんた、絶対狂ってる----!」
小野「だったら俺を眠らせろよ-----」
小野は麻酔銃を陳に投げ渡す。
小野「どうした? 今まで大蛇を研究してきたのは亡くした両親の復讐の
ためだろ? その大蛇を復活させた張本人が目の前にいるんだぜ」
陳 「------」
陳は脚もとの麻酔銃を見つめたまま。
小野「フンッ! 偉そうなこと諭しやがって。結局、アンタも俺と同じだ-----」
陳 「なんだと-----」
小野「蛇に人生を乗っ取られ、過去を終わらすことができない哀れな人種なんだ!」
陳は麻酔銃を取ろうとする。が、そのわずかの差で奪い取ったのはワイハン。
ワイハンは小野の顔面めがけて発砲する。麻酔弾は小野の頬をかすめる。
ゾッとする小野。
ワイハン「アンタの人生、私が終わらせてやろうか?」
陳 「おい!」
ワイハン「貴方も! そろそろ覚悟をきめたらどう?」
陳 「-------」
そのとき操縦席のスピーカから響く声。
声 「こちら人民解放軍香港駐在部隊-----」
◯新界郊外(茘枝角付近)
車やバスでバリケードを築いている兵士たち。
ダウンタウン側から戦車と大砲群が向けられている。
そのをバックに佐官クラスの将校が、頭上を旋回する小野のヘリを見ながら無線で喋る。
将校「新界郊外にてバリケードを築いた。大蛇の現在地を知らせてほしい」
◯小野のヘリ
操縦士に聞くワイハン。
ワイハン「ヘビは?」
操縦士「消えました----」
その後ろで地上を見ている陳。
陳 「地下に潜った」
ワイハン「地下?」
ワイハン、小野が眼下を見る。
バリケードの数キロ先にある地下鉄車両基地。なぎ倒された地下鉄車両が見える。
そして、亀裂が入り、いかにも入ったと思わせる地下鉄トンネル入口。
◯地下鉄トンネル内(太子駅付近)
走行する地下鉄車両。
◯同・車内
運転している運転士。
運転士「------?」
ふと前方に前から赤い2つの光がある。しかも次第に近くなってくる。
運転士は運転台パネルのスイッチを入れる。同時にヘッドライトがハイビームになる。
同時に光が映し出す大蛇(雲南Tメス)の巨大な頭。
運転士「−−−−!」
慌ててブレ−キを踏む運転士。しかし、減速速度より速く迫る大蛇(雲南Tメス)の頭。
◯地下鉄トンネル内
先頭車両と衝突する大蛇(雲南Tメス)。
なおも前進を続ける大蛇の勢いで、後続の車両が次々と多重衝突、横転、トンネルに
のめり込み、衝撃で乗客の阿鼻叫喚が響く。
◯九龍・地下鉄運転制御コントロ−ルセンター
逆走する地下鉄の様子がモニタ−パネルに表示されている。
そのもとでオペレータたちが各車両運転士に呼びかける。
オペレータA「至急運転を停止しろ!」
オペレータB「乗客を降ろすんだ!」
オペレータC「大蛇がくるぞ!」
◯ネイザン通り(旺角付近)
猛スピードでダウンタウンを目指す軍用車、戦車車両隊。
◯同・軍用車内
無線交信をしている通信兵、将校に報告する。
兵士「大蛇、地下鉄線路内を南下中、九龍方面へと向かっています」
将校のマズッた表情。
将校「このままだと市街が壊滅状態になる!」
そのとき急ブレーキ。慌てて前につんのめる一同。
将校「どうした?」
◯同・ネイザン通り
軍用車、戦車隊の前に降り立つ小野のヘリ。
機内から降り立つワイハンと陳の姿。陳は将校の前にたち、名刺をみせる。
陳 「地下じゃ話にならない。地上に出す」
将校「どうやって----」
陳 「退路をふさぐ」
同時に陳は背後を振り返る。陳の背後には数台のミキサ−車が控えている。
◯地下鉄トンネル内(九龍ネイザン通り直下)
向こうから複数の地下鉄編成を押しながら進んでくる大蛇(雲南Tメス)。
その遙か先の線路上で、天井から一点の明かりがさす。
同時に粘土状の生コンクリートが流れ込んでいく。
◯ネイザン通り(トンネル直上)
ミキサー車が稼働している。そのホースの先は地下鉄マンホールの中へ。
それを見ている将校と陳。軍用車内から通信兵が降り立つ。
兵士「まもなく到達します-----」
将校「成功するのか?」
陳 「あれだけ車両を前に押しているんだ-----」
◯地下鉄トンネル内
線路上に山盛りとなっている生コンの山。その山に突き刺さる地下鉄車両。
巨大な衝撃とともに地下鉄と大蛇(雲南Tメス)の滑走が急停止。
陳の声「生コンは車両にひっかかる。同時にそれが大きな障害物と化し、動きを止める----」
衝撃で大蛇(雲南Tメス)の身体が波打ち、トンネル天井が倒壊しはじめる。
陳の声「同時に速度慣性に乗った大蛇の力は行き場を失い-----」
◯同直上・ネイザン通り
巨大な震動が周囲を襲う。崩れるガラス、照明が大地に落ち、なぎ倒される電柱。
その電柱の電線が戦車の上に墜ち、電光が走る。
慌てる将校、兵士たち。その路面中央にはびしっと亀裂。
衝撃音とともに、次々と亀裂ができ、しだいに中央部がもりあがってくる。
陳はヘリコプターに乗り込み、同時に急上昇。
陳 「------外に飛び出すッ!」
上昇するヘリ。同時に路上中央部から噴出する地下鉄車両、土とともに
あらわれる大蛇(雲南Tメス)。
同時に戦車の上に非難している将校の大砲が炸裂する。弾丸が次々と大蛇
(雲南Tメス)を襲う。爆煙と炸裂光の中で咆吼する大蛇(雲南Tメス)。
将校「撃ち込め!」
宙に浮かぶヘリのスピ−カ−から響く陳の声。
陳 「やめろ!」
ワイハン「なに? いまさら!」
ヘリ内の陳。陳はバズーガ砲を装填している。
陳 「覚悟は決めた。俺が仕留める!」
ピタリととめる戦車の砲撃。陳は銃口を眼下に向ける。一帯にもうもうと漂う爆煙。
ゆっくりと晴れてくる煙。路上にはグッタリ倒れている大蛇の姿。
陳 「くっそ!」
そのとき、大蛇(雲南Tメス)が急に起きあがり、陳に向かって口腔を開く。
陳は眼をつぶり、バズーカ砲を乱射する。
大蛇(雲南Tメス)はすかさず地下鉄車両に逃げる。
炸裂する車両。
陳 「くそッ!」
なおもくってかかる大蛇(雲南Tメス)の巨大な口。
慌てて操縦士はスロットルをきる。
同時にヘリはバランスを崩し、急落下する。
地面にたたきつけられる陳、。ワイハン、小野たち。
そこに襲いかかる大蛇(雲南Tメス)。三人の驚愕の表情。
そのとき大蛇と三人の間に割ってはいるコンテナトラック。
大蛇(雲南Tメス)はコンテナにヒットし、倒れる。
トラック内から出てくるのはワイハンの部下の郭。
郭 「ワイハンさん! 乗ってください!」
ワイハン「助かった!」
ワイハンは陳の手を引きトラックに乗り込む。一方、その場に居残る小野。
陳 「おい!」
小野「行け----」
陳 「けど-----」
小野「いいから行け!」
陳とワイハンは慌ててトラックに乗り込む。
同時にトラックはコンテナと切り離され、急加速で脇道へと入っていく。
小野はヘリの操縦席に座る。
小野「まだ終わっちゃいない-----」
小野はスロットルを上にあげ、ヘリは宙に飛び立ち、荒れ狂うヘビ
(雲南Tメス)を振り抜け、
一路香港島へと飛んでいく。
◯ビクトリア湾
九龍側のヨットハーバー。そこにやってくるトラック。降り立つ陳、ワイハン、そして郭。
<香港中央電子台>と書かれたモータボードに乗り込むワイハン、郭、そして陳。
モーターボードは動きだし、一路香港島へと向かっていく。
陳の声「大蛇の目的は展示場のヘビとの交尾だ-----」
◯同・ボート上
ボートを運転している郭。その後ろの席で語る陳、ワイハン。
陳 「何とかそれまでに止めなきゃならない-----」
陳は背後を振り返る。大蛇(雲南Tメス)が彼らを追うようにして港から着水してくる。
前方に見える香港展示場を見ているワイハンが驚く。
ワイハン「ねえ! ちょっと! あれ!」
その声に陳は前方を見る。
陳 「な---!」
◯香港島・香港展示場
着陸している小野のヘリ。
その前で兵士たちが大蛇(雲南Uオス)に巨大な釘を突き刺している。
釘からはワイヤーが張られ、それがヘリへと伸びる。
一連の作業をヘリの後部で見ている小野。
そこに作業をしていた兵士が乗り込んでくる。
兵士「来ました!」
海水から大蛇(雲南Tメス)の首が出現。
大蛇(雲南Tメス)は大蛇(雲南Uオス)を発見し、襲いかかってくる。
小野「よし! 離陸!」
小野のヘリが飛び立つ。同時にワイヤーで繋がれた大蛇(雲南Uオス)も宙に浮かぶ。
肩すかしをくらう大蛇(雲南Tメス)が展示場と激突し、展示場が倒壊する。
小野のヘリは香港島の上空へと飛び立つ。
倒壊した展示場の屋舎の中で大蛇(雲南Tメス)が天を仰ぎ見る。
天空に浮かぶ小野のヘリ、そしてその下に宙づりの大蛇(雲南Uオス)。
大蛇(雲南Tメス)は大蛇(雲南Uオス)を目指して香港島内部へと向かっていく。
◯小野のヘリ内
操縦する兵士に叫ぶ小野。
小野「日本への輸送用タンカーは?」
兵士「命令通り、香港島の裏側に回航させました」
小野「よし! 高度をあげろ。このまま誘導していくぞ!」
小野は下の大蛇(雲南Tメス)を見る。
◯香港島・中環地区
高層ビル群の中を這う大蛇(雲南Tメス)。
大蛇(雲南Tメス)はジャンプをするように何度も宙づりの大蛇(雲南Uオス)に向かって
首を伸ばすが、高度が届かない。
大蛇(雲南Tメス)は鋭い視線を一本の高層ビルにあわせる。
それはブロックが山積みになったような形状の超高層ビル<中国銀行>。
◯同・中国銀行ビル・エレベータフロア1F
つっこんでくる大蛇(雲南Tメス)。慌てて逃げ出す行員と客たち。
ガラスが割れると同時に、大蛇(雲南Tメス)が侵入。
7 衝撃で潰れたエレベ−タ−ドアの
間隙を首でこじ開ける。
空洞のエレベ−タ−ホ−ル。
大蛇(雲南Tメス)は昇降ワイヤーを伝って上へとあがっていく。
◯同直上・小野のヘリ
中国銀行ビルの上を飛ぶ小野のヘリ。
機内で双眼鏡を見ている小野。
双眼鏡に映る中国銀行のエレベータホール内を上昇してくる大蛇(雲南Tメス)の様子。
巨体のために各階でガラスが割れ、しだいにビル全体が傾いてくる。
小野「あいつ----まさか-----!」
そのとき、ビルの屋上を突き破って首を出す大蛇(雲南Tメス)。
小野「爬虫類が-----知恵をつけやがった!」
しかし、ビルを足場にした大蛇(雲南Tメス)、ググッと
首を伸ばし、口腔が小野へと迫ってくる。
小野「------!」
ガブリと喰われる小野。同時にヘリはバランスを崩し、落下する。
地面にたたきつけられるヘリと大蛇(雲南Uオス)。爆発炎上。
7 大蛇(雲南Uオス)がよろよろと起きあがる。
そこに屋上から身体をもたげる大蛇(雲南Tメス)。
同時に傾いた中国銀行ビルが崩れ落ちる。
ガラスとセラミックの大倒壊。大噴煙の中を大蛇が逃げている。
その噴煙の中から大蛇(雲南Uオス)と大蛇(雲南Tメス)の巨体の姿。
大蛇(雲南Tメス)は大蛇(雲南Uオス)にもたれかかる。
そのとき、2匹の大蛇の下のガソリンスタンドに立つ陳の姿。
陳の手には給油装置から伸びるホースがある。陳はホースを構える。
陳 「これが------これが、俺の追い続けてきた結末で-----」
陳は給油装置のノズルをONにする。同時にホースから飛び出すガソリン。
二匹の大蛇に降り注ぐガソリンのシャワー。
陳 「同時に守ろうとしていた人生の形だとすれば-----」
陳は灯のともったライターを放り投げる。
ガソリンシャワーに引火する火。巨大な紅蓮の炎が大蛇、高層ビル、周囲一帯へ。
そして炎の勢いは陳の持つホースの先へとも襲いかかる。
陳 「-----俺はそんな人生を終わりにする!」
巨大な閃光、直後に爆発するガソリンスタンド。
その大破の炎の中で悲鳴を上げる大蛇(雲南Uオス)と大蛇(雲南Tメス)。
やがて二つの大きな影が大地へと消える。
◯テレビ画面(三日後)
淡々と喋るテレビの中のワイハンの姿。
ワイハン「あの悪夢から三日がたちました-----」
◯香港島上空
黒こげの高層ビル群。まだいくつかの地区では黒煙が立ち上っている。
ワイハンの声「香港を蹂躙した二匹の大蛇は灰と化しましたが-----」
◯香港九龍地区・ネイザン通り
つぶされた地下鉄車両がトラックに乗せられていってしまう。
行き去った後には破砕している路上の光景。
そこに<工事中>の立て札とともに、作業員たちが黙々と修復工事をしている。
ワイハンの声「残した被害は深く、死傷者4000名、損失額は一兆四千億USドルという
途方もないものになってしまいました------」
0
◯九龍水塘ダム付近
床下浸水した家屋の町並み。それを掃除している住民たちの姿。
ワイハンの声「唯一の救いは、住民たちが、また普段の生活を取り戻しつつあるということです」
◯北京・天安門
そびえ立つ紫禁城の光景。
ワイハンの声「なお、一連の原因であった北京、日本両政府は、依然として事実こそ認めては
いませんが-----」
◯東京六本木・防衛庁
次々と連行されていく幹部たち。記者たちのフラッシュがたかれる。
ワイハンの声「事件に関わった人民解放軍、防衛庁の関係者は追放の憂き目にあい、それなり
に責任をとりつつあります」
◯パリ・シャンゼリゼ通り
プラカードを掲げて行進する人々。
プラカードには大蛇にバツを書いた絵や、フランス語で書かれたメッセージ、
<遺伝子操作 絶対反対>。
ワイハンの声「しかし、もっとも意義あることは国際世論で」
◯ニューヨーク・国連総会会場
木槌を打つ議長の姿。
ワイハンの声「国連でははやくも遺伝子操作に対する規制の国際法をつくる動きが加速中
です-----」
◯香港・香港大学講堂内
黙祷する学生たち。演壇に飾られている花束と陳の写真。
ワイハンの声「これも身を捨てて香港を救った英雄、陳氏の功績であるといえます----」
◯とある病院内
放送しているテレビ。その画面の中は香港中央テレビスタジオ。
喪服を着て語っているワイハンの姿。
ワイハン「香港中央テレビは彼の命運を祈ります。以上、香港からレイ・ワイハンが
お伝えしました----」
リモコンのボタンをOFFにする手。同時にテレビが消える。
そのリモコンを持っているのは看護婦である。
看護婦はテレビの前のベッドで寝ている全身包帯の陳に語りかける。
看護婦「テレビまで見れるようになったの? すごい回復力ですねー」
陳 「--------」
看護婦は陳の腕を取り、注射器をうちながら語りかける。
看護婦「お医者様も誉めてましたよ。あなたの生命力は超人的だって」
陳 「-------」
看護婦「はやく治って、喋ってくださいね。名無しのゴンベイさん----」
ドアを開けて出ていく看護婦。
陳はドアの向こうを見る。廊下の窓の向こうに広がる新緑の中庭。
その光景を見ている陳。その心中に響く自身の声。
陳の声「人間は過去を終わりにできる-----」
◯同・廊下内
陳が窓辺をジッと見ている。
陳の声「退院したら、今度はその証明をしよう------!」
アングルを変えると、廊下にもたれている男が出てきた看護婦の
ポケットに札束を投じる姿が。
| 大蛇蹂躙(-ANOTER POSSIBILITY-)/終わり
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